広汎性発達障害

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

広汎性発達障害(こうはんせいはったつしょうがい、PDD, pervasive developmental disorders)とは、社会性の獲得コミュニケーション能力の獲得といった、人間の基本的な機能の発達遅滞を特徴とする「発達障害における一領域」のことである。

伝統的には発達障害の概念を「広汎性発達障害」と「特異的発達障害」の領域に二分してきたが、特に2000年代以降の臨床医学においては発達障害の概念が整理し直されている。なお、発達障害は、各種の診断基準や疾病分類において精神疾患に含まれる。

概要

広汎性発達障害には、知能指数が低い場合と高い場合の双方が見られる(後者は、知的障害がない、という意味で「高機能PDD」と称する)。知能指数が低い場合の方が、発見が比較的容易だったとされることから旧来より認知されてきており、知能指数の高い場合については、1980年以降からしばしば認知されるようになった。

広汎性発達障害の「広汎性」というのは、「特異的」な発達障害に対する呼び方である。広汎性発達障害、特異的発達障害は、双方ともに発達障害であるものの、発達障害の概念については整理のやり直しが行われており、「○○発達障害」という診断名でなくても、日本の公的機関における取り扱いにおいては発達障害に含められるものもある[1]。現在の臨床医学において「広汎性発達障害」は、世界保健機関が定めたICD-10疾病及び関連保健問題の国際統計分類 第10版)、アメリカ精神医学会が刊行したDSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引 第4版新訂版)などにおける分類上の概念として取り扱われている。

アメリカ精神医学会が刊行したDSM-IV-TR(精神疾患の分類と診断の手引 第4版新訂版)においては、広汎性発達障害に、自閉症アスペルガー症候群レット障害小児期崩壊性障害特定不能の広汎性発達障害(非定型自閉症を含む)が掲げられており、世界保健機関が定めたICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類 第10版)においては、DSM-IV-TRと診断分類および診断基準ともに、やや異なる。

知能指数が知的障害の領域にない広汎性発達障害は、高機能広汎性発達障害(一般的には、略称の「高機能PDD」を用いるが、通常は高機能自閉症アスペルガー症候群の2つの総称を指す)と呼ばれることもあり、発達障害に分類される。自閉症には、知的障害をともなう場合と、知的障害をともなわない場合である高機能自閉症があり、これらは、別個の障害ではなく一連の要素を含む先天性認知障害である。

世界保健機関 (WHO) のICD-10疾病及び関連保健問題の国際統計分類)においては、症状がいつ認められるかについて統一性がない。自閉症は遅くとも生後30ヶ月以内に症状が認められる症候群であるとされているが、小児期崩壊性障害はそうではない。

分類

ICD-10に基づいて分類すると、下記のものが概ね該当する。

F84.0 自閉症
カナー症候群高機能自閉症、児童精神病、自閉症小児自閉症、小児精神病
診断基準としては、3つの点が基本障害とされている。
  1. 対人的な相互反応の障害、社会性の障害。
  2. 言語・非言語によるコミュニケーションの障害。
  3. 想像力の障害とそれに基づく行動の障害。
てんかんなどの脳波異常や脳室拡大が合併する事もある。
難治性ではあるが特定の症例を除き進行性ではなく、一患者に於いては発達が見られる。古典的タイプのカナー型自閉症の発症率は約1,000人に1人で男:女=4:1とされる。人種による差はない。
アスペルガー症候群を除き言葉の発達の障害が見られるため聴覚障害と鑑別しなければならない。聴覚障害や癲癇(てんかん)は、脳波検査で判定できる。治療は、コミュニケーションを促す療育的対応を基本として、個別一過性の症状には対症的な薬物療法を行う。薬物療法は、自傷行為に対して向精神薬を用いる等する。
F84.1 非定型自閉症
自閉的特徴を伴う精神遅滞、非定型自閉症、非定型小児精神病
[icon] この節の加筆・修正が望まれています。
F84.2 レット症候群
レット症候群
1966年、ウイーンの小児神経科の医師 Andreas Rett(アンドレアス・レット)博士によって一つの症例が発表され、彼の名を取って「レット症候群」と名付けられた。進行性の神経疾患で、知能や言語・運動能力が遅れ、常に手をもむような動作や、手をたたいたり、手を口に入れたりなどの動作を繰り返すことが特徴。
生後六ヶ月から一年六ヶ月の頃に発症。児童期には体幹失調・脊椎変形・舞踏病様運動・てんかん発作が現れ、進行性。運動機能が崩壊する。精神遅滞は重度。ほとんど女児に発症。発症率は、女児一万人から一万五千人に一人といわれている。
F84.3 その他の小児期崩壊性障害・児童期崩壊性障害
ヘラー症候群、共生精神病、崩壊精神病
[icon] この節の加筆・修正が望まれています。
F84.4 知的障害精神遅滞)と常同運動に関連した過動性障害
精神遅滞と常同運動に関連した過動性障害
[icon] この節の加筆・修正が望まれています。
F84.5 アスペルガー症候群、自閉的精神病質、小児シゾイド障害、小児期型統合失調症
[icon] この節の加筆・修正が望まれています。

一般的には自閉症の軽度例と考えられている[要出典]が、自閉傾向が強い場合は社会生活での対人関係に大きな問題が起きるため、必ずしも知的障害がないから問題も軽度であるとは限らない。言語・認知的発達の遅滞は少なく自閉症とは区別される。アスペルガー症候群は、知的障害のある例は少なく言葉の遅れもないため、障害があるようには見えないことが多い。人前で独り言を言ったり常同運動をしたりすることは極めて稀である。一見自閉症にはみえない自閉症といえる。その為に支援が遅れがちで、大人になってからの診断例も目立つ。

F84.8 その他の広汎性発達障害
自閉性精神発達遅滞
[icon] この節の加筆・修正が望まれています。
F84.9 広汎性発達障害,詳細不明
広汎性発達障害
上記の広汎性発達障害のいずれにも分類されないものを指す。DSM-IV-TRでは、特定不能の広汎性発達障害が該当する。

犯罪との関係

医統計学においては、健常者と広汎性発達障害の診断を受けた者との犯罪率に有意差はないと考えられているが[2]、その一方で法医学の実務分野においては、広汎性発達障害の資質と関連が深い事件も存在すると考えられている[3][4]。この相反する見解に関しては、司法の場における広汎性発達障害の医療的解釈には、遺伝や器質といった医療的要素のほかに、家庭や学校などの生育環境や情緒的要因などの非医療的な要素が含まれており、医療現場における医療的解釈と司法現場における法医学的解釈に差異が生じているとの指摘がある[5]

高機能広汎性発達障害

広汎性発達障害のうち、知的障害を伴わないものを高機能広汎性発達障害(英:High Functioning Pervasive Developmental Disorder、略称は、HFPDDとなるが、一般的には、「高機能PDD」と称している)としている。ここでの「高機能」とは、知的障害のないという意味であり、障害の度合いや複雑度などを指すものではない点に注意が必要である。

主に、高機能自閉症(High Functioning Autism)とアスペルガー症候群(Asperger Syndrome)の総称として用いられているが、双方の症状に境界線が明確に引けない場合もあるため、包括して「高機能PDD」とされる場合もある。

専門家によっては、高機能広汎性発達障害と(いわゆる、従来型自閉症とも称される)知的障害を伴う自閉症の境界も区別できないケースあるいは、連続性があり不可分であるという考え方もあるとして、さらにそれらを包括した「自閉症スペクトラム(英:Autistic Spectrum Disorders)」として扱う場合もある(東北大学大学院教育学研究科の黄淵煕などが、これらの説を支持し提唱している)。


脚注

  1. ^ 発達障害者支援法第2条第1項など
  2. ^ 山崎晃資、『少年事件: おとなは何ができるか』、22ページ、同人社、2008年07月
  3. ^ 太田昌孝・永井洋子『自閉症治療の到達点』、347ページ、日本文化科学社、1992年12月
  4. ^ 愛知教育大学教育実践総合センター紀要 第12号, pp.37-51, 2009 (PDF)
  5. ^ 少年非行と障害の関連性の語られ方 : DSM型診断における解釈の特徴と限界, 人間文化創成科学論叢, 11: 227-236 (PDF)