ホームグロウン・テロリズム

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ホームグロウン・テロリズム(homegrown terrorism)とは、ある国の国民市民が(自国の政府などを標的として)引き起こすテロリズムのこと。

概要[編集]

ホームグロウン・テロリズムとは、ある国の政府から見て国外の組織が起こすテロリズムでは無く、その国の国民(市民、あるいは、住民としての年月が長い人)が、自国の政府(あるいは国民一般)に対して起こすテロリズムのことである。動機としては、政治的なものであったり、社会正義を求めるものであったり、宗教的な信念によるものなどがある。

しばしば、ある国の中で人種による差別が不法にも放置されていたり、信仰する宗教の種類を口実に差別が公然と行われていたり、政府が貧富の差を助長したり貧困に苦しむ人々を作りだしていると、ホームグロウン・テロリズムが起きる。

例えば、政府の構成員が特定の人種ばかりで、特定の人種ばかりを優遇し、他の人種を差別・抑圧していると、差別される側になった人種の人々はやがて、そうした悪しき政府を憎むようになり、(一般の国民・市民は軍隊は所有していないので、彼らの選択しうる戦闘方法である)テロリズムという形で政府に対して闘いを挑んでゆくことになる。

近年の欧米諸国で好んで使われるようになった用語で、しばしば、西側欧米諸国内では、国内での居住歴が十分にあり、イスラーム過激派メンバーではないものの、その過激思想に共鳴して、それら過激派と同様の方向性のテロ行為を、国内で独自活動として引き起こすことを示す[1]ロンドン同時爆破事件ボストンマラソン爆弾テロ事件も「ホームグロウン・テロ」とされる。米国は、世界でも特に突出して貧富の差が大きい社会で、しかもその貧富の差が世代を超えて固定してしまう傾向が世界各国と比較しても強く、(「豊かな国」というイメージとはうらはらに)実は大半の国民が貯蓄もほとんどなく、その日暮らしで生活に苦しんでいるような状態になっており、ホーム・グロウンテロが起きてしまう状態に陥っている。

2006年にはカナダで、移民第二世代の若者が、イスラーム過激派思想に共鳴し、テロ計画を企て逮捕に至ったケースがあり[2]、同様にアメリカ合衆国では2009年から2011年にかけて、32名が起訴されている[3]

2013年に起きたアルジェリア人質事件にはカナダ人2名がテロリスト側に加担していたとされている[4]

ホームグロウン・テロリストの多くは特定の組織に属さず個人行動(ローンウルフ)である事が多い。が、国内で同意見の者同士で少人数のグループを作りつつ、自国政府に対してテロリズムを起こしている場合もある。

過激思想の有力なプロパガンダ媒体として、インターネットが用いられており、対抗手段の必要性も指摘されている[5]

2015年1月7日にはフランスで新聞社シャルリ・エブドに対する襲撃、および編集者・記者の殺害という形のテロがフランスの住民によって行われたが、フランスでは近年、宗教による差別、中東出身の人々に対する人種差別があり、そうした違法な状態をフランス政府が放置したまま、是正のための適切な措置をとらずにいて(結局、フランス政府も助長していた、ということ)、世界の他の地域出身の人々に比べて中東出身の住民が、就職などでも不当な差別を受けてきたことで、中東出身のフランス住民の若者らの間に強い不満がマグマのように溜まり、それが事件の原因のひとつになったことが指摘されている。

古今東西、歴史を見ればわかるが、特定の階層や特定の人種、特定の宗教の信者などが、国内で疎外されるような状態を政府が放置していれば、不当な扱いを受けた集団の中から、不条理な状態を放置する政府を憎み、(全ての人が政府に対して闘いを挑むほどの余力があるわけではないにしても)遅かれ早かれ、強い思いを抱いて政府に対して闘いを挑む人が、最初は少人数現れ、やがてその数が少しづつ増えてゆくことは必定である。

また貧富の格差が拡大したり固定するような政策ばかりが実行され、国会の議員の多くが(政治献金を行う)富裕層・企業経営者層などにおもねった政策ばかりを実行し、一般的な層や貧困層を軽視し、貧富の差を固定化・拡大するような政策を実行している場合なども、国内の中間層や貧困層から見れば(全ての国民の政府には見えず、一部の者の手先になっているように見えるので)その政府はやはり激しい憎悪の対象となり、ホームグロウンテロリズムが起きることがある。失業率が高い状態なのにもかかわらず有効な政策を実行できず高失業率を放置しても若者や働き盛りの年齢層が絶望し政府を憎み、国内でテロリズムを起こすことがある。[6]

ホームグロウンテロリズムが起きないようにする有効な方法は、ひとつは、国内で特定の人種やグループに対して人権抑圧が行われていればそれを放置せず是正する措置をとることである。また、貧困層を作りだしたりしないように、国民全体に細やかに配慮し、福祉の充実した社会をつくる政策を実行してゆくことである。一般に、福祉の充実した国ではホームグロウンテロは起きにくい傾向がある。国民全員がおおむね自国の政府の政策に満足しているからである。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 平成19年度警察白書
  2. ^ 海外安全ホームページ カナダ テロ概要
  3. ^ 平成24年度 防衛白書 第3節 国際テロリズムの動向
  4. ^ アルジェリア人質事件:実行犯に20代のカナダ人 毎日新聞(2013年4月15日)
  5. ^ 都市部へのテロ対策の課題 アジア太平洋国土安全保障サミット報告 友次晋介 RISTEX CT Newsletter 第8号 2010 年2月12日発行
  6. ^ なお、日本の秋葉原である青年が「誰でも良いから殺したかった」と、7人を死亡させ、10人を負傷させた秋葉原無差別殺傷事件も、事件の真相の究明が進むにつれ、日本の社会が犯人の青年を追い込んでしまった面があることが明らかにされてきている。この事件も、広義のホームグロウンテロリズムに分類することも可能である。佐藤優も関係性、類似性に着目している。(出典:佐藤優『テロリズムの罠左巻: 新自由主義社会の行方』角川学芸出版、2009年。)