坂茂

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
ばん しげる
坂 茂
Shigeru Ban 20110702.jpg
2011年撮影
生誕 1957年8月5日(59歳)
東京都
国籍 日本の旗 日本
出身校 クーパー・ユニオン
職業 建築士
受賞 吉岡賞(1996年)
JIA新人賞(1997年)
日本建築学会賞作品賞(2009年)
プリツカー賞(2014年)
フランス芸術文化勲章(2014年)
朝日賞(2015年)
日本建築大賞(2016年)
公式サイト www.shigerubanarchitects.com
実習 坂茂建築設計
建築物 カーテンウォールの家
紙の教会
ポンピドゥー・センター・メス
カトリックたかとり教会仮設集会所「ペーパードームたかとり」(紙の教会)
ポンピドゥー・センター・メス(坂茂建築設計とJean de Gastines Architectesの共同案、Philip Gumuchdjian Architectsによる設計協力[1][2]

坂 茂(ばん しげる、1957年8月5日-)は、日本建築家日本建築家協会名誉会員[3][4]。ニューヨーク州登録建築士[5]

アメリカで建築を学び、紙管、コンテナなどを利用した建築や災害支援活動で知られる。1996年吉岡賞、1997年JIA新人賞、2009年日本建築学会賞作品賞、2014年には建築分野の国際的な賞であるプリツカー賞を受賞している。

来歴[編集]

東京都出身。会社員の父と服飾デザイナーの母の下に生まれる。成蹊小学校時代からラグビーを始め、高校では花園での全国大会にも出場。成蹊中学校時代に建築家を志す。高校時代には建築雑誌で見たジョン・ヘイダックやヘイダックが教えるニューヨーククーパー・ユニオンに憧れを抱く[6][7]。1976年、成蹊高等学校卒業。

クーパー・ユニオンを目指して1977年、19歳で渡米。しばらく英語学校に通い、1978年から2年半、南カリフォルニア建築大学(サイアーク、SCI-Arc)で建築を学び、1980年にクーパー・ユニオンに編入。1982年から1983年の1年間、磯崎新アトリエに在籍したあと、クーパーユニオンに戻って1984年に同建築学部を卒業(建築学士号[* 1])。大学卒業後の最初の仕事は、二川幸夫(建築写真家)のアシスタントだった[8]

マイノリティ、弱者の住宅問題に鋭い関心を寄せ、ルワンダの難民キャンプのためのシェルターを国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR) に提案し開発・試作した[9][10][11]

1995年の兵庫県南部地震阪神・淡路大震災)後の紙のログハウス(仮設住宅)や教会の集会所を特殊加工された「紙(紙管)」で制作[12]トルコインドで起きた地震に際しても仮設住宅の建設を行った。2005年に津波災害を受けたスリランカキリンダ村で復興住宅、2008年に大地震の被害に遭った中国四川省の小学校の仮設校舎[13]2011年の地震で被害を受けたクライストチャーチ大聖堂の仮設教会の建設を提案した。東日本大震災では、体育館などの避難所に避難したものの、ひとつの空間で多くの人々が同居している状態で、プライバシーがまったく無くて苦しんでいるが言いだせない人々のために、紙パイプと布を使いプライバシーを確保する提案(間仕切り[14])をし、各地の役所職員たちを説得してまわり、また仮設住宅の建設、質の向上にもかかわった。女川町で坂茂が提案した海上輸送用のコンテナを使い家具を作り付けにした2-3階建仮設住宅は快適で、期限が来てもそのまま住み続けたいと希望する人々が多いと報じられた[15][2][16]

阪神・淡路大震災後に被災地神戸で手がけた「紙の教会」では1995年第41回毎日デザイン賞大賞[17]、第3回関西建築家賞大賞[18]、1997年度JIA新人賞[19]、「家具の家・カーテンウォールの家」で1996年吉岡賞、東日本大震災被災地にて活用された「紙の建築」で平成23年度芸術選奨文部科学大臣賞[20]を受賞。

グローバルに問題を考えており、建築資材などをあらかじめ確保しておき、どこかの国で大災害が起きた時にそれを供給するしくみ作りも進めている[15]。そうしたことを行うにあたって、ただ慈善や寄付だけに頼るのではなく、通常の経済の循環の中に組み込み継続性を持たせることも進めており、それに関して坂茂が思いついたアイディアは、まず途上国に仮設住宅の工場をつくり、その工場で作られる住宅を、災害の無い時には各国のスラム街の住環境を改善するのに用い、もし災害が起きたらそれを仮設住宅として供給するという方法で、これで、途上国で雇用も作りだしつつ、住環境改善も実現し、災害時には苦しむ人々を救うということもできるというものである[15]

坂茂建築設計[編集]

1985年、東京に株式会社坂茂建築設計を設立。1999年、ニューヨークに事務所を開設[2]。2003年にポンピドゥー・センター・メスのコンペを勝ち取ったのを機に、2004年、パリにも事務所を開設[2]。現在は、東京、パリ、ニューヨークの事務所を行き来し[21]、パートナー建築家とチームを組んで個人の邸宅や大規模建築から被災地支援まで、さまざまな建築意匠を手がけている。

2016年4月現在のパートナー建築家は、平賀信孝(東京)[* 2]、ジャン・デ・ギャスティン(Jean de Gastines、欧州)、ディーン・モルツ(Dean Maltz、米国)[22]。坂茂建築設計では、坂がデザインの核を考え、プロジェクトの総括と事務所の運営にはパートナーが大きな役割を果たしている[23][2]

ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク (VAN)[編集]

ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(ボランタリー建築家機構)は、坂茂が1995年の兵庫県南部地震阪神・淡路大震災)後、神戸で建築面での被災地支援のためにたちあげたボランティア組織。英語表記はVoluntary Architects' Network (VAN)。VANは仮設住宅や教会の仮設集会所の建設を行い、その後の坂の国内外の被災地支援でも活動している。2013年に特定非営利活動法人[24]

当初、VANの運営は、坂茂建築設計のスタッフが設計事務所の仕事のかたわら兼務。2001年から2009年、坂が慶応大学SFC教授の職にあった期間は、研究室の活動の一環として、SFCの学生がVANの運営の中心となっていた。2003年には神奈川県のSFCキャンパスに紙の仮設スタジオ「慶應義塾大学SFC坂茂研究室」が研究室の学生らの手で完成。幅と奥行が10m、高さ5mのワンルームで、2008年に解体されるまで(2009年春に坂は慶応大学教授を辞した)、電動工具も使える仮設建築の実験場として、またVANの拠点として機能した[13]

避難所用間仕切りシステム[編集]

坂茂建築設計とVANの活動の中に、避難所への間仕切りシステム提供がある。2004年の新潟県中越地震や2005年の福岡県西方沖地震当時の避難所での実践[25]を経て、東北大震災時には「紙管」と布で構成される避難所間仕切りシステムを提供[26][27][28]。これは避難所スペースを紙管と布で仕切ってプライバシーを確保するのもで、組み立ても分解も容易。熊本地震の避難所にも提供されている[29][30][31]

年表[編集]

手がけた作品[編集]

ノマディック美術館。大量の海上コンテナを積み上げて建設された移動する(ノマディックな)仮設美術館。2005年にニューヨークのハドソン・リバー・パークに建てられ、内部の写真展と共に2006年サンタモニカ、2007年東京に移築された[13]
ニコラス・G・ハイエックセンター
大分県立美術館
女川駅

紙の建築[編集]

クライストチャーチ大聖堂(仮設)

坂の建築の特徴として、紙管を建築の構造材として使用していることが挙げられる。

それまで、建築構造材としての紙管の使用は、建築基準法において前例がなかった。このため、紙の家(1995年)を実現するにあたり、構造家の松井源吾・手塚升と共同で実験を進め、紙管構造 (PTS) の建築基準法第38条の評定を取得した。また、ハノーバー万博2000・日本館に際しては、フライ・オットー、ビューロ・ホッパルド(Buro Happold、構造設計事務所)と協力し、ドイツの建築基準をクリアして実現させた。[42][43][9][44]

  • アルヴァ・アアルト展」会場構成(1986年)
  • 世界デザイン博覧会「水琴窟の東屋」(1989年)
  • ときめき小田原メイン会場ホール(1990年)
  • 詩人の書庫(1991年)
  • MDSギャラリー:(1994年)1998 - 2005年、三宅一生デザイン文化財団がギャラリーとして運営。
  • 紙の家(1995年)
  • 難民シェルター
  • 大震災被災者用仮設住宅(紙のログハウス)(1995年)
  • カトリックたかとり教会仮設集会所(紙の教会)(1995年)
  • ハノーバー万博2000・日本館(2000年)
  • クライストチャーチ大聖堂(仮設)(2013年)

著書・作品集[編集]

  • 『SHIGERU BAN』TASCHEN ISBN 3836530767 2012年
  • 『Voluntary Architects' Network─建築をつくる。人をつくる。』INAX出版 ISBN 4872751639 2010年
  • 『SHIGERU BAN Complete Works 1985~2010』ファイドン ISBN 3836507358 2010年
  • 『SHIGERU BAN PAPER IN ARCHITECTURE』リッツォーリ ISBN 0847832112 2009年
  • 『SHIGERU BAN』ファイドン ISBN 4902593157 2005年
  • 『紙の建築 行動する―震災の神戸からルワンダ難民キャンプまで』筑摩書房 ISBN 4480860495 1998年
  • 『坂茂プロジェクツ・イン・プロセス―ハノーバー万博2000日本館までの歩み ギャラリー・間叢書』 TOTO出版 ISBN 488706179X 1999年
  • ja30『坂 茂』 JA30号 新建築社 1998年
  • 『坂茂の 家の作り方』平凡社 2013年(プロジェクト・ディレクターとして真壁智治)

共著

  • 『Voluntary Architects' Network─建築をつくる。人をつくる。』坂茂+慶應義塾大学坂茂研究室(著) INAX出版 ISBN 4872751639 2010年
  • 『Japan car Designs for the crowded globe 飽和した世界のためのデザイン』 デザイン・プラットフォーム・ジャパン編 坂茂,原研哉企画編集 朝日新聞出版 2009.7

出演[編集]

脚注[編集]

[ヘルプ]
出典
  1. ^ Le Centre Pompidou-MetzL'architecture
  2. ^ a b c d e f g 『坂茂ーNA建築家シリーズ7』
  3. ^ Profile Shigeru Ban Architects
  4. ^ 日本建築家協会:JIA会員検索「坂 茂」
  5. ^ NYS Professions - Online Verifications
  6. ^ 『紙の建築 行動する』
  7. ^ 一青窈 『ふむふむのヒトトキーはじまりの終わり編』 メディアファクトリー 2008年
  8. ^ 坂茂 p.9 - 建築レクチュアシリーズ217、2012年10月10日
  9. ^ a b 坂茂「紙の建築」、日本記号学会 『文化の仮設性ー建築からマンガまでー』(東海大学出版会、2000年)に収録
  10. ^ 「坂茂氏にプリツカー賞、日本人が2年連続受賞<追加情報あり>」 世界各国の被災地で貢献/避難シェルター(ルワンダ) ケンプラッツ 2014/03/25
  11. ^ COM-ET:淵上正幸のアーキテクト訪問記 / 坂茂氏 / 紙の建築 紙管利用のデザインは難民のシェルターから
  12. ^ 坂茂氏にプリツカー賞、日本人が2年連続受賞<追加情報あり> 紙の教会 ケンプラッツ 2014/03/25
  13. ^ a b c 『Voluntary Architects' Network─建築をつくる。人をつくる。』
  14. ^ 被災地支援、進化する「紙管」の仮設間仕切り - 日本経済新聞、2011年5月10日
  15. ^ a b c d NHK BS『ASIAN VOICE』2014年5月27日放送 坂茂 被災者を救う"紙の建築"(1), (2) NHKエコチャンネル 2015年06月閲覧。
  16. ^ 坂茂氏にプリツカー賞、日本人が2年連続受賞<追加情報あり>東日本大震災でも被災者を支援
  17. ^ 1995/H7 《41st》
  18. ^ 関西建築家大賞歴代受賞者及び受賞作品
  19. ^ JIA新人賞
  20. ^ 平成23年度芸術選奨 受賞者及び贈賞理由
  21. ^ http://www.pritzkerprize.com/2014/announcement
  22. ^ Shigeru Ban Architects, Partners”. 2016年4月25日閲覧。
  23. ^ [1]
  24. ^ a b NPO法人の詳細情報(内閣府サイト)
  25. ^ 東日本大地震 津波 支援プロジェクト - 避難所間仕切りシステムの必要性”. 2016年4月25日閲覧。
  26. ^ 東日本大地震 津波 支援プロジェクト - 東日本大震災 避難所用間仕切りシステム4”. 2016年4月25日閲覧。
  27. ^ 避難所用簡易間仕切りシステム4 (PDF)
  28. ^ 橋本麻里 (2013年2月23日). “紙管を使った建築で被災地を支援する 世界的建築家・坂茂”. CREA web. 2016年4月25日閲覧。
  29. ^ 熊本地震への対応/Japan Earthquake Relief Project 避難所用間仕切りシステムの提供について”. 坂茂建築設計. 2016年4月25日閲覧。
  30. ^ 紙と布で作った間仕切りを避難所に設置”. NHK news web (2016年4月24日). 2016年4月25日閲覧。
  31. ^ 熊本の避難所に布の仕切り 坂茂さん代表のNPOが設置”. 朝日新聞デジタル (2016年4月24日). 2016年4月25日閲覧。
  32. ^ 公式サイトプロフィール
  33. ^ 2008年11月1-9日、シテ・デ・シオンス(パリ)。2008年11月29日-2009年4月25日、サイエンス・ミュージアム(ロンドン)。(『Japan car Designs for the crowded globe 飽和した世界のためのデザイン』 による)
  34. ^ “建築のノーベル賞”米プリツカー賞に坂茂氏 災害支援「紙の住宅」評価
  35. ^ 素材の可能性 切り開く建築家 坂茂さん プリツカー賞
  36. ^ 坂茂さんにプリツカー賞 「疲れを知らない建築家」
  37. ^ 坂茂さんに「プリツカー賞」 建築界のノーベル賞が贈られた理由とは
  38. ^ 坂茂氏にプリツカー賞、日本人が2年連続受賞<追加情報あり>
  39. ^ 朝日賞 2014(平成26)年度 受賞者一覧
  40. ^ ねむの木こども美術館
  41. ^ 建築写真集NO
  42. ^ 『坂茂プロジェクツ・イン・プロセス―ハノーバー万博2000日本館までの歩み』(英語:Shigeru Ban; Frei Otto; Hideki Yoshimatsu, "Shigeru Ban : projects in process to Japanese pavilion, Expo 2000 Hannover") TOTO出版 1999年
  43. ^ "Engineering and Architecture: Building the Japan Pavilion"
  44. ^ 坂茂「紙のパビリオンー場ノーバー国際博覧会2000 日本館」、日本建築家協会ビオシティ編集部『サステイナブル建築最前線ー建築/都市グローカル・ドキュメント2000 (Sustainable Architecture - A Report from the Forefront)』(ビオシティ、2000年)
  45. ^ スーパープレゼンテーション これまでの放送 5月14日放送”. NHK. 2014年12月16日閲覧。
  46. ^ 番組詳細 ASIAN VOICES「被災者を救う“紙の建築” 坂茂」”. NHKネットクラブ. 2014年5月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年6月閲覧。
註釈
  1. ^ a b 所定の実務経験を経ることでアメリカにおける建築士の受験資格が得られ、日本でも所定の実務経験を経ることで一級建築士の受験資格が得られる。
  2. ^ 1949年、東京出身。東京藝術大学建築家卒業。一級建築士。1998年から坂茂建築設計パートナー。2009年、ニコラス・G・ハイエックセンター日本建築学会賞作品賞を坂茂と共同受賞。
  3. ^ インタビュアーとのやりとりは質問、返答とも英語。長時間英語でスラスラと語りつづけた[15]

参考文献[編集]

  • 日経アーキテクチュア編『坂茂ーNA建築家シリーズ7』日経BP社 2013年
  • ローランド・ハーゲンバーグ『なりたいのは建築家-24 Architects in JAPAN-』 柏書房 2011年

関連項目[編集]

外部リンク[編集]