薬物乱用

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物質乱用
分類及び外部参照情報
依存症専門の精神科医による、精神に作用する薬物の有害性についての投票[1]
ICD-10 F10..1-F19..1
ICD-9 305
DiseasesDB 3961
MeSH D019966
プロジェクト:病気Portal:医学と医療
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薬物乱用(やくぶつらんよう、Substance Abuse)とは、薬物を本来の使用目的以外に使用したり、本来の使用量より高用量で用いること、また害があるにもかかわらず使用の抑制が困難になっているといったいくつかの条件のうちの1つを満たした、薬物の使用における状態である。

薬物に対する効果が薄れる耐性の形成や、身体的依存が形成され離脱における離脱症状を呈する状態となった場合も含む薬物依存症とは異なる。

概要[編集]

「薬物の有害性に関するスコア」(デビッド・ナット et al. 薬物に関する独立科学評議会, 『ランセット』, 2010, PMID 21036393
  他の人に対する有害性
  使用者に対する有害性
社会に対しても薬物利用者に対してもアルコールが最も有害と結論された。アルコールは家庭内暴力、児童虐待や交通事故の主な原因である。 アルコール72点(使用者への有害性26、他に対して46)、クラック55点(使用者34、他21)、コカイン54点(使用者37、他17)、メタンフェタミン33点(使用者32)、 コカイン27、たばこ26、アンフェタミン23、大麻20、GHB19、べンゾジアゼピン15、ケミタン15、メセドン14、メフェドロン13、ブタン11、アナボリックステロイド10、カート9、エクスタシー9、LSD7、ブプレノルフィン7、マッシュルーム6。

アメリカ精神医学会(APA)による精神疾患の診断基準では、害があることを認識しているにもかかわらず物質の使用を止めることができない状態で、かつ耐性身体的依存の形成が診断基準に含まれる薬物依存症の概念を満たしていないものである。

薬物乱用者は、自らの健康を顧みることや家庭や職業生活の維持を放棄し、薬物を使用することだけが目的の生活となる病態に陥ることがある。

薬物の効果が薄れる耐性が形成され、渇望により使用量が増えたり、薬物の摂取量を減少させた離脱時に離脱症状が生じている場合には、薬物依存症の診断基準を満たす[2]

常に薬物入手の手段を模索することとなり、そのためには反社会的行動も辞さなくなる。これは公衆衛生上の大きな課題となっている。

薬物を乱用すると薬物の作用により身体、精神の機能が障害される可能性がある。日本では、飲酒によるアルコール依存症急性アルコール中毒による死亡が社会問題となっている。また 厚生労働省の試算によれば喫煙による肺癌などの超過死亡者数は毎年10万人に上るとされている。

国際的には、1961年に麻薬の乱用を防止する国際条約である麻薬に関する単一条約が公布された。その後、1960年代に医薬品として広く流通した幻覚剤のLSDや鎮静催眠剤の非バルビツール酸系ベンゾジアゼピン系の乱用により、1971年に向精神薬に関する条約が、その乱用を防止する目的で公布された。1988年には、麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約が公布された。

2011年には、薬物政策国際委員会英語: Global Commission on Drug Policy)が、麻薬に関する単一条約にはじまる薬物との戦いの失敗を宣言し、薬物政策の見直しを求め、有害性と法律が合致していないことも指摘されている[3]

定義[編集]

アメリカ精神医学会[編集]

アメリカ精神医学会(APA)による診断基準では、物質乱用は以下のように定義される。

物質乱用の診断基準

A. 物質の使用における不適応な様式が、重篤な障害や苦悩をもたらしており、以下のうち1つ(あるいはそれ以上)が12か月以内に起きている;
(1) 反復的な物質使用の結果、仕事場、学校、家庭における主な役割義務の遂行ができなかった(例. 物質使用に結びついた欠席や質の悪い遂行能力;物質に関連した欠席、停職あるいは学校からの除籍;子供あるいは家族をおろそかにする)
(2) 身体に害のある状態での反復的な物質使用(例. 物質使用により正常な状態ではないのに、自動車を運転したり機械を操縦する)
(3) 反復的な物質による法的な問題(例. 物質に関連した騒動行為による逮捕)
(4) 物質の影響が原因となるか悪化させた社会的、あるいは対人関係の問題が維持されているか繰り返されているにもかかわらず、物質使用を継続した(例. 配偶者との陶酔の影響に関する口論、身体的なけんか)
B. 症状は、この種類の物質のための物質依存の診断基準を満たしたことがない。

アメリカ精神医学会『精神障害の診断と統計の手引きIV-TR』2000年[4]

乱用の否認[編集]

向精神作用を持つ物質などの嗜癖を持つ場合、否認という病的な自己防衛機制が働く。この防衛機制のため、たばこのような一部の薬物は、長期的影響(特に認知能力や記憶力などの高次脳機能)を無視し、実際よりも害が少ないと言われる傾向がある。[要出典]

乱用される主な薬物[編集]

世界保健機関による薬物の概要[編集]

精神活性物質の特徴の概要(世界保健機関、2004年[5]
物質 主な作用機序 行動的影響 耐性 離脱 長期使用による影響
エタノール GABA-A受容体の活性の増加 鎮静、記憶障害、運動失調、抗不安 酵素誘導により代謝耐性が生じる。学習により行動耐性を得る。耐性はGABA-A受容体を変化させることで形成される。 震え、発汗、脱力、興奮、頭痛、吐き気、嘔吐、発作、振戦せん妄 脳の機能と形態の変化。認識機能障害。脳容積の減少。
睡眠薬と鎮静剤 ベンゾジアゼピン系:GABAによるGABA-Aクロライド・チャネルの開口を促す。バルビツール酸系:GABAイオノフォアの特異的部位に結合し、クロライド伝導性を増加する。 鎮静、麻酔、運動失調、認識障害、記憶障害 GABA-A受容体の変化により、(抗けいれんを除き)多くの作用に対して急速に形成される 不安、覚醒、落ち着かない、不眠症、興奮、発作 記憶障害
ニコチン ニコチン様コリン作動性受容体作動薬。脱分極を誘発しチャンネルを介してナトリウムの流入を増加する。 覚醒、注意、集中や記憶を増す;不安や食欲を減少させる;覚醒剤に似た作用 耐性は代謝因子を介して形成され、受容体の変化は食欲を増加させる 易刺激性、敵愾心、不安、不快、気分の落ち込み、心拍数の減少、食欲の増加 喫煙による健康への影響は十分に実証されている。タバコの他の化合物からニコチンの影響を分離するのは困難である。
オピオイド ミューおよびデルタ・オピオイド受容体作動薬 陶酔、鎮痛、鎮静、呼吸器の抑制 短期間および長期間の受容体の脱感作。細胞内伝達機構における順応。 流涙、鼻漏、あくび、発汗、落ち着きのなさ、寒気、腹痛、筋肉痛 オピオイド受容体とペプチドにおける長期間の変化。報酬、学習、ストレス反応における順応。
カンナビノイド CB1受容体作動薬 リラクゼーション、知覚の気づきの増加、短期記憶の低下、運動失調、鎮痛、抗嘔吐および抗てんかん作用、食欲増加 カンナビノイドの多くの作用に対して急速に形成される。 まれだが、おそらく半減期の長さに起因して。 認識機能障害、精神病の再発と悪化の危険性
コカイン モノアミン(ドーパミン、ノルエピネフリン、セロトニン)トランスポーターの遮断薬(シナプス間隙でのモノアミンを増加する) 警戒、活力、運動活動、能力感の増加;陶酔、不安、落ち着きのなさ、妄想症 おそらく短期間の急性耐性 多くない、高揚後の落ち込みを除く。 認知障害、PETにおける眼窩前頭皮質の異常、運動機能障害、反応時間の低下、EEG異常、脳虚血、梗塞、出血
アンフェタミン ドーパミントランスポーターを介して神経末端のドーパミンの放出を増加させる。活動電位上の依存はない。モノアミン酸化酵素を阻害する(MAO) 警戒、覚醒、活力、運動活動、会話、自信、集中、健康感の増加;空腹感の減少、心拍数の増加、呼吸増加、陶酔 行動および生理的な作用に対して急速に形成される 疲労感、食欲増加、易刺激性、感情の落ち込み、不安 睡眠障害、不安、食欲減少、血圧増加;脳のドーパミン、前駆体、代謝物および受容体の減少
エクスタシー セロトニンの再取り込みを阻害する 自信、共感力、理解力、親密さの感覚、コミュニケーション、陶酔、活力の増加。 一部の人では形成される可能性がある。 吐き気、筋硬直、頭痛、食欲不振、かすみ目、口渇、不眠症、抑うつ、不安、疲労感、集中困難 脳のセロトニン系への神経毒性は、行動と生理的な影響につながる。
有機溶剤 GABA-A受容体を介している可能性が高い 目まい、失見当識、陶酔、軽い頭痛、気分を増す、幻覚、妄想、協調運動失調、視覚障害、抗不安、鎮静 いくらかの耐性が形成される(推定するのは難しい) 発作に対する感受性の増加 ドーパミン受容体における結合と機能の変化;認知機能の低下;精神病理的および神経学的な後遺症
幻覚剤 様々:LSD:セロトニン自己受容体作動薬 PCP:NMDA型グルタミン酸受容体拮抗薬 アトロピン様薬:ムスカリン性コリン作動性受容体拮抗薬 心拍数、血圧、体温の増加;食欲低下、吐き気、嘔吐、運動失調、乳頭膨張、幻覚 耐性は身体的および精神的作用に対し急速に形成される 証拠なし 急性あるいは慢性的な精神病のエピソード、薬物使用後しばらくして薬物効果のフラッシュバックあるいは再体験


日本の現状[編集]

タバコアルコールに関しては、喫煙、飲酒者の4人に1人が20歳未満の時に喫煙飲酒を始めている。未成年でアルコールやタバコを経験すると、薬物の乱用に興味をもちやすくなるといわれる。

2004年に行われた有床精神科医療施設に対する調査では、違法な薬物の単独使用は、51%が覚せい剤である。有機溶剤は17%と2位であるが、初回使用薬物としては45%を占め、薬物乱用への入門薬としては軽視できず、低年齢の乱用者が多いことも問題とされる。

現在は覚せい剤の「第三次乱用期」であり、乱用薬物の中でもっとも深刻な問題を引き起こしている。日本における違法薬物や禁制品の流通は、暴力団などの反社会勢力にとって伝統的であり、割合としてもきわめて大きな資金源となっている。 [12]

また、麻酔科医師が医療用麻薬の自身への不正使用によって薬物依存に至ったり[13]、死亡するケースも存在している。

薬物乱用対策[編集]

薬物乱用や違法薬物製造は全世界で広がりを見せており、発展途上国の外貨獲得産業として違法薬物製造が生産され、人間の生命や、社会や国家の安定を脅かすなど、人類が抱える最も深刻な社会問題の1つとなっている。 [14] [15]

1987年(昭和62年)に開催された国際麻薬会議において、その終了日(6月26日)を国際麻薬乱用撲滅デーとし、各国がこの宣言の趣旨を普及するよう促した。また、1998年(平成10年)の国連麻薬特別総会においては、「薬物乱用防止のための指導指針に関する宣言」(国連薬物乱用根絶宣言)が決議されている。

2004年(平成16年)に開催された国際連合本部で「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」に関し、公衆衛生分野における初めての多数国間条約として、本条約が発効された。日本も同条約の締結を行い、タバコ規制のための国家能力の構築を図ることを決議された。

日本においては、違法麻薬の薬物乱用に対する警戒心や抵抗感が薄れるなど「第三次覚せい剤乱用期(1997年から現在まで)」が続いている。このような状況を早期に終息させるため、日本政府は「薬物乱用防止5か年戦略」に基づき各種対策を講じている。厚生労働省では、関係省庁の協賛や関係団体の後援を得て、平成5年度(1992年)より「6・26国際麻薬乱用撲滅デー」を広く普及し、薬物乱用防止をいっそう推進するために、「薬物乱用防止ダメ。ゼッタイ。」運動を実施している。

2011年には、薬物政策国際委員会英語: Global Commission on Drug Policy)は、1961年の麻薬に関する単一条約からはじまる薬物戦争により、社会や市民に悲惨な結果がもたらされ失敗に終わったことを宣言し、各国に薬物政策の見直しを求めた[7][8]

用語[編集]

  • キメる:違法薬物を使用すること[要出典]
  • ラリる:1960年代に睡眠薬の乱用時に、らりるれろがうまく言えなくなることから造語されたとされる[16]
  • レイブ (音楽):薬物乱用の温床ともいわれ、違法薬物所持、使用で多数摘発されている[要出典]

脚注[編集]

  1. ^ Nutt, D.; King, L. A.; Saulsbury, W.; Blakemore, C. (2007). “Development of a rational scale to assess the harm of drugs of potential misuse” (pdf). The Lancet 369 (9566): 1047–1053. doi:10.1016/S0140-6736(07)60464-4. PMID 17382831. http://dobrochan.ru/src/pdf/1109/lancetnorway.pdf.  編集
  2. ^ アメリカ精神医学会 (2000). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: DSM-IV-TR :Text Revision (4ed. ed.). American Psychiatric Pub. pp. 197-198. ISBN 0890426651. http://books.google.co.jp/books?id=w_HajjMnjxwC&pg=PA199. 
  3. ^ 薬物政策国際委員会 2011.
  4. ^ アメリカ精神医学会 (2000). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: DSM-IV-TR :Text Revision (4ed. ed.). American Psychiatric Pub. pp. 199. ISBN 0890426651. http://books.google.co.jp/books?id=w_HajjMnjxwC&pg=PA199. より引用。
  5. ^ 世界保健機関 (2004). Neuroscience of psychoactive substance use and dependence. World Health Organization. pp. 107-109. ISBN 92-4-156235-8. http://www.google.co.jp/books?id=G9OhG-dZdAwC&lpg=PP1&hl=ja&pg=PA107#v=onepage&q&f=false%7C&pg=117. より引用。
  6. ^ a b 世界保健機関 2004, pp. 107-109.
  7. ^ a b “「世界的な麻薬戦争は失敗」  国際委員会が別の対策を勧告(字幕・2日) (1:31)”. REUTERS. (2011年6月4日). http://www.reuters.com/video/2011/06/04/%E3%80%8C%E4%B8%96%E7%95%8C%E7%9A%84%E3%81%AA%E9%BA%BB%E8%96%AC%E6%88%A6%E4%BA%89%E3%81%AF%E5%A4%B1%E6%95%97%E3%80%8D-%E3%80%80%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A%E3%81%8C%E5%88%A5%E3%81%AE%E5%AF%BE%E7%AD%96%E3%82%92%E5%8B%A7%E5%91%8A%E5%AD%97%E5%B9%95%E3%83%BB%EF%BC%92%E6%97%A5?videoId=211513721 2013年4月8日閲覧。 
  8. ^ a b 薬物政策国際委員会 2011, p. 24.
  9. ^ a b 松本俊彦、尾崎茂、小林桜児、和田清「わが国における最近の鎮静剤(主としてベンゾジアゼピン系薬剤)関連障害の実態と臨床的特徴―覚せい剤関連障害との比較」 (pdf) 、『精神神経学雑誌』第113巻第12号、2011年12月、 1184-1198頁、 NAID 10030969040
  10. ^ The National Center on Addiction and Substance Abuse at Columbia University 2012, pp. 90-91.
  11. ^ Special Report: Availability of Internationally Controlled Drugs: Ensuring Adequate Access for Medical and Scientific Purposes (Report). 国際麻薬統制委員会. (2010). p. 40. http://www.incb.org/documents/Publications/AnnualReports/AR2010/Supplement-AR10_availability_English.pdf. 
  12. ^ 警察庁組織犯罪対策部企画分析課 『平成19年の組織犯罪の情勢』 2008年2月
  13. ^ “医療用麻薬の所持・自己施用等に係る調査報告書について” (プレスリリース), 横浜市立大学附属市民総合医療センター, (2011年3月7日), http://www.yokohama-cu.ac.jp/univ/pr/press/110308_1.html 2011年12月30日閲覧。 
  14. ^ 「第 195章 薬物使用と依存(メルクマニュアル 第17版 日本語版 万有製薬株式会社)
  15. ^ 「ダメ。ゼッタイ。」普及運動について(財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター)
  16. ^ “睡眠薬遊び流行”. 毎日新聞. (1961年11月12日). http://showa.mainichi.jp/news/1961/11/post-3005.html 2013年3月10日閲覧。 

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]