財政再建

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財政再建(ざいせいさいけん,Fiscal adjustment)とは、赤字債務などにより悪化している財政状況を改善させること。主に政府地方公共団体など、公的機関について用いられる。

概要[編集]

政府部門において歳入収入)より歳出支出)が多くなることを財政赤字というが、この赤字は通常債務によって補填される。そしてこの債務残高が財政破綻の危険領域に到達した場合や、債務はまだ許容範囲のものの健全化のめどが立たなくなる事態を避けるために財政再建は行われる。なお、財政破綻とは一般に、通常の財政規模を継続していくことが困難になること、また財政に起因して国民経済になんらかの問題が発生する事態を表し、公共サービスの大幅な縮小や高いインフレーションなどの状況を含む。

また、黒字の団体も財政を改善する努力は行うであろうが、それらは一般には財政再建とは言わない。

財政再建に関する指標・理論[編集]

プライマリー・バランス[編集]

プライマリー・バランス(基礎的財政収支)とは、税収から利払い費を除く政府支出(政府経費)を指し引いた政府の本業に伴う単年度の収支のことである[1]。プライマリー・バランスが収支ゼロであれば、公共サービス提供のための支出が税の負担だけでまかなえることを意味する[1]。プライマリー・バランスは財政破綻を回避するための重要な指標とされている[2]

ブランシャールの財政破綻の定義[編集]

ブランシャールの定義 - 政府債務/名目GDPを安定的に推移させながら、現在の財政政策態度を維持できるとき、財政は維持可能であるという。政府債務の対名目GDP比の推移を考えればよいとされる。

ドーマー条件[編集]

財政破綻が起こらないための十分条件の一つ。名目GDP成長率が長期金利を上回れば財政赤字は維持可能であるという内容の定理である[3]

ボーン条件[編集]

財政破綻が起こらないための十分条件の一つ。前期に財政が悪化していた場合には、今期はプライマリーバランス規模が改善するように財政が運営されていればよいとするもの[4]

マクロバランスとの関係[編集]

ある年度の歳出を税金だけで賄えば、将来世代への負担は生まれないが、税収を上回る歳出を行えば財政赤字が発生する[5]。この場合足りない分は国債を発行して資金調達することになるため、国債償還のための資金を税金で支払う将来世代に負担がかかる[6]

経済全体としてみた場合、資金不足の赤字主体は、債務を負うことで、黒字主体の余剰資金を吸収して投資する役割を果たしている。これを資金の流れとして捉えると、黒字の主体(家計)から赤字の主体(政府・企業・海外など)に資金が供給されていると見ることができる。

通例、黒字主体である家計部門の余剰資金は、これを企業部門が借りて投資することで、経済全体としての貯蓄と投資の均衡がはかられることになる。

成長率が低いと税収の伸びは鈍くなる[7]。景気判断は物価変動を除外した実質GDPで見極められるが通常であるが、政府の財政については企業収益・給与ともに名目の指標であるため、実質GDP成長率よりも名目GDP成長率が重要とされている[8]

エコノミストの村上尚己は「政府部門は、本質的に企業・家計などと全く異なる性質を持っている。一国の経済全体は、政府部門だけで成り立っているわけではない。家計・企業など民間部門の経済行動を合わせて、『国の借金』を考えなければ問題の本質は見えてこない。財政の専門家は、政府部門だけに着目して財政赤字を論じるので、処方箋は税制変更(増税)や歳出抑制だけになる。政府部門の財政赤字の問題は、一国経済全体の広い視点で捉えて、処方箋を考えることができる」と指摘している[9]。村上は「一国経済全体のパフォーマンスは突き詰めれば、民間の経済活動によって決まる。民間主導で経済活動が活発化することによって、政府の財政赤字を減らすことにつながる」と指摘している[9]

また、社会保障が充実している成熟型社会では、高齢化の進展による社会保障給付の拡大が財政支出を拡大させるため財政赤字が膨らむ[7]UFJ総合研究所調査部は「成熟型社会では高い成長が見込めないため、制度を工夫しコストを抑制するとともに社会を効率的に運営していく必要がある」と指摘している[7]

対GDP比[編集]

経済学者のロバート・シラーは「ある国の債務が、GDP比で100%を超えたら財政は破綻すると考えるのは誤りである。債務とGDPから計算される比率は、純粋な時間を単位とするが、その単位として1年を用いることに必然性はない」と指摘している[10]

方法[編集]

財政を好転させるには、収入(歳入)増・支出(歳出)減かの二通りの方法があり、また負債の価値そのものを目減りさせる方法がある。

  • 収入(歳入)を増やす
    • 景気回復による税収増
    • 増税
    • 通貨発行によるシニョリッジ
    • (地方の場合)国からの給付金や補助金の金額を増やす
    • 税金以外の収入源(施設使用料や手数料収入など)を確保する
    • 資産の売却
  • 支出(歳出)を減らす
    • 事業の削減(例:特殊法人の廃止、民営化公共事業の削減など)
    • 事業単価の削減(例:民間委託を進める、入札・契約方法の改善など)
    • 人件費の削減(例:公務員の数の削減、公務員の待遇を民間並みにするなど)
    • 借入金(国債など)の利率を低く保つ
  • 負債の価値を目減りさせる
    • 国債の金利が上昇した(時価が下がった)時の買い戻しもしくはスワップ
    • インフレーション(インフレ税)による実質的な負債の目減り

経済学者の片岡剛士は「財政再建には、経済成長、歳出カット、増税のいずれかの選択肢しかない」と指摘している[11]

UFJ総合研究所調査部は「財政支出の削減・増税は、景気を悪くする要因となりうるため今の世代には不人気の政策となる。そのため、現在世代の利益を代表する政治家は、歳出拡大・減税に傾きがちとなる[12]」と指摘している。

経済学者のケネス・ロゴフは「政府は過度に増税に依存することは避けなければならない。過重な増税は経済成長に悪影響を及ぼす。増税と歳出削減のバランスを取ることが好ましい」と指摘している[13]。またロゴフは「世界の主要中央銀行は、穏やかにインフレを高進させることが巨額の債務から逃れる上で有益であることを認識すべきである」「原則的に言えば、インフレは債務問題を解決する公正な方法とは言えない。短期的で穏やかなインフレ高進(例:2年間で6%程度)では、債務問題を解決することにはならないかもしれない。しかし、債務負担を軽減させ、他の手段を取るコストを減らすことができる」と指摘している[14]

原因と責任の所在[編集]

行政機構は放っておくと、より一層膨張していくといわれており、歴史学者政治学者シリル・ノースコート・パーキンソンは「役人の数は仕事の量と無関係に一定の割合で増えていく」と説いている(パーキンソンの法則[15]。組織が大きくなれば、財政支出も拡大するため財政構造が悪化する[15]

経済学者のジェームズ・M・ブキャナンは著書『公共選択』で「民主主義はおカネを増やす方向には容易に働くが、政府のおカネを減らす方向には容易に働かない。従って、民主主義には、財政赤字を増大させる構造的な欠陥が内包している」と指摘している[16]

日本政府[編集]

財政再建に関する議論[編集]

日本政府[編集]

事例[編集]

日本[編集]

中央政府[編集]

日本国政府は、多額の国債を償還するべく財政再建に努めている。

地方自治体[編集]

国内の自治体のほとんどは財政再建に向けた努力をしている。巨額の法人税などで潤っているはずの都市部の自治体でさえも、歳出削減などの努力は進めている。

  • 財政再建団体
  • 神奈川県
  • 大阪府
  • 北海道
  • 岡山県
    • 神奈川県と大阪府はともに、財政再建団体指定を取り沙汰されたことがある。その後の景気回復による増収などで危機的状況は免れたものの、2012年現在も財政状態を好転させるための努力を推進している。
    • 北海道は道経済の低迷とともに財政の悪化が進んでおり、数年後には毎年の財政赤字が数百億円に達するとの観測もある。

脚注[編集]

  1. ^ a b 三菱総合研究所編 『最新キーワードでわかる!日本経済入門』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2008年、154頁。
  2. ^ UFJ総合研究所調査部編 『50語でわかる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2005年、184頁。
  3. ^ ドーマーの定理とは
  4. ^ 財政赤字(政府債務)の持続可能性について
  5. ^ UFJ総合研究所調査部編 『50語でわかる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2005年、40頁。
  6. ^ UFJ総合研究所調査部編 『50語でわかる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2005年、40-41頁。
  7. ^ a b c UFJ総合研究所調査部編 『50語でわかる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2005年、38頁。
  8. ^ 三菱総合研究所編 『最新キーワードでわかる!日本経済入門』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2008年、151頁。
  9. ^ a b 財政健全化には、消費税10%よりも減税東洋経済オンライン 2014年4月14日
  10. ^ 債務対GDP比率を盛んに騒ぎ立てる愚--ロバート・J・シラー 米イェール大学経済学部教授東洋経済オンライン 2011年9月14日
  11. ^ 検証! 財務省のメディア戦略と消費税増税ロジックSYNODOS -シノドス- 2014年4月1日
  12. ^ UFJ総合研究所調査部編 『50語でわかる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2005年、41頁。
  13. ^ ギリシャが財政破綻を回避する道はあるのか--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授東洋経済オンライン 2010年3月12日
  14. ^ 大恐慌を防ぐにはインフレ政策しかない--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授東洋経済オンライン 2009年1月16日
  15. ^ a b UFJ総合研究所調査部編 『50語でわかる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2005年、177頁。
  16. ^ 竹中平蔵 『経済古典は役に立つ』 光文社〈光文社新書〉、2010年、119頁。

関連項目[編集]