抑うつ

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抑うつ(よくうつ、Depression)とは、気分が落ち込んで活動を嫌っている状況であり、そのため当人の思考、行動、感情、幸福感に影響が出ている状況のこと[1]

抑うつに陥った人々は、悲壮感、不安感、空虚感、絶望感、焦燥感、罪悪感、短気、痛み、気分が休まらない、などの感情となっている。彼らはかつて喜びに満ちた活動であったことに対して意欲を失っており、食欲衰退するか過食となり、集中力や記憶力や意思決定に問題を起こし、自殺について考慮・挑戦・宣言し、不眠、過眠、疲労感、エネルギー喪失、長期の体部の痛み、消化系の不良などを訴える[2]

抑うつが全て精神疾患であるとは限らない[3]。抑うつは人生の出来事の一つとして通常の反応であり、ごく一部の医学的な症候についてが医学的治療や薬物療法の対象となる[3]。抑うつは、精神的徴候の主訴もしくは合併症状の一つである。抑うつは、精神医療において最も頻繁に見られる状態像であり、診療においては「熱が38度ある」程度の情報でしかない[3]

原因[編集]

人生の出来事[編集]

抑うつ症候を引き起こすようなライフイベントや人生の転機には、出産、更年期障害、金銭的問題、仕事上の問題、医療診断(がんやHIVなど)、いじめ問題、失恋、自然災害、社会的孤独、人間関係の問題、嫉妬、隔絶、深刻な外傷などがある[4][5]

子供時代に遭遇した外傷事故は、抑うつを引き起こすことがある。しかし子供時代の外傷(特に児童の性的虐待)が、常に成人の抑うつ要因であるとは限らず、抑うつに繋がる心理的過程を辿ることで引き起こされる。この分野について、この現象を引き起こすような化学的物質が存在するかについての研究がなされている[6][7]

親による子供の不平等な扱いもリスク要因であるとされている[8]

医学的な治療[編集]

患者に投与されるいくつかの医薬品は抑うつを引き起こすことが知られている。C型肝炎治療や高血圧治療などに用いられる交感神経β受容体遮断薬レセルピンなどがある。

精神的ではない病気[編集]

抑うつは、様々な伝染病や神経疾患からも引き起こされ[9]内分泌疾患(男性)、アジソン病ライム病多発性硬化症慢性痛脳梗塞後の機能回復[10]糖尿病[11]がん[12]睡眠時無呼吸症候群概日リズム不調などがある。最も早く徴候として現れるものの一つは、内分泌疾患である(甲状腺機能低下症)。

精神疾患[編集]

多くの精神疾患について、その主訴は抑うつである[3]気分障害は主に気分不調を訴える疾患のグループである。このグループには、大うつ病(Major depressive disorder、MDD、臨床的抑うつ)が含まれ、これは最低2週間抑うつ状況にあり、最近の一切の活動意欲や喜びを喪失している状況である。またディスチミアも含まれ、これは慢性的に抑うつ状況にあるが、大うつ病の基準を満たすほど深刻ではない状況である。

他の気分障害として双極性障害があり、気分・認知機能・エネルギーレベルが何度か異常に高揚するが、しかし抑うつも何度も起こるというエピソードに象徴される[13]。抑うつエピソードが季節的パターンで繰り返している場合、それらの障害(大うつ病や双極性障害など)は、季節性情動障害に分類される。

また気分障害ではないが、境界性パーソナリティ障害(BPD)も一般的に抑うつを訴える。適応障害の診断は、大きなイベントやストレッサーによって精神的な気分失調が発生したが、その感情・行動の症候が大うつ病エピソード基準に合致しないときに使われる[14]。また外傷後の心的外傷後ストレス障害不安障害によって、抑うつが引き起こされることも知られている[15]

薬物乱用[編集]

抑うつは薬物乱用によっても引き起こされる[16]

診断[編集]

抑うつの診断や深刻度を計測するための心理テストには、ベック抑うつ評価尺度英語版小児抑うつ評価尺度英語版など様々なものが存在する[17]

管理[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Salmans, Sandra (1997). Depression: Questions You Have – Answers You Need. People's Medical Society. ISBN 978-1-882606-14-6. 
  2. ^ NIMH · Depression”. アメリカ国立精神衛生研究所. 2012年8月15日閲覧。
  3. ^ a b c d 春日武彦 『病んだ家族、散乱した室内 : 援助者にとっての不全感と困惑について』 医学書院、2001年9月、113-119頁。ISBN 9784260331548 
  4. ^ Schmidt, Peter (2005). “Mood, Depression, and Reproductive Hormones in the Menopausal Transition”. The American Journal of Medicine 118 Suppl 12B (12): 54–8. doi:10.1016/j.amjmed.2005.09.033. PMID 16414327. 
  5. ^ Rashid, T.; Heider, I. (2008). “Life Events and Depression”. Annals of Punjab Medical College 2 (1). http://www.pmc.edu.pk/Downloads/apmc/apmc_v2n1/Life%20Events%20And%20Depression.pdf 2012年10月15日閲覧。. 
  6. ^ Christine Heim; D. Jeffrey Newport; Tanja Mletzko; Andrew H. Miller; Charles B. Nemeroff. Psychoneuroendocrinology 33 (6): 693–710. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0306453008000693 2014年4月20日閲覧。. 
  7. ^ Jonathan Hill. Current Opinion in Psychiatry 16 (1): 3–6. http://journals.lww.com/co-psychiatry/Abstract/2003/01000/Childhood_trauma_and_depression.2.aspx 2014年4月20日閲覧。. 
  8. ^ Pillemer, Karl; Suitor, J. Jill; Pardo, Seth; Henderson Jr, Charles (2010). “Mothers' Differentiation and Depressive Symptoms Among Adult Children”. Journal of Marriage and Family 72 (2): 333–345. doi:10.1111/j.1741-3737.2010.00703.x. PMC 2894713. PMID 20607119. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=2894713. 
  9. ^ Murray ED, Buttner N, Price BH. (2012) Depression and Psychosis in Neurological Practice. In: Neurology in Clinical Practice, 6th Edition. Bradley WG, Daroff RB, Fenichel GM, Jankovic J (eds.) Butterworth Heinemann. April 12, 2012. ISBN 978-1437704341
  10. ^ Saravane, D; Feve, B; Frances, Y; Corruble, E; Lancon, C; Chanson, P; Maison, P; Terra, JL et al. (2009). “Drawing up guidelines for the attendance of physical health of patients with severe mental illness”. L'Encephale 35 (4): 330–9. doi:10.1016/j.encep.2008.10.014. PMID 19748369. 
  11. ^ Rustad, JK; Musselman, DL; Nemeroff, CB (2011). “The relationship of depression and diabetes: Pathophysiological and treatment implications”. Psychoneuroendocrinology 36 (9): 1276–86. doi:10.1016/j.psyneuen.2011.03.005. PMID 21474250. 
  12. ^ Li, M; Fitzgerald, P; Rodin, G (2012). “Evidence-based treatment of depression in patients with cancer”. Journal of clinical oncology : official journal of the American Society of Clinical Oncology 30 (11): 1187–96. doi:10.1200/JCO.2011.39.7372. PMID 22412144. 
  13. ^ Gabbard, Glen O.. Treatment of Psychiatric Disorders. 2 (3rd ed.). Washington, DC: American Psychiatric Publishing. p. 1296. 
  14. ^ アメリカ精神医学会 (2000a). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision: DSM-IV-TR. Washington, DC: American Psychiatric Publishing, Inc.. ISBN 0-89042-025-4. 
  15. ^ Vieweg, W. V.; Fernandez, D. A.; Beatty-Brooks, M; Hettema, J. M.; Pandurangi, A. K.; Pandurangi, Anand K. (May 2006). “Posttraumatic Stress Disorder: Clinical Features, Pathophysiology, and Treatment”. Am. J. Med. 119 (5): 383–90. doi:10.1016/j.amjmed.2005.09.027. PMID 16651048. 
  16. ^ http://psychcentral.com/lib/depression-and-substance-abuse-the-chicken-or-the-egg/0003570
  17. ^ Kovacs, M. (1992). Children's Depression Inventory. North Tonawanda, NY: Multi-Health Systems, Inc.

関連項目[編集]