ポピュリズム
ポピュリズム(英: Populism)とは、ラテン語の「populus(民衆)」に由来し、民衆の利益が政治に反映されるべきという政治的立場を指す[1]。大衆主義。ノーラン・チャートによる定義では、個人的自由の拡大および経済的自由の拡大のどちらについても慎重ないし消極的な立場を採る政治理念を指し、権威主義や全体主義と同義[2]。個人的自由の拡大および経済的自由の拡大のどちらについても積極的な立場を採る政治理念である自由至上主義(リバタリアニズム)とは対極の概念[3]。
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[編集] 概要
1850年から1880年の間のロシア帝政において、知識人に対立する運動として現れた[4]。 アメリカ合衆国では、19世紀末の人民党(People's Party)などから現在まで、連邦政府への中央集権化を阻止し、小規模社会の自治を基盤とし、個人的努力で経済的成功を実現させるアメリカン・ドリームを称揚する流れがポピュリズムである。
報道において「衆愚政治」という意味で用いられることもあるが、その場合は、「今日では、複雑な政治的争点を単純化して、いたずらに民衆の人気取りに終始し、真の政治的解決を回避するもの」として、ポピュリズムは批判的に言及されることが多い。民意を離れてデモクラシー(民主主義)は運用できないとしても、民衆全体の利益を安易に想定することは、少数者への抑圧などにつながり、危険であるからである。[5] といった意味で用いられている。
また、文学用語としてのポピュリズムは、自然主義に近く、ロマネスクな筋立てや心理的説明を廃してもっぱら庶民を描く。しかし、この流派は、実質的な理論的支柱というものをもたない。
[編集] 特徴
ポピュリストは、既存の政治エリート外から現れることが多い。選挙戦においては、大衆迎合的なスローガンを掲げ、政党、労組等既存組織を利用せず大衆運動の形を採る。ここでは、しばしばマスコミを通じた大がかりな選挙キャンペーンが打たれる。
ひとたび政権に就くと、ポピュリストは既得権益を「敵」として攻撃(減税、民営化、大企業の解体、規制改革、外国資本の排除、資産家に対する所得税率の上昇、反エリート・反官僚キャンペーンなど)する。
経済政策に関しては、近年は南米の諸政権のように「大きな政府」路線、財政肥大化を伴う労働者層への政治的・経済的厚遇(平均賃金の上昇、年金政策の強化、医療・福祉の充実など)を行うなど、民衆に利益が還元される政策が代表的なものとなる。
しかし、ポピュリズムは「小さな政府」に親和的な場合もある。この場合労働組合や公務員、生活保護受給者などを既得権益を持つ者として攻撃し、減税や民営化、規制改革のほか、政府の縮小、福祉の肥大化反対、年金・医療・教育の民営化など、市場原理主義的改革を主張する。アメリカ合衆国では、小さな政府を求める反連邦主義の伝統があり、アメリカ合衆国のポピュリズムは本来このようなリバタリアニズムの伝統の上に立っている(ティーパーティー運動も参照)。
ポピュリスト政治家は、一般大衆との近さをアピールするために、従来の政治過程や官僚制度をバイパスした政策(直接民主主義制度に近い手法)を実行する。このため、しばしば国民投票や住民投票が多用される。対外・治安面では強硬な姿勢を取る傾向が強く、ナショナリズムや大衆文化を鼓舞したり、民兵組織を編成する事もある。エリート的な民主主義を否定し、限定的に労働者を労働組合などを介して政治に参加させるなど、いわゆるコーポラティズム的な政治手法、すなわちイタリア型ファシズムと似た側面を持つこともある。
[編集] ラテン・アメリカのポプリスモ
ラテン・アメリカにおけるポピュリズムはポプリスモ(スペイン語:Populismo)として独特の歴史と特徴が挙げられる。
「en:Populism#Latin_America」も参照
- 家父長的(パターナリズム)、カウディージョ的
- 軍人出身(アルゼンチン、ボリビアなど)、もしくは新興実業家出身(ブラジルなど)、学者出身(ペルーなど)
- 支持階層はかつて中産階級階層が主体であったが、近年は先住民や貧困階層により支持されるケースが目立つ。アルゼンチンのペロン政権(主として都市労働者)や、ブラジルのヴァルガス政権(都市中間層主体)、ペルーのベラスコ政権(軍人主体で明確な支持層なし)、ベネズエラのチャベス政権(主として貧困階層)が典型例。
- カトリック教会、大地主などの本来の保守層やアメリカなどを中心とした外国資本は反発。また、逆の立場である共産党もポピュリズムには否定的。
- 極度に左傾化する例もあるが、反対に左翼勢力を徹底して弾圧する例もある。
- 社会正義を掲げるが、体制以外の労働組合や、左翼勢力は弾圧される。
- 国家主義的色彩を帯びており、ナショナリズムの称揚のために外国語教育や外国語新聞の発行禁止などを行う(ブラジルのヴァルガス政権における日系ブラジル人への政策など)。
- 議会制民主主義には消極的(一党独裁制に転換など)、もしくは否定的。非常手段による「協同組合」制議会への改造なども行なう。
- イタリアのムッソリーニ政権に強い影響を受ける。ただしこうした性格は1930年代の権威主義的軍事政権にも共通した性格でもあり(グアテマラのホルヘ・ウビコなど)、第二次世界大戦において中南米諸国は、外交・軍事面では中立を保つか、連合国側についた。
[編集] ポピュリズムの具体例
- ポピュリズム(人民主義):狭義には19世紀末~20世紀初頭のアメリカにおけるアメリカ人民党・民主党指導による大衆運動をいう。指導者はウィリアム・ジェニングス・ブライアンなど。ポピュリズムのエネルギーによって大企業の独占に対する規制(反トラスト法など)や平等や公正を志向する政策が実現された。
- よくラテンアメリカのポプリスタ政権の典型として挙げられるのは、メキシコの制度的革命党(カルデナス)政権、アルゼンチンのペロニスタ(ペロン)政権、ブラジルのヴァルガス政権である。
[編集] ポピュリズムの要素を持つとされる政権・政党
- キューバ:カストロ政権 - ポピュリズム的政権から社会主義体制に移行
- ボリビア:モラレス政権
- ペルー:フジモリ政権
- コロンビア:アルバロ・ウリベ政権
- インド:インド国民会議派
- トルコ:ケマル主義(ムスタファ・ケマル)
- リビア:カダフィ政権
- ベラルーシ:ルカシェンコ政権
- 韓国:盧武鉉政権
- ロシア:統一ロシア(プーチン政権・メドヴェージェフ政権)
- タイ:タクシン政権
- イラン:アフマディネジャド政権
- イギリス:ウィルソン政権
- 名古屋市:河村たかしおよび減税日本
- 大阪府・大阪府:橋下徹(大阪府知事→大阪市長)および大阪維新の会
- 阿久根市: 竹原信一市政(2008~2010)
- 国政:中曽根康弘政権・小泉純一郎政権(自由民主党)、鳩山由紀夫政権(民主党)、みんなの党
- 冷戦終結以降、ポピュリストと言った場合、ロシアのウラジーミル・ジリノフスキー(ロシア自由民主党)やフランスのジャン=マリー・ル・ペン(国民戦線)と言った極右を指すことも多い。
[編集] 脚注・出典
- ^ 今村仁司、三島憲一、川崎修、『岩波社会思想事典』、岩波書店、2008年、pp. 298~299.
- ^ Christie, Stuart, Albert Meltzer. The Floodgates of Anarchy. London: Kahn & Averill, 1970. ISBN 978-0900707032
- ^ Christie, Stuart, Albert Meltzer. The Floodgates of Anarchy. London: Kahn & Averill, 1970. ISBN 978-0900707032
- ^ Larousse, Le Petit Robert, des noms propres, 1997, <populisme> の項
- ^ 同上。『岩波社会思想事典』