学習性無力感

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学習性無力感(がくしゅうせいむりょくかん、: Learned Helplessness)は、長期にわたって、ストレス回避の困難な環境に置かれた人は、その状況から逃れようとする努力すら行わなくなるという見解。学習性絶望感学習性無気力ともいう。

日本に紹介されたばかりの頃には、直訳に近い「獲得された無力感」と呼ばれていた。

概要[編集]

心理学者のマーティン・セリグマンが、1960年代にリチャード・ソロモンの元で学生生活をしていた時期に思いつき、それ以来10年間近くの研究をもとに発表した。

それによると、長期にわたり、抵抗や回避の困難なストレスと抑圧の下に置かれた犬は、その状況から「何をしても意味がない」ということを学習し、逃れようとする努力すら行わなくなるというものである。

実験は1967年にセリグマンとマイヤーが犬を用いて行った。

予告信号のあとに床から電気ショックを犬に与えるというものである。犬のいる部屋は壁で仕切られており、予告信号の後、壁を飛び越せば電気ショックを回避できるようにした。
また、前段階において次の二つの集団を用意した。
電気ショックを回避できない状況を用意し、その状況を経験した犬と足でパネルを押すことで電気ショックを終了させられる状況を経験した犬である。
実験ではその二つの集団に加え、なにもしていない犬の集団で行った。
実験の結果、犬の回避行動に差異が見られた。前段階において電気ショックを回避できない犬はその他の集団に比べ回避に失敗したのである。具体的にはその他の集団が平均回避失敗数が実験10回中約2回であるのに対し、前段階において電気ショックを回避できない犬は平均回避失敗数が実験10回中約7回である。
これは犬が前段階において、電気ショックと自分の行動が無関係であると学習しそれを認知した為、実験で回避できる状況となった場合でも何もしなくなってしまったと考えられる。:これをセリグマンらは学習性無力感と呼んだ。

うつ病に至る背景(心理モデル)の一つとして有力視されているが、詳しいことは分かっていない。

症状[編集]

長期に渡り、人が監禁されたり、暴力を振るわれたり、自分の尊厳や価値がふみにじられる(総じて言えば人格否定される)場面に置かれた場合、次のような徴候が現れるという。

  1. 被験者は、その圧倒的に不愉快なストレスが加えられる状況から、自ら積極的に抜け出そうとする努力をしなくなる。
  2. 実際のところ、すこしばかりの努力をすれば、その状況から抜け出すのに成功する可能性があったとしても、努力すれば成功するかもしれないという事すら考えられなくなる(言い換えると、長年受けた仕打ちによる反動で、どんな可能性さえも「無駄な努力」と断じ、自発的行動を全くしなくなる)。
  3. ストレスが加えられる状況、又ストレッサーに対して何も出来ない、何も功を奏しない、苦痛、ストレス、ストレッサーから逃れられないという状況の中で、情緒的に混乱をきたす。

人の行動は、良かれ悪しかれ何らかの学習の成果として現れてくるものである、という学習理論を土台とした理論である。拉致監禁の被害者や長期の家庭内虐待の被害者、学校での人格否定やいじめなど、行動の心理的根拠を説明する理論として、注目されている。

特別支援教育における「学習性無気力」[編集]

特別支援教育のなかで、特に「病弱者(身体虚弱者を含む.)に関する教育領域」において、近年では「学習性無気力」が注目されている。

病弱の児童・生徒は、生活規制のために一般的な学校での学習活動ができず、また、院内学級訪問学級で対応するにも限界がある。加えて、教師との1対1での授業になりがちであるため、学習成果をほかの場で発揮する機会も相応に制限されてしまう。

こういった状態で失敗を繰り返す場合、学習成果が出ない・学習をしても無駄だと考える状況(いわば、失敗経験のループ・負のスパイラル)に陥ってしまいがちになる。この状況を、特別支援教育の場では「学習性無気力」と呼んでいる(ただし、陥るのは病弱者とは限らない点に注意)。

対応としては、他の学校の児童・生徒と交流する場を設けることを含め、成功体験を積み重ねるための場を設けるように周囲が配慮することが、病弱の児童・生徒のQOL向上にもつながると考えられている。

参考文献[編集]