法の不遡及
| この項目に含まれる文字「遡」は、オペレーティングシステムやブラウザなどの環境により表示が異なります。 |
法の不遡及(ほうのふそきゅう)とは、実行時に適法であった行為を事後に定めた法令によって遡って違法と(し処罰)すること、ないし、実行時よりも後に定められた(実行時点での罰則よりも)厳しい罰に処すことを禁止した、大陸法系近代刑法における原則。事後法の禁止、遡及処罰の禁止、法律不遡及の原則ともいう。
目次 |
[編集] 概要
大陸法、英米法どちらにおいても採用された原則であり、フランス人権宣言第8条にその原型がある。また、アメリカ合衆国憲法第1条第9節ならびにドイツ連邦共和国憲法第103条2項に規定がある。日本では刑法の自由保障機能(罪刑法定主義)の要請により、認められた原則である。
但し、この原則は、刑事被告人の利益のためのものであるため、刑事被告人に有利になる場合は、この限りでない(例えば、行為後に法定刑が軽減された場合、軽い方の刑に処せられる。例として、尊属殺人罪の廃止、犯行時の死刑適用年齢が16歳だったのを18歳へ引き上げ、などが挙げられる)。
[編集] 法の不遡及に反するという指摘がある近現代の立法例・裁判例
[編集] 戦犯法廷
第二次世界大戦以前においては、国家機関として行為した個人には、刑事免責が認められるとされていた(国家行為の法理)が、第二次世界大戦の敗戦国の指導者達には、この国家行為の法理は適用されず、犯罪者として刑事責任に問われたため、この処置は法の不遡及に反するという指摘もなされている[1]。
[編集] 不作為責任
薬害エイズ事件で厚生省官僚の不作為責任が追及されたが、事件発生当時不作為が罪になるという感覚は存在しなかった。また、飲酒運転に対する世論が厳しくなるきっかけとなった事件が、その事件がきっかけで厳しくなった社会通念を基準に裁かれるなど、事件当時に存在しなかった裁判時点の空気や世論によって裁かれる例は、非常に多い。
[編集] 新規の禁止
武器・ドラッグ・ポルノグラフィーなどの禁止は、常に強まる傾向があり、その場合、過去に合法的に入手した財産を破棄させられる。それを没収とみなせば法の不遡及に背くとも考えられるが、日本でもそれ以外の国でも問題なく施行されている。また、アメリカ合衆国における禁酒法のように、法の施行以前から所持していた酒の摂取を禁止しなかったことが一因で法の効力が大きく低下して法律が廃止に至った例もある。
[編集] ドイツ法
亡命企図者に発砲、これを殺傷した旧東ドイツの国境警備兵に対する、統一ドイツ法による刑事裁判。当時の東ドイツ法では、当然、当該行為の違法性は阻却されていたので、法の不遡及に反するという指摘がある[要出典][誰によって?]。
[編集] 韓国法
大韓民国憲法第13条1項において、罪刑法定主義が採用され、第13条2項において遡及立法による財産の剥奪も禁じられているが、以下の法律は、韓国法において違憲の疑いがあると指摘されている[要出典][誰によって?]。
[編集] 日本法
日本においても法の不遡及原則が採用されており、憲法、刑法、刑事訴訟法にそれぞれ規定がある。まず、日本国憲法第39条前段に規定されている。この規定を受け、刑法6条に犯罪後の法律によって刑の変更があった場合、その軽い刑によって処罰するとの規定が設けられた。判決前に法改正によって刑が廃止された場合には、免訴の言い渡しがされる(刑事訴訟法第337条第2号)。判決があった後に刑の廃止、変更または大赦があった場合には、それを理由として控訴申し立てができる(刑事訴訟法第383条第2号)。また、再審事由ともなる(刑事訴訟法第435条)。
なお、日本法における判例は、法源とされない(異なる学説も存在)ため、判例変更による解釈の変更は、法の不遡及の問題でない。しかし、理論上、違法性の意識の可能性の欠如による故意の阻却の問題や期待可能性の欠如による責任阻却の問題を生じうる。
刑事訴訟法改正による、時効の延長・廃止の時効進行中の事件に対する適用が、日本国憲法第39条に違反する可能性が指摘されている。
[編集] 出典
- ^ 「戦争犯罪と法」 多谷千香子著 岩波書店 ISBN 4000236660