コンテンツにスキップ

津島佑子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
津島 佑子
(つしま ゆうこ)
誕生 津島 里子(つしま さとこ)
(1947-03-30) 1947年3月30日
日本の旗 日本東京都北多摩郡三鷹町
(現在の三鷹市)
死没 (2016-02-18) 2016年2月18日(68歳没)
職業 小説家
言語 日本語
国籍 日本の旗 日本
教育 学士文学
最終学歴 白百合女子大学英文科卒業
明治大学大学院英文科中退
活動期間 1971年 - 2016年
ジャンル 小説
代表作 『葎の母』(1975年)
『寵児』(1978年)
『水府』(1982年)
『夜の光に追われて』(1986年)
火の山―山猿記』(1998年)
『ナラ・レポート』(2004年)
『ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語』(2016年)
主な受賞歴 田村俊子賞(1976年)
泉鏡花文学賞(1977年)
女流文学賞(1978年)
野間文芸新人賞(1979年)
川端康成文学賞(1983年)
読売文学賞(1987年)
平林たい子文学賞(1988年)
伊藤整文学賞(1995年)
谷崎潤一郎賞(1998年)
野間文芸賞(1998年)
大佛次郎賞(2001年)
芸術選奨(2005年)
紫式部文学賞(2005年)
毎日芸術賞(2012年)
デビュー作 『謝肉祭』(1971年)
子供 石原燃 (娘・劇作家)
親族 太宰治(父・小説家)
津島雄二(義兄・元厚生大臣
津島淳(甥・衆議院議員)
太田治子 (異母妹・作家)
ウィキポータル 文学
テンプレートを表示

津島 佑子(つしま ゆうこ、1947年3月30日 - 2016年2月18日)は、日本の小説家。本名は津島 里子(つしま さとこ)[1]

東京都北多摩郡三鷹町(現在の三鷹市)生まれ[1]太宰治津島美知子の次女[2]。実姉は元衆議院議員厚生大臣を2度務めた津島雄二の妻・津島園子作家太田治子は異母妹、衆議院議員・津島淳は甥にあたる。白百合女子大学英文科を卒業した[2]。『謝肉祭』で文壇に登場した。父、兄、長男との死別から「不在の者」をモチーフに、人間関係における孤絶と連帯の実相を追求し、高い評価を受けた。現代文学(昭和後期から平成)を代表する作家の一人である。また、作品は英語フランス語ドイツ語イタリア語オランダ語アラビア語中国語などに翻訳されており、国際的にも評価が高い。

来歴・人物

[編集]

1歳のとき父を失い[1][3]、母子家庭に、さらに12歳のとき3歳上の実兄が病没し、母・姉と"女系家族"に育つ。白百合学園中学校・同高等学校を経て、1966年白百合女子大学文学部英文科に進学[1]。在学中、ガリ版同人誌『よせあつめ』を創刊[1]。処女作『手の死』『夜の……』を発表。同年「文芸首都」会員となる[1]1967年、成人式を迎えるに際して山梨県富士五湖を訪れ、父の文学碑を見る。白百合大学大学卒業後、1969年4月明治大学大学院英文学専攻)に入学するも、ほとんど講義に出席せず。[要出典]

1970年11月、結婚により財団法人放送番組センターを退社した。1971年、第一作品集『謝肉祭』を刊行した。この時期は母子家庭のテーマを繰り返し描く。1972年5月、長女・香以(石原燃)を出産した。後年夫とは不和となり離婚した。その後津島には新たな私生活のパートナーとなる男性が現れたが、この男性とは再婚せず別離。[要出典]またこの男性との間に1976年8月、長男を出産するが、長男は1985年3月に呼吸発作のため死去した[1]。この体験は後に『夜の光に追われて』『真昼へ』などの作品の主題となる[1]

1991年湾岸戦争への自衛隊派遣に抗議し、柄谷行人中上健次田中康夫らとともに『湾岸戦争に反対する文学者声明』を発表した。

1991年10月パリ大学国立東洋言語文化研究所に招聘され翌年6月まで日本の近代文学を講義した[2]

1998年、構想から5年をかけた作品『火の山―山猿記』を完成させた。家族、生と死、言葉の隔たりといったそれまでのテーマを集大成し谷崎潤一郎賞野間文芸賞を受賞した。この作品は後に2006年4月から放送のNHK連続テレビ小説純情きらり』の原案となった。

2000年から2015年まで川端康成文学賞選考委員、2000年から2014年まで野間文芸賞選考委員、2002年から2012年まで読売文学賞選考委員、2007年から2014年まで朝日賞選考委員をそれぞれ務めた。

2016年2月18日、肺がんのため死去した[4]。68歳だった。

父・太宰治について

[編集]

『山のある家 井戸のある家』で次のように記している。

「父についても、どうか、だれにも聞かれないように、といつも願っていました。父はいませんと言えば、それはなぜ、とひとは聞きます。事故で死んだ、と答えれば、なんの事故、とさらに聞かれます。そうなると返事に困ってしまいます。「自殺」とはどうしても自分の口から言うことはできませんでした。今でも言いたくない言葉ですが。そのうえ、よその女のひとと一緒に死んだなどとは、どうしてもひとには知られたくないヒミツでした。」また、「幼稚園のころ、母に聞いたことがあります。お父さんはなんで死んだの? 母は一瞬、考えてから、うん、心臓が止まったから、と答えました。」「父が小説家だったということは、家に本があったので、早くからわかっていました。でも、それ以上のことはわからないままでした。父方の親族は、父自身が実家から勘当されていたので、会ったこともありません。」「一度だけ、ラジオの前に坐らされ、これは子ども向けのものだから、と父の書いた小説をもとにしたラジオドラマを聞かされたことがありました。びっくりするほど、それは珍しいことだったのです。ラジオドラマが終わってから、母におもしろかったと言えばいいのか、つまらなかったと言ったほうがいいのか、迷ったことをおぼえています。」さらに、「その後、父にはほかの女性とのあいだにがいることも知りました。私とは異母妹ということになります。そのことにも、私はいやな気持は持ちませんでした。もしかしたら、異母兄とか、ぞくぞくと私の知らない兄弟姉妹が現れるのかもしれない、と期待したりもしました。」

『透明空間が見える時』では、「また、これは私の個人的な事情なのだが、太宰治の作品だけは、その人が私の父親であることから、かなり早くから読みはじめていた。(中略)芥川谷崎の愛読者であった私は、太宰の作品をも芥川と同列のところに並べて読んでいた。すなわち、価値をすでに見いだされて、教科書にも載るような作家として読んでいたわけで、時代背景の生き生きした臨場感はほとんど味わうことはなかった。」と記している。

主な受賞作品

[編集]

家族・親族

[編集]
太田静子
 
 
 
太宰治
 
 
 
津島美知子
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
太田治子
 
津島佑子
 
津島雄二
 
 
 
津島園子
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
石原燃
 
 
 
 
津島淳
 
 
 
 
 
 
 

著作

[編集]

小説

[編集]
  • 『謝肉祭』(河出書房新社 1971)のち文庫
  • 『童子の影』(河出書房新社 1973)のち集英社文庫
  • 『生き物の集まる家』(新潮社 1973)
  • 『我が父たち』(講談社 1975)のち文庫
  • 『葎の母』(河出書房新社 1975)のち文庫
  • 『草の臥所』(講談社 1977)のち文庫
  • 『歓びの島』(中央公論社 1978)のち文庫
  • 『寵児』(河出書房新社 1978)のち文庫、講談社文芸文庫
  • 『氷原』(作品社 1979)
  • 『光の領分』(講談社 1979)のち文庫、文芸文庫
  • 『最後の狩猟』(作品社 1979)
  • 『燃える風』(中央公論社 1980)のち文庫
  • 『山を走る女』(講談社 1980)のち文庫、文芸文庫
  • 『水府』(河出書房新社 1982)のち文庫
  • 『火の河のほとりで』(講談社 1983)のち文芸文庫
  • 『黙市』(新潮社 1984)のち文庫
  • 『逢魔物語』(講談社 1984)のち文芸文庫
  • 『夜の光に追われて』(講談社 1986)のち文芸文庫
  • 『真昼へ』(新潮社 1988)のち文庫
  • 『夢の記録』(文藝春秋 1988)
  • 『草叢 自選短篇集』(学藝書林 1989)
収録作品「蝉を食う」「粒子」「透明な犬」「林間学校」「基地」
「草叢」「空中ブランコ」「静かな行進」「廻廊」「夢の道」「野一面」
  • 『溢れる春』(新潮社 1990)
  • 『大いなる夢よ、光よ』(講談社 1991)
  • 『かがやく水の時代』(新潮社 1994)
  • 『風よ、空駆ける風よ』(文藝春秋 1995)
  • 火の山―山猿記』(講談社 1998)のち文庫
  • 『私』(新潮社 1999)
  • 『笑いオオカミ』(新潮社 2000)
  • 『ナラ・レポート』(文藝春秋 2004)のち文庫
  • 『あまりに野蛮な』(講談社、2008)のち文芸文庫
  • 『電気馬』(新潮社 2009)
  • 『黄金の夢の歌』(講談社 2010)のち文庫
  • 『葦舟、飛んだ』(毎日新聞社 2011)
  • 『ヤマネコ・ドーム』(講談社 2013)のち文芸文庫
  • 『ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語』(集英社 2016)のち文庫
  • 『半減期を祝って』(講談社 2016)
  • 『狩りの時代』(文藝春秋 2016)のち文庫

随筆

[編集]
  • 『透明空間が見える時』(青銅社 1977)
  • 『夜のティー・パーティ』(人文書院 1979)
  • 『夜と朝の手紙』(海竜社 1980)
  • 『小説のなかの風景』(中央公論社 1982)
  • 『私の時間』(人文書院 1982)
  • 『幼き日々へ』(講談社 1986)
  • 『本のなかの少女たち』(中央公論社 1989、中公文庫 1994)
  • 伊勢物語/土佐日記 古典の旅2』(講談社 1990)
    • 『「伊勢物語」「土佐日記」を旅しよう』講談社文庫 1998
  • 『アニの夢 私のイノチ』(講談社 1999)
  • 『快楽の本棚 言葉から自由になるための読書案内』(中公新書 2003)
  • 『女という経験』(平凡社 2006)
  • 『夢の歌から』(インスクリプト、2016)

作品集

[編集]
  • 『津島佑子コレクション』全5巻(人文書院 2017-18)
大いなる夢よ、光よ
悲しみについて
夜の光に追われて
ナラ・レポート
笑いオオカミ

共著・編

[編集]
※『草の臥所』、『水府』、『黙市』、『夢の記録』を収録
  • 『山のある家 井戸のある家 東京ソウル往復書簡』(申京淑共著、キム・フナ訳 集英社 2007)
  • 『トーキナ・ト ふくろうのかみのいもうとのおはなし』(杉浦康平構成 福音館書店 2008)
  • 『いまこそ私は原発に反対します。』 「「夢の歌」から」(日本ペンクラブ編、平凡社、2012)
翻訳
  • クリステン・ビヨンケア『愛の時代』(福井信子共訳 福武書店 1990)
  • うつほ物語 少年少女古典文学館』(講談社 1992、新版2009)
現代語訳、他は干刈あがた堤中納言物語」 

作家論

[編集]
  • 『津島佑子-土地の記憶、いのちの海』(河出書房新社 2017)
  • 川村湊「津島佑子 光と水は地を覆えり」(インスクリプト 2018)
  • 川村湊編『現代女性作家読本3 津島佑子』(鼎書房 2005)
  • 『津島佑子』(庄司肇コレクション9/沖積舎 2003)
  • 井上隆史編『津島佑子の世界』(水声社 2017)

翻訳

[編集]
  • Child of fortune(寵児、英語)Geraldine Harcourt, Kodansha International, 1983/Penguin Classics, 2018
  • L'enfant de fortune(寵児、仏語) Rose-Marie Fayolle, Des Femmes, c1985
  • Kind van de wind(寵児、蘭語)Kathleen Rutten, De Geus, 1985
  • Territoire de la lumière(光の領分、仏語)Anne et Cécile Sakai, Des Femmes, c1986
  • Au bord du fleuve de feu(火の河のほとりで、仏語)Rose-Marie Fayolle , Des Femmes, c1987
  • Les marchands silencieux(黙市、仏語)Rose-Marie Fayolle. Des femmes, c1988
  • The shooting gallery and other stories (短編選集、英語) Geraldine Harcourt. London : Women’s Press, 1988.
  • Poursuivie par la lumière de la nuit(夜の光に追われてk、仏語)Rose-Marie Fayolle, Des Femmes, c1990
  • Domein van het licht(光の領分、蘭語)Noriko de Vroomen en Han Timmer Meulenhoff, c1990
  • Woman running in the mountains(山を走る女)Geraldine Harcourt. New York : Pantheon Books, c1991.
  • Lichtkreise(光の領分、独語)Heinrich Reinfried.Theseus, c1991,
  • Il figlio della fortuna(寵児、伊語)Maria Terasa Orsi.Giunti, c1991
  • La femme qui court dans la montagne (山を走る女、仏語)Liana Rosi.Albin Michel, c1995
  • Ô vent, ô vent qui parcours le ciel (風よ、空駆ける風よ、仏語) Ryôji Nakamura et Renê de Ceccatty.Seuil, c1995
  • Vous, rêves nombreux, toi, la lumière! (大いなる夢よ、光よ、仏語)Karine Chesneau - Philippe Picquier, c1997
  • The Shooting Gallery: & Other Stories(射的〜短編集、英語), New Directions Publishing Corporation, 1997
収録作品:
A sensitive season「発情期」
South wind「南風」
The silent traders「黙市」
The chrysanthemum beetle「菊虫」
Missing「行方不明」
The shooting gallery「射的」
Clearing the thickets「草叢」
An embrace「抱擁」
  • タイ語訳「光の領分」2000
  • 微笑的狼(笑いオオカミ、中国語) 竺家荣 [訳] 中国文联出版社, 2001
  • 나(私、韓国語)김훈아(キム・フナ), 문학과지성사(文学と知性社), 2003
  • 웃는 늑대(笑いオオカミ、韓国語)김훈아, 문학동네(文学トンネ), c2008
  • 불의 산(火の山―山猿記、韓国語)김훈아, 문학과지성사, 2008
  • Album de rêves(夢の記録、仏語), Le Seuil, 2009
  • Laughing wolf(笑いオオカミ、英語)Dennis Washburn, Monograph, 2011
  • 묵시(默市、韓国語)김훈아, 문학동네, 2013
  • Territory of Light(光の領分、英語), Penguin Classics, 2017
  • Of Dogs and Walls(犬と塀について、英語)Geraldine Harcourt, Penguin Classics, 2018
  • Jestem, tęsknię, mówię (私、ポーランド語) Państwowy Instytut Wydawniczy, 2018
  • Uśmiechnięty wilk(笑いオオカミ、ポーランド語)Państwowy Instytut Wydawniczy, 2023

脚注

[編集]

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]