聴覚障害者

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聴覚障害者(ちょうかくしょうがいしゃ)とは、聴覚障害をもつ(耳が不自由な)人のことである。

この聴覚障害者にはろう者(聾者)、軽度難聴から高度難聴などの難聴者、成長してから聴覚を失った中途失聴者、加齢により聴力が衰える老人性難聴者が含まれる。

用語について[編集]

かつては聞こえに不自由がある人を指す言葉として「つんぼ(聾)」という言葉があったが、現在では差別に当たるとして「聴覚障害者」という言葉に改められた。また「つんぼ」は放送禁止用語差別用語とされ、TVや出版物での使用の自粛が行われており、日常会話で使われることもほとんどなくなっている。しかし過去の著名な文学作品には用いられているため、筒井康隆はこれを龍の耳と書く美しい日本語であるとしている。

概要[編集]

原因[編集]

聴覚障害の原因には風疹などによる先天性と後天性がある。後者には、病気、薬の副作用ストレプトマイシンが代表的)、点滴の副作用長期間にわたる重度騒音や頭部への衝撃、精神性ストレスによる突発性難聴、加齢などがある。一般的に、聴覚障害者は聴覚以外に身体的欠陥はないが、重複障害を持つものもある。

分類[編集]

聴覚障害のタイプには、伝音性感音性混合性がある。伝音性は内耳までの間の音を伝える経路に原因がある場合で、感音性は内耳から奥の聴覚神経や脳へ至る神経回路に問題がある場合である。混合性は伝音性感音性の2つが合わさったものである。

聴覚はセンサー機能について述べ、聴力は聞く能力について述べているといえる。つまり、ある特定の聴覚神経が欠けていると、その波長の音は聞こえない。一方、聴力は聞き取る能力が低下したりする場合にいう。大きな騒音環境にいて、一時的に聞こえの能力が低下した場合は聴力低下という。

治療、対処[編集]

発話訓練
生まれつき、または3~5歳までの言語機能形成期に聴覚を失ったり、聴力に低下を来した場合、発話障害を伴う場合がある。しかし、最近の聾学校では性能が発達した補聴器の装用で発話訓練を十分に行うようになっている。このため、昔は聾唖(ろうあ)・瘖唖(いんあ)と呼ばれたが、最近では発話面の障害がないことが多いため聾者(ろうしゃ)と呼ばれることが多い。ちなみに、「聾」・「瘖」は聞こえないこと、「唖」は話せないことを指す。
人工内耳
聴神経に音が伝わらない場合、内耳の中に電極を挿入して、補聴システムでとらえた音声信号を電気信号に変えて、その電極から聴覚神経へ直接伝える人工内耳が普及してきた。電極の数に制限があり、一方残存聴覚神経にも個体差があるため、電子回路で患者一人一人に合わせた信号補正を行っている。人工内耳の手術後も言語聞き取りのために訓練期間が必要になってくる。
補聴器
加齢などで聞こえの程度に不自由を生じた場合、補聴器を装用することが多い。そのような場合、特定周波数をとらえる聴覚神経が欠損している場合もあり、補聴器を装用したからといって、健康な状態へ回復するとは限らない。

程度による区分[編集]

聴覚障害の程度は、医学的にはデシベル(dB)で区分する。デシベルとは音圧レベルの単位であり、音の大きさが大きいほど高い値を示す。これにより健康な場合に対しどれだけ聞こえが悪くなったか(大きな音でないと聞こえないか)が示される。

聴覚障害のdB区分
dB 聴覚障害 聞こえの程度
0 聴者  
10 ささやき声
20
30 軽度難聴  
40 普通の会話
50 中度難聴
60  
70 高度難聴 大声
80
90 怒鳴り声
100 ろう ガード下での鉄道走行音
110 地下鉄走行音
120  
130 飛行機のエンジン音

両耳で70dB以上になると、身体障害者手帳を交付される。40dB前後を超えると「話すのにやや不便を感じる」レベルになる。身体障害者手帳が交付されない40~70dBの人達も含めると、聴覚障害者は全体で約600万人いると言われる。そのうち、約75%は加齢に伴う老人性難聴である。

なお、欧米の聴覚障害判定基準は40dB以上である。

<【参考】騒音公害)の環境基準。夜間の住宅地は45dB以下。新幹線沿線住宅地は70dB以下。ただし、騒音の環境基準は、正確にはA特性の騒音レベルにより定められており、聴覚を表す音圧レベルはdBHLという単位である。>

平均聴力レベルの計算式[編集]

平均聴力レベルは次の計算式で求める。日本国内では労働災害の認定に6分法を用い、健康診断では4分法を用いる傾向が多い。日本国外では世界保健機関『難聴及び聴力低下の予防のためのプログラム (PDH)』が示す4分法を用いられる。

3分法
平均聴力レベル=\frac{500Hz + 1kHz + 2kHz}{3}
4分法(日本)
平均聴力レベル=\frac{500Hz + (1kHz*2) + 2kHz}{4}
6分法
平均聴力レベル=\frac{500Hz + (1kHz*2) + (2kHz*2) + 4kHz}{6}
4分法 (PDH)
平均聴力レベル=\frac{500Hz + 1kHz + 2kHz + 4kHz}{4}


身体障害者福祉法による区分[編集]

日本では、身体障害者福祉法によって身体障害者等級を定めている。聴覚障害の程度に応じて以下の等級の身体障害者手帳が交付される。

以下は、「身体障害者福祉法施行規則別表第5号」の「身体障害者障害程度等級表」による。

2級
両耳の聴力レベルがそれぞれ100dB以上のもの(両耳全ろう)
3級
両耳の聴力レベルが90dB以上のもの(耳介に接しなければ大声語を理解し得ないもの)
4級
  1. 両耳の聴力レベルが80dB以上のもの(耳介に接しなければ話声語を理解し得ないもの)
  2. 両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50%以下のもの
6級
  1. 両耳の聴力レベルが70dB以上のもの(40cm以上の距離で発声された会話語を理解し得ないもの)
  2. 一側耳の聴力レベルが90dB以上、他耳の聴力レベルが50dB以上のもの

同一の等級について2つの重複する障害がある場合は、1級上の級とする。ただし、2つの重複する障害が特に本表中に指定されているものは、該当等級とする。異なる等級について2つ以上の重複する障害がある場合については障害の程度を勘案して、当該等級より上の級とすることができる。5級および7級の欄には記載がない。

筆談[編集]

聴覚障害者の人は筆記用具を持ち歩いていることが多く、手話等を解さない人とは正確を期すため筆談をすることが多い。また、「私の代わりに電話をかけていただけますか」と書かれたカードを持ち歩く人もいる。

有名な言葉[編集]

  • Blindness cuts you off from things; deafness cuts you off from people.(目が見えないことは人と物を切り離す。耳が聞こえないことは人と人を切り離す)イマヌエル・カント(ドイツの哲学者)の言葉(1910年にヘレン・ケラーが英語に訳したものが、彼女の言葉として広まってしまっている。)。
  • Deaf people can do anything except hear.(ろう者は聞くこと以外は何でもできる。)キング・ジョーダン

学校教育[編集]

2006年度までは、聾学校が聴覚障害を対象とした特殊教育諸学校として機能していたが、2007年度の特別支援学校制度の開始に伴い、「聴覚障害を教育領域とする特別支援学校」が、聴覚障害者に対する教育機関となった。かつては、聾学校教諭(専修・1種・2種)の免許状の取得が必要であった(実質的には骨抜き規定で、一般の小・中・高の免許状を取得していれば教えることが可能であった)が、特別支援学校教諭免許状の制度が開始されたことにより、同免許の「聴覚障害者に関する教育領域」とする免許に変更され、旧聾学校の免許保有者は、「聴覚障害を教育領域とする特別支援学校教諭免許状」を保有している、と読み替えられる(骨抜き規定である点は、現在も変わっていないが、正式採用後に授与されることは推奨される)。

なお、聴覚障害者に対する教育は聾教育とも呼ばれるが、学校教育法上は「聴覚障害教育」とされ、概念的には、「(心身に障害のある幼児、児童又は生徒の)教育課程及び指導法」を包括したものとなる(この場合の「心身」とは「聴覚」のことを指す)。

聴覚障害教育と教職課程[編集]

「聴覚障害を教育領域」とする免許を取得する教職課程を設置した大学は、旧養護学校免許状に相当する「知的障害者に関する教育領域」・「肢体不自由者に関する教育領域」・「病弱者(身体虚弱者を含む。)に関する教育領域」とする3教育領域とする課程設置校に比べると絶対数が少なく(ただし、視覚障害を教育領域とした免許状を取得可能な教職課程を設置している大学に比べると、その数は比較的多い)、大学通信教育でも、「聴覚障害者に関する教育領域」を定めた免許状の課程を設けているのは、全国で1校しか所在しない(当該学校では、旧養護学校相当の3領域も当然ながら取得可能で、(旧)養護学校相当3領域か、聴覚障害を加えた4領域のいずれかの取得を基本とするカリキュラムが組成されている。ちなみに、「視覚障害者に関する教育領域」を定めた課程を設置した通信制大学は皆無である)。

各国の聴覚障害者[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]