原理主義
原理主義(げんりしゅぎ、ファンダメンタリズム、英語: fundamentalism、根本主義)は、理念的な原理や原則を重視し、典型的には近代的な世俗主義を邪教とみなすような信念や傾向のこと。[1][2][3]。
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用語 [編集]
ファンダメンタリズムは、20世紀初頭のアメリカ合衆国のプロテスタント共同体の中の運動で確認された信仰の支持者が、社会的福音、自由主義神学と区別するために「ファンダメンタリズム」と記述したのが最初で、その後の「ファンダメンタリズム - 近代主義」の論争の源ともなった[4][5][6]。
この語はその後に転用されて一般化し、批判に直面している色々な信仰や信念に固執する傾向を意味する語として使用されているが、宗教的な意味合いも持ち続けている。冷戦終了以降にムスリム系組織を名乗る勢力によるテロリズムなどを欧米の政府やマスコミ等が「イスラム・ファンダメンタリズム(イスラム原理主義)」と広く呼んだため、以後は「キリスト(教)原理主義」、「ヒンドゥー(教)原理主義」などの表現が増加した。また宗教以外の分野でも「市場原理主義」などが広く使われるようになった。原理主義や原理主義者という語は一般に、他者を侮蔑する場合などの悪口やレッテル貼りとしても使われている[7][8]。対義語は「世俗主義」や「現実主義」などである。
和訳語の歴史 [編集]
日本では、プロテスタントの一潮流を指すファンダメンタリズムは、1920年代に宗教学分野において植村正久により「根本主義」との和訳が使われていた。根本主義が神学用語であったのに対し、政治用語として「原理主義」の用語が1920年代に宗教以外の意味でも使用されていた[9]。
概要 [編集]
上述のように「原理主義」(ファンダメンタリズム)は、本来は「根本(基本)に還る」との意味であり、必ずしも狂信的や急進主義や過激派などの意味は持っていない。
しかし既存の体制である従来のキリスト教会や近代の世俗主義の立場からは、現在の文明を否定する思想に思える事、特にイスラム原理主義の用語がテロリズムの代名詞のように(主として欧米のジャーナリズムやマスメディア、政界で)使われた影響もあり、狂信的な宗教的情熱による現実を無視した非寛容の過激思想、などの意味を持つレッテルとしても、他の多くの宗教や、宗教以外の分野においても使われている。
同義語では無いが関連する用語には「急進主義」や「教条主義」がある。「急進主義」(ラジカリズム)は「根本から変革する」立場であり、原理主義の思想や社会を現実化しようとする場合には急進主義になりうる。「教条主義」(ドグマティズム)は教義・経典に固執する傾向であり、原理主義が特定の教義・経典を重視し字句通りに解釈し強制しようとする場合には教条主義になりうる。
國學院大學教授の井上順孝は、原理主義を以下の3つの特徴(「3つのげんてんしゅぎ」)で説明した[10]。
- 原点主義:その宗教が誕生した初期の状態への回帰を意図する。ただし、その「初期の状態」とは歴史的事実とは関係なく、原理主義者が思い描いた物であることに注意。
- 原典主義:宗教の創始者の言葉及び、それらがまとめられた経典(教典)に対し忠実であろうとする。これも、前者と同様にその解釈は原理主義者による。
- 減点主義:現在の教団もしくは社会のありようが、宗教の創始当時と比べて堕落していると見る態度。これらの秩序を回復しようとするあまり、過激な社会行動に走りやすい。
キリスト教 [編集]
詳細は「キリスト教原理主義」を参照
神学やキリスト教史の中で根本主義と訳される場合と、原理主義と訳される場合とでは、意味が異なり、原理主義と訳される場合は、強い非難の意味を含み、自称されることはない。「ファンダメンタリストという名称ぐらい敵意に満ちた侮蔑的な差別用語は、おそらくキリスト教界には見当たらないのではなかろうか。」[11]と言われている。
実際の使用状況としては、日本基督教団においては、神社参拝を偶像崇拝として行わないクリスチャンをファンダメンタリスト、その立場をファンダメンタリズムと呼んだ[12]ことが戦時中にあった。「神社非宗教論」を唱え神社参拝を容認する立場では、美濃ミッション事件から神社参拝拒否をファンダメンタリズムとする合意が形成されたという [13]。戦後日本基督教団の井門富二夫は、ファンダメンタリズムを、「負け犬の宗教」「反動形成」「新興宗教が萌芽状態において発生した直後の、情緒的ないしまだ結晶しない精神状況」「産業社会のじゃま者」「社会の発展に追随できない層の敗北自認から生じたもの」とする[14]。
山我哲雄は、聖書無謬説、逐語霊感説を注意するべき原理主義の特徴としている[15]。
イスラーム教 [編集]
詳細は「イスラム原理主義」を参照
イスラームでは、19世紀末より、西洋的な近代社会概念や文化に反発するムスリムが、宗教的自覚をうながすためにはじめたイスラーム復興運動のことである。世俗主義者や非ムスリムからは原理主義のイスラーム教すなわちイスラム原理主義と呼ばれる。
その他の宗教 [編集]
キリスト教、イスラーム教以外の宗教では、「ユダヤ原理主義」[16]、「ヒンズー原理主義」[17]、「仏教原理主義」[18]、「神道原理主義」[19][20]などの用語が使用されている。これらの用語の多くは、冷戦終結以降に広まった「イスラム原理主義」からの類推で、過激でファナティック(狂信的)な信仰として批判的に使用されており、「ユダヤ原理主義」はシオニズム、「ヒンズー原理主義」はカシミール紛争などの過激派、「神道原理主義」はいわゆる国家神道に関連づけられて使用されている。
しかし他方では、御嶽神社は本来の肯定的な意味で「神道原理主義」という用語を使用している[21]。
その他の分野 [編集]
宗教以外の分野でも、現実を無視して特定の原理原則に固執する考え方を「原理主義」と呼ぶ場合がある。
経済 [編集]
市場による自由な取引が最大の生産性を生み出すというレッセフェールに対して、批判的な立場による市場原理主義。
科学 [編集]
科学原理主義 [編集]
科学者の中にしばしば見られる、"科学が真実へ近づく絶対普遍で唯一正当化される方法だ" などと見なす信念(思い込み)、ドグマ(教義)、(根本主義者とそっくりな)精神構造などは、「科学原理主義」や「科学主義」と呼ばれ[22]批判されている。
ダーウィニズム、ネオ・ダーウィニズム、物理主義 [編集]
茂木健一郎や養老孟司は、ダーウィニズムやネオダーウィニズム[23]、物理主義(何でもかんでも物理法則で説明できる、などとする説明方式)も原理主義だと説明している[23]。
ソフトウェア分野 [編集]
工業、特にソフトウェアの分野における原理主義とは、制作物を公的な規格や仕様にできるだけ合致させようとする主張・態度のこと。これは、英語で宗教になぞらえてエヴァンジェリズム(Evangelism、福音主義)と呼ばれていたものの訳語である。
脚注 [編集]
- ^ thefreedictionary.com: "Fundamentalism", Accessed 14-05-2008.
- ^ Google define:fundamentalism
- ^ George M. Marsden, "Fundamentalism and American Culture", (1980)pp 4-5
- ^ ケアンズ『基督教全史』
- ^ 古屋安雄『激動するアメリカ教会』ヨルダン社
- ^ テイラー『伝道の歴史的探究』福音文書刊行会
- ^ Harris, Harriet (2008). Fundamentalism and Evangelicals. Oxford: Oxford University Press. ISBN 0-19-953253-2. OCLC 182663241.
- ^ Boer, Roland (2005). “Fundamentalism”. In Tony Bennett, Lawrence Grossberg, Meaghan Morris and Raymonnd Williams (PDF). New keywords: a revised vocabulary of culture and society. Cambridge, Massachusetts: Blackwell Publishing. pp. 134–137. ISBN 0-631-22568-4. OCLC 57357498 230674627 57357498 2008年7月27日閲覧。.
- ^ 日本共産党労働者派による「土地の無償没収スローガンの原理主義」など
- ^ 『なぜ宗教は平和を妨げるのか「「正義」「大義」の名の下で』、町田宗鳳著、講談社+α新書、2004年、ISBN 978-4-06-272233-9
- ^ 宇田進著『福音主義キリスト教と福音派』p.42
- ^ 『主の民か、国の民か』渡辺信夫ISBN 4-264-02465-X
- ^ 『主の民か、国の民か』収録渡辺信夫著「主の民の道」p.139-140
- ^ 井門富二夫『世俗社会の宗教』日本基督教団
- ^ 山我哲雄『図解これだけは知っておきたいキリスト教』洋泉社
- ^ Jewish fundamentalism - Encyclopedia Britannica
- ^ 「ナショナリズムと宗教: 現代インドのヒンドゥー・ナショナリズム運動」(著者: 中島岳志、365p)
- ^ 「現代アジア事典」(著者: 長谷川啓之、1005p)
- ^ 「すっきりわかる「靖国神社」問題」(著者:山中恒、小学館、2003年、287p)
- ^ JEMA神学特別委員会JEA神学委員会編パンフレットNo.6『原理主義』に対する応答確認と議論のための質問の脚注より
- ^ 御嶽神社が主宰する神道の指針 - 御嶽神社
- ^ "Scientism" - PBS.org. Faith and Reason.
- ^ a b 養老孟司、茂木健一郎 「原理主義を超えて」『スルメを見てイカがわかるか!』 角川書店、2003年、p.100-124。