アベノミクス

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アベノミクス(またはアベノミックス[1]安倍ノミクス[2])とは、自由民主党の政治家・安倍晋三第2次安倍内閣において掲げた、一連の経済政策に対して与えられた通称[3]。安倍とエコノミックスを合わせた造語[4][5]。2012年11月から多用され始めた言葉であるが、「アベノミクス」という呼称自体は2006年時点で第1次安倍内閣中川秀直自由民主党幹事長が使用した例が確認されている[3][6]。ドイツ語、英語、フランス語では Abenomics[7][8][9][10]、ロシア語ではАбеномикаと表記される。

目次

概要[編集]

デフレ経済を克服するためにインフレターゲットを設定し、これが達成されるまで日本銀行法改正も視野に、大胆な金融緩和措置を講ずるという金融政策[11][12]ロナルド・レーガンの経済政策であるレーガノミクスにちなんで、アベノミクスと呼ばれるようになった[13][出典無効]

内容[編集]

アベノミクスは、下記の3つを基本方針としており、安倍はそれを「三本の矢」と表現している[14]

  • 大胆な金融政策
  • 機動的な財政政策
  • 民間投資を喚起する成長戦略

個別の政策としては、下記などが提示、あるいは指摘されている。

経済政策を進めるために、甘利明経済財政政策担当相の下に日本経済再生本部を設け、さらにその下に経済財政諮問会議産業競争力会議を設置している。

背景[編集]

デフレーションと失われた10年[編集]

日本経済は1990年代初頭にバブル崩壊を経験して以来、デフレーションに片足をいれた状態のまま、低いながらも名目経済成長は続いていた。村山内閣で内定していた消費税の税率3%から5%への増税を橋本内閣1997年4月に断行。消費税にはビルト・イン・スタビライザーの機能は備わっておらず、増税による景気悪化が懸念されていた[18]。翌年の1998年度には名目GDPは前年度比約マイナス2%の502兆円まで約10兆円縮小し、GDPデフレーターはマイナス0.5%に落ち込み[19]、失業率は4.1%に達し、これ以降日本は本格的なデフレーションへ突入し、失われた10年を経験することになる。1999年度には、1997年度と比べ所得税収と法人税収の合計額が6兆5千億もの税収減にとなり[20]、失業者数は300万人を超えた。さらに1997年には日本銀行法が改正され、内閣が日本銀行総裁の解任権を失うことになった。

日本の名目GDP等動向 1994-1999[21]
年度 名目GDP
(10億円)
名目経済成長率
(%)
失業者数
(千人)
労働力人口
(千人)
失業率
(%)
1994 486526.3 1.19 1920 66450 2.88
1995 493271.7 1.38 2100 66660 3.15
1996 502608.9 1.89 2250 67110 3.35
1997 512248.9 1.91 2300 67870 3.38
1998 502972.8 -1.81 2790 67930 4.10
1999 495226.9 -1.54 3170 67790 4.67

参考:名目GDPは2006年の価格で評価

リベラル派による景気回復策(通貨発行権の行使)[編集]

こうした日本の深刻なデフレ不況への対応策は、リベラルで実績があり世界的に影響力のあるアメリカの経済学者を中心として既に1990年代後半から議論が始まっており、ノーベル経済学賞受賞者であるポール・クルーグマン(当時MIT教授)は日本が流動性の罠に陥っている可能性[22]を指摘しつつも、日本経済を回復軌道にのせるための手段として、極めて初歩的ではあるが、お金を大量に刷ること(Print lots of money)で民間需要[23]増加に努めるべきと論じた。一般的には流動性の罠に陥った状況では通常の金融政策は効力がないとされるが、実際には短期国債と長期国債は完全に代替的とは言えず、中央銀行が新規に通貨を発行し、長期国債の購入を長期間継続することを宣言して市場に流動性を供給し続けることで間接的に有効需要の下支えができる[24]日本銀行が多額の日本国債を買い取ることに起因するインフレーションについては「人々の消費がその経済の生産能力(供給力)を超える状態のときに限り、紙幣増刷由来のインフレが発生する」と述べる。というのも流動性の罠に陥っている状況では、IS-LM分析でLM曲線がY-r平面でフラットになっているためにマネタリーベースの増加が実質金利上昇を喚起しないからである[25]。しかしながらそのような中央銀行のインフレ期待政策は長期にわたって継続させねばならない。

よりラディカルな政策はノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・E・スティグリッツコロンビア大学教授)によって提唱された。通貨発行権は中央銀行だけでなく政府それ自身も有しており、ゆえに日本経済を好転させるために日本政府が財政赤字を紙幣増刷によってファイナンスするように提言していた[26]。新規に発行されたコイン・紙幣を人々が持てば、それらの人々のいくらかが財やサービスの消費にお金を使おうとし、また銀行など金融機関が民間企業向けの貸し出しを増やし景気を刺激するからである。これはいわば政府が発行する紙幣、すなわち政府紙幣[27]のことである。これは無利子国債を中央銀行が買い取ることと実質等しい。流動性の罠のもとで金利がゼロバウンドで張り付いている状況では、紙幣と国債とは実質同じものであるために、この状況下で新規に国債を発行することは新規に紙幣を発行するのと同じである。またインフレは一度火がつくと暴走してその抑制に多大なコストがかかるという説は経済学的には理論面・実証面で根拠が乏しく、またそれに関連して中央銀行の独立性が必要だというの主張も神話であるとしている[28]

展開[編集]

2012年[編集]

2012年(平成24年)11月14日、2日後の11月16日衆議院解散をして12月に総選挙を行うことが決まったため、自民党政権復帰が視野に入ると共に円安・株高現象が起こった[29][30][31]。それまで日本のマーケットは、米国株価に左右される動きではあるが、米国の大企業が好決算を出していたものの、日本のGDPが上がらず、主力株である銀行鉄鋼などが低迷したままの状態であった。特に輸出関連のメーカーなどは30年前の株価まで下落する状況であった。

民主党政権において数回、円売りドル買い介入をしたものの円高や株安は改善されず、貿易赤字は毎月膨れ上がり、10月においては過去最高の5490億円を記録した[32]。だが安倍晋三が11月15日、デフレ脱却・無制限の量的緩和策を打ち出したことで、日経平均株価円安の動きが連動した[33]。そして選挙戦に事実上突入して以降は株高・円安がさらに加速したことで「アベノミックス」「安倍トレード[34][35][36]」「安倍バブル[37]」「安倍相場[38]」という言葉をマスメディア等が使い始めた。

円安になると円換算の売上が増えて輸出競争力が付き、為替差益が生ずるため、実際に増収増益となる。そのため、マーケットは思惑買いから先取りした相場展開となり、第2次安倍内閣の発足以前から市場が動いて経済的にプラス効果が出た[39]

2013年[編集]

2013年(平成25年)2月1日には、日経平均は2012年11月-2013年2月にかけて12週連続で上昇し、「岩戸景気」の1958年12月-1959年4月にかけての17週連続に次ぐ54年ぶりの記録となった[40][41][42]

同年2月の日本百貨店協会による全国百貨店売上高は、前年同月比0.3%増(店舗数調整後)の約4317億円と、高級ブランド品やバレンタイン関連の需要が牽引して1月に続くプラスとなった。2カ月連続の売上増は、 東日本大震災の反動増が寄与した昨年3~4月以来となる[43]

同年3月1日、公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2012年10-12月期の運用実績が2012年11月末からの円安・株高の影響で5兆1352億円の利益を計上したことを発表した[44]

同年3月8日には日経平均株価がリーマン・ショック前の水準に戻った[45]

東京証券取引所1部上場で時価総額が1兆円を突破している企業の数が、 2012年11月14日に当時の野田佳彦首相が衆院解散を表明してから、約4カ月で約1.5倍に急増。東証1部全体の時価総額は3月26日時点で約362兆円となり、解散表明時に比べ約111兆円増加した[46]。また、2013年4月時事通信社世論調査でも、2割以上の人がすでに景気回復を実感していると回答した[47]

同年4月、三菱東京UFJ銀行みずほ銀行三井住友銀行の三大メガバンクの2013年3月期決算の税引き後利益が合計で2兆円を超え、7年ぶりの高水準となる見通しとなった[48]

アベノミクスの「第1の矢」とされる大胆な金融緩和政策により速いスピードで円安が進み、同年5月10日(日本時間、未明)には4年1ヶ月ぶり1ドル100円を記録、大胆な金融緩和の実施を明言していた安倍政権の誕生が濃厚となった野田首相(当時)の衆議院解散の意向表明から、5ヶ月で20円円安が進んだことになる[49]。また、同年5月15日には5年4ヶ月ぶりに日経平均株価が15,000円台を回復した[50]。時価総額が1兆円を超える企業も94社に急増し、リーマン・ショック前の2007年末(107社)以来の水準となった[51]

同年5月19日東京証券取引所1部上場企業の2013年3月期連結決算で、業績発表を終えた企業の約7割に当たる943社の経常利益が、2012年4-12月期時点の会社予想を上回りアベノミクスによる円安・株高による景況感の好転を受けて、2013年1月以降に想定を超えるペースで企業の業績改善が進んだことが浮き彫りとなった[52]

同年5月30日、平成24年度の公的年金の運用の黒字額が過去最高の10兆円規模になり、年金積立金の取り崩し額よりも運用益の方が上回ることが解った[53]

このように急激な速度で円安・株高の展開で進んできた日本経済であったが、同年5月23日場中につけた日経平均株価の最高値を境に、2週間で3000円近くも下がり、二ヶ月分の上昇を打ち消した。安倍が発表したアベノミクスの「第3の矢」とされる「成長戦略」が事前に報道された内容に留まった上、実現への具体策も乏しいと市場に受け止められ、失望売りが膨らんだとみられた他[54][55][56]、アメリカの金融緩和が縮小されるとの観測が広がったこともこの流れを後押しした。また、これと同時に円相場が円高に進み、1ドル103円だった円は6月7日には94円に上昇した。

2週間の間、株安・円高の流れが続いていたが、6月10日、日経平均は前週末比636円67銭(4.94%)高の1万3514円20銭となった[57]。上げ幅は2008年10月30日(817円86銭)以来およそ4年8ヶ月ぶりの大きさとなり、上昇率は2011年3月16日(5.67%)以来2年3ヶ月ぶりの高さとなった[57]

野党の反応[編集]

民主党[編集]

2012年(平成24年)12月24日民主党代表の海江田万里は安倍が掲げる金融緩和について「学者の中にもいろんな考え方がある。国民生活を学説の実験台にしてはいけない」と述べ、対決姿勢を示した[58]。同年12月25日、民主党新代表に選出された海江田はアベノミクスに潜む危険性を予算委員会で指摘した[59]。記者会見では「公共事業の大盤振る舞いは古い考え方」と批判し、金融政策について「日銀の独立性が損なわれるような政策は中銀や円の信任にかかわり、様々な副作用が予想される」と語った[60]

野田佳彦元首相は「何でも日銀に責任をかぶせるやり方だ。国際社会では通用しない」と述べアベノミクスを批判した[61]。首相時代に野田は安倍の金融政策に関する発言について「安倍さんのおっしゃっていることは極めて危険です。インフレで喜ぶのは株・土地を持っている人。一般庶民には関係ありません。借金を作ってそんなことをやってはいけない」「金融政策の具体的な方法まで言うのは、中央銀行の独立性を損なう」と批判していた[62][63][64]

2013年(平成25年)1月30日、衆院本会議で海江田万里は、財政政策について「公共事業に偏重した旧来型経済政策は効果に乏しく、財政赤字を膨らませてきた」と批判。物価上昇2%を目標とする金融緩和策に関しても「国民生活への副作用も無視できない」と懸念を示し、「景気回復が一過性なら、雇用や給与はほとんど増えない可能性がある」と指摘し、実質賃金の引き下げなどにつながりかねないと疑問を呈した[65][66][67][68]

2013年(平成25年)2月7日、民主党の前原誠司衆院予算委員会において、デフレの背景として、日本の人口減少が影響していると指摘、これに対し安倍は「人口減少とデフレを結びつける考え方を私はとらない。デフレは貨幣現象であり、金融政策で変えられる。人口が減少している国は他にもあるが、デフレに陥った国ない」と答えた[69][70]。これに対して前原誠司はさらに「日本を他の国と比べることは出来ない。他の国との大きな違いとして、日本には莫大な財政赤字ある。人口が減っていくという事は国民一人当たりの負担が増えていくという事ではないか」と応じた[71]

2013年(平成25年)2月12日、民主党の後藤祐一は衆院予算委員会において「三本の矢は我々民主党が言い出し、三本を一体でやっていこうと主張しているが、安倍は『一本目の矢の金融緩和は勝手に日銀がやってくれ。我々政府は知らない』と言っている。三本の矢で行こうというのが日銀と民主党の考え方、一本の矢で行こうというのが安倍首相の考え方であり、食い違いがある」、「人口減少と、デフレギャップおよびデフレは密接に関係している」、「2%の物価安定目標の達成に向けて安倍首相は政府は全く責任を取らないと主張している。本音は(2013年7月の)参院選が気になっているだけだ。安倍首相のマクロ経済に対する考え方は私は大変疑問だ」と発言した[72][73]。これに対し、安倍は「そもそも三本の矢と言い始めたのはあなた(後藤祐一)でも日銀でもなく私であり、総裁選を通じて申し上げてきたもの。単に金融緩和をやるのではなく、それと共に有効需要を作っていき実質経済を成長させ、そして地域が活性化し雇用賃金に反映させる時差を短くし、景気回復の実感を持って頂く。そのために二本目の矢の財政政策が必要であると主張している。しかしこれは何度も打てないので三本目の矢の成長戦略をしっかり打つ。これを同時に打ち込み、以前から言ってきた経済三団体への賃上げ協力要請[74]も本日行う。私が全く言っていない事について、言った事として批判されても本当に困る」、「山本幸三議員が先程のヤジで指摘した通り、アメリカは日本より遥かにデフレギャップが大きいのにデフレに陥っていない。人口が減少している国の中でデフレ脱却していない国は日本だけ」と反論した[72][73]

2013年(平成25年)4月7日、野田佳彦は千葉県佐倉市のパーティーでアベノミクスについて「海外投資家と食事する機会があり、その1人が『ABE』と言った。Aはアセット。Bはバブル。Eはエコノミー。資産バブル経済、という意味だ」と述べ、バブルを生み出していると批判した[75]

2013年(平成25年)4月17日、国会の党首討論で海江田万里は、安倍政権の金融緩和策について「大変な劇薬を日本は飲んだ。副作用、あるいは落とし穴がある」と指摘し、物価上昇など負の側面があると強調した[76]。それに対し安倍は株価上昇で5兆円の年金運用益の数字を並べて反論し「何もしなければリスクがないと思ったら大間違いだ。閉塞感の中で悩んでいた状況を変えることができた」と反論した[76]

2013年(平成25年)5月29日、海江田万里は、日本外国特派員協会での記者会見で「円安によって輸入品の価格が上がり、人々の生活は苦しくなっている。中小企業などにも影響が出て、漁業従事者も大変厳しい状況だ」「長期金利がほぼ1%に上昇した。国債が暴落して金利が上昇するのが、アベノミクスの一番のリスクだ」と述べ、安倍政権の経済運営を批判した[77]

みんなの党[編集]

2013年(平成25年)2月5日山内康一みんなの党国対委員長は、衆議院本会議において、安倍が掲げる公共事業について「特定の産業を育成するのは社会主義計画経済的な発想だ。経済政策は保守主義の王道から外れるのではないか」と述べた[78][79]

日本共産党[編集]

2013年(平成25年)2月5日、日本共産党佐々木憲昭は衆院本会議で2012年度補正予算案に関し「庶民の懐を温める政策に転換すべきだ。家計消費が増えれば、内需が拡大しデフレ克服への道が開かれる」と代表質問を行なった。これに対し安倍は「成長期待の低下やデフレ予想の固定化」が不況の原因であると答えた[80]。佐々木は「いま必要なのは、消費税増税の中止など国民の所得を奪う政策をただちにとりやめること」と述べている[80]

日本維新の会[編集]

2013年(平成25年)2月12日日本維新の会石原慎太郎共同代表は衆議院予算委員会において「何としてもアベノミクスを成功させて欲しい」と応援を行い[72][81][82]、「日本の国家の会計制度に懸念を持っている。これを合理化して企業並みにしないと、アベノミクスのバリアになる。この国には健全なバランスシート財務諸表がない。国は何で外部監査を入れないのか。アベノミクスを成功させるためにも会計制度を一新させる必要がある。会計制度を変えると税金の使途がハッキリ分かる」と提言を行った[83][84]

社会民主党[編集]

2013年(平成25年)4月21日社会民主党福島瑞穂党首は金沢市内で講演でアベノミクスについて「『アベノミクス』は『安倍のリスク』。ハイパーインフレで人々の生活が壊れるのではないか心配だ」と述べている[85]

各界の反応[編集]

大蔵官僚アジア開発銀行(ADB)の黒田東彦総裁はアベノミクスについて「適切だ」と評価し、支持する姿勢を示している[86]。黒田は「デフレを克服する一方、中期的な財政再建を堅持し、成長力を高めていくのは適切な政策だ。日本経済の問題にたいして適切に対応するものだ」「日本経済にとって最大の課題はデフレからの脱却だ。15年もデフレが続いているのは異常である。日本経済にマイナスの影響を与え、その結果として世界経済にもマイナスの影響与えている。それを直そうということは日本にとって正しいだけでなく、世界経済にとっても正しい」と評価している[87][88]。また「日本がデフレから脱却することがアジアにも世界経済にもプラスになる」とし、アジア各国も支持するとの認識を示している[89]。また、政府と日銀が2%の物価上昇率目標を設定する共同声明を結んだことについて「画期的なことであって、非常に正しいことだ」と高く評価する考えを示している[90]

トヨタ自動車で社長や会長を務めた奥田碩日本経済団体連合会名誉会長は、1ドル90円から100円が適正な為替レートで、そうなれば自動車や電機の輸出も増え、貿易赤字が解消されるだろうとの見解を示した[91]

日本自動車工業会豊田章男会長は「『失われた20年』の間に、日本企業の時価総額は360兆円を失った」と分析し「『アベノミクス』でこの内の約半分が取り返せた」と安倍政権を評価した[92]

元大蔵官僚で国際通貨研究所理事長の行天豊雄はアベノミクスを小手先の金融政策や景気刺激策に終始するようであれば市場に足をすくわれるのがオチと批判。アベノミクスにより財政悪化が進めば最終的に日本は悪性インフレに陥るとまとめた[93]

コーポレートガバナンス協会理事の八幡和郎は「とりあえず、やってみるという真珠湾攻撃と同じ」「世界の常識に反した一か八かのかけ」と批判している[94]

オリエンタル・エコノミスト・アラート代表リチャード・カッツはアベノミクスによってドルに対して円の価値が25%下落したことは、アベノミクスが日本の活力を取り戻せることを確信させる有効な要素の一つであるとした。しかし、メリットがデメリットを上回る場合のみ、円安は経済成長に寄与すると述べた。デメリットとして2012年9月以降、価格調整後の実質輸入量は5%減少したが名目輸入金額は12%上昇し、日本は5%少ない輸入量を確保するのに、日本円を12%多く支払ったと指摘。日本企業の主要輸出事業者の価格戦略が意味しているところは、経済全体の成長をもたらす乗数効果が存在しないことである。この効果は2012年末までには表れるが、円安メリットの大きさは不透明であると結んだ[95]

世界の反応[編集]

肯定[編集]

ジョセフ・E・スティグリッツは10年を経て日本政府が自分の推した政策を取ることを歓迎している[96]。また、スティグリッツは「円高を是正して景気を刺激し、本格的なデフレ対策を打つという意図は正しい」と述べ、大胆な金融緩和や財政出動を柱とする安倍政権の経済政策を評価している[97]。2013年3月にスティグリッツは安倍と会談、安倍の経済政策を評価する考えを示したうえで「世界にはユーロ危機などの短期的な問題だけでなく、地球温暖化や格差拡大など長期的な問題も残っている。成長戦略の中で、医療・教育など、長期的な課題に予算を振り向け、自立的な成長を目指すべきだ」と述べている[98]

ポール・クルーグマンはアベノミクスについてニューヨーク・タイムズのコラムで「素晴らしい結果を伴っている」と絶賛し、安倍について「経済政策について関心が乏しいのでは」「深く考えているわけではないだろう」と皮肉を込めながらも、「しかし、そんなことは問題ではない。他の先進諸国ができなかった財政・金融の刺激策を実施していることは事実で、その結果も完全に正しい。長期金利は急騰せず円は急落するのは日本にとって非常によいことだ」と評価している[99]。クルーグマンは「私はアベノミクスを評価している。日本がデフレの罠から脱却するために必要な政策である」「日本の期待インフレ率はちょうどよい値で推移している。少しのインフレ期待があることで、経済にとってプラスに働いている状況になっている」「円が安くなれば日本の製造業の輸出増を牽引することになる」と述べている[100]。また「日銀が方針を転換し、2%の物価目標を掲げ、その効果を持続させるために政府が短期間、財政出動をし景気を刺激する。発信されたメッセージが何よりも重要だ。緩和姿勢を維持し、景気を後押しするだろうという見通しこそ大事だ」と指摘している[101]。また長期金利と株価が同時に上昇してきたことについては楽観論の表れだと分析し、日本の財政問題への懸念を反映したものではないとの見解を示した[102]

シカゴ大学の経済学者アニル・カシャップは「日本の長引くデフレの責任を日銀に負わせ、それを是正するためのツールが日銀にはあることをあらためて示したことについては安倍氏は正しい」と述べた[103]

ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長は、安倍政権の政策について、「正しい方向に踏み出している」と評価している[104]

国際通貨基金(IMF)・元調査局長のケネス・ロゴフハーバード大学教授は、日銀が消費者物価2%上昇を目指すインフレ目標を決めたことについて、デフレ克服に向けた「好ましい長期的な戦略だ」と評価した上、追加金融緩和が世界的な通貨安競争を招くとの見方は「完全な間違い」と否定した[105]

ゴールドマン・サックス・アセットマネジメントのジム・オニールは3%のインフレ目標を評価、「We Want Abe!」というレターを書き市場で話題となった[106]

インドネシア財務省の財政政策責任者バンバン・ブロジョネゴロは、緩和政策が日本の内需を刺激し、同国の対日輸出を増やすと期待している[107]

クリスティーヌ・ラガルドIMF専務理事は、安倍政権と日銀による2%の物価目標導入を柱にした金融政策について「中央銀行の独立性が確保されている限り、好ましく興味深い計画」と評価した[108]

2013年(平成25年)1月27日、スイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でパネル討論では、ラガルドIMF専務理事や経済協力開発機構(OECD)のグリア事務総長、カナダ銀行のマーク・カーニー総裁らが、アベノミクスへの理解や支持を表明[109]。円安誘導や中央銀行の独立性侵害、財政規律の維持放棄といった批判や懸念は鳴りを潜めた[110]

2013年(平成25年)2月11日、アメリカのブレイナード財務次官は記者会見し、アベノミクスについて「米国は、成長の促進とデフレ脱却を目指す日本の努力を支持する」と述べ、理解を示した[111][112]

2013年(平成25年)2月12日スイス国立銀行中央銀行)のヨルダン総裁はジュネーヴで記者会見し、「日本は長らくデフレに直面しており、日銀はデフレを回避し、成長を促すために政策を変えつつある」と述べ、金融緩和などを柱とした「アベノミクス」に理解を示している[113][114]

2013年(平成25年)2月26日連邦準備制度理事会(FRB)議長のベン・バーナンキは上院銀行委員会での証言で、日銀の金融緩和策について「デフレ脱却に向けた試みであり、支持する」と述べ、日銀の政策は自国経済の強化が目的で「為替操作ではない」との認識を示した[115][116][117]

2013年(平成25年)4月4日、FRBのジャネット・イエレン副議長は日銀のマネタリーベースを倍増させる政策について「日本が行っていることは同国の最大の利益となるものだ」「成功すれば、世界経済の成長刺激に有益で、我々にも良いことだ」「デフレ脱却を目指し積極策を講じるのは理解できる」と述べている[118][119]

2013年(平成25年)4月17日、カナダ銀行のカーニー総裁は「日銀の措置は、モスクワG20声明と完全に整合しおり、国内の目標に照準を定めた金融政策だ」と述べ、日銀の緩和強化による需要拡大はカナダにとっても利益との見方を示している[120]。同日、アメリカのジェイコブ・ルー財務長官は「日本は長期にわたり内需の問題を抱えていた。日本が国内向けの政策ツールを用いて内需拡大を目標としている限り、G7がモスクワ会合で合意した内容に沿っているとわれわれは考える」「政策が内需拡大に向けた目標に沿っている限り、国内的な政策を利用することは理にかなっている」と述べている[121]

2013年(平成25年)5月15日、フィリピンのプリシマ財務相は、「日本の政策が円相場を下落させていることについて懸念していない。円安と日本が現在取り組んでいる措置が日本の成長加速につながるなら、われわれにとってプラスだろう。われわれは期待を寄せている」との認識を示した[122]

英エコノミスト誌の表紙に、スーパーマン風の安倍の写真が掲載された[123]。内容的は日本経済の復活と中国へのチャレンジを表している[124]

ニューヨーク大学の経済学者ヌリエル・ルービニは「アベノミクスは金融・財政の刺激にとどまらず、賃金や消費も拡大させる」と指摘し、日本市場について「株式市場や円、国債は崩壊すると思わない」と述べている[125]

批判[編集]

韓国[編集]

中央日報は「円安は韓国の輸出鈍化につながりかねない[17]」「だが、円安により韓国の輸出品の競争力に及ぼす影響は大きくないとみる専門家も多い[126]」と報じた。また、朝鮮日報は「韓国の輸出企業は円安ウォン高が続くのではないかと緊張感を強めている」と報じた[1]

韓国の金仲秀中銀総裁は、日銀の決定に問題があると指摘。「ひとつは(為替の)水準が影響を受ける。変化のスピードも問題。動きが急過ぎる」と述べている[127]

2013年(平成25年)2月19日、韓国政府はジュネーヴで開かれた世界貿易機関(WTO)の貿易政策審査会合で「円安誘導政策が疑われる」と日本を批判している[128]

韓国では「アベノミクス」によるデフレ対策に伴う円安進行に対する「円安脅威論」が過熱し、韓国メディアは「円安は沈黙の殺人者」(中央日報)などと批判している[129]。一方で為替市場をめぐっては、韓国の金融当局が「覆面介入」してウォン安誘導しているとの疑念が付きまとっていた[129]

ドイツ[編集]

ドイツのヴォルフガング・ショイブレ財務相は「日本の新政権の政策に、大きな懸念を持っている」と発言し、大胆な金融緩和策を批判した[130]ドイツ連邦銀行のワイトマン総裁は「新政権が中銀に大きく干渉し、大胆な金融緩和を要求して独立性を脅かしている」などと批判した[131]

中国[編集]

中国・新華社は日本銀行の金融緩和策を「このような近隣窮乏化政策を進めれば、他国も追随せざるを得なくなり、世界的な通貨戦争が巻き起こる可能性がある」と危惧した[132]

2013年(平成25年)3月4日、中国の格付け会社「大公国際資信評価」は、アベノミクスで日本は財政状況が悪化するとして、日本国債の信用格付けを引き下げを発表した[133]。大公はアベノミクスでは日本経済の構造上の問題は解決できず「日本の長期的な低迷は続く」と酷評し、「日中両国の政治的対立がもたらすマイナスの影響にも注目する必要がある」と指摘した[133]。中国では円安に伴って人民元が上昇し、中国の輸出競争力を低下させるとの警戒感が広がっており、当局者・有識者の間でアベノミクスへの批判が高まっている[133]

中国の政府系ファンド、中国投資(CIC)の高西慶社長は日銀の金融緩和策について、意図的な円安誘導であり、「(中国など)近隣諸国をごみ箱のように扱い、通貨戦争を始めれば、他国にとって危険であるだけでなく、最終的には自らにも害が及ぶ」と強く批判している[134]

批判への反論[編集]

ポール・クルーグマンは「大胆な金融緩和をするとハイパーインフレになってしまうというものだが、まったく的外れだ。日本と同じように金融緩和をしている米国でハイパーインフレが起こっていない」「大規模な財政出動をやると財政悪化につながるという批判もあるが、現実をきちんと見ていない批判といえる。日本の長期金利は1%未満の水準を超えておらず、政府の借り入れコストはほとんど変化していない。インフレ期待は高まっているのだから、政府の債務は実質的に減っていることになる。日本の財政見通しは、悪くなるというより大きく改善している」と述べている[100]。また円安について「G20で、各国は円安を許容せざるを得ないだろう。欧州中央銀行マリオ・ドラギ総裁が懸念を示しても、日本に経済制裁を科すわけではない。アメリカも金融緩和でドル安を導いたと批判されてきたので何も言わない。日米ともに景気の現状を踏まえて、当然の事として積極的な金融緩和を進めているに過ぎない。その結果としての通貨安だ」と述べている[101]

ジョセフ・E・スティグリッツは東京都内での国際会議で、アベノミクスの副作用が懸念されていることについて「実施しないほうが将来的なリスクになる」と述べている[135]

ニーアル・ファーガソンハーバード大学教授は、2013年1月27日フィナンシャル・タイムズへの寄稿で、日本の差し迫った経済状況を考えれば、国際社会は円安政策をある程度受け入れるべきであり、むしろ過去5年間に実質的な通貨価値が大幅に下落した韓国が日本を非難するのは偽善的だと述べた[136]

フィナンシャル・タイムズ紙は「中央銀行の金融政策が経済にとって有害である時に政府が中央銀行と意見を交換するのは適切なことで、バイトマン総裁の批判は的外れである」と評している[137]

G20の当局者は「日本が競争的な(自国通貨)引き下げを図っていると論じることは出来ない」「介入が無い限り、政策期待で市場が動いているだけ」と指摘している[127]

OECDのグリア事務総長は、日本は円安だけを求めているのではなく、デフレを克服するため行動していると述べ、一部から円安誘導策との批判が出ている日本の積極的な金融緩和策を擁護する考えを示し、「日本が成長を遂げることは、誰にとっても最大の利益になる。特に韓国にとっては重要だ。日本の成長が高まり、世界経済に寄与することを望む」と述べた[138]

IMFはモスクワで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議向けの報告書を公表し、円安をめぐる懸念は行き過ぎとの認識を示し、日銀は一段の決意でデフレ脱却に取り組むべきと指摘した[139][140][141]

その他[編集]

国際通貨基金のラガルド専務理事は「IMFは、いかなる形でも通貨安競争に賛同しない」と発言した[108]

UBS銀行ウェルス・マネジメントは「アベノミクス」が失敗すればスタグフレーションに突入すると指摘している[142]

日本政府の見解[編集]

麻生太郎財務大臣は「(2009年4月のG20加盟20カ国の首脳会談で)通貨安競争はやらないという約束をしたが、約束を守った国は何カ国あるのか。米国はもっとドル高にすべきだ。ユーロはいくらになったのか」と言及。1ドル=100円前後で推移していた当時に比べても円高水準にあると指摘した。その上で、約束を守ったのは日本だけだとし、「外国に言われる筋合いはない。通貨安に急激にしているわけではない」と述べた[143][144][145]

浜田宏一内閣官房参与は「麻生副総理も言っておられたように、今まで日本だけが我慢して他国にいいことを続けてきたのに、今自国のために金融緩和しようとするときに、他国に文句をつけられる筋合いはない。日本の金融政策は日本のためであり、ブラジルや他国のためではない」と述べている[146]。また浜田は「日本はこの3年間、世界中からいいように食い物にされてきた。今回は、それをようやく正常な形に戻すことに決めたということである。それを海外が非難すること自体、おかしなことで、日本はそうした非難を恐れる必要はない」と述べている[147]

2013年1月22日、閣議後の会見で、麻生財務大臣は「円高がだいぶ修正されつつある」との認識を示した[148][149]

2013年1月28日の臨時閣議後の記者会見で、甘利明経済財政・再生相は、円安誘導との批判がある安倍政権の経済政策について「(ダボス会議で)説明後に、この政策に対して危惧を持っているという発言は無かった」と述べ、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)ではおおむね理解を得られたとの認識を示した[150][151]。甘利経済財政・再生相はIMF、OECDなど国際機関の責任者や民間の識者から日本の政策を支持する声が「相次いだ」と説明している[151][109]。また、円安誘導との批判については「ごく一部の国からだ」と指摘し、ドイツや韓国、中国を挙げた[150][151]

同年1月28日の臨時閣議後の記者会見で、麻生財務大臣は各国で日本が通貨安政策をとっているとの批判が起きていることに「ドルやユーロが下がった時には(日本は)一言も文句を言っていない」と述べ、「戻したらぐちゃぐちゃ言ってくるのは筋としておかしい」と反論した[152]。円相場については、安倍政権がとった施策を受けて「結果として安くなったもの」と分析。過度な円高の修正局面だとの認識を示した[152]。また「日本は(金融危機だった)欧州の救済のために融資するなど、やるべきことをやっている」と付け加えた[153]

同年2月9日、麻生財務大臣は円安について、進みすぎだと発言している[154]。また円安のペースは速すぎるとの認識を示している[155]

同年2月14日、日銀の白川方明総裁は、金融政策決定会合後の記者会見で「(金融緩和)は国内経済の安定が目的で、為替相場への影響を目的にしているわけではない」と述べ、先進国の一部や新興国による「円安誘導」との指摘を否定した[156][157]

同年2月15日、浜田内閣官房参与はピーターソン国際経済研究所で講演で、日本の金融政策は国内の物価目標の達成のみを目指したもので、円相場を操作していると解釈されるべきではないとの見解を示した[158]。またリーマン・ブラザーズ破綻後の金融危機時に、日本はイングランド銀行やFRBが行った拡張的な金融政策を批判しなかったとし、日本の積極的な金融政策も非難されるべきではないというのが日本当局者の見解と述べた[158]。また、「変動相場制の下では『通貨安戦争』という概念はない」と述べ、「ブラジルのように不満のある国は、自らの国で適切な金融政策を採用すべきだ」と指摘した[159]

同年2月22日、安倍はバラク・オバマ米大統領との首脳会談後の記者会見で、「アベノミクス」について、オバマ大統領が「歓迎した」と明らかにし、「日本経済の再生が日米両国、さらに世界に有意義であるとの認識を共有した」との認識を示した[160]。安倍はオバマ大統領が「安倍政権がとった大胆な政策が日本国民に評価されていると認識している」と応じたと述べている[161]

同年5月、浜田内閣官房参与は韓国について「日本の中央銀行を非難するべきではなく、自国の中央銀行に適切な金融政策を求めるべきだ」と語った[162]

関連人物[編集]

脚注[編集]

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関連項目[編集]