穴熊囲い
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穴熊囲い(あなぐまがこい)は、将棋において使われる囲い(守備の陣形)の一つ。居飛車・振り飛車のいずれの戦法でも用いられる囲いである。囲うまでに手数はかかるものの最も堅固な囲いの一つとさせる。その堅牢さから比喩として用いられることもある。
概要[編集]
端の香車を一つ前に動かし、その後ろに玉将を移動させる様子が、熊が穴蔵に潜るように見えることからこの名が付いたといわれる。古くは「岩屋」「獅子のホラ入り」などとも呼ばれていた。
もともと穴熊囲いは振り飛車の対居飛車用の囲いであり、いわゆる振り飛車穴熊は江戸時代から存在する戦法である。しかし、以前はプロからの評価は低く、「穴熊などやるようでは強くなれない」[1]という偏見もあった。しかし、1970年代に入ると大内延介らによってその優秀性が示された。その後、田中寅彦らにより対振り飛車戦で居飛車側が穴熊に囲う居飛車穴熊が整備され、猛威を振るった。現代では、居飛車穴熊にどう立ち向かうかが振り飛車側の大きな課題の一つとまでなっている。また、現代将棋では居飛車対振り飛車の対抗型だけでなく相振り飛車戦、さらには矢倉戦や角換わり戦などの相居飛車戦でも隙を見て穴熊囲いに組み替える場合が頻繁に出現し、堅さを重視する現代将棋の象徴となっている。
長所[編集]
まず、金銀が連結した形で密集していることが多く非常に堅い。特に横からの攻めには強いとされる。また、玉が隅にいて戦場から遠いことに加えそのままの形では王手が絶対に掛からない(いわゆるゼット)。上部や端からの攻めには比較的弱いものの、それでも攻め手が駒を渡さずに攻略することは難しい。これらの特徴により穴熊囲いに囲った側は、大駒(飛車や角行)を捨てるなどの大胆な作戦を成立させやすい。「穴熊ならではの攻め」と称されることもあり、終盤での大きなアドバンテージとなる。
短所[編集]
序盤では、囲いが完成するまでに手数がかかるためにそれ以前に攻撃を仕掛けられることが多い。また、囲いが完成した形では1ヶ所に駒が密集し偏っているために自陣に隙が多くなり、大駒の打ち込みなどが生じやすい。終盤でも、玉が隅にあるので身動きが取れず持ち駒を打てる場所も限られ受けがないことがある。自陣に隙が多いために相穴熊以外では入玉もされやすく、その場合は必然的に勝ち目がなくなる故に穴熊側が投了したという対局も多い。この時、囲いが全く崩れていない場合などに「(穴熊の)姿焼き」と表現することがある。
また、居飛車穴熊の場合は加えて、相手の角道が直射するという欠点もある。居飛車穴熊の攻略法には、角道を利用したものが多い。
穴熊囲いへの攻略法[編集]
桂、香、歩を使った「小駒の攻め」が有効と言われる。取られたときに守備に使われにくいからである。「と金」を使った横からの攻めは、遅くはあるが受けにくいため特に有効とされる。守りの金銀を相手にしない端攻めも有効であり、端に狙いをつけた一間飛車、地下鉄飛車といった戦法もある。
なお、桂馬が跳ねた形を俗に「パンツを脱いだ」と言い、囲いが著しく弱体化する[2]。居飛車穴熊対策の戦法としては、四間飛車の「藤井システム」が有名である。自分の囲いに手数をかけず(ほとんど居玉のまま)角道と端攻めなどを併用し、居飛車穴熊が完成する前に攻略する。他に中田功XPなどがある。
バリエーション[編集]
穴熊囲いには様々なバリエーションがある。
金銀2枚を用いたものは、堅さではやや劣るが、その分自陣の駒のバランスを保つことができ攻撃にも駒を生かしやすい。主に、振り飛車側が急戦に備えるために使われることが多い。この時左金は初期位置に待機し、状況次第で囲いに近づける。
金銀3枚を用いたものは、居飛車・振り飛車問わず使われる。上図のものが一般的であるが、2枚の金の位置は状況や棋風などによって多少変化することもある[3] 。近年では、金1枚を(先手なら)七段目に配置したものもある。広瀬章人はこの構えを「現代穴熊」と呼んで多用し、好成績を残している。
金銀4枚を用いた穴熊囲いは極めて堅固である。かつては4枚の銀冠から発展する場合などが多かったが、はじめから四枚穴熊を目指すこともある。アマチュアの強豪である田尻隆司が考案した「田尻穴熊」や、松尾歩が考案した「松尾流穴熊」、居飛車側の理想型とされる「ビッグ4」と呼ばれるものが特に知られている。
参考文献[編集]
- 小倉久史著 『下町流三間飛車―居飛穴攻略の新研究 (振り飛車の真髄)』、毎日コミュニケーションズ、2006年 ISBN 4839920524
- 週刊将棋, ed. (2004), 役に立つ将棋の格言99, 毎日コミュニケーションズ
- 塚田泰明監修、横田稔著『序盤戦! 囲いと攻めの形』、高橋書店、1997年 ISBN 4-4711-3299-7
- 原田泰夫監修、荒木一郎プロデュース、森内俊之ら(編)、2004、『日本将棋用語事典』、東京堂出版 ISBN 4-490-10660-2
脚注[編集]
関連項目[編集]
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