村田システム

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村田システム(むらたシステム)は村田顕弘が開発した将棋の戦法の一つ[1][2]。角道を開けず、王の頭上にある歩を早くに突くのが特徴[2]第51回将棋大賞では「村田システムなど独自の工夫に対して」として村田が升田幸三賞特別賞を受賞している[3]第71期王座戦挑戦者決定トーナメント2回戦藤井聡太竜王・名人戦において、「新・村田システム」[注 1]が採用され[4]、一時評価値「94%」[5]を記録したことによって注目された[6][7][8][9]豊島将之が用いた「豊島流村田システム」[注 2]という手順もあり、藤井聡太も参考にして実践に取り入れている[11]

概要[編集]

△ なし
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2023年にマイナビ出版から村田の著書『オールインワンの新戦法 村田システム』が出版されており[1]、著書の出版にあたって編集者の提案で「村田システム」と名付けたという[12]。同書は将棋ライターの富士波草佑から「あらゆる急戦策への対応が手厚く、ぬかりなく記されている」と評価された[1]

嬉野流の派生形であるとされている[13]。居飛車戦術では矢倉雁木が開けた角道をのちに止めるのに対し、嬉野流や村田システムなどは、最初から角道を開けないなどは共通事項で、嬉野流との違いは、嬉野流が初手は基本的に▲6八銀、後手番なら2手目△4二銀として、左銀を攻撃参加させるのに対し、初手に複数のパターンを用いており、また嬉野流と違い右銀の活用を主としている。村田は実践では初手▲2六歩(後手では2手目8四歩)のパターンが多いが、村田は著書では後手番で相手が初手▲2六歩の場合には2手目には△8四歩ではなく、△3二金という手も解説している[14]。また嬉野流は角を引いて活用し、左銀を前線に展開して2筋を突破していく形である一方、村田システムは序盤角道を開けないことでは嬉野流と共通であるが、相手の展開により居角で途中角道を開けるもしくは引き角にするかを選ぶいう点が異なっており、村田は著書でも角道不突ではなく角道保留という表現を用いている[14]

△ なし
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出だしは、先手番でみると▲2六歩で以下△8四歩ならば▲4八銀△8五歩▲7八金△7二銀▲6八銀△3四歩▲5六歩(図)と進んだ形が基本形であり、角行は相手の出方を見て、場合によっては角道を開き、また場合によっては▲7九角と引いて使っていく[1]。左銀は図のような構えでは▲6八銀と構え場合によって5七から4六と6六へ展開する。他、▲9六歩と9筋の端歩を早めに突く指し方もある[14]

角道を開けないことで居飛車党相手に角換わり横歩取りに誘導させず、スキあらば速攻を目指す、時には旧式の雁木やショーダンオリジナル[15]などの厚みを築く戦術へという手順もあり、銀の使い方も多彩であり右銀、左銀をトリッキーに使い、相手を撹乱できるのも特徴である[1]

振り飛車に対しても、左図のように振り飛車側が四間飛車などを漠然と駒組を進め、図のようにまで進むと、居飛車側の出足の早い早仕掛けが可能で、攻めの銀が5段目の3五地点に進むことができ、早くも村田システム側が指しやすい形勢となっている。図の形成では後手は△3五同歩と取るよりないが、以下▲4六銀に△4四角なら▲3八飛、△3六歩なら▲2四歩の突き捨てで△同歩なら▲3五銀や▲2六飛など。図の四間飛車側の陣形では角道が通っているが5五の地点へ出る順や飛車の位置が角行の活用を阻害ているほか、左銀を早く3二に進めてしまうと飛車も銀将も活用出来ていなくなっている[要出典]

元々この作戦は、アマチュア将棋界で強豪の木村孝太郎が使用しており[16]、2018年の第27期銀河戦の際に中座真を相手に後手番で戦法を試みている[要出典]

村田は「自分の注文で局面を誘導できる」と記し[1][14]、将棋ライターの富士波草佑は「必ず自分の土俵で戦えるのが魅力」という[1]。「右銀村田システム」「左銀村田システム」「後手番村田システム」に細分化され[1][14]、発展形の「新・村田システム」[4][注 1]も存在する[7][9][17]

プロの実戦例[編集]

2022年以前[編集]

千田翔太によると、田丸昇が1990年代に新・村田システムの手順を指していたという[18]。また、2018年3月30日に指された第43期棋王戦第五局、渡辺明 vs 永瀬拓矢戦で、永瀬が後手番で村田システムの駒組を採用[要出典]。戦型はその後先手ツノ銀雁木と後手矢倉に展開するが、渡辺がこのタイトル戦で村田システムを経験したのち、2019年11月17日の第40回将棋日本シリーズJTプロ公式戦 決勝戦、対広瀬章人戦で早速採用している[要出典]

2023年以降[編集]

村田顕弘自身は、2023年から村田システムを使用。5月12日[19]第71期王座戦挑戦者決定トーナメント1回戦・木村一基戦や、7月4日の朝日杯将棋オープン戦西川和宏戦で使用し、勝利している[20][12]

6月28日には第71期王座戦挑戦者決定トーナメント2回戦藤井聡太竜王・名人戦で発展形の「新・村田システム」[21][注 1]を採用[7][9][17]。村田は先手で、角道をなかなか開けないものの、5筋ではなく3筋から右銀を進め、浮き飛車とした[6][21]。藤井の勝負手「6四銀」~「5九金」で逆転負けを喫したものの、途中までは村田のペースで勝勢に進め[8][22]、注目を集めた[6][7][8][9]

システムの改良点として、図までの手順では、3筋から右銀を出すという工夫をしている。この順によって△8六飛から5六飛と横歩とりの順の心配をなくし、また△4四歩~△4五歩の銀を追い返す策がきかないなどが挙げられる。そのあと角道を止めた状態で▲5六歩から▲5五歩を築く作戦で、そのあと先手に▲7六歩とされると後手の角が負担になる。このため藤井七冠は△7五歩としたが、▲5八金△6三銀の後、▲7六歩△同歩▲3五銀と先手ペースになっていた[23]

2021年第71回NHK杯テレビ将棋トーナメント1回戦第16局、近藤誠也 vs 森下卓戦では後手の森下が相手の飛車先を切らせず端角を活用した戦型を採用。新・村田システムも、2023年7月27日竜王戦決勝トーナメントの伊藤匠 vs 稲葉陽でも出現している[要出典]

△藤井 歩2
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△藤井 歩4
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△森下 歩
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豊島流村田システム[編集]

豊島流村田システム[注 2]SUNTORY 将棋オールスター 東西対抗戦2023決勝戦1局目、永瀬拓矢 vs 豊島将之戦で出現した村田システムで[10]、先手の永瀬が角換わりに誘導したところ、豊島は角道を開けずに△6二銀とし、そのまましばらく角道を開けず駒組みを進めた(下図参照)[要出典]。永瀬は棒銀を採用し、角道を開けさせてから銀交換→横歩とり、その間豊島は右銀を△6四銀と活用、永瀬も端攻めと攻め続けるが、豊島は自陣の守備駒を前進させ、厚みの陣を築きあげて攻めを受け止めた[要出典]

豊島流の特徴は、後手村田システム側が先手の角換わりを拒否して組んでいるので、先手は角行が7七に配置され、繰り出す銀の攻撃目標となっている[要出典]

△豊島 なし
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△藤井 なし
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2024年3月17日に第49期棋王戦コナミグループ杯五番勝負第4局で藤井聡太棋王が角換わりを拒否し豊島流村田システムを採用。挑戦者の伊藤匠七段相手に勝利を収め、タイトル防衛に成功した[11]。このときも永瀬vs豊島戦同様、伊藤を後手村田システム側の藤井が角と銀の巧みな活用で、先手の攻めを不能にしている[要出典]

関連する戦法[編集]

  • 嬉野流 - 村田システムは嬉野流が派生したものと言われている[13]
  • 英春流カメレオン - この戦法も角道を開けない。村田システムや嬉野流との違いは、対居飛車や中飛車には右銀の3筋からの活用、対三間飛車には両方の銀、右銀の3筋からと左銀5筋からの活用、四間飛車には途中から陽動向かい飛車にする[要出典]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ a b c 「新・村田システム」[21][17][8]だけでなく、「新村田システム」[12]や「シン村田システム」[7]、「シン・村田システム」[9]といった表記揺れがある。
  2. ^ a b 村田顕弘は「豊島流村田システム」と呼んでいるが[10]、「豊島将之流・村田システム」とされることもある[11]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h 富士波 2023.
  2. ^ a b 藤井王将は「村田システム」で止める! 王座戦挑戦者決定T準々決勝、村田六段「棋士人生を懸けて戦う」”. スポニチアネックス. (2023年6月20日) 2023年6月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年6月20日(UTC)閲覧。
  3. ^ 第51回将棋大賞受賞者のお知らせ”. 将棋ニュース. 日本将棋連盟. (2024年4月1日) 2024年4月1日(UTC)閲覧。
  4. ^ a b 村田 2023b.
  5. ^ 大川慎太郎 (2023年7月20日). “期待勝率94%が“一瞬で4%”に…藤井聡太をギリギリまで追い詰めた男の痛恨「最後のほうまで自分に勝ちがあったよな」 村田顕弘六段の告白”. Number Web. 文藝春秋. 2023年10月18日(UTC)閲覧。
  6. ^ a b c 藤井王将 王座戦準々決勝の村田六段戦始まる!先手村田が村田システム採用、攻撃的布陣を敷く”. Sponichi Annex. (2023年6月20日) 2023年6月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年6月21日(UTC)閲覧。
  7. ^ a b c d e 囲碁将棋TV -朝日新聞社- (2023年6月20日). “藤井聡太名人、終盤の劇的な大逆転勝利 シン村田システムに苦戦「ハッキリ苦しくしてしまった」【第71期王座戦挑戦者決定トーナメント2回戦】”. YouTube. 2023年6月21日(UTC)閲覧。
  8. ^ a b c d 人間の可能性信じる…藤井七冠をあと一歩まで追い詰めた『新・村田システム』村田六段の棋士人生をかけた戦い”. 東海テレビNEWS. 東海テレビ. (2023年6月28日) 2023年7月9日(UTC)閲覧。
  9. ^ a b c d e 村田顕弘六段「シン・村田システム」さく裂も藤井聡太七冠に「全く見えなかった手を指され」敗戦”. スポーツ報知. (2023年6月21日) 2023年6月21日(UTC)閲覧。
  10. ^ a b 午前1:29 · 2024年3月18日のポスト”. チーム中部@arm_Chubu. X. (2024年3月18日) 2024年4月1日(UTC)閲覧。
  11. ^ a b c 藤井聡太棋王、決着局勝利のウラに「村田システム」あり!?前例少ない難局の構想「参考に」と笑顔/将棋・棋王戦五番勝負第4局”. ABEMA TIES. (2024年3月17日) 2024年4月1日(UTC)閲覧。ABEMA Times (2024年3月17日). “藤井聡太棋王、決着局勝利のウラに「村田システム」あり!?前例少ない難局の構想「参考に」と笑顔/将棋・棋王戦五番勝負第4局”. news.yahoo.co.jp. ABEMA. 2024年3月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年3月18日閲覧。
  12. ^ a b c 囲碁将棋TV -朝日新聞社- (2023年7月6日). “藤井聡太名人を追い詰めた〝新村田システム〟とは 村田システムとの違い、村田顕弘六段が解説=佐藤圭司撮影”. YouTube. 2023年7月9日(UTC)閲覧。
  13. ^ a b 吉田祐也 (20233年4月22日(JST)). ”藤井聡太竜王が「一本筋が通った戦法」と評した嬉野流、ハッピーな戦法が広げた将棋の可能性[指す将が行く]”. 読売新聞オンライン 2023年6月21日(UTC)閲覧。
  14. ^ a b c d e 村田 2023a.
  15. ^ 沢田 2023.
  16. ^ 木村 2021.
  17. ^ a b c 藤井聡太竜王・名人が“八冠ロード”でベスト4に進出 最終盤で村田顕弘六段に大逆転勝利飾る/将棋・王座戦挑決T”. ABEMA TIMES. (2023年6月20日) 2023年6月21日(UTC)閲覧。
  18. ^ https://search.yahoo.co.jp/realtime/search/tweet/1671440317885603841?detail=1&ifr=tl_twdtl&rkf=1
  19. ^ 木村一基九段VS村田顕弘六段 第71期王座戦挑戦者決定トーナメント 村田顕弘六段の勝利”. 棋戦トピックス. 日本将棋連盟. (2023年5月12日) 2023年7月9日(UTC)閲覧。
  20. ^ 北野新太 (2023年7月11日). “蜃気楼の記憶 藤井聡太を翻弄した勝負師 村田顕弘六段の乾坤一擲”. 純情順位戦 ―将棋の棋士のものがたり―. 朝日新聞デジタル. 2023年7月12日(UTC)閲覧。
  21. ^ a b c 村田 2023b, pp. 115–116.
  22. ^ 勝又 2023, pp. 117–120.
  23. ^ CITEREF村田2023b

参考文献[編集]

  • 木村孝太郎『早指しのコツ ~秒読みで負けない感覚と技術~』マイナビ出版〈マイナビ将棋BOOKS〉、2021年、ISBN 978-4839976736
  • 沢田綱吉『沢田綱吉中央制圧!ショーダンオリジナル』Kindle、2023年、ASIN B0CND2K6VY[信頼性要検証]
  • 勝又清和「プロも驚く仰天妙技 第1回 プロの“あげる”は信じるな!食べて信じる毒まんじゅうの話」『将棋世界』第87巻第9号(2023年9月号)、2023年、117-123頁。
  • 富士波草佑 (2023年3月14日掲載、2023年6月21日更新). “【将棋講座】毎局自分の形に持ち込みたい そんな戦型ありますか?(前編)”. マイナビニュース. 2023年6月21日(UTC)閲覧。
  • 村田顕弘『オールインワンの新戦法 村田システム』マイナビ出版、2023年、ISBN 978-4839982294
  • 村田顕弘「藤井聡太を追い詰めた!村田システムとは何だ?」『将棋世界』第87巻第9号(2023年9月号)、2023年、110-116頁。

外部リンク[編集]