パワードスーツ

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ロッキード・マーティン社が開発中の軍用パワードスーツ「HULC」

パワードスーツとは、人体に装着される電動アクチュエーター人工筋肉などの動力を用いた、外骨格型、あるいは衣服型の装置である。

日本語では直訳で強化服、半分だけ訳して強化スーツとも呼ばれているほか、ロボットスーツと呼ばれる物も存在する。医療介護分野で使われているものは、パワーアシストスーツと呼称されることもある。また近年はマッスルスーツ(東京理科大学発ベンチャー株式会社イノフィスの登録商標)という呼称も普及してきている。ただし「パワードスーツ」という呼称は、後述するサイエンス・フィクション(SF)小説に登場することから日本で多く用いられるようになったものであり、例えば英語では一般的にPowered suitではなくPowered exoskeleton(強化外骨格)と総称される。

SF作品などに登場する架空のものでは、登場作品によって色々な名称や作動方式・機能の付加が見られる。パワードスーツの登場するサイエンス・フィクション一覧を参照。

概要[編集]

パワードスーツは人間の筋力を増強するため、「着用する」という形態で運用される機械装置である。一般的な建設機械などでは人間の力を超えて遥かに作業効率の良い装置も使われているが、パワードスーツは荷物の持ち運びや走る、跳ぶといった、一個人の人間としての動作を強化拡張する目的で使われる。

種類や用途によっても様々な呼び方が存在しており、その呼称は定まっておらずJISなどの工業規格にも具体的な規定は存在しない。本稿では便宜的に一般名称として、もっとも初期からSF用語として使われた「パワードスーツ」を用いている。

玩具、人形の呼称として「パワードスーツ」は株式会社バンダイによって商標登録がされている(登録3282112号)

関連する呼称・類似概念[編集]

現実の、医療・介護機器としての利用を念頭に置いたものは、「人の力や仕事を補助する(助ける)」という意味でパワーアシスト(Power Assist)機器ないし装置等と呼ばれる。

1968年にはジェネラル・エレクトリック社が「ハーディマン(Hardiman)」を発表している。この装置は「外骨格(Exoskeleton)」と呼ばれるタイプのもので、人が装着しない状態でも自重を支えるフレーム構造を持ち、人間が装置に搭乗して操作する事で、その操作に従って仕事をするという発想である。

強化外骨格はこのハーディマンのような装置全体で一つのシステムであり、人間は搭乗するような形のものを指す言葉である。しばしば人間が装着してその力を増幅させるパワードスーツそのものと混同される事もあるが、強化外骨格はパワードスーツの一形態に過ぎない。

パワードスーツの語源と起源[編集]

もともと「パワードスーツ」とは、ロバート・A・ハインラインのSF小説『宇宙の戦士』(1959年)に登場する、重装甲・重武装と倍力機能を持った架空の強化防護服の呼称だった。歩兵一個人に「ゴリラも容易く倒せる怪力」と「戦車並の装甲」、(戦術核兵器や神経ガスを含む)「戦闘車両並の重武装」、「小型宇宙船並の環境適応力」、「戦闘ヘリ以上の機動力」(ただし、超長距離ジャンプやホバリングはできるが飛行能力はない)を持たせることを目的とした装備である。着用した人間の動きをそのままフィードバックして動かせる「マスター・スレイブ方式」を採っており、これが搭乗・操縦型の人型兵器との決定的な違いとなっている。これは既に同じハインラインの小説「ウォルドゥ」(1942年)で固定式の遠隔操作型マニピュレーターの操作方式として描かれており、こちらが元祖であるといわれる。

外見は、アバロンヒル社製のボード・ウォーゲームなどでは宇宙服を拡張したような形状となっていたが、日本では、ハヤカワ文庫版のイラスト(デザイン・宮武一貴 イラスト・加藤直之)で工業機械のような要素が取り入れられた姿となり、「機動戦士ガンダム」に登場するモビルスーツのヒントとなった事などで知名度を高めた。

パワードスーツはその概念が広まるにつれ、さまざまな作品中において派生型を生んでおり、中には音声や思考による制御を部分的に行う物もある。

現実世界のパワーアシスト機器[編集]

第二次世界大戦後、原子力の発展に伴い、放射性物質を扱ったり原子炉内部への立ち入りのため、「移動可能なマニピュレータ(モビル・マニピュレータ)」の開発が求められた。これは後に宇宙用・深海作業用に発展するもので、その多くは遠隔操作型でありパワードス-ツなどとは異なるものである。しかし、1961年に開発されたジェネラル・エレクトリック社製の"Beetle"は乗員が乗り込み操作する物で、ある程度パワードスーツ的な要素を持っていた。もっとも走行には無限軌道を用いており、また放射線を遮るための装備による重量過大で失敗に終わっている。このような分野では、日本においてテムザック製の実用型レスキューロボット「援竜」が開発されている。

ジェネラル・エレクトリック社ではその後も研究が続けられ、1968年に試作案を提示、1970年に左側のみ(重さ350kg)が製作された外骨格型マニピュレータ「ハーディマン(Hardiman)」はパワーアシスト機器の元祖と言えるが、油圧アクチュエータで駆動するという構想ではあったものの、当時の技術的な限界で実用には至っていない。また同社は派生した技術を利用した四脚型の「歩行トラック」も試作した。これは操縦者の手で前脚、足で後脚を制御するものであった。

現在開発されているものは必ずしも全身の関節に動力補助が行われるわけではなく、腰と膝にだけ動力補助を与えて足首は生身のままというシステムも多い、これは人間の歩行動作には足首に大きな力が必要なわけではなく、必要な力はほとんどが太ももから発生しているため、太もも部分を補助してやるだけでも大幅な能力向上があるためである。 負荷が大きい場合は腰から足の裏まで繋がったフレームを持つ物もあるが、これらは完全な補助装置であり、機械のみで動くことは出来ない。

介護・医療機器として[編集]

2000年代現在進行する少子高齢化老老介護では介護市場の労働力不足も懸念されており、ベッドの移動などで介護者を抱き上げるといった体力的負担の軽減も、大きな課題となっている。こういった問題の解決に於いて、パワーアシスト機器は非力な人間でも要介護者を抱きかかえて運べるようにする[1]ことで負担を軽減することが期待され、民生分野での開発が急速に進んでいる。

近年では筋電位神経電位測定に関する、生化学などの分野で目覚しい発展が進んで筋電義手などの実用例も登場している事から、四肢マヒや筋力低下で歩行困難なため行動が制限される車椅子での移動を余儀なくされている者が自律歩行を行える様に成るというパワーアシスト型のロボットギプスの開発[2]・製品化[3]も進んでおり、また同時多発的な現象として米国でも製品化に向けた取り組みもなされている[4]

1996年筑波大学山海嘉之教授らによって開発されたロボットスーツHAL(Hybrid Assistive Limb)は皮膚表面の生体電位信号を読み取り動作する世界初のパワードスーツであり、その後産学共同体企業サイバーダインが設立されている。この装置の全身型は例えば100kgのレッグプレスができる人間が装着すれば180kgを動かすことができ、数kgを持ち上げる感覚で40kgの重量物を持ち上げることができる[5]2008年10月よりHALの下半身タイプが大和ハウス工業からリース販売されている。

また2011年3月11日の福島第一原発事故後、「HAL」を原発作業員のために改良した新型ロボットスーツを公開している[6]

松下電器の社内ベンチャー企業アクティブリンク[7]は乗り込み型のパワードスーツ「パワードローダー」と人体装着型のパワーアシストスーツ「パワーローダーライト ”PLL”」や、それらの制御技術を利用した介護予防用の訓練機などを研究機関向けに販売している。

本田技研工業は歩行動作の補助を行う「リズム歩行アシスト」を、国立長寿医療研究センターが介護予防の効果を検証するプログラムに提供している[8]。また工場の組み立てラインで働く作業員の負荷を減らすため、跨がって使うタイプの「体重支持型歩行アシスト」も開発している。これらはASIMOの開発で培った協調制御技術を応用している。

同分野の研究者[編集]

現在では機械系だけでなく医学や情報分野の研究者の参加もあり、アクティブリンクのように研究用のパッケージを販売する会社も現れている。

軍用パワードスーツの開発[編集]

アメリカ陸軍 コンセプトモデルのモックアップ

現在の軍用パワードスーツは、主により多くの装備を身につけても活動に支障を来さないため、動作を補助するパワーアシスト機器として開発されている。

またアフガニスタンのように道路網が脆弱な山岳地帯では、車両の通行が困難な地域で歩兵の徒歩に頼っているが、重い装備を身につけた長距離行軍が可能となる。

マサチューセッツ工科大学(MIT)では、米軍と共同でナノテクノロジーを応用した、生物兵器をも防ぎ、負傷時には患部を固定するギプスにもなるパワーエクステンダーの開発を目指している。カリフォルニア大学バークレー校では米国防総省防衛高等研究計画局(DARPA)より資金提供を受け、下肢外骨格を開発するBLEEXプロジェクト[9]を進行させている。

2010年にはロッキード・マーティン社の油圧駆動式外骨格(hydraulic powered anthropomorphic exoskeleton)が軍の試験を受けている。これは91キロの荷物を背負って最高時速16キロで走ることが出来る物で、バッテリーにより油圧アクチュエーターを駆動させる方式になっている。バッテリーが2時間しか持たないという欠点があり動力装置の改良が行われている。この外骨格を装着して重い荷物を持った場合、体重が数倍にまで増加するため慣性の働き方が普通の歩行時とは異なり、装着者はトレーニングを必要とする。

2010年にはレイセオンが軍向けのパワードスーツ「XOS-2」を公開した。以前よりもコンパクト化されているが、戦闘用ではなく物資などの運搬作業を目的としている[10][11]

アメリカ軍は様々な基礎研究の結果を踏まえて「TALOS(Tactical Assault Light Operator Suit、タロス)」、「戦術的攻撃軽量オペレータースーツ」と名づけられたシステムの開発に移行している。TALOSは、パワードスーツのほか、ダイラタンシーを利用したボディアーマー、複数の内蔵コンピューター、暗視装置、ヴァイタルサイン(心拍数・血圧・体温等)モニター、泡で傷口を密封する機能などを備えており、これらの能力によって「対衝撃性能を高めた超人的な力」がもたらされ、すでに精鋭の集まりである特殊作戦部隊が、戦場でほぼ無敵になると米陸軍は述べている。なお、「タロス」という名前は、ギリシア神話の神ゼウスが、愛するエウロペを守るために与えた青銅製の自動人形の名前でもある[12]

日本の防衛省でも開発を計画しており、平成26年度予算の概算要求で「将来隊員パワーアシスト技術の研究(15億円)」として開発費の要求を行ったが[13]、財務省の査定を通過できず研究は見送られた[14]。27年度予算の概算要求においても「高機動パワードスーツの研究(9億円)」として予算要求を行っている[15]

アミューズメント[編集]

介護や軍事など実用品としての機器には高い強度や信頼性が求められるが、材料や制御技術の進歩により実用性を無視したホビーとしてのパワードスーツ開発が可能となっており、動力アシスト無しで人間の動きを拡大する外骨格ロボットを作成している会社[16]や、搭乗型パワードスーツの開発を行う会社[17]が存在する。これらは一般向けにも市販されている。

架空のパワードスーツ[編集]

小説『宇宙の戦士』の発表後、特に日本では1980年代にSF作品を中心に大流行した。その後も名称や作動原理の異なるパワードスーツが創作され続けている。その多くではロボットアニメの内容がしばしばそうであるように、兵器としての・戦争に拠らずとも何かと戦うためのものという位置付けも多い。しかしウィリアム・ギブスンの短編『冬のマーケット』に登場する全身麻痺の障害者が自発的に行動するためのエクソスケルトン(なお作者を同じくする『モナリザ・オーヴァドライヴ』では健常者が大荷物を運ぶ際にも登場)や、映画『エイリアン2』でコンテナを運ぶためのフォークリフト的な作業機械として登場したパワーローダーのように、現用のパワーアシスト機器に近しいイメージで(先んじて)描かれているものも見出せる。

これらは動作原理も様々であり、機械装置の動力を使うものから、生体素材を利用したり、神秘主義的な概念などにその動作原理を求める物まで様々である。中には動作原理はほとんど語られず、単に超人化するための着衣という位置付けのものまで含めると多岐に渡る。

サイエンスフィクションなど様々な作品に登場するパワードスーツに関してはパワードスーツの登場するサイエンス・フィクション一覧を参照。

脚注[編集]

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パワードスーツを扱った作品[編集]

関連項目[編集]

  • 架空の兵器
  • ロボット - パワードスーツが、最近では、『ロボットスーツ』とも呼ばれるようにもなったため。
  • マニピュレーター
  • 装甲
  • ボディアーマー - いわゆる防弾チョッキや、防刃服等を指す。
  • サイボーグ - 機能を外部に追加するのではなく、生体に機械装置を組み込むことで強化する考え方および概念のこと。
  • アクシブ - 無動力歩行支援機。無動力でパワードスーツの役割を果たす。

外部リンク[編集]