モノクローナル抗体

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一般的なモノクローナル抗体の作成法

モノクローナル抗体(モノクローナルこうたい)とは、単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体(免疫グロブリン)分子。通常の抗体ポリクローナル抗体)は抗原免疫した動物血清から調製するために、いろいろな抗体分子種の混合物となるが、モノクローナル抗体では免疫グロブリン分子種自体が均一である。抗原は複数のエピトープ(抗原決定基)を持つことが多く、ポリクローナル抗体は各々のエピトープに対する抗体の混合物となるため、厳密には特異性が互いに異なる抗体分子が含まれている。これに対してモノクローナル抗体では、一つのエピトープに対する単一の分子種となるため、抗原特異性が全く同一の抗体となる。

通常、抗体産生細胞骨髄腫細胞と細胞融合させることで自律増殖能を持ったハイブリドーマ (hybridoma) を作成し、目的の特異性をもった抗体を産生しているクローンのみを選別(スクリーニング)する。この細胞を培養し、分泌する抗体を精製して用いることになる。モノクローナル抗体を作製する方法を1975年に発明したジョルジュ・J・F・ケーラーセーサル・ミルスタインは1984年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。

最近では、動物を使用しないファージディスプレイでのモノクローナル抗体作製が行われている。ハイブリドーマを使用する作製方法とは違い、ファージディスプレイでの作製では、完全なるクローンでの追加抗体作製が可能で、安定的に研究を行うことができる。 国内では、ジーンフロンティアが、サービスの提供を行っている。

臨床への応用[編集]

1970年代に発明されたモノクローナル抗体は臨床に革命的な変化を起こすといわれたが、その後ほぼ20年間、臨床試験は上手くいかなかった。これは主に、マウスの抗体はヒトに抗原認識されることが原因であった。しかし1990年代になって、CHO細胞内に、マウスでなくヒトの免疫グロブリン遺伝子を発現するプラスミドを直接形質転換する方法が開発されて以降、この問題は克服された。この方法はさらに進化し、現在ではハイブリドーマを使用せず、ファージディスプレイにより1兆個の分子からなる莫大なクローンライブラリーから最適抗体がスクリーニングされ、その遺伝子をCHO細胞で大量生産する方法が用いられている。もしくは、ヒトの抗体を生産するトランスジェニックマウスを使い、直接ヒト抗体を得る方法が用いられる。これらの方法は、前臨床段階までの開発費がわずか約2億円で済むといわれており、従来の古典的化学薬品にかかる20億円と比較して非常に効率がよい。ただし細胞培養を必要とするため、最終製品の製造費用は化学合成による化学薬品と比べると、非常に高い。

モノクローナル抗体はタンパク質薬品であり、いわゆる化学薬品と違い経口投与ができない(普通週一回の注射)、製造費用が非常に高い、細胞内部に侵入できないなどの欠点を持つ。しかしいったん標的分子に結合すると、患者自身の免疫機構が働いて標的分子を含むがん細胞を高率で破壊できるなどの利点をもつ。また、免疫グロブリン自体はヒトの体内に存在する分子なので、それ自身による副作用は予想しやすい。

原理的にはポリクローナル抗体も臨床に使用可能であるが、人間の患者への薬品として使用するためには、薬品内の分子が化学的に厳密に定義され、さらにそれらを極めて高純度でかつ安定的に大量生産する必要があり、現実にはほぼ不可能であるといわれている。 ヒト血漿由来(血液製剤)の免疫グロブリン製剤は一種のポリクローナル抗体であり、様々な難病に対して使用され有効性を示している。しかし、これら血液由来の免疫グロブリン製剤が組換え抗体医薬品に容易に置き換えることができないのは、上記の品質管理の困難さからである。

米バイオテクノロジー産業における役割[編集]

モノクローナル抗体は1990年代後半から、バイオテクノロジー産業に革命をもたらし、現在のバイオテクノロジー薬品のほぼ3分の1はモノクローナル抗体である。1997年にGENENTECH社のRituxan抗体が抗CD20抗体として非ホジキンリンパ腫 (NHL) に対して認可されたのをはじめ、Herceptin, Avastinなどのシグナルトランスダクションやアンジオジェネシスを標的とする新型をふくめ、現在15以上のモノクローナル抗体ががん治療などに使われ、少なくとも100を超えるモノクローナル抗体がPhaseI・II・IIIの臨床試験で開発されている。特にがん治療において使われ、2004年の売り上げは約60億ドル、2008年までにモノクローナル抗体の売り上げは150億ドルを超えると予想される。また、次世代モノクローナル抗体で呼ばれる、放射性同位体を結合したものや、抗体可変部位のみの極小型、などの新型が開発されている。

成功した抗体の売り上げは莫大で、2004年は抗TNF-α抗体Remicade(Centocor社)がトップで21億ドル、Rituxanが17億ドルとブロックバスター製品となっている。特にGENENTECH社が開発した3つのモノクローナル抗体製品(Rituxan, Herceptin, Avastin)はその全てがFDAから認可されており、その全てがヒット製品になっている。一般に4-6年に及ぶ臨床試験で製品が生き残る確率はわずか20%であることから考えて、これは米製薬業界史上稀にみる成功である。

モノクローナル抗体が最も成功した要因にひとつは、抗体はもともと生体防御タンパク質として進化した分子なので、他のタンパク質と比べ極めて安定性の高く半減期が長いこと、標的と結合した後、身体の免疫機構を利用するため、増幅効果を期待できることなどである。これとくらべ、同じく1990年代から開発中のアンチセンス (antisense) 薬品は、標的細胞内の核内に輸送すること自体が至難の業であることから、GENTA社やISIS社が莫大な開発費を投じた製品はほぼ全て失敗に終わっている。

日本で上市されている医薬品[編集]

モノクローナル抗体薬の名称は語尾が"-mab"(Monoclonal AntiBodies)であらわされる(分子標的治療薬参照)。