法人税

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法人税(ほうじんぜい、英語:Corporate Tax)とは、法人の所得金額などを課税標準として課される税金国税で、直接税、広義の所得税の一種。

日本の法人税は主に法人税法(昭和40年法律第34号)に規定されているが、租税特別措置法や震災特例法などの特別法によって、修正を受ける。

なお、法人の所得にかかる税には、地方税分である法人事業税法人道府県民税や、地方法人特別税などがあり、これらの税の影響を受け、法人には税率が課される。(法定実効税率)これらの詳細は、各ページを参照。

根拠[編集]

法人税の課税根拠については、私法上の議論を踏まえて、次の2つの考え方に分かれる。

  1. 法人擬制説 - 法人は、単に法的に擬制された存在であって、所得は株主や出資者のものであり、法人税はこれらの者に対する所得税の前取りである。したがって、法人税は、個人所得税の源泉徴収と同一視でき、経済的二重課税は個人において排除すれば足りることから、税率も平均税率でよいこととなる。
  2. 法人実在説 - 法人は、個人から別個独立した権利能力を有する法的主体であるから、課税面においても法人自らが納税主体になりうる。したがって、法人には個人と同様に担税力に差異があることから、税率は累進税率を適用すべきである。さらに、法人所得税と個人所得税の間には経済的二重課税は生じず、その排除措置を講ずる必要はないこととなる。なお、この説は法人独立説と呼ばれることもある。

法人税転換の理論[編集]

経済学の法人税転換の理論では、法人税は利益の減少を通じて一部を株主、賃金の低下を通じて一部を労働者、モノ・サービスの価格の上昇を通じて一部を消費者がそれぞれ負担する[1]。法人税を負担するのは、株主・労働者・消費者などの自然人であり、組織は費用・税金を負担できないため自然人が負担するしかない[1]

法人税率に関する議論[編集]

経済学者岩田規久男は「1990年以降のグローバル経済の発展により、企業はグローバルな視点で立地を決めるようになっており、法人税は企業立地選択の大きな費用の一つになっている」「グローバル経済の下では、長期的には法人企業は法人税率が高い国から低い国に生産拠点を移動させようとする。結果、法人税率が高い国では、国内雇用の減少による賃金低下を通じて、労働者の法人税負担割合が増大する」と指摘している[2]

経済学者のポール・クルーグマンは「アメリカなど他の先進国の例を見ると、法人税引き下げとGDP成長率にはあまり関係がないように思える」と指摘している[3]

世界の法人税[編集]

2013年1月現在における法人所得課税の実効税率はアメリカカリフォルニア州が40.75%、フランスが33.33%、ドイツが29.55%、イギリスが24.00%などとなっている[4]

日本の法人税[編集]

日本の法人税率(2012年度)
分類 税率
基本税率 25.5%
中小企業者等
(資本金1億円以下)
19%
(年800万円以下は15%)
人格のない社団等
協同組合等
公益法人等
19%
(年800万円以下は15%)

日本の法人税は、当初は法人に対する所得税の一種として導入され、明治32年 (1899年) の所得税法改正により新設された第一種所得(法人所得税)に由来する。昭和15年 (1940年) に法人に対する所得税が分離する形(法人税法の制定)によって成立した。かつての高度経済成長時代における基幹税の役割を果たしていたが、バブル経済のころに所得税収に抜かれ、次第にその地位を下げつつある。しかし、1980年代からの大幅な所得税減税(約30%)や、定率減税、バブル崩壊後の景気低迷や、1990年代後半の金融危機以後の景気低迷による雇用者報酬の伸び悩みなどにより所得税収が大幅に減少(平成3年 (1991年) :26.7兆円→平成18年 (2006年):14.1兆円)、平成15年 (2003年) からの量的金融緩和政策によるリフレ政策や、輸出面での好調から平成18年 (2006年)には昭和63年 (1988年) 以来の税収項目1位となった。平成19年 (2007年) の国税の税収に占める割合は、所得税に次ぎ第2位である。平成20年 (2008年) は世界的な景気後退の影響を受け、補正予算では、2位で、平成21年 (2009年) 度の予算では、消費税とほぼ同額とされている[5]

また、平成14年 (2002年) 度からは子会社などへの利益移転や損失隠し目的の簿外債務を阻止するため、連結納税制度が導入され、グループ企業が連結での業績で法人税を納税できる制度ができた。企業グループによっては節税できるようになった。また、IT投資促進税制(IT投資減税、平成17年 (2005年) 度まで)、研究開発促進税制(研究開発減税)が整備され、企業のIT投資、研究開発へのインセンティブとなっている。

納税義務者[編集]

  1. 内国法人は、その全世界所得について納税義務を負う。ただし、内国法人のうち、公益法人等人格のない社団等については、収益事業を営む場合又は退職年金業務等を営む場合にのみ納税義務を負う(法人税法4条1項)。
  2. 外国法人は、国内源泉所得があるとき又は退職年金業務等を行うときには、納税義務を負う。ただし、外国法人のうち、公益法人等または人格のない社団等については、国内源泉所得で収益事業から生じるものがある場合にのみ納税義務を負う(法人税法4条2項)。
  3. 公共法人には、上記1、2にかかわらず、納税義務がない(法人税法4条3項)。

課税の範囲[編集]

法人税が課税される対象は、次の3つに区分される。

  1. 各事業年度の所得に対する法人税
  2. 各連結事業年度の連結所得に対する法人税
  3. 退職年金等積立金に対する法人税

算出[編集]

法人税は法人の所得に対して課税される。商法を基礎とする企業会計では確定決算において収益と費用、収益を決算の主要な項目とするのに対して、税法に基づいて法人税を算出する税務会計では所得と損金、益金が主な項目となる。益金は収益から益金不算入を引いて益金算入を加えたものであり、損金は費用から損金不算入を引いて損金算入を加えたものである。所得は益金より損金が大きい場合の差であり、益金より損金が小さい場合は赤字となる。

収益 - 益金不算入 + 益金算入 = 益金
費用 - 損金不算入 + 損金算入 = 損金
益金 - 損金 = 所得 (ただし益金>損金の場合)
所得 × 税率 = 税額

ただし、益金算出においては収益に対して、また損金算出において費用に対して、それぞれ申告調整が行われ、損金算入においても所得控除が除かれ、税額も税額控除がある[6]

申告、納付[編集]

  • 確定申告
  • 中間申告
  • 期限後申告
  • 納付
  • 更正の請求

法人税率の推移[編集]

法人税率の推移
年度 税率 変更理由
1946年 35.0%
1952年 42.0%
1955年 40.0%
1958年 38.0%
1965年 37.0%
1966年 35.0%
1970年 36.75% 所得税減税に伴う源確保のため
1974年 40.0% 所得税の大幅減税に伴う財源確保のため
1981年 42.0% 財政再建のため
1984年 43.3% 所得税減税に伴う財源確保のため
1988年 42.0% 暫定税率の期限切れ
1989年 40.0% 抜本改正経過税率、消費税導入
1990年 37.5% 抜本改正本則税率、消費税導入
1998年 34.5% 1997年の消費税増税
1999年 30.0% 1997年の消費税増税
2003年 資本金1億円以上の法人に対する法人事業税において外形標準課税を導入(赤字でも徴税するため)
  • 上記税率は国税法人税のみ。法人地方税・法人事業税を含めた法定実効税率は40.69%。
  • うち期末資本金が1億円を超えない普通法人および相互会社について[7]
  • 期末資本金が1億円以下の普通法人(いわゆる中小企業)および人格の無い社団
  • 所得金額のうち年800万円以下の金額  22%
(平成21年4月1日から平成23年3月31日までの間に終了する事業年度では18%)
  • 所得金額のうち年800万円を超える金額 30%
  • 公益法人等、協同組合等、特定の医療法人 22%
  • 組合員数50万人以上・店舗売上高1,000億円以上の特定協同組合等(大規模生協)
  • 所得金額のうち年10億円以下の金額  22%
  • 所得金額のうち年10億円を超える金額 26%
2012年 基本税率25.5%に減税。ただし、2014年度まで復興特別法人税が10%加算される。法定実効税率38.01%。 2014年の消費税増税
2015年 復興特別法人税が終了。法定実効税率35.64%。 2015年の消費税増税

企業規模による税制の調整[編集]

担税力の問題や社会に対する影響力等を考慮して、法人規模に応じた調整を法人税、およびその周辺法によって調整している。

例えば、中小企業に対しては、税率の軽課や損金算入枠の拡大、課税の繰り延べや税額控除等といった優遇的調整が租税特別措置法に於いてされている[8]

また、法人地方税(法人道府県民税・法人事業税の外形標準課税)は法人実在説的な立場から法人規模に応じた課税を行っているので、大企業に対しては重課となっていると言える。

繰越欠損金[編集]

赤字(欠損金)を出した企業の場合、その赤字を9年にわたって繰り越すことができ、利益と相殺できる。(平成20年4月1日以後に終了した事業年度)

欠損金の繰越制度は多くの国で採用されており、ドイツやイギリスに至ってはこの繰越期間が無制限である[9]

税収の推移[編集]

財務省の統計[10]を参照。法人税から消費税へのシフトにより、過去最高を記録した1988年に比べ2010年は法人税が10兆円の減収、消費税が10兆円の増収となっている。

法人税収・消費税収の推移(国税分のみ)
年度 法人税収 消費税収 摘要
1984年 12.0兆円 0円
1985年 13.1兆円 0円
1986年 15.8兆円 0円
1987年 18.0兆円 0円
1988年 19.0兆円 0円 税率42%。過去最高の法人税収。
1989年 18.4兆円 3.3兆円 税率40%。消費税3%。
1990年 18.4兆円 4.6兆円 税率37.5%。
1991年 16.6兆円 5.0兆円
1992年 13.7兆円 5.6兆円
1993年 12.1兆円 5.6兆円
1994年 12.4兆円 5.6兆円
1995年 13.7兆円 5.8兆円
1996年 14.5兆円 6.1兆円
1997年 13兆4,754億2,600万円 9.3兆円 消費税5%。
1998年 11兆4,231億9,400万円 10.1兆円 税率34.5%
1999年 10兆7,959億8,500万円 10.4兆円 税率30.0%
2000年 11兆7,471億9,400万円 9.8兆円
2001年 10兆2,577億9,100万円 9.8兆円
2002年 9兆5,234億3,800万円 9.8兆円
2003年 10兆1,151億9,400万円 9.7兆円
2004年 11兆4,436億9,100万円 10.0兆円
2005年 13兆2,735億6,700万円 10.6兆円
2006年 14兆9,178億7,700万円 10.5兆円
2007年 14兆7,443億9,800万円 10.3兆円
2008年 10.0兆円 10.0兆円
2009年 6.4兆円 9.8兆円
2010年 9.0兆円 10.0兆円

日本の法人税率に関する議論[編集]

国際的に見て高い法人税は日本で活動する企業にとってコスト高を意味し、国際競争力の観点から望ましくないとする議論がある[11]。岩田規久男は「日本の法人税率が諸外国に比べて高いことは、日本企業の海外流出を促し、国内産業の空洞化の一因となる。また、海外企業の流入を妨げる一因にもなる」と指摘している[2]。経済学者の原田泰は「巨額の財政赤字の中で減税は難しいが、法人税減税は進めるべきである。法人はどこにでも動けるため、成功したときの取り分の多い国に行って立地する。そのような立地競争に負けないように減税する必要がある」と指摘している[12]

日本経済団体連合会は、日本の法人税率の高さが海外移転につながっていると主張し、日本・アメリカは法人税が高く消費税が安いが、欧州などでは法人税を下げ消費税を上げており、2007年現在、経団連は法人税の法定実効税率を30%を目途に引き下げ、消費税を引き上げるよう求める提言を発表している[13]

税経新人会全国協議会は、国により課税ベースや減税措置が異なるため、企業の税負担は表面税率だけでは比較できないこと、実際の税負担を有価証券報告書から計算すると、日本の大企業の場合、経常利益上位100社平均で30.7%であることなどを指摘し、経団連の提言に対し批判を加えている[14]

経済産業省の「海外事業活動基本調査」によると、海外投資決定のポイントとして68.1%の企業が「現地での需要」をあげ、「税制」と回答したのは10.6%であるなど、日本の法人税率の高さが海外移転の主な理由ではない事が明らかとなっている[15]

日本共産党は、日本の法人税は大企業を中心として優遇税制を敷いており、ソニーの12.9%を筆頭に、実際の負担率は極めて低いと主張している[16]

GDPと法人税の比較で日本の法人は税負担が大きいという議論について、法学者三木義一は、法人税の税収総額を他国と比較する場合は国ごとに異なる法人の実態も考慮する必要があり、米国の約225万社に対して日本が約260万社と経済規模に比べて日本の方が法人数が多く(独・伊は62-63万社、フランス94万社)、日本では米国に比べて中小零細企業までが法人化しているとしている[17]

国際的な企業誘致競争の1つとして、欧州域などでは法人税率の引き下げ(同時に消費税の引き上げ)競争が進んでいるが、WTOでは「有害な税の競争」だと問題を指摘しており、国際社会における枠組みについて議論されている[18]。国際的な法人税率の引き下げ競争で最も積極的だったアイルランドは、一気に12.5%まで引き下げて企業誘致に成功したかに見えたが、リーマンショック後、国家財政が破綻してヨーロッパの問題児となっている。

その他[編集]

  • アマゾンジャパン株式会社は、日本の法人税を支払っていない。アマゾンジャパンは商品の売主は日本法人ではなく、米国ワシントン州法人であるAmazon.com Int'l Sales, Inc.であり、同社は日本国内に支店等を有しないことをもって国税庁に抗弁してきた。2009年、東京国税局はアマゾンの流通センター内に米国法人の機能の一部が置かれており、これが法人税法および日米租税条約に規定する恒久的施設であるとして、2003年から2005年について[19]140億円の追徴課税を行った[20]。これに対してAmazon.com側は1億2000万ドルを銀行に供託[19]。その後日米当局間で協議が行われ、日本の国税庁の請求は退けられることで2010年9月に最終合意に至った。国税庁は銀行供託金の大部分を解放した[19]。しかし、Amazonの法人税については、依然としてフランス、ドイツ、日本(2006年から2009年)、ルクセンブルク、イギリスなどによって査察が進行中、または行われる可能性が指摘されている[19]

脚注[編集]

  1. ^ a b 岩田規久男 『経済学的思考のすすめ』 筑摩書房、2011年、103頁。
  2. ^ a b 岩田規久男 『経済学的思考のすすめ』 筑摩書房、2011年、104頁。
  3. ^ 経済の死角 【独占インタビュー】ノーベル経済学賞受賞ポール・クルーグマン 日本経済は、そのときどうなるのか現代ビジネス 2013年10月21日
  4. ^ 財務省「法人所得課税の実効税率の国際比較」[1]
  5. ^ 財務省:主要税目の税収(一般会計)の推移
  6. ^ 三木(2012)、63-65頁
  7. ^ 法人税法 第一款 税率
  8. ^ [2]
  9. ^ 全国銀行協会
  10. ^ 税制について考えてみよう : 財務省
  11. ^ 三菱総合研究所編 『最新キーワードでわかる!日本経済入門』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2008年、138頁。
  12. ^ 法人税減税とTPPで復活する日本〔2〕PHPビジネスオンライン 衆知 2014年2月10日
  13. ^ 「今後のわが国税制のあり方と平成20年度税制改正に関する提言」2007年9月18日
  14. ^ 法人実効税率のごまかしと法人所得課税税経新人会全国協議会
  15. ^ 経済産業省「第40回海外事業活動基本調査結果概要」
  16. ^ 法人税 「40%は高い」といいながら実は… ソニー12% 住友化学16%
  17. ^ 三木(2012)、62-63頁
  18. ^ 三木(2012)、58-60頁
  19. ^ a b c d "AMAZON.COM, INC. FORM 10-Q For the Quarterly Period Ended September 30, 2010"
  20. ^ Yoshio Takahashi, "Tokyo Tax Bureau Imposes Taxes On Amazon.com Japan Operations- Asahi", 東京発Dow Jones,2009年7月4日付,2010年7月20日閲覧。

参考図書[編集]

  • 三木義一著、『日本の税金』、2012年3月22日第1刷発行、岩波書店、ISBN 9784004313595

関連項目[編集]

外部リンク[編集]