帝国主義

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1898年当時の帝国主義列強勢力図

帝国主義(ていこくしゅぎ、英語: imperialism)とは、一つの国家が、自国の民族主義文化宗教経済体系などを拡大するため、あるいは新たな領土天然資源などを獲得するために、軍事力を背景に他の民族や国家を積極的に侵略し、さらにそれを推し進めようとする思想政策

概要[編集]

本来は19世紀中期以降の移民を主目的としない植民地獲得を指して使われる用語であるが、歴史学以外の分野ではしばしば文学的・政治的修辞として単純に膨張主義や覇権主義を指して使われる場合もある。また、レーニンは植民地再分割を巡る列強の衝突から共産主義革命に繋げようとする立場から更に限定し、『帝国主義論』(1916年)の中で20世紀初頭以降を帝国主義として論じているが、ソビエト連邦の崩壊後はそのような限定がなされることは少なくなっている。

帝国主義の観点から列強を「帝国主義国」と看做して、その国家の政体にはかかわらず「帝国」と呼ぶ例には、スペイン帝国ポルトガル海上帝国オランダ海上帝国デンマーク海上帝国イギリス帝国フランス植民地帝国ベルギー植民地帝国ドイツ植民地帝国イタリア植民地帝国アメリカ帝国、更には社会主義国に対する社会帝国主義などがある。

レーニンの立場では、帝国主義とは、資本主義の独占段階であり、世紀転換期から第一次世界大戦までを指す時代区分でもあり、列強諸国が植民地経営や権益争いを行い世界の再分割を行っていた時代を指す。この時期のみを帝国主義と呼ぶのか、その後も帝国主義の時代に含めるのかについては論争がある。レーニンが『帝国主義』において多くを引用しているホブスンの研究では、帝国主義は19世紀中葉以降の植民地獲得、特に移民先として不適切なために余剰人口の捌け口とは成り得ない熱帯地域での拡張を帝国主義として批判の対象としている。

レーニンによれば、高度に資本主義が発展することで成立する独占資本が、市場の確保や余剰資本の投下先として新領土の確保を要求するようになり、国家が彼らの提言を受けて行動するとされる。いくつもの国家が帝国主義に従って領土(植民地)を拡大するなら、世界は有限であるから、いつかは他の帝国主義国家から領土(植民地)を奪取せねばならず、世界大戦はその当然の帰結である、とする。レーニンの『帝国主義論』は、世界大戦の結果としての破局が資本主義体制の破局につながると指摘した。この様な経済決定論的なレーニンの主張はしばしば「ホブスン=レーニン的」帝国主義と評されるが、ホブスンの本来の論では余剰資本の投下先という経済的側面の他に、植民地が社会的地位の高い職を提供するという社会的側面についても指摘されており、必ずしもホブスンとレーニンの主張は同一のものではない。またこのような経済決定論は、しばしば資本の投資先が自国植民地に限られなかった点を見過ごしている。

ギャラハー=ロビンソンによる「自由貿易の帝国主義(Imperialism of free trade)」論は、非公式帝国(informal empire)という概念を用い、自国の植民地以外への投資を説明している。彼らの論によれば、自由貿易の堅持や権益の保護、情勢の安定化といった条件さえ満たされるのならば、植民地の獲得は必ずしも必要ではなく、上記の条件が守られなくなった場合のみ植民地化が行われたとされる。ギャラハー=ロビンソンは現地の情勢と危機への対応に植民地化の理由を求めたため、それ以降「周辺理論」と呼ばれる、植民地側の条件を重視する傾向が強くなった。

それに対し、再び帝国主義論の焦点を「中心」に引き戻したのがウォーラステインによる世界システム論であり、ケイン=ホプキンズによるジェントルマン資本主義(gentlemanly capitalism)である。ウォーラステインはしばしば余りに経済決定論的過ぎるとして批判されるが、ケイン=ホプキンズはホブスン以来の社会的側面に再び注目し、本国社会における政治的・社会的要因を取り上げた。これらの研究は第二次大戦後、脱植民地化が進むにつれ指摘される様になった新植民地主義 (Neocolonialism(間接的に政治・経済・文化を支配する)の影響を受けたものである。

大英帝国の支配下にあった地域

思想[編集]

帝国主義は他者を支配する事を積極的に肯定する思想によって正当化された。それは生物学上の概念であった適者生存をより複雑な人間社会にまで拡大した社会ダーウィニズム科学的レイシズム (Scientific racismなどの疑似科学によって裏打ちされた帝国意識であり、キプリングの「白人の責務 (The White Man's Burdenという言葉に代表される。社会ダーウィニズムなどの、進化進歩と混同することからきた進歩史観には啓蒙主義との関連も指摘され(啓蒙Enlightenmentは字義通りには「光で照らす」)、闇/野蛮、光/文明という二分法を作り、闇の領域に光すなわち文明をもたらし、「無知蒙昧状態から救い出す」とする啓蒙イデオロギーで表向きは装っていることが多かった[1]

帝国主義を批判したホブスンも究極的には「人類全体の幸福に寄与する資本主義」という理念を信奉しており、周辺地域を然るべき方法で経済圏に組み込む事自体は「文明化の一環」として肯定している。このオリエンタリズムの典型とも言える思想は非ヨーロッパ地域を支配する事はしばしば経済的原理を超えて、「良心」の名の下に進められており、安全と文明化の手段が提供されるのであれば、必ずしも自国による政治的支配は要求されなかった反面、ベルギーコンゴ自由国におけるレオポルド二世のように「白人の責務」を見失い、度の過ぎた搾取を行えば国際社会から痛烈な批判を浴びることとなった。

主な帝国主義論[編集]

ホブスン[編集]

ホブスンは、南アフリカ戦争を記者として取材した経験に基づいて、1902年に『帝国主義論』(Imperialism: A Study)を著し、1860年代以降のイギリス帝国拡大を、「植民」から離れた資本投下と市場開拓のための帝国主義と批判した。この経済的側面についての指摘はレーニンの著作に大きな影響を与えている。またレーニンに影響を与えることはなかったものの、政治的・社会的側面として、金融・軍事・物流といった分野の、帝国維持にかかるコスト自体が目的となりうる階層の利害も指摘した。ホブスンは帝国主義を「文明の堕落」と考えていた反面、資本主義と「文明」の本質的な善性を信じており、現在でいう国際連合のような国際機関の信託の下で「野蛮」を「文明化」することは究極的には良いことであると考えていた。

レーニン[編集]

レーニンは1917年に『資本主義の最高段階としての帝国主義』を出版した。同著によれば帝国主義は特殊な資本の発展段階である。そもそもマルクス主義によれば資本はその基本的な性質に基づいて拡大再生産を繰り返しながら膨張するものであり、これが最も高度化したのが帝国主義であると捉える。帝国主義においては独占が資本の集中をもたらし、また金融資本が産業資本と融合した寡頭的な支配が行われ、腐敗が進行し、長期的には死滅しつつある。レーニンは帝国主義の列強間で不可避的に生じる衝突を予見し、そのときこそ社会主義革命の契機と捉えていた。

モーゲンソー[編集]

ハンス・モーゲンソーはマルクス主義的な観点から論じられた資本主義と帝国主義の関係について否定的な立場をとる。歴史的な記述を見ても資本家は帝国主義的な対外戦争に賛成するどころか反対してきたことが認められるとし、そもそも戦争が本質的に持つ偶発的な危険性や予測の不可能性を考えれば資本家にとっては対外戦争はリスクが大きすぎると判断できる。またある程度の社会的な安定が必要な経済活動は軍事活動とは基本的に両立しえないために利益を上げることそのものが難しくなるという見方を示す。

竹越与三郎[編集]

『南国記』を著して南進論を主張し、植民地政策を唱えた枢密顧問官竹越与三郎は「熱帯移民論」を主張して熱帯地方の気候や風土に白人がなじめず、また病気に対する免疫も不十分であるとして、南洋諸島ハワイへの日本人移民満州朝鮮への移住を提唱した。また、「英国のローズベリ卿が云へるが如く、自由帝国主義とこそ云ふべきもの」と題して明治33年(1900年)に『世界之日本』第五巻第四八号で大英帝国Liberal Imperialists自由帝国主義)を日本に紹介し、ローズベリー伯(Lord Rosebery)の政策を掲載。フランスの同化主義批判を含む植民政策の国際的潮流を感知して、「外に向かっては帝国主義を主張し、内国に於いては自由寛容の政策」を主張した。

幸徳秋水[編集]

幸徳秋水1901年(明治34年)に『帝国主義』を著し、「帝国主義はいわゆる愛国心を経となし、いわゆる軍国主義を緯となして、もって織り成せるの政策にあらずや」とし、帝国主義と愛国心ないしナショナリズムとの関係をジョン・ロバートソンの『Patriotism and Empire』(1899)を基礎に、独自の分析を行っている。ロバートソンは1893年創設されたレインボー・サークルという議論集団で、同会員でもあったホブソンとも親交があったといわれる。

脚注[編集]

  1. ^ 小林康夫・船曳健夫編『知の論理』173 - 183項 東京大学出版会

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • Hobson, J.A.(1965/1902), Imperialism, Michigan. ISBN 0472061038
  • Lenin, Vladimir Iliich; 聴濤 弘(訳)(1999)、『帝国主義論』、新日本出版社。ISBN 4406026967
  • Said, Edward W.(1994), Culture and Imperialism, repr ed., Vintage. ISBN 0679750541
  • 山内 昌之(2004)、『帝国と国民』、岩波書店。ISBN 4000240102
  • 幸徳 秋水;山泉 進(校注)(2004/1901)、『帝国主義』、岩波書店。ISBN 4003312511
  • 後藤 道夫、伊藤 正直;渡辺 治(編)(1997)、『現代帝国主義と世界秩序の再編』、大月書店。ISBN 4272200623
  • 木谷 勤(1997)、『帝国主義と世界の一体化』、山川出版社。ISBN 4634344009
  • 歴史学研究会(編)(1995)、『強者の論理―帝国主義の時代』、東京大学出版会。ISBN 413025085X
  • 清水馨八郎『侵略の世界史』(祥伝社)