ヅダ
ヅダ (ZUDAH) は、「ガンダムシリーズ」に登場する架空の兵器。有人操縦式の人型ロボット兵器「モビルスーツ」 (MS) の一つ。初出は、2004年から2006年にかけて発売されたOVA『機動戦士ガンダム MS IGLOO』。
作中の軍事勢力の一つ「ジオン公国軍」の試作機で、「ザクI」(旧ザク)と主力機の座を争った。性能ではザクIを上回っていたが、欠陥による事故が原因で競合に敗北したとされる。のちに改良が加えられ、主要人物たちが所属する「第603技術試験隊」によって評価試験が行われる。
デザイン[編集]
デザインを担当した出渕裕はインタビューに際し、第二次世界大戦の折にドイツで製作されたHe 100を設定のモデルとしたと語っている[1]。
設定解説[編集]
ヅダ ZUDAH | |
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型式番号 | EMS-10 |
所属 | ジオン公国軍 |
製造 | ツィマッド社 |
頭頂高 | 17.3m |
重量 | 61t(浅宇宙運用時)[2] |
出力 | 1150kW |
推力 | 58,700kg |
武装 | 120mmザクマシンガン 240mmザクバズーカ シュツルム・ファウスト ヒートホーク 135mm対艦ライフル ザメル砲 (0083 REBELLION) シールド(白兵戦用ピック装備) |
搭乗者 | ジャン・リュック・デュバル(1番機) ヒデト・ワシヤ(2番機) オッチナン・シェル(3番機) モニク・キャディラック(予備機) ウォルフガング少佐 |
開発はジオン公国の兵器メーカーの一つ、ツィマッド社が担当[3]。EMS-04を原機とする[3]。同機は制式採用から落選した後も開発が継続され、エンジンを「土星エンジン」に換装するなどの措置を行い[3]、U.C.0079年10月にEMS-10 ヅダとして完成した[2]。新型の高性能MSと喧伝されたが、EMS-10においてもEMS-04が抱えていた強度不足の問題は解決されておらず、劣勢となっていたジオン公国の地球連邦に対するプロパガンダとして利用された。しかしながら、4機製造されたEMS-10 ヅダは機体強度が許す機動性においてはザクIIを凌駕する性能を見せた[3]。
機体構造[編集]
- 頭部
- 2種類が存在し、1番機と予備機では保護カバーが配されたモノアイ走査レールは同じツィマッド社製のドムと同様の十字型を採用する。一方、1番機は隊長機ゆえにブレードアンテナを有する[3]。2番機と3番機では別形状のものを採用[3]。
- 土星エンジン
- ランドセルに有する。中心部に大型ノズル、4界に小型ノズルを採用。試作エンジン「水星エンジン」から実用原型システム「木星エンジン」を経て完成した。亜鉛や鉛などの重元素を使用する広域推進剤技術が使用されており、軽い元素を使用する推進器と比較して大推力が得られる。これによってヅダは短時間で200m/秒の加減速が可能となり、地球周辺の浅い軌道や接近戦で優れた性能を発揮する機体となった。同部位は取り外し可能[3]。
- この土星エンジンは、同じツィマッド社製MSであるドムにも導入されたとされる[3]。
- 腕部
- 3本のフレームが内蔵され、伸縮する機構を備える[3][注 1]。これにより、各部にマウントした装備を取り出すことが可能[3]。
- 脚部
- 脹脛部や足底部にもスラスターを有する[3]。
- 武器マウント
- 腰と脚部の左右計4か所に有する[4]。
武装・装備[編集]
- 120mmザクマシンガン
- ザクに採用されたZMC-38III/M-120A1。非使用時は銃本体を脚部、マガジンを腰部にマウントする[3]。
- 280mmザクバズーカ
- ザクに採用されたH&L-SB25K/280mmA-P[3]。
- シュツルム・ファウスト
- シュトゥルムファウスト600M、またはMarkVIIIとされるモデルを採用。装弾数は1発で、シールド裏にマウントしたまま発射可能[3]。
- 135mm対艦ライフル
- 高速の弾丸を射出する試験兵器で、艦艇の装甲を撃ち抜く威力を持つ[4]。
- シールド
- 肩部に懸架される[3]。レールによって可動可能[4]。裏面には白兵戦用ピックを装備[3]。
登場作品[編集]
- OVA『機動戦士ガンダム MS IGLOO』シリーズ
- 『機動戦士ガンダム MS IGLOO -1年戦争秘録-』
- 第3話「軌道上に幻影は疾(はし)る 」
- 『機動戦士ガンダム MS IGLOO -黙示録0079-』
- 第1話「ジャブロー上空に海原を見た」
- 第3話「雷鳴に魂は還(かえ)る」
- 『機動戦士ガンダム MS IGLOO -1年戦争秘録-』
- 漫画『機動戦士ガンダム MS IGLOO 603』
- 第3話 - 第5話「蝙蝠はソロモンにはばたく」
- 漫画『機動戦士ガンダム 黒衣の狩人』
- 漫画『機動戦士ガンダム0083 REBELLION』
劇中での活躍[編集]
MS IGLOO[編集]
かつて空中分解する欠陥を晒してコンペでザクに敗退したヅダ (EMS-04) は、4年の歳月の間に改修を重ね、新型ヅダとして完成する。型式番号「EMS-10」が与えられた新型ヅダの登場とその高性能ぶりは、ジオンのプロパガンダ放送でも喧伝される。
その最終評価試験を行うため、4機がテストパイロットのジャン・リュック・デュバル少佐とともに第603技術試験隊所属の支援艦ヨーツンヘイムに配備されるが、評価試験中に3番機がエンジンの暴走を起こして空中分解し、機体とテストパイロットのオッチナン・シェル中尉が死亡する。原因はシェルが命令を無視して高加速を行ったことにあるとされたが、欠陥を解消したはずのヅダが改修以前のヅダ (EMS-04) と同様の事故を起こしたことに、関係者は不審を抱く。折りしも連邦側のプロパガンダ放送でEMS-10の素性が暴露され、EMS-04から設計が変わっていないことが関係者に知れると同時に、本来なら軍上層部とツィマッド社の機密事項であるはずの情報が地球連邦軍に筒抜けであることも明らかになる。この情報漏洩に関し、デュバルはMS開発を巡ってツィマッド社とライバル関係にあるジオニック社の差し金であると主張するが、いずれにせよマルティン・プロホノウ艦長らは試験の続行が危険と判断し、試験中断の判断を下す。
その折、オデッサ作戦で地上を追われた多数の友軍がHLVで宇宙空間へ敗走してくる。彼らはより多く人員を乗せるために燃料搭載量を減らしたといわれ、大気圏を脱して以降は地球周回軌道上を漂うことしかできず、友軍による回収を待たねばならなかった。連邦軍はこの機を捉えて据え物斬りに取りかかり、HLV側も搭載していたザクJ型を放出して果敢に反撃を試みるが、そのほとんどは陸戦仕様だったことから宇宙空間では姿勢制御もままならず、ボールを相手に満足な反撃もできないまま一方的に撃破されていく。この状況を目の当たりにしたモニク・キャディラック特務大尉は、独断で評価試験の再開を名目とした救援活動を下命する。友軍の救援を2番機と予備機に任せ、陽動に徹するデュバルの1番機はまずボール2個小隊6機のうち少なくとも4機を撃破し、加勢に現われたジム6機のうち2機をただちに撃破すると、残りのジムをHLVから引き離すべく高速機動に誘い込み、3機を空中分解に至らしめる[注 2]が、1番機もエンジンが暴走して空中分解し、デュバルも死亡する。
その後、ジオン本国から評価試験の中止と残存機のヨーツンヘイム護衛の搭載機として配備する旨の指令が伝えられたが、これは数度にわたる空中分解事故を要因とする事実上の「不採用決定通知」であり、護衛機転用の名を借りた体の良い廃棄処分でもある。しかし、最終決戦となったア・バオア・クー攻防戦にて予備機は左腕を破損したに留まり、2機とも終戦まで残存する。機体の不採用が決定した後の戦闘が、皮肉にも機体の性能の高さを証明する結果となった。
なお、友軍救出活動時にキャディラックが予備機のパイロットを務めたことが確認されるが、のちに彼女がヨーツンヘイムに乗艦している状態で予備機が出撃している映像もあり、ヒデト・ワシヤの他にもヅダを運用するパイロットがヨーツンヘイムに乗艦していると考えられる。
漫画版『機動戦士ガンダム MS IGLOO 603』では、友軍を救出した後、試作MSのゲム・カモフの技術試験を行なうために第603技術試験隊に配属されたエンマ・ライヒ中尉が、操縦技術を見せるために護衛機として転用されたヅダに搭乗し、戦闘を行う。
黒衣の狩人[編集]
漫画『機動戦士ガンダム 黒衣の狩人』では、乗機のザクを喪失したウォルフガング少佐の補充機体として登場する。一年戦争末期、大気圏ぎりぎりを担当するパトロール部隊はろくな補給を受けられず、ウォルフガングは組み立て途中で工場に放棄されていたヅダを乗機とする。
EMS-04かEMS-10かは不明[注 3]だが、土星エンジンを搭載し、『MS IGLOO』に登場するEMS-10と細部のデザインが異なっている。また、ウォルフガングのパーソナルカラーである黒色に塗装され、シールドには狩人隊のエンブレムであるウサギを咥えるオオカミを意匠化したマーキングが描かれている。
作中では、ウォルフガングの技量によって大気圏上層部にごく浅い角度で機体を突入させ、水切りの要領で上層部を跳ねながら移動する機動を行ない、ヅダの加速性能と相まって通常のMSを凌駕する機動性を見せ、弾薬の補給を満足に受けられない状況下でもジム改をはじめとした連邦軍MS3機を撃破し、連邦軍艦船の対空砲火を回避して艦橋に肉薄するなど、高い戦果を挙げる。また、ウォルフガングはヅダが爆発事故を起こす運用条件を把握しており、その要素は物語の終盤において重要な役割を果たすことになる。
0083 REBELLION[編集]
漫画『機動戦士ガンダム0083 REBELLION』では、ウドガルドの艦載機としてザメルとヒルドルブ改と共にコロニー「アイランド・イーズ」の内部に潜入した連邦軍部隊を迎撃する。
ヅダ (EMS-04)[編集]
ヅダ ZUDAH | |
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型式番号 | EMS-04 |
所属 | ジオン公国軍 |
製造 | ツィマッド社 |
頭頂高 | 17.3m[6] |
重量 | 61t(浅宇宙運用時)[6] |
出力 | 1150kW[6] |
推力 | 58,700kg[6] |
U.C.0071年、ジオン公国軍は国内の企業に「ミノフスキー粒子環境下の有視界戦闘」に対応した軍用汎用MSの開発を発注した。ジオン公国軍当局がこれらの兵器に求めた性能は、「地球から月周辺を含む、真空かつ、無重力空間における近接戦能力」と「1気圧1G環境下-つまり地球上-での、歩く戦闘車輌」の2つであり[6]、U.C.0075年に[2]ジオニック社製のMS-05 ザクIと同時期に開発された機体である。
重元素を用いた熱核ロケット「木星エンジン」を導入し、機動性こそMS-05に対して優位性を持っていたものの、その加速力に対して機体の強度が不足していたことから、公的飛行試験中に空中分解を起こした。また、MS-05と比較して1.8倍という高コストの機体であったこともあり、制式化は見送られた[3]。制式化の不採用については、ジオニック社の裏工作があったともいわれている[3]。
- 機体構造
- 肩部や腹部といった装甲形状はEMS-10と異なる。背部の木星エンジン上部には円筒状のパーツが存在するが、詳細は不明。シールドにはまだ白兵戦用ピックも装備されていない[6]。
ヅダF[編集]
小説『機動戦士ガンダム ブレイジングシャドウ』に登場する宇宙用MS(型式番号:EMS-10F)。
一年戦争後期に開発されたヅダの改良型であり、土星エンジンのリミッターを強化することによって暴走の発生を抑制することに成功しているほか、さまざまな改良が加えられており、一部にはギャンのパーツも使用されている[7]。武装として135mm対艦ライフルを改良小型化した95mm狙撃ライフルを装備。
制式採用こそされなかったものの、少数ながら生産された機体は複数の部隊で運用されており[7]、U.C.0083年時のジオン残党組織「ファラク」でも1機のヅダFが使用されている。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ Interview メカニックデザイナー/スーパーバイザー 出渕裕氏 - 『機動戦士ガンダム MS IGLOO』公式サイト。2016年4月7日閲覧。
- ^ a b c 『機動戦士ガンダム MS IGLOO 完全設定資料集』エンターブレイン、2007年5月、22-27頁。ISBN 978-4757734081
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 『機動戦士ガンダム MS IGLOO Mission Complete』竹書房、2009年12月、38-45頁。ISBN 978-4812440933
- ^ a b c d 『HGUC 1/144 ヅダ』バンダイ、2006年6月、組立説明書。
- ^ トレーディングカードアーケードゲーム『ガンダムトライエイジ』ZPR-028「ヅダ(ウォルフガング専用機)」裏書より。
- ^ a b c d e f 『機動戦士ガンダム MS IGLOO 完全設定資料集』エンターブレイン、2007年5月、28-33頁。ISBN 978-4757734081
- ^ a b 『ガンダムエース』2014年1月号、角川書店、38頁。
外部リンク[編集]
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