精神障害者保健福祉手帳

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精神障害者保健福祉手帳、記載イメージ(滋賀県発行のもの)
精神障害者保健福祉手帳カバー(徳島県発行)

精神障害者保健福祉手帳(せいしんしょうがいしゃほけんふくしてちょう)とは、1995年平成7年)に改正された精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)に規定された精神障害者に対する手帳制度。表紙の記載から、「障害者手帳」と呼ばれる場合、広義の「障害者手帳」のうち、これのみを指す場合がある。

概要[編集]

1995年(平成7年)の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の改正で同法第45条に規定された障害者手帳である。精神障害者が一定の精神障害の状態であることを証する手段となり、各方面の協力を得て各種支援策を講じやすくすることにより、精神障害者の自立と社会参加の促進を図ることを目的としている[1]発達障害者に対しては、ICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)の「第5章 精神および行動の障害 (F00-F99)」に含まれるため、知的障害を伴わない場合で基準を満たせば交付されることとなっている。

本手帳制度の施行により、障害者基本法第2条に規定された障害者(身体障害知的障害精神障害発達障害を含む。)があり日常生活に制限を受ける者)に手帳制度が整った。

様式[編集]

手帳の表紙には「障害者手帳」とのみ表示され、表紙を見ただけでは、精神障害者の手帳であることが分からないようになっている[2]。これは被交付者のプライバシーに配慮したもので、他の障害者よりも深刻な偏見差別・価値観の相違による無理解が、なお強く残存する日本の社会情勢を鑑みたものである。表紙の色は都道府県政令指定都市により異なり、例えば東京都は緑色、千葉県は濃緑色、神奈川県では濃青色、埼玉県では水色である。

手帳には顔写真が貼付される。これは2006年平成18年10月1日申請分から改訂されたもので[3]、当初は既存の2制度と異なり写真の貼付は不要であった。更新義務のない身体障害者手帳と異なり2年の手帳有効期限が定められているため、写真の添付されていない旧様式の手帳は、順次写真添付の新様式に更新された[4]

対象疾患[編集]

厚生省(現・厚生労働省)保健医療局長通知「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について」の「精神障害者保健福祉手帳障害等級判定基準の説明」によると下記の疾患が対象である。

※その他の精神疾患にはICD-10に従えば神経症性障害、ストレス関連障害、成人の人格および行動の障害、食行動異常睡眠障害を含む生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群、心理的発達の障害小児(児童)期および青年期に生じる行動および情緒の障害など(分類は精神疾患#精神疾患の項を参照)。

等級とその判定[編集]

等級[編集]

「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令」によって手帳には障害の程度により、重い順に1級・2級・3級と決められており、手帳の等級によって受けられる福祉サービスに差がある。

障害等級 精神障害の状態
一級 日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
二級 日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
三級 日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの

本手帳の1級は障害基礎年金の1級に、2級は障害基礎年金の2級にほぼ比例する。3級については障害厚生年金の3級よりも幅が広い。もっとも本手帳と障害基礎年金は別の制度であり、本手帳の等級が1級であるから障害基礎年金は確実に1級と認定される保証はない(障害基礎年金の判定業務は日本年金機構(旧社会保険庁)が行う)。障害年金の受給者は、医者の診断書の代わりに年金証書を提示することで年金と同じ等級の手帳の交付を受けられる[5]

判定[編集]

判定業務は各地域の精神保健福祉センター(地域によっては名称を精神医療センターとしているところもある)が行う[6]。判定基準は厚生省保健医療局長通知「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について」の中に書かれている「精神障害者保健福祉手帳障害等級判定基準」による。判定材料は申請時に提出された診断書をよりどころにしている。[7]判定基準は「精神疾患(機能障害)の状態」と「能力障害の状態」の各指標で構成されている。

扶助・優遇・支援の内容[編集]

等級や各発行自治体により異なるが、共通して下記の福祉施策が実施されている。

自治体における福祉サービスは、自治体運営交通機関の運賃減免[8][9]・公共施設等の利用料減免[10]・自治体運営住宅への入居優先などがある。民間事業者にあっては、携帯電話料金(携帯電話料金の障害者割引を参照)・映画館劇場の入場料金[11]・テーマパークや遊園地の利用料金[12]などに割引制度が存在するほか、運賃・料金に割引制度を定める民間の交通事業体[13]も一部に存在する。NHKでは受信料の免除が設けられている(1級若しくは2級で市県民税非課税世帯)。自治体におけるサービスは、等級によって免除・割引率が違う場合もあるが、民間福祉サービスにおいては、概ね等級における変化はない。

手帳を提示することにより受けられる優遇対象は、公共の施設・制度を主としたもので、実質的な優遇内容は被交付者が居住する地域の施設・制度の整備度合いに依存する。制度の適用範囲に自治体間で相違があることから、他地域へ転居した場合など、他の自治体発行手帳では利用できないサービスも存在する。

これまで精神障害者は、法定雇用率の対象とされていなかったが、2006年平成18年4月1日障害者自立支援法施行に伴い、精神障害者保健福祉手帳所持者については、法定雇用率の対象とされるようになり、2012年平成24年)には、雇用の義務付けの方針が厚生労働省内で定まった[14]

交通機関の割引等[編集]

地下鉄や自治体が運営する交通機関・日本のコミュニティバス[15][16][17][18]では割引がある場合が多い一方、2011年現在、多くの日本の鉄道・路線バス運賃[19][20][21][22]、航空運賃[23][24]およびNEXCO管轄の高速道路有料道路[25]都市高速などの地方道路公社の多く[26]では精神障害者向けの割引は行われていない[27]

なお、療育手帳では関係諸団体の運動によりJR運賃等の割引制度が設けられた[28]

発達障害者の手帳取得[編集]

厚生労働省は従来より発達障害は精神障害の範疇としていた[29]。同省の通知では申請用診断書に発達障害に当たるICD-10カテゴリーF80-F89、F90-F98の記入が可能である[30]

参考までに都道府県または政令指定都市によっては知的障害者向けの障害者手帳である療育手帳の取得が可能な場合がある。日本では発達障害専門の障害者手帳はない[31]。 

手帳取得後は更新が必要である。たとえば精神障害者福祉手帳3級の更新は2年に1回、2014年時点で約1万の更新書類をメンタルクリニックに通い精神科医に書いてもらい該当する施設に精神障害者福祉手帳と提出する。

交付台帳の整備[編集]

都道府県知事は精神障害者保健福祉手帳交付台帳を備えて、手帳の交付に関する事項を記載する義務がある。精神障害者保健福祉手帳を返還をするか死亡した場合、記載された事項は削除される[32]。記載される個人情報は精神障害者の氏名、性別、住所及び生年月日、障害等級、精神障害者保健福祉手帳の交付番号、交付年月日及び有効期限、精神障害者保健福祉手帳の再交付をしたときは、その年月日及び理由である[33]

諸問題[編集]

制定時の問題[編集]

一部の精神障害者患者会が当時の大きな圧力団体である全家連および全精連が厚生省に要望して強引に制定したとの証言がある。また病者総番号制、結局精神病者分断(行政に都合の良い精神病者と都合の悪い精神病者を分けるだけ)と批難している[34]

認定条件[編集]

認定条件は国が示した「精神障害者保健福祉手帳障害等級判定基準」によりつつも都道府県、政令指定都市で幅広い裁量があるため、行政行為としての信頼性と安定性を損なっている、障害者施策の推進に手帳が役に立っていない(実質生活保護の障害加算の決定程度)、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律には身体障害者福祉法第15条に定めている指定医制度のような制度がなく、事実上知識が浅くても申請用の診断書が書けてしまい、その診断書によって正しい判定がされず障害者の権利侵害につながるなどが指摘されている[35]

税金関係[編集]

精神障害者保健福祉手帳を持っていることにより所得税住民税などの控除を受けていた労働者が、何らかの理由で手帳が失効した場合、税金の負担が一般と全く同じになり、生活が圧迫される。

不正事件[編集]

2009年(平成21年)に神奈川県にて偽造事件が発覚している[36][37]2014年には受け取る障害年金の額を上げようと目論んで医師の診断書を偽造する事件が発覚した[38]

通院医療費公費負担制度との関係[編集]

障害者自立支援法が施行される前まで、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)第32条により精神科通院医療費の一部を公金にて負担した制度があった。この制度の申請時にこの手帳が交付されている者は医師の診断書が不要であった[39]

脚注[編集]

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  1. ^ 発達障害情報センター「発達障害者を支える、さまざまな制度、施策>参考」 国立障害者リハビリテーションセンター 2010年10月2日閲覧
  2. ^ 他の2手帳ではそれぞれ「身体障害者手帳」(身体障害者)・「療育手帳」(知的障害者)と表紙に記載があり、これらの状況から「障害者手帳」が精神障害の手帳であると憶測される場合もありうる。
  3. ^ 当時の厚生省の方針では手帳に写真を貼付する予定であったが、社会的偏見が大きく紛失や手帳提示をしたことにより、差別等の不利益を得る可能性が大きいと一部精神障害者団体が反対したため、写真の貼付を見合わせた経緯がある。
  4. ^ ただし、都道府県政令指定都市によっては『本人都合により写真添付なし』が認められる場合がある。これによる本人の身分証明書としてのメリット・デメリットも当然ながら発生する。
  5. ^ 年金証書などの写しによる精神障害者保健福祉手帳の障害等級の認定事務について 平成7年9月28日 厚生労働省通知
  6. ^ 「精神保健福祉センター運営要領について 厚生省保健医療局長通知」  精神保健福祉センター長会 2010年3月7日閲覧
  7. ^ 「認定する立場から-精神障害者の認定をめぐる諸問題」築島健 2010年3月7日閲覧
  8. ^ 料金割引/福岡市交通局
  9. ^ 切符やプリペイドカードを購入して利用したりはやかけんなどのIC乗車券に障害者割引の設定をして改札機を利用したり窓口・バス車内などで手帳(自治体によっては福祉乗車証が交付される)を提示して料金精算や乗越精算を行ったりする。東京都在住で東京都発行の精神障害者保健福祉手帳所持者は都営地下鉄都営バス日暮里舎人ライナーの無料乗車券が定期券発売所等で申請の上、支給される。大阪市営交通では大阪市内在住の障害者手帳1級所持者には申請の上介護人付無料乗車証を、2級には単独用無料乗車証を、3級には乗車料金割引証(5割引)をそれぞれ交付している。千葉都市モノレールには割引制度「精神障害者に対する運賃割引制度」がある。
  10. ^ 福岡市博物館 館案内
  11. ^ 料金・割引サービス表/天神東宝
  12. ^ 障がい者割引制度/ハウステンボスリゾート
  13. ^ 宮崎交通 ご意見・お問い合わせ
  14. ^ 【朝日】2012年6月4日「精神障害者の雇用義務化へ 厚労省方針、社会進出促す」
  15. ^ つくば市つくバスつくバス
  16. ^ 牛久市コミュニティバス牛久市コミュニティバス
  17. ^ 流山市ぐりーんバス(ぐりーんバス)
  18. ^ かわせみ 利用案内1福岡県那珂川町 かわせみ号
  19. ^ JR東日本:お身体の不自由なお客さまへ:障害者割引制度のご案内
  20. ^ JR西日本:お身体の不自由なお客さまへ:障害者割引制度のご案内
  21. ^ JR東海:お身体の不自由なお客さまへ:障害者割引制度のご案内
  22. ^ 身体障がい者・知的障がい者割引 西鉄電車
  23. ^ JAL国内線 - 身体障がい者割引
  24. ^ 身体障がい者割引│航空券│ANA国内線
  25. ^ NEXCO西日本 障害者割引
  26. ^ 福岡北九州高速道路公社 障害者割引について
  27. ^ ただし、山口県 健康増進課の様に通行料金の割引を行う場合もある。
  28. ^ 当事者からの意見-知的障害の立場から「知的障害」と認定されるまでの問題点 北沢清司 「ノーマライゼーション 障害者の福祉」2004年12月号 日本障害者リハビリテーション協会 2010年9月30日閲覧
  29. ^ 特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議高等学校WG(第6回)議事要旨 平成21年7月24日 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課 2009年12月26日閲覧
  30. ^ 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係通知の改正について 障発第0329008号 平成14年3月29日 厚生労働省 2009年12月26日閲覧
  31. ^ 発達障がい者に対する療育手帳の交付について(概要) 平成22年9月13日 総務省行政評価局 2011年6月13日閲覧
  32. ^ 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令 第七条 厚生労働省
  33. ^ 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行規則 第二十六条 厚生労働省
  34. ^ キーサン革命宣言―精神病者のセーカツとカクメイ 江端一起 アットワークス 2013年 ISBN 9784939042881 p18
  35. ^ 「認定する立場から-精神障害者の認定をめぐる諸問題」築島健 2010年3月27日閲覧
  36. ^ “神奈川県精神障害者保健福祉手帳の偽造について” (プレスリリース), 神奈川県, (2009年2月3日), http://www.pref.kanagawa.jp/press/0902/013/index.html 2010年3月27日閲覧。 
  37. ^ “偽造障害者福祉手帳で、携帯電話利用料割引申し込み”. msn産経ニュース (産経新聞社). (2009年2月3日). http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/kanagawa/090203/kng0902032128009-n1.htm 2010年3月27日閲覧。 
  38. ^ “「障害基礎年金、1万円あがると思った」… 医師の診断書偽造の女、追送検 大阪府警”. 産経新聞. (2014年9月1日). http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/140901/waf14090117370025-n1.htm 2014年9月8日閲覧。 
  39. ^ 精神保健福祉法詳解第二版 精神保健福祉研究会 中央法規出版 2002年 ISBN 9784805844311 p234

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]