流動性の罠

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流動性の罠(りゅうどうせいのわな、: Liquidity trap)とは、金融緩和により利子率が一定水準以下に低下した場合、投機的動機に基づく貨幣需要が無限大となり、通常の金融政策が効力を失うこと。

目次

概要 [編集]

景気後退に際して、金融緩和を行うと利子率が低下することで民間投資消費が増加する。しかし、投資の利子率弾力性が低下すると金融緩和の効果が低下する。そのときに利子率を下げ続け、一定水準以下になると、流動性の罠が発生する。

利子率(名目金利)は0以下にならないため、この時点ではすでに通常の金融緩和は限界に達している。金利が著しく低いため、債券の代わりに貨幣で保有することのコストがゼロとなり、投機的動機に基づく貨幣需要が貨幣供給に応じて無限に増大する。

ケインズの見識によれば、「ジョンブル(イギリス人のこと)は大抵のことは我慢するが2分の利子率には我慢できない」ため、経験的に2パーセントの利子率を下回るような債券は売れ行きが極端に悪くなり流動性の罠が発生する。これは投資家の貨幣に対する取引需要を名目金利が下回ってしまうためであり、2パーセントという高すぎる債券価格(低すぎる利子率水準)のもとでは、人々は債券価格の下落(金利の上昇)を予想して貨幣で資産を保有するようになり、貨幣供給が増しても貨幣保有が増すだけで、資金は債券購入に回らず、市場利子率はそれ以上低下しようとはしなくなるためである。

この過程においては、マネーサプライをいくら増やしてももはや利子率は引き下がらず、民間投資や消費を刺激することが出来なくなるため、将来への期待に対する働きかけを除いて通常の金融政策は効力を喪失する。反面、クラウディングアウトは発生せず、財政政策の有効性は高まる。

ただし、流動性の罠は超短期に限らず長期債などの資産が全て貨幣と代替になって初めて起きるのであり[1]、政策金利がゼロ制約にあったとしても、長期債の買い入れなど金融政策にはまだ余地があることとなる。「複数の資産が存在する世界では、すべての資産価格がゼロの短期金利と整合的な均衡水準に達しない限り、流動性の罠は生じ得ない。」[2]

ケインズ学派の対策 [編集]

減税や低所得者への税額控除、失業手当の充実が急務となる。加えて公共事業や公的セクターの雇用拡大など大規模な拡張的財政政策[3]を採り有効需要を創出することが政府に求められる。15兆円相当の財政支出とて経済の底上げには十分な数字とはいえず、さらに大型の政府支出が必要である。金融政策は効かないわけではないが、その効果が現れるまで時間がかかる。とはいえ実際には短期国債と長期国債は完全に代替的とは言えず、中央銀行が長期国債の購入を長期間継続することを宣言して市場に流動性を供給し続けることで間接的に有効需要の下支えができる[4]

合理的期待形成学派の対策 [編集]

インフレ目標のような期待に訴える金融政策や、為替介入による自国通貨の切り下げなど非伝統的な金融政策が手段として主張されている[5]

歴史 [編集]

1990年代末ごろ日本において流動性の罠に近い状況となった。ゼロ金利政策により利子率は歴史上最低となったが、この中でも民間投資は思うように回復せず、通常の金融政策は効力を喪失した。その後、2002年から景気回復のプロセスに入るが、輸出に主導された民間投資回復であった。 2006年3月まで量的金融緩和を実施したが、デフレを脱却させるとのコミットメントを欠き、インフレ期待を醸成する効果は薄く、結局、「当分の間は引き締めない」という時間軸政策が効果の中心となった[6]。2003年9月から急速に進んだドル安に際して、2004年初頭に大規模なドル買い為替介入が行われ、この過程で大量の円が供給されることになったが、これは外国為替市場を経由した資金供給という経路をたどり、結果として物価安定に一定の効果を発揮した。バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)が大口法人顧客から預金手数料を徴収する決断をした事実からも、2007年のサブプライムローン問題を発端とする米国発の世界金融危機後の米国経済が2011年にこの流動性の罠に陥ったのではないかという指摘がある[7]

流動性の罠が発生した背景には、民間投資成長の歴史的鈍化に要因があると考えられており、後手後手の金融政策がデフレに追いつけず実質金利を高止まりさせたと政策に批判の矛先を向ける論者[誰?]もいる。

リーマンショックとその後のEUなどによる緊縮政策の圧力によって経済成長が阻害されている。やがてユーロ圏が流動性の罠に陥るリスクがあると、ラーズ・クリステンセンらは指摘する[8]。デビッド・オーウェンは、欧州中央銀行がこのまま傍観しているわけにはいかず、やがて本格的な量的緩和を採らざるを得なくなるだろうと述べる。イタリアの首相に就任したエンリコ・レッタは、デフレを悪化させる増税に反対する立場をとっている。

脚注 [編集]

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  1. ^ Liquidity Traps for Money, Bank Credit, and Interest Rates, Karl Brunner and Allan H. Meltzer, The Journal of Political Economy (1968)
  2. ^ 低インフレ下の金融政策の波及メカニズム: 1990年代の日本の経験からのヒント (PDF), Allan H. Meltzer, 日本銀行金融研究所, (2000)
  3. ^ Davos 2008: US slides into dangerous 1930s liquidity trap Telegraph 2008年1月24日
  4. ^ Nobody understands the liquidity trap (wonkish) The New York Times, The Conscience of a liberal, Paul Krugman 2010年7月14日
  5. ^ 外国為替等分科会 最近の国際金融動向に関する専門部会(第4回)議事録 2003年4月16日 (ジョセフ・ユージン・スティグリッツによる解説及び岩田一政らとの質疑応答)
  6. ^ 非伝統的金融政策の有効性: 日本銀行の経験 (PDF) , 植田和男 (2012)
  7. ^ 【コラム】流動性のわなに陥った米経済、有効な救済策はあるのか WSJ 経済コラム 2011年8月8日
  8. ^ Eurozone risks Japan-style trap as deflation grinds closer Telegraph, Apr 30, 2013

関連項目 [編集]

外部リンク [編集]

Renee Haltomによる流動性の罠の解説

ガウティ・エガートソンによる流動性の罠の解説

現在の日本で起こっている流動性の罠についてのポール・ロビン・クルーグマンによる解説

上記【0】をDSGEのニューケインジアンモデルで精緻化したもの

『経済分析』(内閣府 経済社会総合研究所 刊行)における解説記事