共依存

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共依存(きょういそん、きょういぞん、Co-dependency)とは、自分と特定の相手がその関係性に過剰に依存しており、その人間関係に囚われている関係への嗜癖状態(アディクション)を指す[1][2]。すなわち「人を世話・介護することへの依存」「愛情という名の支配」である[3]。共依存者は、相手から依存されることに無意識のうちに自己の存在価値を見出し、そして相手をコントロールし自分の望む行動を取らせることで、自信の心の平安を保とうとする[4][2]

共依存という概念は、医療に由来するものではなく、看護現場サイドから生まれた[5]。共依存と呼ばれる前は、Co-alcoholic(アルコール依存症の家族)と呼ばれ[6]、当初は「アルコール依存症患者との関係に束縛された結果、自分の人生を台無しにされてしまっている人々」らの特徴を説明するために使われていた[7]アルコール依存症患者を世話・介護する家族らは、患者自身に依存し、また患者も介護する家族に依存しているような状態が見受けられることが、以前より経験則的にコメディカルらによって語られていたからである[6]

共依存にある状況では、依存症患者がパートナーに依存し、またパートナーも患者のケアに依存するために、その環境(人間関係)が持続すると言われている。典型例としては、アルコール依存の夫は妻に多くの迷惑をかけるが、同時に妻は夫の飲酒問題の尻拭いに自分の価値を見出しているような状態である[8][9]。こういった共依存者は一見献身的・自己犠牲的に見えるが、しかし実際には患者を回復させるような活動を拒み(イネーブリング)、結果として患者が自立する機会を阻害しているという自己中心性を秘めている[2][8]

アルコール依存以外への概念の広がり[編集]

これはアルコール依存症だけではなく、ギャンブル依存症の家族、ドメスティックバイオレンス(DV虐待)などにも見られる現象であると言われている[2][1][7]。現在では、単にアルコール依存症患者家族との関係だけでなく、「ある人間関係に囚われ、逃れられない状態にある者」としての定義が受け入れられている[2][5]。例えば、暴力をふるう夫とそれに耐える妻の関係、ギャンブル依存者の借金を穴埋めする家族、支配的なと愛情を受けたい子供の関係、相手からされることが目的となっている恋愛関係などがある。この観点から、自立できない子供のパーソナリティ障害・恋愛における自己愛的な障害ストックホルム症候群にまで共依存の概念が検討され、使用されるようになっている。

共依存という概念は、正しく使えば他者と自己との分離、精神的な自律に役立つ。しかし、共依存に対する誤った認識を持つと、「自分が共依存であるからいけないんだ」という考えにより自らを追い込む可能性があり、注意が必要である。そもそも人間関係において誰かに依存するということは病理とは認定されておらず、あくまでも当事者自身が関係に苦痛を感じていることが問題とされる[1]

現象と問題点[編集]

共依存者には以下の特徴が見られる。

  • 他人の面倒を見たがる[10]
  • 自己の価値を低く見る[10]
  • 抑圧的である[10]
  • 強迫観念にとらわれやすい[10]
  • 相手をコントロールしたがる[10]
  • 現実を直視できない[10]
  • 何かに依存せずにはいられない[10]
  • コミュニケーション能力に乏しい[10]
  • 他人との境界があいまいである[10]
  • 信頼感を喪失している[10]
  • 怒りの感情が正常に働かない[10]
  • セックスが楽しめない[10]
  • 行動が両極端である[10]

共依存の二人は、自己愛の未熟な人間が多いと言われたり、パーソナリティ障害であるケースが多いと言われているが、これはアルコール依存症やアダルトチルドレン、それにパーソナリティ障害の精神病理から導かれたところが多い。その理由として、共依存者も被共依存者も、他者の価値に依存する傾向が多いということが言われている[4]

例えば、アルコール依存症の家族では患者のアルコール依存を認めるような家族の傾向が認められ、それが患者のアルコール飲酒をさらに深める(イネーブリング)[9][6]。またアダルトチルドレンにおいては、両親が自分の評価のために子供を利用し、そのため子供は大人になっても両親からの自立に困難が生じるようになり、自分自身の力のみで自立ができないのである[4]。また、パーソナリティ障害においては、そもそもの親が子供に依存的なケースであることが多い。アダルトチルドレンと同様、大人になると子供は他者に依存して、その他者に自分の要望を過度に期待するケースが見られる。

共依存の問題点は、被共依存者が回復する機会を失うことだけでなく、共依存に巻き込まれた者がストレスを抱え込み、精神的な異常を訴えたり、さらには関係性に悩み、自殺する場合もある。よって、共依存を引き起こさないためには、医療関係者専門家援助者が、共依存を引き起こす者と接する場合には一定の距離を取り、個人的な関係にならないことが必要である[4][11]

対処策[編集]

共依存関係に陥っている場合、当事者は共依存関係について自ら判断するのではなく、第三者である専門家を交えて共依存について対処が望まれる[4]。対策は、アルコール依存症アダルトチルドレン、それにパーソナリティ障害などの対策と重なるところがある[9]。正確には共依存への対策は存在せず、それから派生する精神病理への対策が行われる。ただし、その依存性の問題を正面から取り組む場合には、個別のいくつかの対策がカウンセリングなどを通して行われる場合がある。

共依存関係は、機能不全家族などで育った人々が陥りやすく、また医療者と患者といった関係においても出現する[11][4]。また自分自身は健全であると思っていても、他者を操作する被共依存者との共依存関係を改善させるのは容易ではない。よって専門家のアドバイスを受けるのが望ましい。集団精神療法自助グループなども活用できる[4]

共依存者については、何が最善の結果なのか、自らが本来の援助の目的と異なった依存関係を必要としていないか、依存関係が自らの生きる目的となっていないかを再確認する必要がある[9]。イネーブラーの立場から降り、パートナーに暴力を振るわれたら家を出る、警察に通報するといった態度も必要である[9]

共依存の原因となるパートナー(被共依存者)への対応としては、一定の距離を置きながら援助される[4]。被共依存者は、援助が少ないことに見捨てられた気持ちを抱く可能性もあるが、「自分の人生は自分で切り開いていくしかない」と気づかせることが、結果として被共依存者の回復につながる(底付き直面化[9][4]。被共依存者は支援を受けることに感謝し、関係者を操作することなく、自分自身の置かれている境遇を受け入れることが、回復の第一歩である[4]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 信田さよ子 1999, pp. 171-173.
  2. ^ a b c d e 春日武彦 2011, pp. 35-39.
  3. ^ 信田さよ子 1999, pp. 40-44, 173-175.
  4. ^ a b c d e f g h i j 信田さよ子 1999, pp. 175-180.
  5. ^ a b 信田さよ子 1999, pp. 168-171.
  6. ^ a b c 信田さよ子 1999, pp. 40-44.
  7. ^ a b メロディ・ビーティ 1999, pp. 68-71.
  8. ^ a b 信田さよ子 1999, pp. 40-44, 171-173.
  9. ^ a b c d e f 春日武彦 2011, pp. 126-131.
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m メロディ・ビーティ 1999, Chapt.4.
  11. ^ a b 春日武彦 2011, pp. 173-178.

参考文献[編集]

  • 信田さよ子 『アディクションアプローチ : もうひとつの家族援助論』 医学書院、1999年6月ISBN 4260330020 
  • Beattie, Melody (1992). Codependent no more : how to stop controlling others and start caring for yourself. Hazelden. ISBN 0894864025. 
    • メロディ・ビーティ 『共依存症いつも他人に振りまわされる人たち』 講談社、1999年4月ISBN 4062690675 
  • 春日武彦 『援助者必携 はじめての精神科』 (2版) 医学書院、2011年12月、35-39頁。ISBN 9784260014908 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]