ストーカー
ストーカー(英: stalker)は、特定の人につきまとい行為をする人のこと。つきまとい行為は「ストーキング(英: stalking)」「ストーカー行為」ともいう。
概要
語義
つきまとい行為はストーキング(英:stalking)といい、つきまとい行為をする人をストーカー(英: stalker)という。特定の人につきまとうことは違法である。
もともと英語には「stalk ストーク」という動詞があり、これは人や動物を捕えたり害をくわえるために忍び寄ることを指している[1]。「ing」という接尾辞をつけて行為を指したり、「er」という接尾辞をつけて人(行為主)を指している。特定の人を執拗に追跡したり、それによってその人を悩ませたり怖がらせる人がいる、ということが社会的に知られるようになった当初は、事態に法制度が追いついていなかったが、やがてつきまとい行為(ストーキング)は犯罪行為であるということが判例や立法によって明確化された。
なお、英語の「stalking ストーキング」は、自然な日本語では「つきまとい行為」や「つきまとい」という。概念や表現が定着する日本では独特の経緯があったので「ストーカー行為」と独特の表現をすることもある。本記事内でも「ストーカー行為」と表現することがある。
様態
「ストーカー(行為)」と現在呼ばれているような行為は、最初は、著名人を相手にした行為(いわゆる追っかけ)だった[2]。追っかけはストーカーの最も基本的な形態であると指摘されている[2]。追っかけが過ぎて、やがて暴力行為に至ったり、「賛美」のつもりでやがてはファンがスターを殺害してしまうことも起こっている(たとえば、ジョン・レノンへのつきまといと殺害)[2]。追っかけを行う者の中には、憧れの対象との間に"愛情関係"がある、などと勝手に思い込む者も多い[2]。
つきまとい行為はそれ自体が犯罪であるうえに、さらなる深刻な犯罪、例えば桶川ストーカー殺人事件のように殺人事件まで発展する例も多い(詳細はストーカー#日本で殺人(未遂)事件に発展した事案の例)。また、SNSなどのインターネットを通じたサイバーストーカーや、誤った情報を信じ込ませるなどして精神的に追い込むガスライティングといった形態も存在する。
ストーカーの分類
ロバート・K・レスラーによる分類[3]。(一番歴史の古い分類法)
- 正常なストーカー
- 異常なストーカー
- リジェクション・センシティブ・タイプ … 拒絶に過敏な人。
- ボーダーライン人格障害タイプ … ボーダーライン人格障害。
- エロトマニア・タイプ … 関係妄想。
- スキゾフレニア・タイプ … 統合失調症[4]。
精神科医の福島章は、『新版 ストーカーの心理学』[5]にて、ストーキングを行う者の心理を以下の5つに分類して考察している[6][注 1]。
- 精神病系
- 精神病によって抱く恋愛妄想、関係妄想によってストーキングを行う[7]。現実には自分と無関係の、スターにつきまとうようなタイプが多い[8]。警察庁の統計によれば、ストーカーに占める精神障害者の割合は、0.5%である[9]。
- パラノイド系[注 2]
- 妄想によりストーキングを行うが、妄想の部分以外は正常で、言動は論理的で[10]、行動は緻密であることが多い[11]。現実の恋愛関係の挫折によるつきまとい行為もあるが、現実には自身と無関係の相手につきまとうタイプが多い[8]。
- ボーダーライン系(境界人格障害)
- 性格は外交的・社交的[12]で、「『孤独を避けるための気違いじみた努力』が特徴」[12]で、病気ではなく[13]、人格の成熟が未熟で、自己中心的で、他人・相手の立場になってみてものを考えることが出来ないタイプで[13]、このタイプの人は精神医学の専門家でない人が想像するよりも世の中に多い[13]という。人間関係は濃く[12]、相手を支配しようとするところに特徴がある[14]という。
- ナルシスト系(自己愛性人格障害)
- 自信・自負心が強く、拒絶した相手にストーキングするものが多く、行動的な分類からは『挫折愛タイプ』に属するものが多い[15]。現実の人間関係は深い[12]。
- サイコパス系(反社会的人格障害)
- 被愛妄想を持つ(相手が自分を好きであると信じる)のではなく[16]、自分の感情・欲望を相手の感情と無関係に一方的に押し付けるタイプで、性欲を満たすための道具として相手を支配する[17]ものが多い。「凶悪・冷血な犯罪者」[18]「典型的な犯罪者」[18]というイメージが特徴で、人間関係は強引で、「相手に『取り憑く』能力を持っている」[18]ことが特徴であるという。いわばサイコパスにあたる。
- ネット系(回避性人格障害)
- ネットが全てと思い込み既存の人間をネットで追いかけるタイプ。指殺人。
福島章の『新版 ストーカーの心理学』(2002年)によれば、すべてのタイプのなかで、男女を問わずストーキングを受けた者が最も困難に陥れられるタイプは、ボーダーライン型であるという[注 3]。DSMで、境界人格障害(ボーダーライン系)・演技性人格障害・自己愛性人格障害(ナルシスト系)・反社会性人格障害(サイコパス系)は『不安定なグループ』に分類される[19]。福島は、ストーカー一般の特徴として、『被愛妄想(エロトマニア)』という言葉を挙げている。福島は、自分が相手を好きという感情は、どんなに強くても恋愛感情であって恋愛妄想ではない、妄想とは、証拠・根拠がないのに相手が自分を好きであると信じる、逆に相手が自分を嫌っている証拠・根拠があっても相手が自分を好きであると信じる、信じて疑わないことである、と述べている[20][注 4]。また、ストーカー一般の特徴は、拒絶に対する過度に敏感な反応であり[12]、すべてのタイプに共通するところは、相手の感情に想像力を働かせない、甘え、思い込み、欲求不満を攻撃に替えて解消する、というところだという[21][注 5]。
ほかにも、何人かがストーキングを行う心理の分類を試みている。
町沢静夫による分類[22]。
- ボーダーライン型 … 嫌われることに敏感。現代増えている。
- 妄想障害型 … 好かれているはずだと思い込む。昔から存在した。
- 誇大自信過剰型 … 好かれているはずだと思い込む。
- 未練執着型 … 別れた恋人や配偶者にストーキングする。
- ファン型 … 有名人にストーキングする。[注 7]
- 妄想型 … 一方的な恋愛感情や被害者意識。
- 中核型 … 相手を支配しようとしたり、相手の心の中に『巣くおう』とする。最も現代的な型。
アメリカ人精神科医ドリーン・オライオン(Doreen Orion)による分類[24]
- エロトマニア … 自分は特定の相手に愛されていると思い込む妄想性障害。きわめて執拗で何年も続く。どんなに明確に拒絶されても、愛を告白されたと誤解する。
司法精神科医のDr.リード・メロイによる分類[25]
- ボーダーライン・エロトマニア型妄想性障害 … 対象と接触してから異常な執着を持つ。エロトマニアより現実にもとづく。長期間必死になれば相手が愛してくれると過剰に理想化した考えを持つ。
日本
ストーカー規制法
日本では、つきまとい行為を既存の法律が対象としていなかったため、1990年代まで警察の民事不介入により取り締まることができなかった。警察が対応できる段階的な凶悪化を呈さず、つきまとい行為が殺人に直結してしまった桶川ストーカー殺人事件を機に、議員立法で『ストーカー行為等の規制等に関する法律』が、2000年(平成12年)5月24日に第147回国会で制定された。また地方公共団体でもストーカー行為を刑事罰に規定した迷惑防止条例が制定される例もでてきた。ただし、ストーカー規制法では恋愛感情を前提としたつきまとい行為を想定しており恋愛感情と関係ないストーカー行為は規制できない[26]。迷惑防止条例も基本的に同様だが、東京都や滋賀県のように恋愛感情以外でも規制できるように法改正している自治体もある[26][27][28]。ストーカー規制法以外につきまとい行為を規制する法律としては、刑法、配偶者暴力防止法、児童虐待防止法、暴力団対策法、軽犯罪法がある。
「ストーカー」という言葉が日本で定着したのは1990年代のことである[29]。「ストーカー」という言葉が使われる前は、行為者が見知らぬものであれば「変質者」、知り合いであれば「痴情のもつれ」という言葉が使われていた[30]。
統計
警察庁による調査
ストーカー規制法の定義[31]によれば、ストーカーとは同一の者に対し、つきまとい等又は位置情報無承諾取得等を反復してすることを指し(第2条)、『つきまといなど』とは、特定の者に対する『恋愛感情その他の好意の感情』又は『それが満たされなかったことに対する怨恨の感情』を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをさす(以下第2条の要約。カッコ内は警察庁による2021年(令和3年)の認知件数[9])。
- ストーカー規制法第2条第1項
- ストーカー規制法第2条第3項
- (1号)相手方の承諾を得ないでGPS機器等により位置情報を取得(43人 0.1%)
- (2号)相手方の承諾を得ないで相手方の所持する物にGPS機器等を取り付ける等(109人 0.4%)
またストーカー規制法で規制されていない嫌がらせ行為などが455人、1.5%あった[9]。
ストーカー行為を行う動機
ストーカー規制法に抵触するものでは、好意の感情(13,514人 68.5%)、好意が満たされず怨恨の感情(2,601人 13.2%)がある。それ以外のものは非常に少ないが、精神障害(被害妄想含む。95人 0.5%)、職場・商取引上トラブル(24人 0.1%)、その他怨恨の感情(210人 1.1%)、その他(481人 2.4%)がある[9]。
被害者と加害者の関係
については、交際相手(元含む)の37.9%、配偶者〈内縁・元含む〉の7.0%を合わせて約45%を占め、知人友人(12.8%)、勤務先同僚・職場関係者(12.6%)、密接関係者(2.3%)まで含めて、顔見知り、人間関係のあるものが全体の約7割(72.6%)を占めている[9]。逆に行為者不明(9.4%)、その他(近隣居住者、タレントのファンなど)(8.5%)、面識のない相手によるもの(9.5%)は、合わせて3割近く(27.4%)ある[9]。
被害者と加害者の年代別及び性別
被害者は20歳代(34.3%)と30歳代(22.9%)、40歳代(18.4%)を合わせて8割(76.9%)を占め、50歳代以上はそれぞれ10%以下である[9]。
加害者は40歳代(18.1%)が最も多く、20歳代(18.1%)、30歳代(17.3%)、50歳代(12.7%)と合わせて約3分の2(66.3%)を占め、60歳代、70歳代以上はそれぞれ10%未満である[9]。加害者はほかに、年齢不明が17.2%ある[9]。
性別については、次の通りであった。
- 被害者:女性87.6%、男性12.4%
- 加害者:女性12.2%、男性80.7%
警視庁の統計
警視庁の2020年(令和2年)の統計では、加害者の性別は80.7%が男性で、女性は12.3%となっている。
また、警察に被害を申告した割合は、2019年版犯罪白書より約21.4%にとどまっている[32][33]。
政府による調査
2017年12月に政府が全国の成人男女を対象に実施した調査では、回答者3,376人(女性:1,807人、男性:1,569人)のうち「特定の異性からのつきまとい等の被害を受けたことがある」と回答したのは女性が約10.9%、男性が約4.5%であった。被害者のうち、誰かに相談したのは女性が81.2%、男性が55.7%であった[34]。
NPO法人の報告
ストーカー問題に詳しいNPO法人「ヒューマニティ」の女性理事の経験では、ストーキングする人間(加害者)の割合は、2015年までの過去15年間、男性と女性がほぼ同じ割合であった[35]。
日本のストーカー事案の内容と、それに対する判例
- ストーカー行為規制法2条1・2項・13条1項は、憲法第13条・第21条1項に違反しない(最判 2003年12月11日)
- 加害者とその両親へ、計約8,900万円の支払いを認めた(名古屋高判、2003年8月6日)
- 桶川ストーカー殺人事件について、国家賠償請求が認められた(さいたま地判、2003年2月26日)
- ストーカー殺人の加害者に両親の監督責任を認めた(名古屋地判、2003年2月4日)
- 300万円の慰謝料を認めた(大阪地判 2000年12月22日)
- ストーカー行為を解雇事由に該当するとした(東京地判 2001年6月28日)
- 裁判官が女性に匿名で「次はいつ会えるかな?」などと電子メールを16回にわたり送りつけた行為について、面会強要等のストーカー行為が認められたため、有罪であると認定され(2008年7月25日)、その裁判官は2008年12月3日に裁判官弾劾裁判所で罷免判決が下り、罷免された。
日本で殺人(未遂)事件に発展した事案の例
年齢は事件当時。
2000年以前
事件 | 発生日 | 発生場所 | 被疑者 | 被害者 | 動機 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
元祖ストーカー殺人事件[36] | 1988年3月5日 | 東京都品川区 | 50歳の男 | 中里綴(当時36歳) | 復縁の不成立 | |
群馬一家3人殺害事件[37] | 1998年1月14日 | 群馬県高崎市 | 28歳の男 | 両親と祖母の3人 | 交際の不成立 | 好意を寄せられていた長女は無事だった。 |
西尾市女子高生ストーカー殺人事件[38] | 1999年8月9日 | 愛知県西尾市 | 17歳の男 | 16歳の女子高生 | 交際の不成立 | 2010年に出所後、2012年に殺人未遂事件を起こし再逮捕。 |
桶川ストーカー殺人事件 | 1999年10月26日 | 埼玉県桶川市 | 27-34歳の男5人 | 21歳の女子大生 | 復縁の不成立 | 「ストーカー規制法」制定の契機となった。 |
2000年代
事件 | 発生日 | 発生場所 | 被疑者 | 被害者 | 動機 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
沼津女子高生ストーカー殺人事件[39] | 2000年4月19日 | 静岡県沼津市 | 27歳の男 | 17歳の女子高生 | 復縁の不成立 | 2005年に無期懲役が決定。 |
立川警察官ストーカー殺人事件[40] | 2007年8月20日 | 東京都国分寺市 | 40歳の男 | 32歳の女性 | 交際の不成立 | |
函館ストーカー殺人事件[41] | 2007年11月26日 | 北海道函館市 | 22歳の男 | 23歳の女性 | 交際の不成立 | |
新橋ストーカー殺人事件 | 2009年8月3日 | 東京都港区 | 41歳の男 | 21歳と78歳の女性(祖母) | 交際の不成立 | 裁判員裁判で初めて死刑が求刑された(判決は無期懲役)。 |
2010年代
事件 | 発生日 | 発生場所 | 被疑者 | 被害者 | 動機 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
平野区母娘殺害事件 | 2011年6月24日 | 大阪府大阪市 | 35歳の男 | 27歳と61歳の女性(母) | 復縁の不成立 | |
長崎ストーカー殺人事件 | 2011年12月16日 | 長崎県西海市 | 27歳の男 | 56歳と77歳の女性(母と祖母) | 復縁の不成立 | 2016年にストーカー殺人事件で初の死刑判決が確定。 |
逗子ストーカー殺人事件 | 2012年11月6日 | 神奈川県逗子市 | 40歳の男 | 33歳の女性 | 復縁の不成立 | 「ストーカー規制法」改正の契機となった。 |
三鷹ストーカー殺人事件 | 2013年10月8日 | 東京都三鷹市 | 21歳の男 | 18歳の女子高生 | 復縁の不成立 | 「リベンジポルノ」関連法案制定の契機となった。 |
市川ストーカー殺人事件[42] | 2013年11月27日 | 千葉県市川市 | 23歳の男 | 22歳の女性 | 復縁の不成立 | |
館林ストーカー殺人事件 | 2014年2月19日 | 群馬県館林市 | 39歳の男 | 26歳の女性 | 復縁の不成立 | |
平野区ストーカー殺人事件[43] | 2014年5月2日 | 大阪府大阪市 | 57歳の男 | 38歳の女性 | 交際の不成立 | 2015年に懲役30年が決定。 |
日野市ストーカー死体遺棄殺人事件[44] | 2014年6月18日 | 東京都日野市 | 24歳の男 | 24歳の女性 | 復縁の不成立 | |
平塚ホステス死体遺棄事件[45] | 2014年10月26日 | 神奈川県平塚市 | 34歳の男 | 26歳の女性 | 復縁の不成立 | |
愛媛僧侶ストーカー殺人事件[46] | 2014年12月16日 | 愛媛県松山市 | 29歳の男 | 37歳の女性 | ||
小金井ストーカー殺人未遂事件 | 2016年5月21日 | 東京都小金井市 | 27歳の男 | 21歳の女子大生アイドル | 交際の不成立 | 被害者は2週間重体となるも一命を取り留めた。ストーカー規制法改正の契機となった。 |
目黒ストーカーバラバラ殺人事件[47] | 2016年9月20日 | 東京都目黒区 | 50歳の男 | 24歳の女性 | 復縁の不成立 | |
静岡ストーカー殺人事件[48] | 2016年10月4日 | 静岡県牧之原市 | 41歳の男 | 32歳の女性 | 復縁の不成立 | |
浜松ストーカー殺人事件[49] | 2018年11月1日 | 静岡県浜松市 | 45歳の男 | 48歳の女性 | 復縁の不成立 | |
大宮女性刺殺事件[50][51] | 2019年1月23日 | 埼玉県さいたま市 | 25歳の男 | 22歳の女性 | 復縁の不成立 |
2020年代
事件 | 発生日 | 発生場所 | 被疑者 | 被害者 | 動機 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
沼津女子大生ストーカー殺人事件[52][53] | 2020年6月27日 | 静岡県沼津市 | 20歳の男 | 19歳の女子大生 | 交際の不成立 | 2021年に懲役20年が決定。 |
警察不祥事
兵庫県警伊丹警察署地域第一課に勤める20代の警察官Aとその上司(警部補)が、警察官が交際相手の女性との間で起こしたトラブル(女性に複数の挫傷に加え、右膝関節の軟骨を損傷させ、加療に約3週間を要する怪我を負わせた)を揉み消す為に、ストーカー規制法を悪用。この問題を担当した尼崎東警察署が、女性に『Aの家に行ったら、あなたがストーカーとして訴えられる側になる』と恫喝、被害者であるにもかかわらず、署員から何故か『Aと連絡を一切取らない』という誓約書を書かされ、更に『Aの連絡先や写真を全部消せ』と言い、女性とAとのLINEのやり取りを強要により削除させ、スマートホンの写真フォルダの中も細かく確認させるという不祥事が発生していたと報じられた。この問題に関してジャーナリストの寺澤有氏は「ストーカー対策という名目で誓約書を書かされたりデータを消させられたりしたのも隠蔽工作の一環」と指摘している。[54]
中国
不法行為責任法では、国民のプライバシーを侵害する行為は不法行為責任の対象となります。ストーカーが他人のプライバシーを盗撮、盗聴、拡散する場合、公安行政処罰法第42条では、5日以下の拘留または500元以下の罰金、さらに状況が深刻な場合は、5日以上10日以下の拘留、500元以下の罰金と明確に規定されています。[55]
しかし、中国の現在の司法制度の下では、違法なつきまとい、嫌がらせ、監視などのストーカー行為に直面した個人に対する司法保護が不足しています。 有名人であっても、私人によるストーカー行為に直面した場合、長期間にわたって事態を解決できないことがある[56]。 中国国内では、ストーカー被害に遭った一般人が司法に頼ってもなお問題を解決できない場合があることを示す事例が多く、2018年3月に安徽省蕪湖市で起きた事件では、ストーカー被害に遭った女性が警察への援助を繰り返したが効果がなく、最終的には殺害された[57]。 同年7月に河北省で起きた淶源殺人事件では、長い間ストーカーや嫌がらせを受けていた女性とその家族も何度も警察に救助を求めたが、無駄であった。 相手の女性が武器を持って家に侵入してきたときだけ、両親は「お返しに殺した」のである[58]。
中国大陸の社会・文化では、「良い女(殉教者)はストーカーを恐れる」ということわざがあるように、「ストーカー」式の求愛が非常に珍重されており、文学作品も公然とそのような行動を推奨し、異性間のストーキングはこのように求愛として美化されている[59][60]。 こうした行動は文学や芸術の世界でも公然と奨励され、異性間のストーキングはこうして求愛行動として美化された。 現実には、当事者が面識がなく、ストーカーが気づかないうちにそのような行為が行われることさえある。 オンラインプラットフォームなどを通じて、またインターネットでのコミュニケーションが容易になったことで、個人や組織が様々なタイプの「求愛」ストーキングやストーカー行為に直接参加、促進、支援する事例が多くなっています[61][62]。
台湾
台湾では、毎年7000件以上の報告があり、そのうち半数近くが1年以内、4分の1が3年以内に繰り返し嫌がらせを受け、被害者の8割が女性である[63]。2014年に現代女性財団が行った調査では、ハラスメントを受けた人のうち、通報・苦情申し立てをする人は1割にも満たず、若い女子学生の12.4%がストーカー被害に遭っていることが判明し、同財団は「ストーカー防止法」の立法を推進しました。[64] しかし、同法案は2015年に立法院で初審議されて以来、審査が行われていない。 [65] 2019年、民進党は「警察の職務が増える」という理由で法案の3回目の審議を妨害した。[66] 2021年になって、女性殺害事件を理由にストーカー防止法が再び立法院で審議され、可決された。立法過程において、民進党はストーカーの定義を「性別または性差に関連するもの」に限定するよう主張した。[67]
ストーカー行為防止法によると、ストーカー行為を行った者は、1年以下の懲役、拘留または10万台湾ドル以下の罰金に処されることになっています。凶器またはその他の危険物を携帯して前述の罪を犯した者は、5年以下の懲役、拘留または50万台湾ドル以下の罰金、もしくはその両方に処するものとします。第12条第1項ないし第3項により裁判所が下した保護命令に違反した者は、3年以下の懲役、拘留または30万台湾ドル以下の罰金に処する。[68]
米国
アメリカ合衆国では1980年代に発生したリチャード・ファーレーの事件を機に、1990年にカリフォルニア州でストーキング防止法(英: anti-stalking law)が初めて成立した。
1998年のNational violence against women surveyにおいて、TjadenとThoennesは、米国では「生涯につきまとわれたことがある」人の割合は、女性で8%、男性で2%だ、と報告した[69]。
米国のある調査では、女性がストーカーのターゲットに選ぶ相手はしばしば女性であるが、 男性がターゲットに選ぶ相手は女性である傾向があるという[70]。2009年1月の米国司法省の報告によると、男性被害者から見た加害者は男性が43%で女性が41%とほぼ半々であるのに対して、女性被害者から見た加害者は男性が67%で女性が24%であり、男性からストーカーされる割合が約3倍だったという[71]。
Sex Rolesの記事でJennifer Langhinrichsen-Rohling(以下、Jennifer LRと略)が指摘しているところによると、性別というものが、ストーキングやその加害者と被害者に複雑に作用しているという[72]。Jennifer LRによると、性別によって、つきまとい行為に遭遇した時の感情的な反応、感じる恐怖の程度が異なるという[72]。また事案を扱う警察の扱い方にも、被害者が男性か女性かによって差がある可能性があるといい[72]、また被害者になった場合も性別で対処のしかたに差があり[72]、また加害者側の考え方にも性別が影響を与えている可能性があるという[72]。またアメリカのマスメディアが、男性が女性につきまとうのは許されることだと見なす見解を伝えたりすることの影響を受けてアメリカの男性たちがそう考えてしまっている可能性があるという[72]。またジェンダーロール(性役割)という観念も米国で社会的に根強いので、男性はストーキングの被害に逢っても、しばしばそれを申告しないという[72]。
ヨーロッパ
英国
イギリスではストーキング行為を規制するため1997年に「嫌がらせ行為防止法」が制定された[73]。
イングランドとウェールズで2010年~11年に調査が行われたところ、つきまとい行為の被害者の43%が男性で、被害者の57%が女性であった[74]。
ドイツ
Dressing、Kuehner、Gassらが行った調査によると、ドイツの中規模都市であるマンハイムでは、人々が「生涯でつきまとわれたことがある」率はおよそ12%であった[75]。
ロシア
ロシア連邦の刑法では、ストーカー行為のような独立したコーパスは存在しない。しかし、弁護士は、ロシアでの迫害も深刻な罰金になると主張しています。ストーカー行為の被害者は、すでに法典にある条文を利用すればよいのです。だから、迫害者が脅迫を使用する場合は、ロシア連邦の刑法第119条「殺人の脅迫または重大な身体的危害の発生」を参照する必要があります。この場合、犯罪者は480時間以内の強制労働または2年以内の強制労働で処罰されます。また、迫害者は6ヶ月以下の逮捕、または2年以下の自由拘束(制限)を受ける可能性があります。「プライバシーの侵害」(ロシア連邦刑法第137条)は、ストーカー行為の一部として適用されることがあります。この犯罪は、私生活に関する情報の違法な収集とその普及(公的なスピーチやメディアを含む)に現れます。この場合、犯人は20万ルーブル以下の罰金、360時間以下の強制労働、さらには2年間の禁固刑を受ける可能性があります。さらに、迫害者はしばしばロシア連邦刑法第138条に違反します。市民の通信、電話の会話、郵便、電信、その他のメッセージの秘密に対する違反です。この条文では、8万ルーブルの罰金から1年以下の矯正労働まで、さまざまな処罰が規定されています。[76]
また、その具体的な形態として、例えば、殺害または重大な身体的損害を与えるという脅迫(ロシア連邦刑法第119条)、プライバシーの侵害、すなわち、個人または家族の秘密となる人の私生活に関する情報を本人の同意なく違法に収集または流布(ロシア連邦刑法第137条)、家の不可侵性に対する侵害(ロシア連邦刑法第139条)についても刑事責任を問われることがあり得ます。 [77]
オーストラリア
Purcell、Pathé、Mullenらが行い2002年に公表した研究によると、オーストラリアの住民の23%が、つきまとわれた経験がある、と報告した[78]。
オーストラリアの各州は1990年代にストーカー行為を禁止する法律を制定しており、クイーンズランド州は1994年に初めて制定しました。法律の内容は州によって若干異なり、クイーンズランド州の法律が最も範囲が広く、南オーストラリア州の法律が最も制限が厳しい。罰則は、最高で10年の禁固刑となる州もあれば、ストーカー行為の程度が最低でも罰金となる州もあり、さまざまです。オーストラリアのストーカー規制法には、特筆すべき特徴があります。米国の多くの法域とは異なり、ストーカー行為によって被害者が恐怖や苦痛を感じる必要はなく、合理的な人であればそのように感じるであろうということだけが要件となっています。一部の州では、ストーカー規制法が国境を越えて適用されるため、本人または被害者が該当する州にいる場合、ストーカー行為で起訴される可能性があることを意味します。オーストラリアのほとんどの州では、ストーカー行為の場合に接近禁止命令を出すことができ、その違反は刑事犯罪として処罰される。オーストラリアのストーカー事件の裁判結果に関する研究は比較的少ないが、Freckelton(2001)によると、ビクトリア州では、ほとんどのストーカーが罰金や地域社会に基づく処分を受けたという。[79]
ストーキング、ストーカーに関する作品
映画
- 地獄門[注 8](1953年)
- おとうと[注 8](1960年)
- 異常性愛記録 ハレンチ(1969年)
- 恐怖のメロディ[注 8](1971年)
- アデルの恋の物語[注 8](1975年)
- 危険な情事[注 8](1987年)
- 不法侵入(1992年)
- ストーカー 異常性愛 (1993年) - 実際に起きたストーカー事件の映画化
- ザ・ファン(1996年)
- ストーカー(2002年) - ストーキングの動機として、恋愛執着ではなく家族愛執着を描いた作品。ロビン・ウィリアムズ主演。
- Jの悲劇(2004年)- イアン・マキューアンの小説『愛の続き』の映画化。
- 悦楽交差点(2015年)
- ファナティック ハリウッドの狂愛者(2019年)
テレビドラマ
- 転校少女Y[注 8](主演:高部知子・渡辺謙 TBS系列、1984年)
- 月曜ドラマスペシャル「恐怖の義理チョコ」[注 8](主演:片岡鶴太郎・菊池桃子 TBS系列、1991年2月11日)
- ずっとあなたが好きだった[注 8](主演:賀来千香子・佐野史郎 TBS系列、1992年)
- 十年愛[注 8](主演:田中美佐子・浜田雅功 TBS系列、1992年)
- ジェラシー[注 8](主演:石田純一・黒木瞳、日本テレビ・読売テレビ系列、1993年)
- 誰にも言えない[注 8](主演:賀来千香子・佐野史郎 TBS系列、1993年)
- 素晴らしきかな人生[注 8](主演:浅野温子・織田裕二 フジテレビ系列、1993年)
- 憎しみに微笑んで[注 8](主演:柳葉敏郎・保阪尚希 TBS系列、1993年)
- 揺れる想い[注 8](主演:南野陽子・別所哲也 TBS系列、1995年)
- ひとつ屋根の下2(主演:江口洋介・酒井法子 フジテレビ系列、1997年)
- ストーカー 逃げきれぬ愛(主演:渡部篤郎・高岡早紀、日本テレビ・読売テレビ系列、1997年)
- ストーカー・誘う女(主演:雛形あきこ・陣内孝則、TBS系列、1997年)
- 羅刹の家(主演:保阪尚希・加藤紀子・山本陽子 テレビ朝日系列、1997年)
- 略奪愛・アブない女(主演:赤井英和・稲森いずみ・鈴木紗理奈 TBS系列、1998年)
- ひまわり〜桶川女子大生ストーカー殺人事件〜(主演:渡瀬恒彦 テレビ朝日、2003年) - 桶川ストーカー殺人事件のテレビドラマ化。
- ティッシュ。(主演:斎藤幸乃 テレビ朝日、2007年)
- ホームルーム (主演:山田裕貴・秋田汐梨、MBS、2020年)
音楽
- 「まちぶせ」(作詞・作曲:荒井由実、歌:三木聖子(1976年)、石川ひとみ(1981年)、松任谷由実(1996年 セルフカバー))
- 「夕闇をひとり」 松任谷由実(1981年)
- 「恋人宣言」堤大二郎(1981年)
- 「Private Eyes」 ダリル・ホール&ジョン・オーツ(1981年)
- 「パーキング・メーターに気をつけろ!」 浜田省吾(1982年)
- 「コレクション」米米クラブ
- 「見つめていたい」ポリス(1983年)
- 「SPY」槇原敬之(1994年)
- 「見つめている」ポルノグラフィティ(2000年)
- 「ストーカーの唄」阿部真央
- 「ストーカーと呼ばないで」オオタスセリ(2006年)
- 「誰よりもあなたを」ミドリカワ書房(2008年)
漫画
- うわさ(ももち麗子)
- 藤子不二雄Ⓐブラックユーモア短編 内気な色事師(藤子不二雄Ⓐ、1972年)
- 座敷女(望月峯太郎、1993年)
- おそるべしっっ!!!音無可憐さん(鈴木由美子、1998年)
脚注
注釈
- ^ 渋谷昌三 『面白いほどよくわかる!心理学の本』 pp.228-229. 「心の病14 相手の気持ちが理解できないストーカー」 ストーカーのタイプとして、福島章の5分類を挙げている。
- ^ 「偏執病」(パラノイア)も参照。「パラノイド」は「パラノイアの」という意味。
- ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 p.111, pp.111 - 113. 本書は、「最強のストーカー」(p.111)と表現している。
- ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 pp.75 - 76.によれば、『被愛妄想(エロトマニア)』とは症状の名前で、タイプを問わず、すべてのストーカーが共通して持っている要素である。同 p.120.によれば、サイコパスだけ違うという。
- ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 p.139. 「ストーカーたちは、相手がなかなか自分の思いどおりにならないと、あたかも母親に乳を与えてもらえない乳児のようにいらだち、怒りや恨みの感情を抱く。そして、大切な母親の乳房を噛んで攻撃する赤ん坊のように、愛の対象を攻撃したくなるのだ」。
- ^ 影山任佐 『図解心理学 心の病と精神医学』 pp.160-161. 影山任佐は、2007年の『図解心理学 心の病と精神医学』では妄想型・パーソナリティ障害型・その他の型の3タイプを挙げている。
- ^ 追っかけも参照。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 「ストーカー」という定義が、社会的に認知される前の製作・上映・放送である。
出典
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- ドリーン・オライオン 『エロトマニア妄想症―女性精神科医のストーカー体験』 朝日新聞社 (1999年)ISBN 4022573686
- 金昌烈『朝鮮総聯の大罪!』宝島社、2003年8月30日。ISBN 978-4796635523。
- 矢野絢也『闇の流れ 矢野絢也メモ』講談社、2008年10月21日。ISBN 978-4062812375。
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関連文献
- 秋岡史『ストーカー犯罪 被害者が語る実態と対策』青木書店、2003年、ISBN 4250203174
- 荒木創造『ストーカーの心理』講談社、2001年、ISBN 4062720590
- 岩下久美子『人はなぜストーカーになるのか』文藝春秋、2001年、ISBN 4167660040
- 河添恵子編『警察に頼らないストーカー対策』全日法規、2001年、ISBN 4921044198
- 小早川明子『あなたがストーカーになる日』廣済堂出版、2001年、ISBN 4331508080
- 佐伯幸子『これで撃退!ストーカー最強対処術 被害に遭う前にするべきこと、遭ってしまってからするべきこと』有楽出版社、2002年、ISBN 4408591742
- 清水潔『遺言 桶川ストーカー殺人事件の深層』新潮社、2000年、ISBN 4104405019
- メリタ・ショーム、カレン・パリッシュ『あなたがストーカーに狙われたとき』現代書館、1997年、ISBN 476846713X
- ラヴォン・スカリアス、バーバラ・デイビス『ストーカーと闘い続けた女 恐怖に打ち勝った勇気ある16年』扶桑社、1998年、ISBN 4594024424
- ポール・ミューレン、ミシェル・パテ『ストーカーの心理 治療と問題の解決に向けて』サイエンス社、2003年、ISBN 4781910459
- 原著:Paul E. Mullen, Michele Pathe, Rosemary Purcell, Stalkers and Their Victims, Cambridge University Press, ISBN 0521669502
- 鳥越俊太郎とザ・スクープ取材班『桶川女子大生ストーカー殺人事件』メディアファクトリー、2000年10月、ISBN 4840101590
- 鳥越俊太郎、小林ゆうこ『虚誕 警察につくられた桶川ストーカー殺人事件』岩波書店、2002年、ISBN 4000225227