片親引き離し症候群

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片親引き離し症候群(かたおやひきはなししょうこうぐん、英:Parental Alienation Syndrome、略称PAS)とは、1980年代初めにリチャード・A・ガードナーによって提唱された用語で、両親の離婚別居などの原因により、子供を監護している方の(監護親)が、もう一方の親(非監護親)に対する誹謗中傷悪口などマイナスなイメージを子供に吹き込むことでマインドコントロール洗脳を行い、子供を他方の親から引き離すようし向け、結果として正当な理由もなく片親に会えなくさせている状況を指す。「洗脳虐待」と訳されることもある。

PASは、医学界や法学界では「疾患」であるとは認定されておらず、ガードナーの理論や関連研究は、法学者や精神科医から広く批判されている[1][2][3][4]

片親引き離し症候群は、2010年に発表されたアメリカ精神科医師会による精神障害の診断と統計の手引き」DSM(V)の草案には記載されていないが、ワーキング・グループによる「他の情報源が提案する疾患」には記載されている[5]。それによれば、片親引き離し症候群とは「同居親の行動によって非同居親と子供との関係が不当に破壊される状態」である。

概要[編集]

PASの影響として、子供の精神面や身体面に様々な悪弊が出たり、生育に悪影響のあることが、欧米を中心に児童心理学者をはじめ法律関係者などにも広く認識され、連れ去り自体が最も悪質な児童虐待であると捉えられているが[6][7][8][9][10]、日本では専門家の間でも充分に認識されているとは言いがたい。ガードナーは、PASは子供に様々な情緒的問題、対人関係上の問題などを生じさせ、長期間にわたって悪影響を及ぼすと主張、引き離しを企てている親の行為は、子供に対する精神的虐待であると指摘している。

PASの法的証拠としての有効性は、専門家委員会のレビューや、イギリスのイングランド・ウェールズ控訴院によって否定されており、カナダ法務省はPASを用いないように推奨しているが、米国の家庭裁判所での論争においては用いられた例がある[11][12]。ガードナーは、PASは法曹界に受け入れられており、多くの判例もあるとしているが、実際の事件を法的に分析した結果、この主張は正しくないことが示されている[4]

PASを医学的に「症候群」や「疾患」であると認定している専門職団体はない。アメリカ精神医学会の『DSM 精神障害の診断と統計の手引き(V)』の草案には記載されていない。 連れ去りが、子供にしばしば引き起こす精神的障害は、分離不安、ADHD、PTSD、摂食障害、学習障害、行動障害などである[13]。これらの精神的障害は、DSMに記載されている。自然災害もPTSDを起こすことがあるが、自然災害は「疾患」ではない。同様に、連れ去り自体は「疾患」ではない。

PASという用語について[編集]

PASは診断学上の症候群の概念には該当していない。これについては、ガードナーとケリー&ジョンストンの間で激しい論争があった。しかしケリー&ジョンストンとて監護親による悪意のプログラミングを完全に否定したわけではなく、「疎外された子供」の定義から評価することを提唱し、子供が他方の親との接触に抵抗を示すケースの全てを、悪意のプログラミングによる片親引き離し症候群と考えるのは単純であると批判し、診断学上のシンドローム(症候群)に該当しないと批判したのである。児童虐待ドメスティックバイオレンス(DV)も、初期には"Battered Child Syndrome"や"Battered Women's Syndrome"という呼び方がされていたが、やはりシンドロームではないということで今では使われていない。しかしこれは、(当然ながら)児童虐待やDVを否定するものではない。2008年にアメリカ医学会は、PASという診断名はDSM-IV診断基準(精神病の鑑別基準)には採用しないと発言している。結論としてはシンドロームという部分ではケリー&ジョンストンたちの主張が認められたが、親が不当に疎外されている(PA)、子供が片親から不当に疎外されている(AC)現象については肯定され、その一因として片親による悪意のコーチングやプログラミングも否定されていないということであり、片親疎外をPASという用語、シンドロームという概念で評価することは不適切であるということに過ぎない。正確な用語表記としてはPA=Parental Alienation(片親疎外)と表記するべきであろう。

児童虐待やDVが、原因となる精神疾患が他に存在するケースにおいても、病理の発現という評価を受けることに鑑みれば、PA自体が精神疾患の基準に該当しないからといってPAという現象を否定することは失当である。諸外国において、離婚後もなぜ共同監護が運用され、双方の親と子の交流が注意深く保護されているのか考えるべきである[14]

日本の現状[編集]

現在、日本の離婚件数は年間約25万件にものぼり、うち約16万組に未成年の子がいる。しかし日本は、先進国の中では唯一離婚後共同親権・離婚後共同監護を認めておらず[要出典]、離婚に際してどちらか一方の親が親権者となる単独親権制度を採用しているため、子の争奪をめぐって夫婦間で熾烈な争いが演じられるケースが多い[15][16]

一方の親による離婚前の連れ去りや、虚偽のDV申し立てなど、手段を選ばない方法が横行しており、このために夫婦間の感情的葛藤がさらに高まることで、PAという形で、何ら罪のない子供が被害を受けるケースが多くなっている現状があり、他の先進国並みに離婚後共同親権の確立を求める声も強い[17]。母性優先の原理に則った裁判所の判断によって父親が子と会えなくなるケースが多いが、連れ去りなどによる場合は現状追認が優先され、母親側が子と会えなくなる場合も少からずある。面接交渉権が認められても、実際にはPAによって監護者側の意図が反映され[18]、子に会えない親、片親に会えない子が数多く存在する。裁判所での子供の意思の確認は15歳未満ではほとんど行われず、15歳以上で行われる場合も、監護側の親の意思により形成された(かもしれない)表面的なものを判断材料とし、多くは現状維持を追認するケースが大半である[19]。親権について親同士の争いがある場合は、家庭裁判所調査官による調査が行われるのが通例であるが、形式的なものが多く、虐待があってもそれが認められることは少ない[20]。したがって、上述のように母性優先の原則に則り、母親側に親権が与えられることが多い。

片親引き離しの影響[編集]

片親引き離しは、子供に次のような影響を与える。

片親だけで育てられた子供は、精神的な問題を起こしやすい
片親だけで育てられた子供は、学業成績不良、睡眠障害、抑うつ症状、自殺企図、違法行為、風紀の乱れ、薬物依存などの問題を起こしやすい。バージニア大学のヘザリントン教授は、離婚が子供に及ぼす影響について研究したが、「片親だけで育てられた子供は、精神的トラブルが2倍になる[21]」と述べた。
子供の発達・発育に不利になる
ケンブリッジ大学のMichael Lamb 教授は、「片親と子供の分離が子供に不利にならないようにするためには、時間をうまく配分したとしても、片親と過ごす時間が子供の時間の30~35%以上あることが必要である。」と述べた。
父親の役割を果たせなくなる
父親の役割と、母親の役割は、共通の部分もあるが、異なる部分もある。父親は、子供が成長して迎え入れられる社会について、子供に教え準備をさせる。父親は、子供の独立を促す。また規律、ルール、労働、責任、協力、競争などについて、子供に教える [22][23][24]。母親だけで子供を育てると、特に男の子の教育において、これらの点について訓練や準備が充分には行われず、こうした点が不得意な大人になる[25][26]
同居親との関係もうまく行かなくなる
別居や離婚が、子供の思春期以後に起きた場合には、子供から片親が引き離されると、子供は同居親からも精神的に離れて行くことが多い。同居親とあまり話さなくなったり、自室に引きこもったりすることが多くなる。同居親に新しい相手が出来て、性的活動が行われるようになると、この傾向は一層顕著になる[27]
非同居親を子供から引き離したということは、子供の利益を第一に考えていない顕著な証明である。子供から見れば、最も大切な関係のうちの一つを切られたのである。それにより子供の健全な発育は困難にされたのである。子供は、離婚交渉や仕返しの道具にされたのである。そうした理由により、同居親に対して、全幅の信頼を寄せることは無くなる。人質の全てが、ストックホルム症候群になるわけではない。

脚注[編集]

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  1. ^ Bernet, W (2008). “Parental Alienation Disorder and DSM-V”. The American Journal of Family Therapy 36 (5): 349-366. doi:10.1080/01926180802405513. 
  2. ^ Bruch, CS (2001). “Parental Alienation Syndrome and Parental Alienation: Getting It Wrong in Child Custody Cases” (pdf). Family Law Quarterly 35 (527): 527-552. http://www.law.ucdavis.edu/faculty/Bruch/files/fam353_06_Bruch_527_552.pdf. 
  3. ^ Wood, CL (1994). “The parental alienation syndrome: a dangerous aura of reliability”. Loyola of Los Angeles Law Review 29: 1367–1415. http://fact.on.ca/Info/pas/wood94.htm 2008年4月12日閲覧。. 
  4. ^ a b Hoult, JA (2006). “The Evidentiary Admissibility of Parental Alienation Syndrome: Science, Law, and Policy”. Children's Legal Rights Journal 26 (1). http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=910267. 
  5. ^ PAS
  6. ^ Parental Kidnapping: A New Form of Child Abuse
  7. ^ Parental Child Abduction is Child Abuse
  8. ^ Parental Kidnapping: Prevention and Remedies Hoff著、アメリカ弁護士協会、2000年
  9. ^ 米国政府文書
  10. ^ The Crime of Family Abduction 米国法務省の文書
  11. ^ Fortin, Jane (2003). Children's Rights and the Developing Law. Cambridge University Press. pp. 263. ISBN 9780521606486. 
  12. ^ Bainham, Andrew (2005). Children: The Modern Law. Jordans. pp. 161. ISBN 9780853089391. 
  13. ^ Parental Child Abductions Victims of Violence - カナダ政府が出資している機関
  14. ^ ISBN 4334035507 離婚で壊れる子どもたち 棚瀬一代
  15. ^ NHK解説委員室 視点・論点「会えないパパ 会えないママ」2009年03月19日 (木)
  16. ^ 「親権」と「親」の乖離後藤富士子
  17. ^ 親子の交流断絶防止法制定を求める全国連絡会
  18. ^ 山形新聞 平成23年12月21日朝刊:益子行弘
  19. ^ ISBN 4582855768 子どもの連れ去り問題 コリン・ジョーンズ
  20. ^ 負けた側の真実:越智みさ子に詳しい。
  21. ^ ISBN 0393324133 For Better or for Worce, Hetherington
  22. ^ The Role of the Father
  23. ^ Biology of Dads BBCドキュメンタリー番組
  24. ^ 人間関係「父親が子どもの発達に与える影響」第2節 p37-39 著:谷田貝公昭
  25. ^ The Importance of Fathers in the Healthy Development of Children 米国政府文書
  26. ^ Fathers' impact on their children's learning and achievement Fatherhood Institute
  27. ^ ISBN 1886230846 Parenting after Divorce, P70

参考サイト[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]