場面緘黙症

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場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)とは、家庭などでは話すことができるのに、社会不安(社会的状況における不安)のために、学校や幼稚園といったある特定の場面、状況では全く話すことができなくなる現象を言う。幼児期に発症するケースが多い。別名、選択性緘黙症。英語名、Selective Mutism

症状[編集]

概要[編集]

場面緘黙は、ある特定の場面でだけ全く話せなくなってしまう現象である。子供が自宅では家族らと問題なく会話をしていても、学校や幼稚園など家の外では全く、あるいはそれほど話さず、誰とも話さないという例は多い。そして、その子供は非常に内気な様子に見え、グループでの活動に入りたがらなかったりする。 たいていの場合、発話以外の、表情や動作やその他のやり方であれば、人とコミュニケーションを取ることができる。また、脳機能そのものに問題があるわけではなく、行動面や学習面などでも問題を持たない。

単なる人見知り恥ずかしがり屋との大きな違いは、症状が大変強く、何年たっても自然には症状が改善せずに長く続く場合があるという点である。

経過[編集]

場面緘黙の経過は子供によって異なるが、効果的な教育的介入によって1、2年で克服することもある。また、長い間治らない例はあまりないが、効果的な教育的介入を行わないと、小学校、中学校、高校、成人まで継続することもある。早期に適切な教育的介入を行うことが大切である。

また、場面緘黙児を青年期や大人になるまで追跡した調査は少ないが、その調査によると、子供の頃に場面緘黙の治療を受けたことがある成年や大人のうち、約半数が「現在は何の問題もない」と報告している。しかし、残りの半数は、同年齢の一般の人たちに比べて「自信が無く、自立心に欠け、大人になりきれていない」と表現している[要出典]

発症年齢[編集]

一般的に、2~5歳の間に発症する。しかし多くの場合、6~8歳になるまで診断や治療はほとんど行われていない。これは、疾患に対する理解度の不足などにより、単なる引っ込み思案といった性格的原因との区別がつけにくいためである。

発症率[編集]

現状ではあまり明確になっていない。

1998年の調査では小学校低学年では全体の2%がこの症状を持っているという報告がされた (Kumpulainen et al., 1998)。また、性別では女の子の方が男の子より1.5~2倍の割合となっている (Steinhausen and Juzi, 1996)。

アメリカの精神医学誌The Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatryの2002年の調査では、その発生率は1000人中7人の割合とされた。

診断[編集]

場面緘黙症の判断基準について、2つの主流の分類を以下に示す。

ICD-10[編集]

選択性緘黙症とは、話す際に著しい、感情的に断固とした選択性があるのが特徴であり、子供がある若干の状況で言語能力を示すが、別の(定義可能な)状況では話すことができないものである。この障害は、通常、社交不安障害引きこもり過敏症または治療に対する抵抗などを含む、際立った個性機能と関係している。

ただし以下は除外する:

DSM-IV[編集]

場面緘黙症(選択性緘黙症)

  • 他の状況では話すことができるにもかかわらず、ある特定の状況(例えば学校のように、話すことが求められる状況)では、一貫して話すことができない。
  • この疾患によって、学業上、職業上の成績、または社会的な交流の機会を持つことを、著しく阻害されている。
  • このような状態が、少なくとも一ヶ月以上続いている。(これは、学校での最初の一ヶ月間に限定されない)
  • 話すことができないのは、その社会的状況において必要とされている話し言葉を知らなかったり、また、うまく話せない、という理由からではない。
  • コミュニケーション障害(例えば、吃音症)では説明がつかず、また、広汎性発達障害統合失調症またはその他の精神病性障害の経過中以外にも起こるものである。

付随する問題[編集]

場面緘黙児のほとんどは、それ以外になんらかの不安に関連した病名を診断されている。多く見られるのが、社会恐怖症、分離不安、完全主義的傾向、強迫的傾向などである。また、病名はないが、特徴的な問題も含めて以下に挙げる。

社会恐怖症[編集]

社会恐怖症の子供は、他人からの否定的な評価を恐れ、自分が何かみっともないことを言ったり、したりするのではないかと過度に気を遣う。具体的には、友達と遊ぶのを避けたり、人前で食べられなかったり、公衆トイレが使えなかったりする。 しかし、場面緘黙症と社会恐怖症の関連はまだきちんと解明されているわけではない。大きな違いは、場面緘黙の発症の多くが2~4歳であるのに対し、社会恐怖症では10~11歳にならないと現れない点、また、場面緘黙児が、非言語的な手段ではコミュニケーションを問題なくとれるのに、社会恐怖症の場合はあらゆる面での社会的交流に不安を感じている点がある。

分離不安[編集]

学校へ行くとき親と離れるのを嫌がる、親と別室で寝るのを嫌がる、自分自身や大好きな親に何か悪いことが起きるのではないかと心配する、などの問題を抱えていることもある。これは場面緘黙児の約20~30%にのぼると言われている[要出典]

完全主義、強迫的傾向[編集]

不安や苦痛を伴う固定観念や思考をし、自分の周囲をいつも決まった状態に保つことにこだわったり、失敗に対して過度に神経質になったりする。

学校のトイレを使うのが怖い[編集]

これは、先生に許可をもらうこと、皆の注目を集めることなどが場面緘黙児にとって不安を感じるためである。

反抗行動のようにみえる回避行動[編集]

場面緘黙児は、一見すると反抗的で支配的で人を操っているかのように見えることがある。 しかし、このような行動を起こすとされる場面緘黙児も、不安のない状態においてはそのような行動をみせない。 このことから、これらの行動は不安による行動であることがわかる。つまり、わざと規律に逆らっているのではなく、恐怖を感じる場面を回避するために、指示に従わなかったり、規律を守らなかったりしているにすぎない。

原因[編集]

場面緘黙症の子供の多くは、先天的に不安になりがちな傾向がある[要出典]。また、内向的な性格であることが多く、これは扁桃体と呼ばれる領域が過剰に刺激されることによると考えられている[要出典]。この領域は、脅威の兆候を感知すると「闘争・逃避反応 (fight-or-flight response)」を引き起こす。

場面緘黙症の子供には、感覚情報の処理に問題のある、感覚統合障害(SID)と呼ばれる障害を持つ者もいる。これは不安を引き起こし、子供は「閉鎖」させられて話すことができなくなる[要出典]

場面緘黙症の子供のうちおよそ20~30パーセントは、会話障害あるいは言語障害をも併せ持っている[要出典]。このことによって、子供は話すことが要求される場面でストレスを感じる。また、両親の母語が異なる子供や、言語の異なる外国に暮らす子供、幼少期に外国語にさらされた子供は、話すことが要求された言語について自信を失ってしまうことがある。いずれの場合も子供は内向的な性格を示すが、このような言葉の問題によるストレスは、子供を緘黙にしてしまうのに十分な不安の原因となる。

場面緘黙症の原因が虐待ネグレクト心的外傷によるものであるとは限らない。場面緘黙症の子供は、全く話すことができない状態に症状が進行するケースもあり得るが、ほとんどの場合、場面によっては話すことができる。一方、心的外傷による緘黙は、通常、突然あらゆる場面で話すことができなくなる。

治療[編集]

場面緘黙症は、必ずしも年齢とともに自然に改善されていくわけではない。そのため、低年齢のうちに治療を受けることがとても重要である。そのままにしておくと、周りの人はその子は話さない子と考えるため、緘黙症状そのものが強化されてしまい、話すことがますます難しくなってしまう。

治療の実施に関する問題[編集]

限定された有効性[編集]

場面緘黙の治療実績が多くあり、かつ効果の高い治療法が行動療法である。しかし、場面緘黙の形成機序から考えると、その有効性は限定される。つまり、治療のタイミングとしては、症状が重篤化する前の初期段階でなければならず、必然的に低年齢であることが必要となる。


誤解と名称変更の経緯[編集]

場面緘黙症の英語名“selective mutism”は、以前に“elective mutism”という名称だった。この名称のために「ある特定の状況で話さないことを自分の意志で選んでいる」と、心理学者でさえ誤解するような状況が広まってしまった。しかし、場面緘黙症の人たちは、話そうとしても、極度の不安のためにどうしても声が出ないのであり、故意に話さないわけではない。DSMでは1994年、故意に話さないのではなく、話すことができないのだと言うことを示すために、“selective mutism”と改称された。しかしながら、これに類する誤解が、今なお多く流布している。例えば、2005年5月26日のABCニュースでは、ニュースリポートの中で、この疾患の原因はトラウマであるとか、わがままで故意に話さないためなどと、誤った報道があった。

出典[編集]

外部リンク[編集]

関連項目[編集]