アルツハイマー型認知症

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Alzheimer's disease
分類及び外部参照情報
Alzheimer's disease brain comparison.jpg
通常の老人の脳(左)とアルツハイマー型認知症患者の脳(右)。アルツハイマー型認知症では大脳皮質海馬の萎縮、および脳室の拡大が見られるようになる。
ICD-10 G30, F00
ICD-9 331.0, 290.1
OMIM 104300
DiseasesDB 490
MedlinePlus 000760
eMedicine neuro/13
NCI アルツハイマー型認知症
Patient UK アルツハイマー型認知症
MeSH D000544
GeneReviews
プロジェクト:病気Portal:医学と医療
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アルツハイマー型認知症(アルツハイマーがたにんちしょう、Alzheimer's diseaseAD)は、認知機能低下、人格の変化を主な症状とする認知症の一種である。日本では、認知症のうちでも脳血管性認知症レビー小体病と並んで最も多いタイプである。

歴史[編集]

世界で最初にアルツハイマー病と確認された患者のアウグステ・データー
2004年の100,000人あたりのアルツハイマー病及びその他の痴呆の障害調整生命年(DALY)[1]
  no data
  ≤ 50
  50–70
  70–90
  90–110
  110–130
  130–150
  150–170
  170–190
  190–210
  210–230
  230–250
  ≥ 250

「アルツハイマー病」の名は、最初の症例報告を行ったドイツの精神科医アロイス・アルツハイマーに由来している。アルツハイマーは、「レビー小体型認知症」にその名を残すフレデリック・レビーとともにミュンヘン大学で、ドイツ精神医学の大家エミール・クレペリンの指導のもと研究活動に従事していた。アルツハイマーは、1901年に嫉妬妄想などを主訴としてはじめてアルツハイマーの元を訪れた、世界で最初に確認された患者アウグステ・データー(女性) (Auguste Deter) に関する症例を、1906年にテュービンゲンのドイツ南西医学会で発表した。発症時アウグステ・データーは46歳であった。アウグステ・データーは56歳で死亡した。また、翌年『精神医学およ法精神医学に関する総合雑誌』に論文を発表した。その後、この症例はクレペリンの著述になる精神医学の教科書で大きく取り上げられ、「アルツハイマー病」として広く知られるようになった。文部科学省科学技術政策研究所によれば、2030年までにアルツハイマー病の進行を阻止する技術が開発されるとしている[2]

分類[編集]

アルツハイマー型認知症は発症年齢で65歳を境に早発型と晩期発症型(65歳以降)とに大別される。早発型のうち18歳から39歳のものを若年期認知症、40歳から64歳のものを初老期認知症という。早発型アルツハイマー型認知症は常染色体優性遺伝を示す家族性アルツハイマー型認知症(Familial AD、FAD)である。原因となる点変異は第21染色体上のアミロイド前駆体蛋白質(APP)遺伝子、第14染色体上のプレセニリン1遺伝子(PSEN1)および第1染色体上のプレセニリン2遺伝子(PSEN2)に見出されている。家族性アルツハイマー型認知症で最も多いのはPSEN1遺伝子の変異である。プレセにチンはγセクレターゼ複合体の主要構成成分である。家族性アルツハイマー型認知症はアルツハイマー型認知症のおおむね1%以下と推定されており、大部分のアルツハイマー型認知症は晩期発症型で家族歴のない孤発例のアルツハイマー型認知症(dementia of Alzheimer type、DAT)である。晩発型アルツハイマー型認知症では第19染色体のアポリポ蛋白質E(APOE)の多型であるε4対立遺伝子が発症を促進する危険因子になることが確認されている。

疫学[編集]

発症率[編集]

世界中の23の研究を基にしたメタ分析によると、アルツハイマー型認知症の年間発症率は、90歳まで指数関数的に増加する。マサチューセッツ州ボストン東部での調査では、年間発症率は、0.6%(65 - 69歳)、1.0%(70 - 74歳)、2.0%(75 - 79歳)、3.3%(80 - 84歳)、8.4%(85歳 -)となっている。

FADの頻度は全アルツハイマー病のうち数%程度である。

家族集積性[編集]

「家族性アルツハイマー病」(FAD)では、原因遺伝子としては4種類が知られており、21番染色体のアミロイド前駆体蛋白(APP)遺伝子、14番染色体のプレセニリン1遺伝子、1番染色体のプレセニリン2遺伝子、19番染色体のアポリポ蛋白E遺伝子のいずれかが変異を起こすとFADが発症する。4種類のFADはいずれも常染色体優性遺伝、つまり片方の親がFADであれば子供は性別に関係なく2分の1の確率でFADに罹患するというものである。そうでない大部分のアルツハイマー型認知症にも、遺伝的要因は少し影響する。親族にアルツハイマー型認知症の患者がいる場合、多少罹患のリスクが上昇するといわれている。特に50 - 54歳に本症を発症した身内がいる場合、本症を早期発症する危険は約20倍に上るというデータがある。

APP遺伝子の変異[編集]

家族性アルツハイマー型認知症の10%弱を占めるのがAPP遺伝子のアミノ酸置換を伴うミスセンス点変異である。APP遺伝子の点変異が認められる部位はγセレクターぜで切断されるγ切断部近傍の変異(ロンドン型)やβセクレターゼで切断されるβ切断部近傍の変異(スウェーデン型)などが知られている。Aβ内部のアミノ酸配列に影響をあたえる変異はアミロイドアンギオパチーを起こしやすくなる。またAPP遺伝子量または発現量の量的効果によってもアルツハイマー型認知症は起こりえる。この病態にダウン症も含まれる。

発症の因子[編集]

年齢・家族歴・ApoEe4などの遺伝子型高血圧糖尿病喫煙高脂血症クラミジア肺炎球菌への感染・ある種の生活習慣などが本症の危険因子となる。たとえば、アルツハイマー病罹患リスクは、糖尿病患者では1.3 - 1.8倍に、特にApoEe4アリルが伴う糖尿病の場合は、5.5倍に増加すると報告されている[3]。本症を含む認知症の発症危険因子の詳細は、認知症#危険因子を参照。

生活習慣上の危険因子[編集]

  • 食習慣:魚(EPADHAなどの脂肪酸)の摂取、野菜果物[4]ビタミンEビタミンCβカロテンなど)の摂取、赤ワイン(ポリフェノール)の摂取などが本症の発症を抑えることが分かっている。1日に1回以上魚を食べている人に比べ、ほとんど魚を食べない人は本症の危険が約5倍であるというデータがある。米国の加齢研究所は「精製された炭水化物(例えば白い砂糖)は問題を起こす可能性がある」と述べている[5]。また、「パプア・ニューギニアのキタバ島では、イモ、ココナッツ、魚を食べるが、空腹時のインスリン濃度は低く、認知症は見られない」とする報告がある[6]
  • 運動習慣:有酸素運動で高血圧コレステロールのレベルが下がり、脳血流量も増すため発症の危険が減少する。ある研究では、普通の歩行速度を超える運動強度で週3回以上運動している者は、全く運動しない者と比べて、発症の危険が半分になっていた。
  • 知的生活習慣:テレビ・ラジオの視聴、トランプ・チェスなどのゲームをする、文章を読む、楽器の演奏、ダンスなどをよく行う人は、本症の発症の危険が減少するという研究がある。
  • たばこ:自らタバコを吸う(能動喫煙)だけではなく、非喫煙者であってもタバコから出る有毒物質(受動喫煙)の影響を受け発症率が高まる[7]

喫煙に関する議論[編集]

喫煙が本症の危険因子か否かについては、これまで議論があった。喫煙を含むニコチンの摂取がニコチン性アセチルコリン受容体よりドパミン神経系に作用し、アルツハイマー型認知症の発症を減少させるという説もあった[8]が、後に、この説を唱える研究団体がたばこ産業から資金を受け取っていた事実が暴露された[9]

この説は、喫煙自体が他の疾病リスクを高める性質があるほか、複数の大規模なコホート研究・症例対照研究などによって、現在では否定されている[10]。19の疫学研究のメタ分析[11]では、喫煙により本症の発症のリスクが1.79倍に有意に上昇するという結果が得られている。

睡眠不足との関連[編集]

アルツハイマー病の原因として、脳内でのアミロイドベータ (Aβ) の蓄積が考えられているが、アメリカワシントン大学などの研究チームが、2009年に行ったマウスを使った実験で、次の結果を明らかにした。

  • 睡眠中Aβが減少し、起床中に蓄積する。
  • 睡眠時間の短いマウスはAβの蓄積が進行し、不眠症改善薬を与えると改善した。

病理[編集]

アミロイドβ。リボンモデル。

アルツハイマー病のおける基本的病理変化はAlois Alzhaimer自身により1911年の論文に追いて詳しく記載されている。アルツハイマー病脳病変の特徴として神経細胞の変性消失とそれに伴う大脳萎縮、老人斑の多発、神経原線維変化(neurofibrillary tangle:NFT)の多発の3つがあげられる。1980年台に老人斑がアミロイドβ蛋白(Aβ)の凝集蓄積であること、NFTが微小管結合タンパクのひとつであるタウが凝集線維化したものであることが明らかになった。FADの原因となるアミロイド前駆体蛋白遺伝子変異、プレセニリン遺伝子変異のいずれもAβの産生亢進を誘導することが判明している。アルツハイマー型認知症の生化学も参照。

老人斑[編集]

老人斑は鍍銀染色で濃染する径数十~100μmほどの斑状の構造物である。細胞外に存在する。アルツハイマー病では大脳皮質に大量の老人斑が出現する。老人斑はAβの凝集蓄積により形成されるが、ある程度以上の大きさと密度をもつ蓄積の場合、老人斑内とその周囲にある神経突起の変性が生じる。変形神経突起の半数以上においてNFTとそう痒のタウの凝集蓄積が生じている。Aβの蓄積は斑状構造、綿屑のようなもの、まばらな蓄積など様々な形態をとる。Aβは分子量約4kDの小さな蛋白質で38~43個のアミノ酸からなり、695~770個のアミノ酸からなる1回膜貫通型のアミロイド前駆蛋白(APP)からプロテアーゼにより切りだされて産出される。複数の分子種が知られており、それらの分子種は性質の違いからC末端が短いAβ40と長いAβ42に大別される。Aβの産出自体は生理的な現象である。Aβ40は水に溶けやすく、凝集、蓄積を生じにくいのに対してAβ42は凝集傾向が強い。老人斑形成の過程においてはAβ42の沈着が先行し、後の段階でそれを巻き込まれるようにAβ40も沈着すると考えられる。老人斑ではAβの蓄積と変性神経突起形成に加えてグリア細胞の反応が生じている。老人斑の中心部には活性化ミクログリアが集簇をなし、周辺部には活性化アストロサイトが老人斑を取り囲むように存在する。老人斑は慢性炎症性変化と考えられている。アストロサイトはミクログリアと同様にAβの除去や炎症性因子の産出、それに老人斑という慢性炎症性病変を周囲の脳組織から隔離する機能を果たしていると推測される。

アミロイド沈着は基本的にアミロイド密度が高い核(または芯)をもつ典型的老人斑(typical or classic plaque)と密度のひくいびまん性老人斑(diffuse plaque)の2つのタイプがあることが知られている。

神経原線維変化(NFT)[編集]

神経原線維変化(neurofibrillary tangle、NFT)は神経細胞の細胞体に生じる繊維状の凝集体で、その微細構造は長径10nmのフィラメントが2本ずつらせん状のペアを作った線維の集合体であり、規則的なくびれ構造をもつ。らせん状のペアを作った線維を対らせん線維(paired helical filament、PHF)という。PHFはタウが重合してβシート構造を形成することによって生じる。PHFを構成するタウは通常のタウと異なり過剰にリン酸化を受けている。PHFは細胞質内にありながらプロテアーゼ耐性である。主要構成蛋白であるタウは神経細胞軸索における微小管の安定化に関わる因子である。タウのC末端には微小管の結合部位がありリピート配列がある。ADでは3Rと4Rの両方のアイソフォームからなる。NFTは鍍銀染色陽性でありガリアスブラーク染色が用いられることが多い。タウの凝集や蓄積の過程で分子構造が変化するため免疫染色ではエピトープが消失することもあるので注意が必要である。

アミロイドアンギオパチー[編集]

アルツハイマー型認知症脳では脳実質に出現する老人斑に加えて、脳血管壁にコンゴーレッド陽性になるアミロイドが沈着する脳血管アミロイドーシス(脳アミロイドアンギオパチー、CAA)を併発する率が高い。これが脳出血を起こす原因となっている。特に家族性アルツハイマー病でAPP遺伝子内にAβの内部配列に変異が起こると脳アミロイドアンギオパチーを多発するケースが多い。血管アミロイドは中膜と外膜の間の基底膜にまばらに沈着し、進行的に全周性に沈着がみられ平滑筋細胞の消失をもたらす。

アルツハイマー型認知症病理の時系列[編集]

病理の時系列解析は主にダウン症患者由来の剖検脳を用いた検討で明らかになった。ダウン症患者ではアルツハイマー型認知症様の病理変化が30代ころから出現し年齢を重ねると共に進行する。アミロイドの沈着は30代から始まり、40歳以降で神経原線維変化が出現する。また神経原線維変化がある場合は必ず老人斑を伴うことが明らかになった。ダウン症は第21染色体トリソミーであるため第21染色体に存在するAPP遺伝子が通常の1.5倍存在する。その結果APPのmRNAも通常人よりおおく早発認知症になると考えられている。

合併病変[編集]

ADに本質的な病変は神経細胞消失、老人斑、NFTである。しかし偶然の合併で考えられる以上にレビー小体、TDP-43など他の疾患に特徴的な病変を合併し、臨床像に影響を与える。病理機序の一部は共通していると考えられる。なお病理診断でレビー小体型認知症とADが合併した場合はADらしさの高低を優先して判断することになっている。

病変の拡がりと病理診断[編集]

NIA-AAの病理診断基準がある。ADでは老人斑の評価は大脳新皮質におけるneutritic plaqueの密度をCERADの基準で大脳皮質におけるAβ沈着の基準をBraak and Braakの基準で、大脳皮質から基底核、脳幹、小脳へ広がる過程をThalらの基準で行うことが推奨されている。大脳皮質におけるNFTの拡がりはBraak and Braakの基準の基準で評価する。

生化学[編集]

APPからAβを産出するためにはβ部位とγ部位の2箇所でAPPが切断される必要がある。α部位で切断された場合はAβは産出しない。またAβの分解経路がある。ネプリライシンが最も効率よくAβ42を分解する。またAPOEε4アリル保因者はAβ凝集が促進する。

APP[編集]

アミロイド前駆蛋白質(APP)の生理機能で最もよく言及されるのは神経保護、神経突起延長、シナプス形成促進、細胞増殖などニューロトロフィック作用、細胞接着作用、シナプス小胞の軸索輸送機能などである。APPは脊椎動物に広く存在し、ショウジョウバエや線虫にもホモログが見出されている。相同蛋白質であるAPLP1(APP様蛋白質1)、APLP2などとともにファミリーを構成しているがAβ配列があるのはAPPのみである。

αセクレターゼ[編集]

βセクレターゼ(BACE1)[編集]

βセクレターゼはAβの産出過程の第一ステップに関与するプロテアーゼである。

γセクレターゼ[編集]

プレセニリンがγセクレターゼ複合体の主要構成成分である。

ネプリライシン[編集]

ネプリライシンはⅡ型の膜貫通タンパク質である。メタロペプチダーゼに分類され脳内Aβ分解過程の律速段階に関わる主要酵素である。オリゴマー型のAβも分解できる。

病態[編集]

孤発性AD(SAD)と家族性AD(FAD)双方の病理変化は極めて類似していることからほぼ同一の過程を経ると考えられている。ADの病態発症機構に関する研究は1990年代に相次いで同定された家族性AD原因遺伝子であるAPPとプレセレニリン(PS)、および家族性タウオパチー原因遺伝子変異である微小管結合タンパクであるタウの研究によって目覚ましい進展をとげた。アルツハイマー型認知症の病態発症機構としてはAβの産出の上昇、あるいは分解不全によるAβ蓄積を開始点とするアミロイドカスケード仮説が最も支持されている。アミロイドカスケード仮説は以下のプロセスからなる。

Aβ蓄積(老人斑形成)
タウ凝集・蓄積(NFT形成)
神経変性(神経細胞死)

APPは各種プロテアーゼによる切断を受けることで各種のAβ分子種を産出する。主要なAβの分子種としてはアミノ酸数の違いによりAβ40とAβ42が存在しAβ42は高い凝集性から病原性がより強い。PSはAPPの切断プロテアーゼとして知られるγセクレターゼの構成サブユニットである。FAD原因遺伝子変異の実に70%でPS遺伝子に認められている。タウは前頭側頭葉型認知症の原因遺伝子してしられ変異型タウの過剰発現(Tg)マウスはAβ蓄積なしに神経変性を起こす。そのためタウの凝集・蓄積のみでも神経変性は起こりえる。Aβ蓄積の下流ではタウ非依存的な神経変性を惹起する経路も想定される。代表例がAβの低分子構造物であるAβオリゴマー神経細胞内で毒性を示すというオリゴマー仮説である。

その他の原因の仮説[編集]

感染症原因仮説[編集]

神経生物学関連誌「Neurobiology of Aging」4月号掲載の研究では、一般的な呼吸器細菌のクラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae)とアミロイド斑との関連性が非遺伝性アルツハイマー病患者の脳で確認された。

加齢に伴う慢性疾患研究を目的とした米フィラデルフィア大学整骨医学センターの研究者らがアルツハイマー病のヒトの脳から同細菌を分離し、アミロイド斑素因のないマウスの鼻腔に噴霧したところ、アミロイド斑の沈積が進行し、部分的なアルツハイマー病のモデルが生じた。研究はクラミジア・ニューモニエがアルツハイマー病患者の脳の90%に存在するという過去の知見に基づくもので、研究立案者のBrian Balin氏は同細菌がアルツハイマー病を引き起こすことを指摘している。

アルミニウム原因仮説[編集]

アルミニウムイオンの摂取がアルツハイマー型認知症の原因のひとつであるという説がある。この説は、第二次世界大戦後、グアム島を統治した米軍が老人の認知症の率が異常に高いことに気がつき、地下水の検査をしたところアルミニウムイオンが非常に多いことがわかったことによる。雨水と他島からの給水によってその率が激減したこと、また紀伊半島のある地域でのアルツハイマー患者が突出して多かったのが上水道の完備により解決したことがその根拠とされている。後者も地下水中のアルミニウムイオンが非常に多かったことが示されている。もっともこれらの調査例は、地域の人口動態などの裏付けがない(家族の集積性や崩壊過程などを考慮しない)単純比較であり、学会や多くの学識経験者が支持している研究成果ではないことに注意する必要がある。

日本におけるアルミニウム原因説の広がりは、1996年3月15日毎日新聞朝刊により報道されたことによる。記事では、1976年カナダのある病理学者がアルツハイマー患者の脳から健常者の数十倍の濃度のアルミニウムを検出した例や、脳に達しないという見方が大勢であったアルミニウムイオンが血液脳関門を突破することが明らかになったことなどを紹介している。この記事は、1面ではなく家庭面のベタ記事扱いであったが大きな反響を呼び、後に読売新聞朝日新聞なども同様の記事を掲載した。これら報道により、既に海外では下火となっていたアルミニウム原因説が、日本では次第に有力視されるようになった。消費者の一部には、アルミニウムを含む薬剤でろ過する上水道水や、一般的に調理で用いられるアルミ鍋に対して拒絶する動きが起こり、高価な鍋セットや浄水器を販売する悪徳商法も盛んになるなどの余波も生じた。

業界団体である日本アルミニウム協会などはもとより、アメリカ食品医薬品局も、アルミニウムとアルツハイマーの関係を否定している[12]。学会などで発表される事例も、日本人の手によるものの他はわずかである。現在では、アルツハイマーの発症原因のほとんどが、遺伝子そのものの変異や外的要因(前出の疫学を参照)など複数の要素が考えられている。

インスリン分解酵素仮説[編集]

インスリンの分泌を増やす糖質中心の食習慣、運動不足、内臓脂肪過多がアルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドベータの分解を妨げているとしている。アミロイドベータも分解する能力のあるインスリン分解酵素が糖質中心の食生活習慣によって血中のインスリンに集中的に作用するため、でのインスリン分解酵素の濃度が低下し、アミロイドベータの分解に手が回らずに蓄積されてしまうとしている。

2型糖尿病にならない食生活習慣が肝要だとも説明されている[13]。 過剰な砂糖摂取があると、脂肪肝が生じ、肝臓と骨格筋にインスリン抵抗性が生じる。膵臓はインスリン分泌を増やすが、追いつかなくなり、2型糖尿病となる。高インスリン血症は、各種の臓器障害を来たす。インスリンは、血液脳関門BBBを越えて脳内に入って、神経細胞を障害し、記憶障害を悪化させる。[14][15][16]

タウタンパク質説[編集]

独立行政法人放射線医学総合研究所は2013年9月19日、脳内に蓄積したタウタンパク質に対して選択的に結合する薬剤であるPBB3(Pyridinyl-Butadienyl-Benzothiazole)と、脳内に蓄積したアミロイドベータ(Aβ)に選択的に結合するピッツバーグ化合物B(PIB:Pittsburgh Compound-B)と、陽電子断層撮影法(PET:Positron Emission Tomography)を使用して、タウタンパク質やアミロイドベータ(Aβ)が脳内に蓄積して神経細胞を壊死させて、認知症による認知機能・脳機能の低下させることを、初期から終末期までの脳の部位別にタウタンパク質やアミロイドベータ(Aβ)の蓄積や進行状態を、画像で可視化して診断する方法を実用化したと発表した[17]

臨床像[編集]

症状[編集]

症状は進行する認知障害記憶障害見当識障害、学習障害注意障害、空間認知機能や問題解決能力の障害など)であり、生活に支障が出てくる。重症度が増し、高度になると摂食や着替え、意思疎通などもできなくなり最終的には寝たきりになる。

階段状に進行する(すなわち、ある時点を境にはっきりと症状が悪化する)脳血管性認知症と異なり、徐々に進行する点が特徴的。症状経過の途中で、被害妄想幻覚(とくに幻視)が出現する場合もある。暴言・暴力・徘徊・不潔行為などの問題行動(いわゆる周辺症状)が見られることもあり、介護上大きな困難を伴うため、医療機関受診の最大の契機となる。

病期分類[編集]

アルツハイマー病の病気の進行は大きく3段階に分かれる。根本的治療法のない病気なので下記のように慢性進行性の経過をとる。

第1期
記銘力低下で始まり、学習障害、失見当識、感情の動揺が認められるが、人格は保たれ、ニコニコしており愛想はよい。
第2期
記憶、記銘力のはっきりとした障害に加えて高次機能障害が目立つ時期で、病理学的な異常が前頭葉に顕著なことを反映して視空間失認や地誌的見当識障害が見られる。この時期には、外出すると家に帰れなくなることが多い。更に周囲に無頓着となったり徘徊や夜間せん妄もみとめられる。特に初老期発症例では、感覚失語、構成失行、観念失行、観念運動失行、着衣失行などの高次機能障害も稀ではない。
第3期
前頭葉症状、小刻み歩行や前傾姿勢などの運動障害もみられ、最終的には失外套症候群に至る。

検査[編集]

アルツハイマー病患者(左)と一般人(右)の脳のPiB-PETスキャン画像。アルツハイマー病患者はアミロイドβの沈着量が多い。

認知機能検査[編集]

長谷川式認知症スケール
三宅式記銘力検査
Category fluency スコア
1分間にできるだけ多くの動物名を挙げてもらい、その数をカウントする。13個未満ではアルツハイマー型認知症が疑われる。(感度91%, 特異度 81%)[18]
Clock drawing test
患者に紙を渡し、10時10分を示す時計を書いてもらう。高次視覚認知障害の検出能に優れ特異度が高い。[19]しかし近時記憶や見当識については評価できない。

画像検査[編集]

CT・MRI
X線-CTMRIでは、脳血管性のものとの鑑別に有用であり、側脳室の拡大・脳溝の拡大・シルビウス裂の拡大などの大脳の萎縮が見られるようになる。特に海馬は、他部位と比較して早期から萎縮が目立つ。
PET・SPECT
PETSPECTでは、脳血流・グルコース消費量・酸素消費量が側頭葉頭頂葉で比較的強く低下するのが特徴とされる。一般にF-FDG-PETと脳血流SPECTが行われる。

検体検査[編集]

診断指標となる検体検査(バイオーマーカー)として、髄液中のアミロイドベータ(Aβ)42の低下や、タウ蛋白の増加等を測定する方法がある。その他も現在様々な検査が研究中である。MRIでアミロイドベータを検出する技術が開発されている。

鑑別診断[編集]

症状は脳の変化に伴って生じるが、必ずしも並行して進行することはない[20]。同様の症状を呈しうるものに、甲状腺機能低下症、高カルシウム血症、ビタミンB12欠乏症、ニコチン酸欠乏症、神経梅毒などがある[20]

治療[編集]

薬物療法[編集]

アルツハイマー型認知症に対しては近年治療薬の開発によって薬物治療が主に行われるようになってきたが、現在のところ根本的治療薬は見つかっていない。

現在開発中の薬
現在開発研究段階ではあるが根本治療薬として以下が臨床研究中である。
  • Aβ(アミロイドベータ)ワクチン療法
  • 抗Aβモノクローナル抗体療法
現在発売中の薬
現在使用されているアルツハイマー型認知症の治療薬は大きく分けて2種類に分かれる。
  • ドネペジル(Donepezil アリセプト®:Aricept®)
    現在重症のアルツハイマー型認知症で使用できるのはドネペジルのみである。用量は1日あたり3-10mg(海外では23mg/日の用法もある)である。コリンエステラーゼ阻害薬に共通して最も多い副作用である消化管症状(吐き気・嘔吐・下痢)のため3mgから開始することが推奨されている。その他よく見られる副作用としては徐脈などが見られる。ドネペジルの効果についてはMMSEで1-2点程度であり劇的な改善が認められないものの、使用開始時に効果がなかった患者でも12ヶ月後に認知機能の低下が抑えられたとする報告があり、一定期間進行を遅らせることができると考えられている[21]
  • ガランタミン(Galantamine レミニール®:Reminyl®)
  • リバスチグミン(Rivastigmine リバスタッチパッチ® イクセロンパッチ®)
    分子量が小さいため経皮吸収が可能であり、飲み薬ではなく貼り薬として使用することが出来る。このため比較的消化管への副作用が少ない。アセチルコリンエステラーゼだけでなくブチリルコリンエステラーゼも阻害するため、従来のコリンエステラーゼ阻害薬よりも効果が高いとの報告がある[22][23][24][25]
  • メマンチン(Memantine メマリー®:Memary®)
    現在のところ軽症のアルツハイマー型認知症に対して適応が通っていないものの、海外の研究でドネペジルとメマンチン併用した群では自宅からナーシングホームへの入所率がドネペジル単独使用または薬剤非使用群に対し優位に低下することが分かっている[26]。メマンチンで最も多い副作用はめまいである。
周辺症状治療薬
アルツハイマー型認知症では、不眠、易怒性、幻覚妄想などの「周辺症状」と呼ばれる症状に対して、適宜対症的な睡眠導入剤抗精神病薬抗てんかん薬抗うつ薬などの投与が有効な場合がある。また、易怒性・切迫感・焦燥感のあるものには、加味温胆湯が有効であるという報告あったり、妄想、徘徊、暴力などの抑制に抑肝散が効能があることが報告されている。

その他[編集]

散歩などによる昼夜リズムの改善(光療法[27][28]、なじみのある写真や記念品をそばに置き安心感を与える回想法や、昔のテレビ番組を見るテレビ回想法など、薬物以外の介入が不眠や不安などに有効な場合もある。介護保険デイケアなど社会資源の利用も有用である。

2012年対馬に生息するツシマヤマネコが、死後の解剖の結果、異常な量のタンパク質が蓄積するなど、アルツハイマー病患者に類似した脳の変化を起こしていたことが発見された[29]

2013年東京工科大学応用生物学部の研究グループ(鈴木郁助教、生体成分計測(後藤正男)研究室)らにより、アルツハイマー病の予防にチモキノンが有効性を示すことが発見された[30]。同研究グループでは、アルツハイマー病に関係すると考えられている部分の二次元脳回路モデルを作成し、チモキノンアミロイドベータを同時投与した[30]。その結果、アミロイドベータの単体投与時よりも細胞死を抑制する効果が発見された[30]。また、アミロイドベータの細胞毒性を抑え、シナプスの活動低下を減少させることも発見された[30]。以上のことから、研究グループではチモキノンにアルツハイマー病予防効果があると結論づけた[30]

アルツハイマーを扱った作品[編集]

Webコンテンツ
小説
映画
テレビドラマ
漫画

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ The scope and concerns of public health”. Oxford University Press: OUP.COM (2009年3月5日). 2010年12月3日閲覧。 [リンク切れ]
  2. ^ 「2025年に目指すべき社会の姿-『科学技術の俯瞰的予測調査』に基づく検討-」(2007年3月、科学技術政策研究所)
  3. ^ Pasquier F, Boulogne A, Leys D, Fontaine P. Diabetes mellitus and dementia. Diabetes Metab. 2006 Nov;32(5 Pt 1):403-14.
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参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]