筋萎縮性側索硬化症
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筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう、amyotrophic lateral sclerosis、通称ALS)とは、重篤な筋肉の萎縮と筋力低下をきたす神経変性疾患で、運動ニューロン病の一種。きわめて進行が速く、半数ほどが発症後3年から5年で呼吸筋麻痺により死亡する。有効な治療法は確立されていない。
有名な患者ルー・ゲーリッグから、ルー・ゲーリッグ病(Lou Gehrig's disease) とも呼ばれる[1]。ICD-10ではG12.21。日本国内では1974年に特定疾患に認定された指定難病である。
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[編集] 疫学
1年間に人口10万人当たり2人程度が発症する。好発年齢は40代から60代で、男性が女性の2倍ほどを占める。日本では紀伊半島に多く、高齢化の影響も加味すると発症は1年間人口10万人当たり10人に及ぶ。グアムも多発地域である。90%程度が遺伝性を認められない孤発性である。残り10%程度の遺伝性ALSでは、一部の症例に原因遺伝子が同定されている。遺伝性ALSの20%程度を占めるとされる、常染色体優性遺伝のALS1は21番染色体上のSOD1(スーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子)に突然変異がある。
かつての紀南地方やグアム、西ニューギニアで好発する原因としては、飲用している水質のミネラル成分(マグネシウムやカルシウムなど)が極端に少ない一方アルミニウムやマンガンの成分が多いことも有力視されている[要出典]。
[編集] 病理
原因は不明である。グルタミン酸が興奮性の神経伝達物質として働き、運動ニューロンを過剰刺激して細胞死を起こすという説(グルタミン酸仮説)があり、現在認可されている治療薬リルゾールはこの仮説に基づいて開発された。ヒト変異SOD1を発現するマウス(SODマウス)は筋力低下と筋萎縮を示して死亡することから、ALSのモデル動物として研究されている。現在までに次のような病態が明らかにされた。この他、環境因子の関与、神経栄養物質の欠乏説、フリーラジカル説などが考えられている。
SOD1マウスで延命効果があった多くの治療が臨床治験に至っている。
[編集] 臨床像
運動系が広範に障害され、特に錐体路について上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両方による徴候を呈する。感覚系や自律神経系の障害は通常認めない(陰性徴候)。きわめて速く進行し、症例の半数ほどが発症後5年以内に呼吸筋の麻痺を起こし、自力で呼吸ができなくなって死亡する。
下位ニューロンの障害による徴候は、頭頸部(脳神経による)・四肢(脊髄神経による)の筋萎縮・筋力低下・線維束性収縮が目立つ。四肢筋萎縮は上肢の遠位筋に顕著である。脳神経の障害で構音障害・嚥下障害・舌萎縮(球麻痺)が現れる。腱反射は低下する。典型例では下位ニューロンの障害が上位ニューロンの障害よりも先に、しかも強く現れる。
上位ニューロンの障害による徴候は、四肢の筋萎縮(上肢よりも下肢に顕著)、球麻痺、強制号泣・強制失笑、腱反射・下顎反射亢進などである。上位ニューロンの障害が強い症例では、反射が亢進することも、下位ニューロンの障害によって消失していることもある。
陰性徴候として、感覚障害、眼球運動障害、膀胱・直腸障害、褥瘡がある。すなわちALSでは通常これらの徴候が現れない。ただし少数の症例で感覚障害や、錐体外路徴候がみられる。痴呆も普通は現れないが、少数にみられる。
その他、硬く光沢のある皮膚や、発汗に異常を呈することがある。
[編集] 診断
鑑別診断として
などを除外せねばならない。ALSと診断された後に他の治療可能な疾患と判明した例が少なくない。このような例では治るはずだった疾患を見過ごすことになるから、他の疾患を除外することは非常に重要である。
[編集] 身体所見
- ただし、線維束性収縮が単独の症状として現れることはなく、必ず他の所見を伴う。
- 反射の現れかたによって上位ニューロンの障害か下位ニューロンの障害かを見分けられる。初期は反射が亢進し、筋萎縮が進むと低下するという例が多い。特にバビンスキー反射の出現は上位ニューロンの障害を強く示唆する。
- 徒手筋力検査で筋力の低下を見る。筋萎縮がみられない、もしくは廃用性萎縮がある場合は上位ニューロンの障害が示唆される。早くから高度な筋萎縮がある場合は下位ニューロンの障害が示唆される。
- 陰性徴候がない。感覚障害・眼球運動障害・膀胱直腸障害・褥瘡の4つはALSの4大陰性徴候と呼ばれ、病初期の診断基準として重要である。ただし、人工呼吸器による延命でさらに病態が進むと、眼球運動障害などが現れることもある。
[編集] 神経伝導検査
伝導の速度と活動電位を調べる。運動線維のみで活動電位が低下し、伝導速度は運動線維・感覚線維ともに正常である。ただし頸椎症を合併して非典型的所見を示すことも多い。
[編集] 筋電図検査
神経の障害が疑わしい部位で、電位の振幅が大きくなり、多相性電位が現れる。
[編集] 血液検査
[編集] 画像診断
脊髄MRIによって脊髄の疾患を除外する。
[編集] 治療
根治を期待できる治療法は現在ない。グルタミン酸放出抑制剤のリルゾール(商品名リルテック)は進行を遅らせることが確かめられており、健康保険の適用になる。他に、メチルコバラミン(ビタミンB12誘導体)超大量療法も試みられることがある。対症療法として、呼吸筋麻痺が起こると人工呼吸器を装着する。嚥下障害があると、栄養管理のため胃瘻や中心静脈栄養を使う。その他、QOL向上をはかって、流涎や強制失笑に対する薬物療法を行うこともある。
[編集] 予後
呼吸筋麻痺を起こすと、延命治療として気管切開による人工呼吸器の選択が検討される。 人工呼吸器装着後も麻痺は進行し、末期には眼球運動も麻痺し、本人意思の確認は極めて困難になる。
なお、身体障害者手帳の等級変更に注意を払う必要がある。 身障手帳は診断時障害のみが反映されるため、進行性疾患では必要な給付がすぐに受けられない場合がある。
[編集] 意思の疎通
人工呼吸器装着に伴い、会話ができなくなると、眼球運動を介助者が読み取り、文字盤を利用するなどしてコミュニケーションを行う。 また、本人の意思による筋の収縮、あるいは脳波などが検知できる場合は、重度障害者用意思伝達装置の使用が検討される。導入効果は早期であるほど高い。
[編集] ALSに罹患した著名人
- ルー・ゲーリッグ[1]
- キャットフィッシュ・ハンター[1]
- チャールズ・ミンガス
- ジェイソン・ベッカー
- スティーヴン・ホーキング(異論もある)
- マクスウェル・テイラー
- ハンス・フォンク(指揮者)
- モリー・シュワルツ(ALSを題材としたノンフィクション「モリー先生との火曜日」の主人公)
- 芦原英幸
- 川島雄三
- 毛沢東
- 徳田虎雄
- 石川緑
- 遠藤嘉信
[編集] 脚注
[編集] 参考文献
- Kihira T, Yoshida S, Hironishi M, Miwa H, Okamato K, Kondo T. Changes in the incidence of amyotrophic lateral sclerosis in Wakayama, Japan. Amyotroph Lateral Scler Other Motor Neuron Disord. 2005 Sep;6(3):155-63.
- 小長谷正明『ヒトラーの震え 毛沢東の摺り足』(中公新書)
- 田崎義昭・斎藤佳雄、坂井文彦改訂『ベッドサイドの神経の診かた』第16版(南山堂、ISBN 4-525-24716-9、2004年)
- 新ALSケアブック―筋萎縮性側策硬化症療養の手引き(川島書店、ISBN 4761008288 )
- 「生きる力」編集委員会 編『生きる力 ―神経難病ALS患者たちからのメッセージ』(岩波ブックレット、ISBN 4000093894、2006)
- 立岩真也『ALS 不動の身体と息する機械』(医学書院、ISBN 4260333771)
[編集] 外部リンク
- 日本語のサイト
- 難病情報センター
- 日本 ALS 協会 患者・家族の支援団体(非営利の会員組織)
- 伝の心(でんのしん)
- 英語のサイト

