シロシビン

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シロシビン
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識別情報
CAS登録番号 520-52-5
PubChem 10624
ChemSpider 10178
日化辞番号 J6.604D
KEGG C07576
特性
化学式 C12H17N2O4P
モル質量 284.25 g mol−1
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

シロシビンあるいはサイロシビン(Psilocybin、4-ホスホリルオキシ-N,N-ジメチルトリプタミン)は、シビレタケ属ヒカゲタケ属といったハラタケ目キノコに含まれるインドールアルカロイドの一種。強い催幻覚性作用を有する。

菌内で共存しているシロシン(サイロシン)(Psilocin、化学式:C12H16N2O)のリン酸エステルで、シロシビンが加水分解されるとシロシンとなる。

概要[編集]

シロシビンは、生合成的にトリプトファンに由来するアルカロイドインドールアルカロイド)で、脱炭酸されたトリプトファンはトリプタミンとなり、それがインドールアルカロイドの前駆体となる。シロシビンの毒素はトリプタミン誘導体で、その構造は脳内の神経伝達物質であるセロトニンと類似しており、中枢神経系のセロトニン受容体に作用して幻覚・幻聴などを引き起こす。末梢神経系では、セロトニン-ノルアドレナリン経路を介して作用すると考えられている。また、リゼルグ酸ジエチルアミド (LSD) とも似た構造で、効能も似ているために代替薬品としても用いられるが、日本では麻薬及び向精神薬取締法により、シロシン共に厳しく規制されている。

LSDあるいはメスカリンと同時に摂取した場合、類似の構造をもつ物質であるために交差耐性ができる[1]

熱にも安定な物質で、加熱により破壊・除去されない。このため、加熱調理されたオムレツやスープなどにシロシビンを含む菌類を混ぜて摂食されることが多い。シビレタケ属のキノコから分離されている、同じインドールアルカロイドのベオシスチン(Baeocystin、化学式:C11H15N2O4P)が非常に不安定で、熱や光によってすぐに壊れてしまうのとは対照的である。

シロシビンを多く含む幻覚性キノコは、かなり古くからバリ島メキシコなどではシャーマニズムに利用されてきた。1957年にアメリカの幻覚性キノコ研究者、ロバート・ゴードン・ワッソン (R. Gordon Wasson) と、フランスのキノコ分類学者、ロジェ・エイム(Roger Heim)によるメキシコ実地調査の記録がアメリカのLIFE誌で発表されてからその存在が広く知られるようになり、LSDを合成したことでも著名なスイスの化学者、アルバート・ホフマン(Albert Hofmann)が、動物実験で変化が見られないので自分で摂取し幻覚作用を発見、成分の化学構造を特定しシロシビンとシロシンと名づけた。

シロシビンを含む菌類[編集]

シロシビン、シロシンを含むのはハラタケ目のキノコで、同じ種でも採取場所や時期によっても含有量は異なってくるが、特に多量にシロシビンを含む属として、前述のシビレタケ属、ヒカゲタケ属と、日本では小笠原諸島などに分布する熱帯性のアオゾメヒカゲタケ属が挙げられる。僅かでも含むものも数えれば、その数は180種以上にも及ぶ。その中には、シロシビン以外の毒が共存するキノコも少なからず存在する。

ヒトヨタケ科 Coprinaceae
ジンガサタケ属 Anellaria
アオゾメヒカゲタケ属 Copelandia
ヒメシバフタケ属 Panaeolina
ヒカゲタケ属 Panaeolus
フウセンタケ科 Cortinariaceae
ケコガサタケ属 Galerina (猛毒のα-アマニチンも含む)
チャツムタケ属 Gymnopilus
アセタケ属 Inocybe
オキナタケ科 Bolbitiaceae
フミヅキタケ属 Agrocybe
コガサタケ属 Conocybe
モエギタケ科 Strophariaceae
クリタケ属 Hypholomaニガクリタケは猛毒)
シビレタケ属 Psilocybe
キシメジ科 Tricholomataceae
ヒナノヒガサ属 Gerronema
クヌギタケ属 Mycena
ウラベニガサ科 Pluteaceae
ウラベニガサ属 Pluteus

日本で規制されている種[編集]

シビレタケ属 Psilocybe
ヒカゲシビレタケ P. argentipes
ミナミシビレタケ(別名:ニライタケ) P. cubensis
アイセンボンタケ P. fasciata
ヤブシビレタケ P. lonchophorus (日本での自生は未確認)
オオシビレタケ P. subaeruginascens
アイゾメシバフタケ P. subcearulipes
シビレタケ P. vanenata
ヒカゲタケ属 Panaeolus
ワライタケ P. papilionaceus
ヒカゲタケ P. sphinctrinus (最近ではワライタケと同種と考えられている)
センボンサイギョウガサ P. subbalteatus
アオゾメヒカゲタケ属 Copelandia
アオゾメヒカゲタケ(俗名:ハワイアン) C. cyanescens

日本で法規制前に合法ドラッグとして市販されていたシロシビン群キノコの代表的なものとして、シロシベ・クベンシス(ミナミシビレタケ)、シロシベ・アズレンシス(P. azurenscens)、シロシベ・メキシカーナ(俗名:メキシカン/P. mexicana)、コーポランディア・サイアネンシス(アオゾメヒカゲタケ)などの北中米原産種がよく知られる。

薬理作用[編集]

摂取後は速やかに加水分解されてシロシンとなり、腎臓肝臓血液に分布する。ヒトの中毒量は5-10mg程度(乾燥したシロシベ・クベンシスで1-2g相当)。15mg以上も摂取すると、LSD並の強烈な幻覚性が発現する。成長したヒカゲシビレタケ、オオシビレタケで2、3本、アイゾメシバフタケだと5、6本で中毒する。分離したシロシビンを直接静脈注射すると、数分で効果が現れる。

症状は、摂取してから30分ほどで悪寒や吐気を伴う腹部不快感があり、1時間も過ぎると瞳孔が拡大して視覚異常が現れ始め、末梢細動脈は収縮して血圧が上がる。言わば、交感神経系が興奮した時と似た状態である。2時間ほど後には幻覚、幻聴、手足の痺れ、脱力感などが顕著に現れて時間・空間の認識さえ困難となる。その後は徐々に症状が落ち着き始め、4~8時間でほとんど正常に戻る。痙攣や昏睡などの重症例は極めて稀で、死亡するようなことはまずないが、幼児や老人が大量に摂取すると重篤な症状に陥ることもある。シビレタケ属の一種で、シロシビン含有量の多いシロシベ・ベオシスチン(Psilocybe baeocystin)を子供が誤食して死亡した例が報告されている。

ベニテングタケテングタケに代表されるイボテン酸の中毒症状は、最終的に意識が消失していく傾向にあるのに対し、シロシビン中毒では過覚醒が発現することが多い。

長期間常用しても蓄積効果はなく、肉体的な依存性もないが、大麻程度の精神依存があるとされる。また、摂取した後も3ヵ月以内くらいは、深酒や睡眠不足などの疲労によって幻覚や妄想が再燃するフラッシュバックが起こる可能性が指摘されている。他の副作用としては、バッドトリップを体験することで、正常状態に戻ってからも慢性的なに陥ることがある。

アメリカでは、強迫性障害や、群発性頭痛にシロシビン処方の治療臨床試験が行ない、一定の効果を得たという報告もある[2][3]

脚注[編集]

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  1. ^ レスター・グリンスプーン、ジェームズ・B. バカラー 『サイケデリック・ドラッグ-向精神物質の科学と文化』 杵渕幸子訳、妙木浩之訳、工作舎、2000年。ISBN 978-4875023210。46頁。(原著 Psychedelic Drugs Reconsidered, 1979)
  2. ^ WIRED.jp (2004年10月1日). “幻覚剤の治療臨床試験、本格化へ(上)”. 2009年11月22日閲覧。
  3. ^ WIRED.jp (2004年10月1日). “幻覚剤の治療臨床試験、本格化へ(下)”. 2009年11月22日閲覧。

関連項目[編集]