入玉

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入玉(にゅうぎょく)とは、将棋で一方の玉将(玉)または王将(王)が敵陣(相手側の3段以内、自分の駒が成れるところ)に入ることを言う。まれに入王(いりおう)と呼ばれる場合もある。

概説[編集]

将棋の駒は、玉将・飛車(竜王)・角行(竜馬)以外のほとんどの駒は前方には強いが後方には弱い上、敵陣内では歩兵香車などを容易に成らせることができるため、相手の玉将が入玉し、後方に陣取られてしまうと、詰めるのが非常に困難になる。このため、両者の玉将が入玉したときは、両者の合意によって対局を中断して点数計算を行う。

点数計算は、自分の盤上の駒と持ち駒を、

として合計する(駒落ち将棋の場合は、落とした駒が上手にあると仮定して計算する[1]。また駒落ち将棋の場合、相入玉した場合は無条件で上手の勝ちとするルールもある)。この方法で点数を計算し、24点に満たないほうを負けとし[2]、両者とも24点以上の場合は引き分けになる。この引き分けを持将棋(じしょうぎ)と言う。

2018年2月27日
第31期竜王戦・6組ランキング戦

第420手[3] △8七歩成まで持将棋
中尾敏之 持駒:銀二歩四

Shogi zhor 22.png
91 81 71 61 51 41 31 21 11
92 82 72 62 52 42 32 22 12
93 83 73 63 53 43 33 23 13
94 84 74 64 54 44 34 24 14
95 85 75 65 55 45 35 25 15
96 86 76 66 56 46 36 26 16
97 87 77 67 57 47 37 27 17
98 88 78 68 58 48 38 28 18
99 89 79 69 59 49 39 29 19
Shogi zver 22.png
牧野光則 持駒:飛金歩八

公式戦では、通常は先手後手を入れ替えて指し直す。ただし、タイトル戦の番勝負においては、独立した1局と数えるため(千日手の場合は、千日手局と指し直し局を合わせて1局と数える)、即日指し直しは行われない。その代わり番勝負の本来の局数を超え、例えば七番勝負で第8局に突入する可能性があり、実際に2015年度の女流王座戦では、第3局が持将棋となった関係で五番勝負が第6局に突入している。

千日手と比べると持将棋の頻度は少なく、タイトル戦での持将棋は2014年まで過去11例のみ[4]。直近では1992年度後期の棋聖戦第2局(谷川浩司棋聖対郷田真隆五段)のあと、2014年の王位戦第3局(羽生善治王位対木村一基八段)まで約22年間も間隔が空いている。

アマチュアの場合は、時間短縮の目的で引き分けを極力なくすため、27点法を採用することがある(駒の損得が全くない場合、先手・後手とも27点になる)。得点計算は同じであるが、27点未満の方を負けとし、同点の場合を後手の勝ちとする場合が多い。また、宣言法を取り入れることもある。

合意による持将棋[編集]

持将棋は対局者両者の合意によって取り決められるが、まだ敵陣に玉将が入っていない段階でも、入玉が確実であれば入玉したものと見なして合意に至ることもある。2007年2月16日に行われた朝日オープン将棋選手権久保利明阿久津主税[5]では、久保玉が入玉、阿久津玉が自陣3段目にあり、駒数の点数は久保が大きく足りない状態であったが、阿久津の提案によって持将棋となった。

このタイミングでの持将棋の提案は早すぎるのではないかとして話題になった[6]が、対局中は常に局面をリードし、駒数でも有利であった阿久津側からの提案であったことと、持将棋のルールが合意によるものであるため問題にはならなかった。なお、持将棋指し直し局は阿久津が勝利している。

入玉将棋の宣言法について[編集]

入玉して所定の要件を満たした場合、そのことを宣言することで引き分けないし勝ちとなるルール。以下のルールは日本将棋連盟が2013年10月1日より暫定ルールとして導入したものによる[7]

宣言しようとする者が、次の各条件を満たしたときに、自分の手番で着手せずに宣言を行うと勝ちとなるルール。宣言をしようとする場合、宣言する旨告げ、対局時計を止める。

条件
  • 宣言する者の玉が入玉している(敵陣3段目以内に入っている)。
  • 「宣言する者の敵陣にいる駒」と「宣言する者の持ち駒」を対象に前述の点数計算を行ったとき、宣言する者が先手の場合24点以上ある。
  • 宣言する者の敵陣3段目以内にいる駒は、玉を除いて10枚以上である。
  • 宣言する者の玉に王手がかかっていない。

宣言をして上記の条件を満たしていた場合、駒の点数が24点以上30点以下であれば持将棋(引き分け)、31点以上であれば宣言した者が勝ちとなる。条件を一つでも満たしていない場合は宣言した者の負けとなる。

なお上述の27点法(持将棋なしに決着を付けられる)に対応する宣言法である、点数を「先手は28点以上、後手は27点以上で宣言でき、宣言した側の勝ち」というルールを採用する例もある(例:将棋ウォーズの対局規定[8]。切れ負け将棋の場合、宣言する者の持ち時間が切れていないことも条件として必要)。

トライルール[編集]

公式なルールではないが、一部の将棋クラブではトライルールを採用するところもある。トライルールとは、初期配置の相手玉の位置(先手なら5一、後手なら5九)に相手の駒が利いていないとき、その位置に自分の玉を進めるとトライとなり、その場で勝ちとなるルールである。

トライルールの歴史[編集]

トライルールの初出は『近代将棋』1983年11月号でプロ棋士武者野勝巳が、読者投稿の入玉規定の改善案として2案を紹介した記事のうちの1案[9]であり、「持将棋“トライ”勝利案」という名称がつけられている。

また『将棋世界』1996年8月号でプロ棋士の先崎学が、前述の記事とは独立に(あるいは知らず知らずのうちに影響を受けて)自著のコラム上で発表したものであり(後に『世界は右に回る 将棋指しの優雅な日々』に収録)、「トライルール」という名称もそのときに使用された。

その他[編集]

2013年9月18日に指された第61期王座戦第2局では、後手の中村太地六段の玉が5九に到達した(162手目)が、プロ棋士の将棋ではトライルールは採用されていないため対局はそのまま続き、その後羽生善治王座が後手玉を押し返し、203手で勝利している[10]

どうぶつしょうぎにおいてはトライルールに近い勝利条件が採用されており、相手のライオン(玉将に相当)を詰めるほかに、自分のライオンを敵陣1段目まで進めても勝利となる(その場所に相手の駒が利いていない場合に限る)。

コンピュータ将棋[編集]

コンピュータ将棋はプロとも互角に戦えるほどに進化したが、評価関数機械学習させる場合、過去のプロ棋士の対戦棋譜から教師あり学習を採用するのが一般的である。しかしプロ同士の対局でも入玉となったケースはそれほど多くないため、結果として学習が他の戦法と比べて不十分になり入玉模様になると急に棋力が落ちる現象が発生する。これを利用して対コンピュータ将棋の戦法として使われることがある。

しかし近年、コンピュータが生成した膨大な数の局面を教師として学習したり、学習におけるパラメータを増加させて実戦が少ない局面の評価能力を向上させた結果、コンピュータ将棋の入玉模様は短期間で大幅に向上している。2015年の第25回世界コンピュータ将棋選手権では、コンピュータ将棋の公式戦で初めてSeleneが入玉将棋においてコンピュータ自身の読みと判断により宣言法による勝利を上げて同大会の独創賞を受賞した。強豪ソフトにおける入玉将棋の強さと宣言法の実装はほぼ標準化されており、2016年の第4回電王トーナメントでは、ponanzaやねうら王が1度ずつ入玉将棋を宣言法で勝利している。

脚注[編集]

  1. ^ たとえば六枚落ちの場合は、落とした飛車(5点)・角行(5点)・桂馬(1点)2枚・香車(1点)2枚の計14点を上手に加える。
  2. ^ プロの場合、この規定により勝敗が決まることはまれで、通常は点数が足りない側が投了することでゲーム終了となる。
  3. ^ 公式戦では歴代最長手数の対局となっている。
  4. ^ 将棋:王位戦第3局は持将棋に 1勝1敗1分け - 毎日新聞・2014年8月7日
  5. ^ asahi.com :第25回朝日オープン将棋選手権 準々決勝第3局 - 将棋
  6. ^ 将棋世界』2007年11月号82ページ、「イメージと読みの将棋観」テーマ5。
  7. ^ 対局規定(抄録)”. 日本将棋連盟. 2016年5月13日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2017年1月24日閲覧。
  8. ^ Q&A”. 将棋ウォーズ. 2017年1月24日閲覧。
  9. ^ 提案者のウェブサイトとして、持将棋と千日手および持将棋近将記事が公開されている。読者の提案では「敵陣3段目に入れば勝ち」というものと「5一・5九に入れば勝ち」という形が示されている。
  10. ^ 2013年9月18日 五番勝負 第2局 羽生善治王座 対 中村太地六段|第61期王座戦 王座戦中継サイト

関連項目[編集]

  • チェス - エンドゲーム(終盤)になるとキングは他の駒をサポートするため相手陣地へ向かうのが一般的。