棋風

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棋風(きふう)とは、将棋囲碁チェスなどのボードゲームにおけるその人の着手の特徴のことである。

概要[編集]

二人零和有限確定完全情報ゲームでは、理論上は完全な先読みが可能ではあるが、現実的には指せる手の選択肢が多く、時間の制限もある。またゲームに対する棋士の考え方などにも影響されるため、同じ局面を同じ技量の棋士が検討しても指し方に違いが現れる。

将棋における棋風[編集]

将棋の場合、「居飛車」と「振り飛車」のいずれかに該当し、さらに「急戦」か「持久戦」のどちらかに分類される。また、羽生善治のように相手にあわせて自在に戦法を変えたり、加藤一二三のように一つの戦法にこだわりを見せる、などの信念の違いも棋風の一つとされる。

定跡データベースを利用した序盤研究が盛んになるにつれ、それまでの人生観や美的感覚が反映された棋風ではなく、「データベース将棋」と称される、勝率や効率など合理性を追求した棋風も見られるようになっている。

プロ棋士の特徴的な棋風には「○○流」などのキャッチフレーズがつけられているが、これは、原田泰夫が命名したものが多い。

代表的な将棋棋士の棋風[編集]

升田幸三
大駒、特に角の使い方に独特の感性を持つ。大山康晴が全盛期を迎える頃からは、「新手一生」を座右の銘として掲げ、数々の新手を生み出して対抗した。
大山康晴
若い頃は相居飛車も指したが、居飛車対振り飛車対抗形を得意としている。守りながら敵玉の距離を計るのが上手く、仕留めるときは一気に決めることが多い。囲いで守るよりも序盤は陣形全体のバランスで守り、中盤から徐々に駒を玉側に寄せていくのは独特の感性であり、囲いで守る代表の穴熊を苦にしなかった。羽生善治は大山の棋風について、深く読んで最善手を追求することをせず、大らかに指す棋風であると評している。
加藤一二三
生粋の居飛車党で、良いと思った戦法を指し続けることが多い。代表的な例としては「加藤棒銀」と呼ばれるほど、棒銀にこだわりを持っている。序盤の研究も深く、「加藤流」の名がついたものが多い。先攻しながらも一気にいかずに柔軟に攻めを続けたり、受けつつ力を溜めて一気に攻撃に行くなど、斬り合いに強い。
内藤國雄
指し手のバリエーションが豊富で、「自在流」と呼ばれる。横歩取りの後手番で角を3三に上がり、飛車・角が高く舞う「空中戦法」で、升田幸三賞を受賞。
米長邦雄
中央の厚みを活かす戦い方が多い。終盤で劣勢のとき、紛れを作って逆転することから「泥沼流」と呼ばれる。香車の上に玉を置く「米長玉」で升田幸三賞を受賞している。
中原誠
振り飛車も指すが、全盛期時代は居飛車が多かった。攻防のバランスが取れた棋風であり、指されてみれば自然に見える、格調が高い指し回しで圧倒的な強さを誇ったことから、「自然流」と呼ばれる。桂馬の使い方がうまく、「桂使いの名手」と言われる。手を作ることが上手いため、「中原流」と呼ばれる多くの戦法(将棋大賞の升田幸三賞を受賞)がある。
谷川浩司
終盤において、早い段階で寄せの手順を読むため「光速の寄せ」「光速流」と言われる。また、指し手に迷うとき、駒が前に行く手を優先することから「谷川前進流」とも呼ばれる。
南芳一
対局している姿、棋風ともに「地蔵流」と呼ばれてはいるが、敵陣を一気に攻め潰す将棋も多い。その攻めを「地蔵攻撃」と呼ぶことも。
羽生善治
急戦・持久戦問わず指しこなす居飛車党で、振り飛車を採用することもある。終盤で相手を惑わせる手や気づきにくい妙手を放つことから、「羽生マジック」と呼ばれる。盤面全体を上手く使う柔軟な棋風で、殆どの戦型で高い勝率を誇るため、得手不得手は際立っていない。
佐藤康光
成算があると思えば危険でも踏み込んでいく特徴があり、直線的な指し手が多い。かつては居飛車を主に指し、相手の得意戦法を真っ向から受けて立つ棋風であったが、タイトル戦への登場が頻繁になった頃から振り飛車も頻繁に採用するようになった。またこの頃から、数々の新手も編み出すようになった(2006年度の将棋大賞で、最優秀棋士賞と升田幸三賞を同時受賞)。なお、深く鋭い読みを持つことから「緻密流」と呼ばれるが、先崎学は「‘緻密’ではなく‘野蛮’」と評している。
森内俊之
主に矢倉を好むが振り飛車も指しこなす、オールラウンドプレイヤーである。「受けが強い」というイメージから、一般的には「鉄板流」と呼ばれる。
丸山忠久
居飛車党で、角換わり腰掛け銀などの激しい戦形を得意とするが、攻撃的な手よりも渋い手の方が目立つ。終盤で勝勢になっても一気に勝負を決めに行かずに、着実に自身の優勢を積み上げていく(将棋用語で"辛い")指し回しから、「激辛流」と呼ばれる。
藤井猛
振り飛車の天敵であった居飛車穴熊や左美濃を、序盤から一気に撃退しに行く革新的な四間飛車戦法「藤井システム」(98年度升田幸三賞を受賞)の開発や'振り飛車には角交換'の格言を覆す角交換四間飛車(12年度升田幸三賞を受賞)を発展させるなど四間飛車における序盤研究の大家として有名。対急戦にも研究が深く、対棒銀などでも決定打を出している。また、大駒を切って、金銀で露骨に相手玉に迫る「ガジガジ流」でも恐れられている。なお、居飛車の矢倉も指すことがあり、特に、2008年頃から指すことが増えて話題となった。
渡辺明
居飛車党。穴熊囲いの採用率が多いところが「現代的」と言われていて、居飛車対振り飛車の対抗形だけでなく、矢倉戦でも玉を穴熊に囲うことが多い。ただ、穴熊が多いことでプロでの評価は低かったが、竜王戦で羽生相手に矢倉後手急戦を連続採用したことで、谷川に「評価が変わった」と言わしめた。また、素朴な指し手が多いのも、ある意味特徴的と言える。
久保利明
振り飛車党で三間飛車を得意とし、早石田を現代に蘇らせた棋士の一人である。駒の軽い捌きが特徴で「捌きのアーティスト」「カルサバ流」と呼ばれる。久保の左桂の捌きに憧れるプロ棋士も多い。

囲碁における棋風[編集]

囲碁の場合、「実利派」と「模様派」に大別される。前者は先に地を稼いで相手模様の荒らしに賭けるタイプ、後者は雄大な模様のスケールで勝負する。

近年は地に辛いスタイルが、世界的に主流になりつつあるといわれる。

代表的な囲碁棋士の棋風[編集]

趙治勲
低く構えて地を先に稼ぎ、後から相手の模様に侵入して荒らすタイプ。ギリギリまで最善を求める、妥協のない打ち方をする。普通とうてい入れないと見られるような地模様に打ち込んで荒らしてしまったり、攻めの対象にはならないような強い壁を攻撃し、もぎ取ってしまうことも。また高尾紳路は趙について、「まったく目算をしていない(できていない)。目算をすると、どうしても手が緩んで、負けに近づいてしまうからでしょう。」と語っている。
山下敬吾
位の高い碁を志向する。攻撃的で読みが鋭く、実戦的なスタイル。かつては五ノ五や初手天元など意表を突く布石を試みたが、近年はオーソドックスな布石を打つ。また地に辛くなりつつあるともいわれる。
張栩
実利を好むタイプ。部分の読みの速さ、正確さに支えられた戦闘力にも定評がある。早い時点から正確に形勢を見切る能力に長けているといわれる。ヨセコウに強いことでも有名。
高尾紳路
現代にあっては珍しく、厚みを重視する棋風。手厚い打ち方から繰り出される、重厚な攻めに定評がある。
羽根直樹
低段時代は手厚い碁が多かったが、近年は石の形を重視し、地に辛い碁を打つことが多い。バランス型とされるが、時に深いヨミを発揮することもある。
河野臨
冷静な打ち方で、ヨセで勝負をつけることが多かったが、近年戦闘力を身につけて力強さを増したといわれる。また布石の研究にも熱心で、布石の打ち方に工夫が多い。
結城聡
石の働きを追求する戦闘的な棋風で、上段の構えから力で圧倒する。乱戦を好み、「武闘派」と称される。
依田紀基
スケールが大きく華麗な棋風で、大胆なフリカワリ捨て石を見せることも多い。石の筋を重視し、筋についての考え「筋場理論」を考えだしている。また時に白番天元・初手5の十・2手目7の十など非常に大胆な布石を見せることもあるが、総じて布石の上手さには定評がある。「勝ち碁を勝ちきるのが上手い」と評されるが、時に楽観から大逆転負けを喫することもある。
小林光一
実利派であるが、部分の味や含みを残さず「決め打ち」をしてしまうことで有名。勝負に徹した打ち方と評されることが多い。
武宮正樹
黒番のときは、相手に実利を与えて中央に巨大な模様を張る、「宇宙流」といわれる独特のスタイルの碁を打つ。白番のときには、相手の打ち方によって動き方を決める、平明で流れるような碁を打つことから「自然流」といわれる。アマチュアに人気がある他、世界の囲碁界に与えた影響も絶大である。
加藤正夫
圧倒的な戦闘力、攻撃力や、死にそうにない相手の大石を殺してしまうことから「殺し屋」と恐れられた。一時はヨセの正確さから「ヨセの加藤」と謳われた時代もあった。序盤は厚みを重視することが多い。
石田芳夫
緻密な計算と正確なヨセから「コンピュータ」と呼ばれた。定石や布石の研究にも定評がある。目外し三々を好んで用いることでも有名。
林海峰
若い頃には実利を重視し、粘りのある棋風で「二枚腰」と呼ばれたが、壮年以後は戦闘的な棋風となった。
大竹英雄
石の形、筋にこだわった手厚い打ちまわしは「大竹美学」と呼ばれ、称えられることが多い。
王立誠
実利とスピードを重視した実戦的な棋風と評されることが多い。変幻自在な打ちまわしを見せ、中盤から終盤にかけての逆転力にも定評があり、「立誠マジック」とよばれる。
小林覚
筋を基調とする碁で、若いころは厚みを活かした追い込みに特徴があったが、徐々に地やスピードも重視する棋風に変わってきたと言われる。近年は序盤構想に新境地を見出すことも多い。
片岡聡
石田芳夫と対比して「新コンピュータ」と呼ばれるほど終盤の正確さが際立つ。筋のよい碁を打つことでも有名。
王銘琬
「ゾーンプレス」という独自の理論(正確にはサッカーの戦法からの流用)に基づき、「メイエンワールド」と呼ばれる実利よりも模様・位を重視する独特の碁を打つ。勝率は高いが、ポカが多いことでも有名。
坂田栄男
切れ味の鋭いシノギを特徴として「カミソリ坂田」の異名を持ち、数々の妙手、鬼手と呼ばれる手を残している。また、布石での三々を多用した。
藤沢秀行
豪快で華麗な碁で、「厚みの働きを最もよく知る」と言われた。序盤から中盤にかけて圧倒的な構想力を見せるが、ポカで負けることが多かった。
呉清源
積極的な打ちまわしを見せ、大局観や終盤の収束力に優れていると評される。コウに強いとも言われた。木谷実とともに「新布石法」を発表するなど、序盤研究に余念がない。
井山裕太
決まったスタイルを持たず、地に辛い碁も厚い碁も柔軟に使い分ける。全局的な発想に長けており、定石研究も積極的に行っている。また、常に最強手を選び、妥協しないことでも有名である。
伊田篤史
序盤は厚く打ち、中盤にかけて相手を攻める棋風。また、目外し二連打や大高目打ちなど、奇抜な布石を敷くことも多い。
一力遼
早見えで、序盤から積極的に勝負を仕かけていく好戦的な棋風。
AlphaGo
序盤から終盤まで、徹底的して効率重視の打ち回し。カタツキを多用し、三々入りが早い。

チェス[編集]

チェスにおいては棋風に相当する用語としてスタイル(Style)と呼ばれる考えがあり、得意とするオープニングや、駒の交換の拒否、引き分けを積極的に狙うなど、選手の気質や戦略などを表すときに使われる。

関連項目[編集]