児童養護施設

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児童養護施設(じどうようごしせつ)とは、児童福祉法に定める児童福祉施設の一つ。
児童福祉法41条は、「児童養護施設は、保護者のない児童[1]、虐待されている児童など、環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設」と定義する。児童相談所長の判断に基づき、都道府県知事が入所措置を決定する児童福祉施設である。略して養護施設(ようごしせつ)とも称する[2]

「環境上養護を要する」児童とは[編集]

  • と死別した児童
  • 父母に遺棄された児童
  • 家庭環境不良の児童(父母の行方不明、長期入院、拘禁離婚再婚、心身障害など)
  • 保護者がいても児童虐待を受けている児童

以上のように、「保護者の健康上・経済上の理由などで監護を受けられない児童、または保護者の元で生活させるのが不適当(家庭環境が悪く、保護者のもとで生活させるのは無理)」な状況にある」と児童相談所が判断した児童をいう。

施設の概要[編集]

入所対象者は、1歳以上18歳未満の幼児(満1歳から、小学校就学の始期に達するまでの者)及び少年(小学校就学の始期から、満18歳に達するまでの者)である。場合によっては20歳まで延長できる。乳児(1歳未満の者)は乳児院への入所となる。

2005年(平成17年)の児童福祉法改正によって、安定した生活環境の確保などの理由で特に必要な場合は、乳児も入所させることもできるようになり、同じように乳児院では1歳以上の幼児を入所させることができるようになった。

厚生労働省「社会福祉施設等調査」では、2008年10月1日現在、児童養護施設は569施設、入所定員は33,994人、在所児(者)数は30,695人(在所率90.3%)である。施設では児童指導員保育士等が働いており、職員数は14,892人。 厚生労働省「児童養護施設入所児童等調査」では、2008年2月1日現在、入所児童の平均年齢は10.6歳、平均入所期間は4.6年である。

また、

  • ひとり親家庭の保護者がやむをえない理由(病気・負傷など)で児童を養育できなくなったときの「ショートステイ」
  • ひとり親家庭の保護者が残業などで帰宅が恒常的に夜間にわたるとき、放課後に児童を通所させ、生活指導・夕食の提供などを行う「トワイライトケア」

などを行っている施設も増加傾向にある。

以前は「孤児院」と呼ばれていたが、現在はむしろ孤児は少なく、親はいるが養育不可能になったため預けられている場合が圧倒的に多い。中でも、虐待のため実の親から離れて生活をせざるを得なくなった児童の割合は年々増加している(2008年2月の調査では53.4%)。

児童養護施設では、虐待を受けた子どもは53.4%、何らかの障害を持つ子どもが23.4%と増えていて、専門的なケアの必要性が増している。知的傷害を持つ子供は約3千人、その他の身体障害の子供は2千人以上である[3] 。また、入所児童の平均在籍期間は4.6年だが、10年以上の在籍期間の児童が10.9%となっている[4]

日本では社会的養護の子どもたちの90%が施設で、10%が里親等という形であるが、これは世界的にも先進国の中では、ややいびつな形で児童の権利条約の原則からも外れ、権利委員会からも指摘をされているところ[5]である。

2004年、社会福祉法人カリヨン子どもセンターという民間シェルターでの保護も始まった[6]

歴史[編集]

施設の分類[編集]

児童養護施設はその形態で大きく分けて大舎制のもの、中舎制のもの、小舎制のもの、またグループホームがある。 各児童養護施設形態の内訳は、全国で大舎制が370施設(75.8%)を占め、次に小舎制が114施設(23.4%)、中舎制が95施設(19.5%)である。(平成19年度社会的養護施設に関する実態調査(厚生労働省))

大舎制
大舎制が最も一般的な施設形態であり、1舎につき20人以上の児童が住んでいる。特徴として、一つの大きな建物の中に必要な設備が配置されており、一般的には一部屋5人~8人,男女別・年齢別にいくつかの部屋がある形になっており、食事は大きな食堂で一緒に食べる。共同の設備、生活空間、プログラムのもとに運営されているため、管理しやすい反面、プライバシーが守られにくい、家庭的雰囲気が出しにくいなどの問題点を抱えている。
中舎制
中舎制は、1舎につき13人から19人の児童が住んでいる。特徴として、大きな建物の中を区切りながら、小さな生活集団の場を作り、それぞれに必要な設備を設けて生活している。
小舎制
小舎制は、1舎につき12人までの児童が住んでいる。特徴として、一つの施設の敷地内に独立した家屋がいくつかある場合と、大きな建物の中で、生活単位を小さく区切る場合があり、それぞれに必要な設備が設けられている。大舎制に比べると職員配置など難しい点もあるが、生活の単位が小集団であるために、より家庭的な雰囲気における生活体験を営むことができる。
ユニットケア(小規模グループケア)
2004年から制度化されたもので、原則として定員6名である。小舎制に含まれる。できる限り家庭的な環境の中で、職員との個別的な関係を重視したきめ細かなケアを提供していくものである。2009年度は全国で403箇所(1施設で複数設置を含む)
グループホーム(地域小規模児童養護施設)
2000年から制度化されたもので、原則として定員6名である。本体の児童養護施設とは別の場所に、既存の住宅等を活用して行う。大舎制の施設では得ることのできない生活技術を身につけることができ、また家庭的な雰囲気における生活体験や地域社会との密接な関わりなど豊かな生活体験を営むことができる。2009年度は全国で190箇所(1施設で複数設置を含む)

社会的養護の他の施設等の類型[編集]

児童養護施設は、社会的養護の施設等の中心的な類型である。社会的養護とは、児童福祉法に基づいて、保護者が養護できない児童を、社会の責任で公的に育てる仕組みであり、児童養護施設のほかに、乳児院情緒障害児短期治療施設児童自立支援施設母子生活支援施設自立援助ホーム(児童自立生活援助事業)、里親ファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)がある。

問題点と課題[編集]

  • 施設で働く職員(先生)は、子供達の幸せを願い、奉仕と教育の精神を持ってこの仕事を選択した保育士や児童指導員がほとんどだが、まれに倫理意識が欠けている関係者がおり、恩寵園事件は、児童養護施設における最も悪質な虐待事件として報道された。施設職員による埼玉児童性的虐待事件も起こっている。平成19年厚生労働省第1回社会保障審議会少子化対策特別部会資料では入所児童の権利擁護の状況について、「第3者評価等の取組が進んでおらず、施設内虐待も相次いでいる」と表記されている[7]。平成18年10月6日付厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長通知によると、度重なる通達や制度改正にもかかわらず「先般、埼玉県、大分県及び鹿児島県において、児童養護施設の職員が入所児童に対し性的虐待等の行為を行っていたことが明らかとなった。このことは、子どもの心身を深く傷つけ、その権利を大きく侵害するものであるばかりでなく、児童福祉施設に対する社会の信頼を揺るがしかねない大きな問題であり、極めて遺憾である。今後、児童福祉施設において、このような施設内虐待が生じることのないよう、下記の事項について留意の上、貴管内の児童福祉施設に対し、適切な指導等を行うとともに、都道府県等として、子どもの権利擁護のための取組及び体制の充実・強化を図られるようお願いしたい。」[8]と通達されている。これらの事件を元に、『第60回記念大会 全国児童養護施設長研究協議会(大阪大会)』開催において「児童養護施設では、満床状態に加え重い心的課題を抱えて個別的、治療的ケアを要する子どもたちが増加し、その養育に混迷、混乱が生じているのが現状です。こうした中、児童養護施設内における子どもへの体罰や不適切な関わりなど重大な権利侵害事件が発生しており、極めて残念と言わざるを得ません。児童養護施設は、いつの時代も社会でもっとも弱い立場にある子どもたちの権利を守り、子どもたちの安心、安全の拠点であり続けなければなりません。」という内容の「子ども・家庭福祉の明日に向けた宣言」が採択され[9]、また全国養護施設協会によりすべての児童養護施設に対して「人権擁護の自己点検にむけて本要項およびチェックリスト」[10]が行わるようになった。

あわせてこれらの事件は、児童の安全確認等のための立入調査等の強化、保護者に対する施設入所等の措置のとられた児童との面会又は通信等の制限の強化、児童虐待を行った保護者が指導に従わない場合の措置の明確化等のための規定の整備を行う「児童虐待の防止等に関する法律及び児童福祉法の一部を改正する法律」が国会に提出され、平成20年5月25日に全会一致で成立した[11]といった子供の権利擁護向上のきっかけとなっている。

しかし、2012年にも野木町の社会福祉法人が運営する児童養護施設で、入所中の少女に男性元職員が勤務中にみだらな行為をしたとされる事件があり、その後施設側が児童相談所に虐待通告せず、元職員らに隠蔽を示唆していたことが明るみになっている[12]。2013年3月現在でも児童養護施設A学園での4件の不適切な関わりに関する事件報告があり、「再発防止検討委員会」が開かれている[13]。2014年2月には岡山の児童養護施設で性的虐待があり、県から運営法人に改善勧告がだされている[14]

当事者自助団体「日向ぼっこ」(当時)代表廣瀬さゆりは2007年9月7日厚生労働省の第1回「児童部会社会的養護専門委員会」において、「内虐待事件が発生した施設の多くが、施設長や一部の配下の職員に人事権やケア方針などの決定の際、権限や権力が集中し過ぎていて、ワンマン・独裁運営管理になりやすい体質が憂慮されます。また世襲制や同族経営が多い民間社会福祉法人経営と事件発生の関係性などの課題は、触れてはならない聖域としてタブー視されてはいないでしょうか。」[15]と発言している。

  • 児童間でも、飲尿の強要[16]などのいじめや殴るなどの暴力[17]性虐待[18]が行なわれることがある。1982年には、施設内の児童間暴行により6歳児が死亡した事件があった[19]。1992年には、9歳男が施設内で入所中の児童4名から暴行を受け、右不全麻痺、外傷性くも膜下出血等の傷害を負い、入院治療を受けたが、高次脳機能障害等の後遺症が残った事件が起こっている[20]。広島県内児童養護施設での被措置児童間での暴力・性的いじめについては施設を管理監督する県を相手取り、原告が勝訴した事件[21]も起こっている。

平成20年の児童福祉法改正で、被措置児童虐待の通報制度が設けられ、虐待を発見した者や、虐待を受けた児童は、児童相談所等に通報又は届出できることとなった。(児童福祉法第33条の12)

平成23年度における被措置児童等虐待届出等制度の実施状況については、全国の69都道府県市で受け付けた児童福祉施設等における被措置児童等虐待に関する届出・通告の受理件数は193件であり、届出・通告者総数は203人であった[22]。徳田毅衆議院議員は1件も報告が無い県について厚労省へ問い合わせた結果を「厚労省が通告内容や件数の確認を行ったところ、自治体によって職員の対応にばらつきがあり、通告があった際の対応や事実確認に問題がある可能性もある。虐待が確認されていない自治体で、本当に1件もないとは考えにくい」[23]としている。厚生労働省第10回児童部会社会的養護専門委員会においても、「被措置児童等虐待届出制度の実施状況は、これ自体が私は信用できなくて、私の知っている平成21年度の虐待が発生した県でゼロになっているというのはどうしてだろう。」[24]とその信憑性について審議されている。

NPO法人こどもサポートネットあいちの2012年「児童養護施設における暴力に関するアンケート調査報告-職員調査」によると、子供から暴力を受けた施設職員が77%で、子供へ暴力を振るった職員は31%となっている。また、同団体の児童養護施設の高校生・職員のアンケート調査報告では、4分の1の高校生が他の子供から言葉の暴力や殴られたなど「ひどく嫌な思い」をさせられた経験を持っていた。これらの高校生は「高校生から小学生のいじめでは殴ったり、蹴ったり、パシリとかがありました」と記述し、退所者は当時のことを上級生の命令で男の子は殴り合い、女子は上級生に殴られ、自分は小さくて毎日被害にあっていて、その上におやつ、お小遣いも奪われて誰にも気づかれず庇われなかったことを回答している。[25]

前全国児童養護施設協議会副会長・鳥取こども学園施設長・藤野興一(2014年1月現在全国児童養護施設協議会会長全国児童養護施設協議会会長[26])は厚生労働省児童部会社会的養護専門委員会において「施設内虐待にしろ、子どもがなかなか言えないということがあると思うのです。それは、いじめの構造でもそうです。例えば、被虐待児の耳が変形するようなひどい身体的虐待を受けてきていても、それを語れるようになるのは安全な場所に来て4年かかったという、実際はそんなものです。」「代弁者というものが必要なのです。それを誰がやるかといったら、特に被虐待児や施設に来ている子どもの場合はPTAがないし、そういう意味では施設の職員がやはり本気になって子どもの代弁者をやる必要があるのだろうと思うのです。ところが施設の実態は、皆さんがどの程度だと思っておられるかわかりませんが、本当に壮絶に近い状態だと私は思っています。」[27]と語っている。

施設内虐待については「この手の問題を考えるときに、よく臭いものにふたをすると言いますけれど。そういう事件があると中にいる子どもが地域で言われたり、学校で言われたりして気の毒ではないか。そのように扱われているという偏見があるという理屈がありますけれども、だからといってそうした権利侵害をずっと我慢させ続けていいという理屈にはなりません。」と、数年後にもまた虐待問題を起こした施設については「構造的であるからこそ同じ施設で起きてしまった。その暴力事件を起こした施設職員を排除しても起きてしまうというのは、やはり構造的な問題に他ならないわけです。」「今まで厚生労働省から何回も施設内虐待についての通知が出て、これはまた出たかというくらい。でも全然守られていないというのは、この辺りの構造的なところに問題があるのだということを、もう一度認識するべきだと思います。」[28]と語られている。

被措置児童虐待報告に関連して「これはどの程度の水準なのだろうというのが一つは疑わしい部分があるのですが、発生した時間帯がいつごろなのだろうかということなのです。つまり未だに児童養護施設は宿直、実際職員は寝ていませんけれども、1、2時間しか睡眠がとれていませんが、でも宿直なのです。その宿直の時間帯に子ども間暴力も含めてですが結構事件は起こっているのではないか。」[29]との夜間体制への懸念の声があり、子ども間暴力については、「特に一番深刻なのは、ほとんどどの施設でもあるであろう「子ども間の性加害被害」です。これが連鎖をしている。これは主に夜間に起こっているはずです。そのことは地域ごとにある程度データが取れている。例えば埼玉県はその調査をしていて、夜間に子ども間の性加害被害が起こっていることも把握できてきている。なぜ夜間かというと、先ほどの話題ではないけれども、手薄いからです。そもそも宿直体制を考えないで夜勤体制にしていかないと、子どもたちの安全保障が守られないです。施設に子どもが入ることによって子どもが傷つくという現象が現に起こっていることを、今まで我々は業界内だけの秘密にしてきた部分があるのですが、もっと市民にも知ってもらう。もちろん養護施設にいる子どもたちのスティグマを考えなければいけません。そのような問題はありますが、現に何が起こっているのかをもう少しオープンにしていって、それに対して「皆さん、どうしますか」という議論を起こしていかなければいけないのではないか。」[30]と厚生労働省児童部会社会的養護専門委員会で審議されている。

「夜の集会だと言われて夜中に起きてベランダでたばこを吸わされたりした」「先生の部屋におやつを盗みに行かされることもありました」と入所経験者は語っている[31]

子供が施設の中で人権侵害を受けているときに、子供の立場からの訴えやすさについての審議では、「今、権利ノートにはがきが付いていたりしますけれども、それが都道府県の所管課に行ったり、神奈川県のように人権審査会に行ったりしますけれども、子どもがそこでどれくらい安心しているか。ある例で言うと、はがきを出したら犯人探しが始まってしまったというところもあるのです」[32]との問題提起がある。

厚生労働省児童部会社会的養護専門委員会において榊原委員(読売新聞記者)は児童養護施設の取材のやりづらさについて「子どもたちのプライバシーを守るという言い方で、子どもたちの利益以上のものを誰かが何かを守ろうとしていると、取材をしていると感じるようなものがあって、やはりもっと知られなければいけない実態、損なわれているいろいろな人の利益というものが、きちんと知らしめられていないと確かに思います。」とその存在の閉鎖性について発言している[33]

  • 世間(被害者)への認知度が低い。一般社会において虐待を受けている幼児・子供が児童養護施設の存在を知り得るのは極めて稀である。そのため、被害者は『ひたすら虐待に耐える事』しかできないケースが殆どである。(児童虐待の通報先である児童相談所は、全国共通0570-064-000の電話番号で、その地域の児童相談所に電話がつながる。)
  • 高校を卒業した時点で児童養護施設を出なければならず、保証人の問題で進学や就職、賃貸住宅の契約などに影響あると指摘する声もある。
  • 施設の(先生)が入所者から預かっている現金や銀行口座の預金を横領し、ギャンブルなどの借金返済や遊興費などに使っていた事例がある。
  • 施設職員の定着が悪い。東京都の審議会では、大学生の就職希望者は多いが3年くらいでやめていく現実について議論され、その理由が労働条件や対子供の関係ではなく、職員間トラブルによるものでハラスメントのようなことが多いとの発言があった[34]。一方、厚生労働省の審議会では乳児院では親とのかかわり合いの中でどうしても、職員そのものが傷付いてバーンアウトしていっているという現状がかなり濃く見られていると指摘されている[35]。また、藤野興一前全国児童養護施設協議会副会長・鳥取こども学園施設長委員は「山口県の調査ではケアワーカーの4割が非常勤です。しかも皆、勤続5年未満の若い職員がやっているわけです。そういう中で、62%と言われる被虐待児を受けていて、その中で混乱が起きないわけがないのです。施設内虐待と言われるものはそういう中で起こっていること」[36]と審議会で発言しており、養護施設の職員自体も不安定就労、経験不足の中で対応していることが問題視されている。
  • 児童養護施設の職員基本配置については、平成23年にとりまとめられた「社会的養護の課題と将来像」において、「小学生以上の現行6:1から4:1に引き上げ、これに小規模グループケア加算1人を加えて、合わせて3:1相当を超える配置が、引上げの目標水準として考えられる」とされている[37]が、増員に伴う良質な職員の確保が課題となっていく。
  • 児童養護施設の職員数等や予算面の様々な待遇改善が老人養護関係向上よりも計られていないのは、選挙の票に結びつかないからだとの児童養護施設出身政治家草間吉夫からの指摘[38]もある。
  • 児童養護施設者における貧困の連鎖防止については、茨城県高萩市市長の草間吉夫氏は、生活保護を受けていた母と離れて児童養護施設で暮らしていたが、施設長、指導員、季節ごとに里親として自宅に迎え入れてくれた元高萩市長について「他人の縁に恵まれた」[39][40]と語っていることから、自分の生活環境以外の世界との交わりが有効になるときがある。
  • 施設児童が卒園して、施設職員となることがままある。それについては「考えてみれば、すごく幅が狭い世界。どうしても施設の子って世間との接触っていうのが普通の子よりは少ないかもしれない。」「施設って周りの大人って施設職員じゃない。職業選択のバリエーションがなかなか見つけにくいっていう関係がある。お父さんみたいになりたい、お母さんみたいになりたいっていうのが弱い。それが職員がやっている仕事に対して魅力を感じる。保育士になりたい、施設の先生になりたいっていうのが多い。」[41]と言う施設児童の世界観の狭さを指摘する施設職員の声もある。
  • 2014年1月、葛飾区では2歳児が暴行が原因で死亡し、父が逮捕された。両親は生活保護を受けており、別の男性との子供は児童養護施設や親類宅に預けられている。当該児童も児童相談所の見守り対象となっていた[42][43]。また、2012年10月広島県府中町の自宅で、長女(11)を暴行して死亡させたとして傷害致死容疑で逮捕された無職の母親(28)は、自分の母親と一緒に虐待していた疑いがあった。県は01年、両親の離婚で養育困難になったとして長女を乳児院に入所させた。その後、母が引き取りを希望したため、祖母の養育を条件に児童養護施設の退所を認め、結果的に虐待死に至っている[44]。虐待する親から離れて施設入所している間は保護され安全だが、行政が家族再統合の時期を見誤ると子供の死亡事件につながる。

退所後の生活[編集]

1973年以降、特別育成費の支給によって入所児童の高校などへの進学が増え、厚生労働省の2008年調査では、施設入所者の中学卒業後の98.5%が高等学校等(専修学校、職業訓練施設も含む)に進学している。また、高校卒業者の18.2%が大学等(短大、専修学校、職業訓練施設も含む)に進学している。(日本全国は68.6%(平成21年学校基本調査(文部科学省))。

高校進学率は一般化し、大学進学率も年々高まっているが、大学進学は学費の面で厳しい場合も多い。高卒後の就職は、73.4%となっている。

児童養護施設の子どもは9.3%が中卒で施設を退所し、そのうち約半数が卒業の翌年度中(2005年)に転職を経験している。高校中退は7.6%となっている[45]

虐待や親からの遺棄などの理由で児童養護施設に保護された子どもも施設退所後に生活困窮に陥りやすい。婦人保護施設長によると、そこで育った子どもは進学しなければ中卒でも施設を退所しなくてはならず、10代女性では行きずりに近い同棲後に妊娠し、相手の男性は姿を消し、婦人保護施設に入所するという例は後を絶たず、そうでなくとも施設退所後に性産業に従事して未婚の母となる場合もある。傾向としては、婦人保護施設の10代出産利用者ではひとり親家庭や生活保護受給者も多い。これらの10代の母は生活経験が乏しく、低学歴・就労経験不足して育児に危険性が伴う[46]

児童養護施設出身者がまたその子どもも児童養護施設に預けるという「負の連鎖」[47]「貧困の世代間再生産」[48]も起きている。

保証人の問題で、進学や就職ができずにホームレス状態に陥ってしまうケースがある。

児童養護施設を舞台とした作品[編集]

児童養護施設出身を公表している著名人[編集]

脚注[編集]

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  1. ^ 乳児(満1歳に満たない者)については、別に乳児院があるため入所しない。ただし、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には、乳児を入所させることもある。
  2. ^ その名称から養護学校や障害者入所施設などと混同されやすいが、別のものである。
  3. ^ 厚生労働省 社会的養護の現状について(平成25年3月版)2014年1月24日閲覧
  4. ^ 厚生労働省 社会的養護の施設等について 1児童養護施設の概要 2014年1月25日閲覧
  5. ^ 内閣府子ども・子育て新システム検討会議作業グループ基本制度ワーキングチーム第7回会合議事録p12 2010年12月15日
  6. ^ スマイルバルーン 子どものためのシェルター
  7. ^ 厚生労働省 第1回社会保障審議会少子化対策特別部会:資料2-3 平成19年12月26日
  8. ^ 平成18年10月6日付厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長通知 雇児総発第1006001号
  9. ^ 全養協通信平成18年12月1日 第178号 2014年1月27日閲覧
  10. ^ 全養協通信平成18年12月1日 第178号12月28日 第179号 2014年1月27日閲覧
  11. ^ 「児童虐待の防止等に関する法律及び児童福祉法の一部を改正する法律」の施行について(平成20年3月14日雇児総発第0314001号)
  12. ^ 47ニュース 入所少女への施設内虐待、事件を隠蔽か 野木の児童養護施設 2013年5月17日
  13. ^ 児童養護施設における「不適切な関わり」に関する 再発防止策検討委員会実践報告 こども教育宝仙大学紀要 4 2013年3月発行 前田信一、市川太郎著
  14. ^ 47ニュース岡山の児童養護施設で性的虐待 運営法人に改善勧告 2014年2月18日
  15. ^ 厚生労働省 第1回「児童部会社会的養護専門委員会」議事録 2014年1月25日
  16. ^ 施設で育った子どもたちの語り 施設で育った子どもたちの語り編集委員会 明石書店2012年
  17. ^ 「ひとりぼっちの私が市長になった!」草間吉夫著 講談社 2006年
  18. ^ NHK生活情報ブログ 施設内での性被害を無くす取り組み 2011年12月08日 (木)
  19. ^ 和子6歳いじめで死んだ 養護施設と子どもの人権 倉岡小夜著 ひとなる書房 1992年
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  25. ^ NPO法人こどもサポートネットあいち 2014年1月25日
  26. ^ 児童養護施設で生活する子どもたちへの誤解と偏見、人権侵害を招かないでください連続「明日、ママがいない」について 日本テレビ放送網株式会社宛抗議文(PDF)2014年2月8日閲覧
  27. ^ 厚生労働省 第3回「児童部会社会的養護専門委員会」平成19(2007)年10月23日開催 藤野前全国児童養護施設協議会副会長・鳥取こども学園施設長委員発言部分 2014年1月25日閲覧
  28. ^ 厚生労働省 第3回「児童部会社会的養護専門委員会」平成19(2007)年10月23日開催 吉田恒雄駿河台大学教授委員発言部分 2014年1月25日閲覧
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  51. ^ 「ノーモア立川明日香」小川善照 著
  52. ^ 「マイル 極貧からCAへ芸能界へ、階段をのぼる私」松尾 知枝著
  53. ^ 2012年10月25日放映 ドラフト緊急生特番!お母さんありがとう 夢を追う親子 毎日放送
  54. ^ zakzak【豊川誕アイドルの果て】元アイドルが明かす“芸能界の裏側” 2014年2月11日閲覧
  55. ^ 「ちくしょう魂―児童養護施設から世界をめざして」 (小学館文庫) 坂本 博之著
  56. ^ 「私は「居場所」を見つけたい―ファイティング・ウーマン ライカの挑戦」来家恵美子著
  57. ^ TIME OUT TOKYO松本大洋 インタビュー自らの少年期を投影した最新作「Sunny」英語版を上梓した著者に聞く 2014年2月21日
  58. ^ 歌手・川嶋あいさんが児童養護施設に歌のプレゼント 2014年2月21日
  59. ^ 不登校新聞 「生きづらさを武器に」歌人 鳥居さんに聞く 2013年02月01日
  60. ^ “女タイガーマスク”22年目の奮闘 デイリースポーツ 2013年2月18日

関連項目[編集]

外部リンク[編集]