死刑

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死刑制度の世界地図(2009年1月15日時点)
凡例:

██ 死刑を廃止した国、あるいは死刑を採用していない国

██ 特段の事情(戦時など)が無い限り死刑を廃止した国

██ 少なくとも10年間は死刑を執行していない国

██ 死刑が法定刑として存在する国

死刑(しけい,Todesstafe, peine de mort ,Capital punishment)は、古くから存在する刑罰で、対象者(受刑者)の生命を剥奪する(端的に言えば殺す刑罰である。 生命刑(せいめいけい)、極刑(きょっけい)、処刑(しょけい)とも呼ばれる。

目次

[編集] 歴史

詳細は「死刑の歴史」を参照

ジャン=レオン・ジェロームによるローマ時代のキリスト教徒殉教の絵画。火刑、動物刑の公開処刑が描きこまれている

死刑は文明の初期段階において刑罰の中心をなした。世界各地で残虐な死刑の記録が残されている。例えば火焙り(焚殺=ふんさつ)、溺殺、圧殺、生き埋め、(はりつけ)、斬首(ざんしゅ)、毒殺、八つ裂き、車裂(くるまざき)などその執行方法も様々である。しかし近年、死刑存置国の間でも絞首、銃殺、電気殺、ガス殺、注射殺(毒殺)など比較的肉体的苦痛の少ない方法を採用するのが主流である。刑罰の歴史上では文明化と共に死刑を制限することが顕著である[1]

死刑は、身体刑と並び、前近代(おおむね18世紀以前)には一般的な刑罰であった。人類刑罰史上最も古くからある刑罰であるといわれ、有史以前に人類社会が形成された頃からあったとされる[2]。また、「死刑」という刑罰でなくとも、多くの「死に至る(ことが多い)刑罰」も用いられていた。


威嚇効果、すなわちみせしめの手段であったため、公開処刑が古今東西世界各国で行われていた。また刑罰として車裂き鋸挽き釜茹火刑溺死刑、石打ちなど、その執行方法は多種に及んだ。刑罰として死が適用される犯罪行為も窃盗や偽証といった人命を奪わない罪状を含んだほか、叛乱の首謀者といった政治犯に対するものにも適用された。また単に社会規範を破った事に対する制裁として、適用される場合もあった。たとえば、中世ヨーロッパでは姦通を犯した既婚者女性は原則的に溺死刑に処せられていた[3]

為政者による宗教弾圧の手段として用いられたこともあり、ローマ帝国時代のキリスト教徒迫害や、日本の江戸時代には長崎で行われたキリスト教徒26人に対する処刑のようにキリシタンの処刑が多数行われていた。一方宗教者たちによって、魔女裁判のように宗教裁判によって、教会によって死に追いやられた人々も多かった。

その後、罪刑法定主義によって処罰される犯罪行為が規定され、それに反した場合に限り刑罰を受けるというように限定された。どのような犯罪行為に死刑が適用されるかが、あらかじめ規定されるようになった。また18世紀頃から身体を拘束・拘禁する自由刑が一般化し、死刑は「重犯罪向けの特殊な刑罰」という性格を帯びるようになった。死刑の方法もみせしめ効果を狙った残虐なものから絞首刑など単一化されるようになった。

20世紀中期以降は、死刑を存置する国家では概ね他人の生命を奪う犯罪のうち、特に凶悪な犯罪者に対し死刑が適用される傾向がある。また、戦時犯罪は死刑を容認している国も少なくなく、軍隊からの脱走兵や、スパイ行為といった利敵行為などに対して適用される場合がある。

21世紀になっても、国によっては重大な経済犯罪・麻薬密売・児童人身売買といった直接に他人の生命を侵害するわけではない犯罪にも死刑が適用されることがあるほか、一部国家[4]では、窃盗犯であっても裁判によらず即決で公開処刑される事例が存在する。

[編集] 死刑の執行方法

現在74カ国の死刑存置国で行われている、処刑方法は以下の通りである。

公開処刑はイラン、北朝鮮、サウジアラビアなどで行われる。また中国では以前は公開処刑がテレビで放送されていたほか、バスに死刑執行(薬殺刑)設備を積んだ移動死刑設備がある。

死刑の執行、つまり人を殺すという行為を実際に行う者を死刑執行人と呼ぶ。 ヨーロッパ諸国では中世時代から死刑執行を業務とする死刑執行人が存在しており、死刑制度廃止まで存続していた。 アメリカや日本などでは刑務官が行っている。

[編集] 死刑制度の目的

死刑制度の是非については世界的に多くの議論があり、死刑制度を設けている国と設けていない国がある。また、法律上は死刑制度を設けていても実際には死刑を執行していない国もある。また、一般犯罪においては死刑を廃止し、国事犯(外患誘致スパイ行為など)や軍事法廷(軍法会議)における脱走罪・敵前逃亡・利敵行為などに対してのみ死刑を残している国もある。

[編集] 死刑の法的根拠

刑罰は応報的な面があるのは事実であるが、死刑が社会的存在を消し去るものであるため、死刑が近代刑罰が忌諱する応報的な刑罰ではないとする法学的根拠が必要とされている。一般予防説に従えば、「死刑は、犯罪者のを奪うことにより、犯罪を予定する者に対して威嚇をなし、犯罪を予定する者に犯行を思い止まらせるようにするために存在する。」ということになる。

特別予防説に従えば、「死刑は、矯正不能な犯罪者を一般社会に復して再び害悪が生じることがないようにするために、犯罪者の排除を行う。」ということになる。(しかし、より正確に「特別予防」の意味をとると、「特別予防」とは犯罪者を刑罰により矯正し、再犯を予防することを意味するため、犯人を殺してしまう「死刑」に特別予防の効果は無い)

日本やアメリカなど、死刑対象が主に殺人以上の罪を犯した者の場合、死刑は他人の生命を奪った(他人の人権・生きる権利を剥奪した)罪に対して等しい責任(刑事責任)を取らせることということになる。

一般的な死刑賛成論者は予防論と応報刑論をあげるが、応報論の延長として敵討つまり、殺人犯に対する報復という発想もある。近代の死刑制度は、被害者のあだ討ちによる社会秩序の弊害を国家が代替することで無くす側面も存在する。国家の捜査能力が低い近代以前は、むしろ仇討ちを是認あるいは義務としていた社会もあり、それは被害者家族に犯罪者の処罰の責任を負わせて、以て捜査、処罰などの刑事制度の一部を構成させていたという側面もある。

殺人などの凶悪犯罪では、裁判官が量刑を決める際に応報は考慮されている。基本的には近代刑法では応報刑を否認する事を原則としているが、実際の懲役刑の刑期の長短などは被害者に与えた苦痛や、自己中心的な感情による犯行動機があるなど酌量すべきでないなど、応報に基づいておこなれている。ただし、死刑の執行方法は被害者と同様(たとえば焼死させたからといって火あぶりに処すなど)の処刑方法でなく、「人道的」な方法が取られる。

日本では日本国憲法下で初めて死刑を合憲とした判決(死刑制度合憲判決事件最高裁判所昭和23年3月12日大法廷判決)において、応報論ではなく威嚇効果と無力化効果(隔離効果)による予防説に基づいて合憲とされた。

[編集] 抑止効果

個別の刑罰の抑止効果は、死刑、終身刑およびほかの懲役刑も含めて、統計上効果が実証されていない。一般論として、死刑反対派は「死刑による犯罪抑止効果の統計的証拠がないこと」、死刑賛成派は「死刑代替終身刑による威嚇効果が十分でないこと」を指摘する。抑止効果の分析方法には地域比較と歴史的比較がある。地域比較では国や州の制度の違いによって比較が行われる。

地域比較としては、アメリカ合衆国の死刑制度が無い15州と死刑制度がある35州の殺人発生率を比較すると、死刑制度が無い15州の殺人率の平均値は死刑制度が有る35州の殺人率の平均値よりも統計上有意に低い。反対派はこれは抑止効果の不在とし、賛成派はこれは高い犯罪率に対する州政府の対応の結果であると主張するが、死刑制度が無いワシントンDC(全米で最も殺人率が高い)とプエルトリコ(全米で2番目に殺人率が高い)を母集団に加えて比較すると、死刑制度が無い地域の殺人率の平均値と死刑制度が有る地域の殺人率の平均値は近似値であり統計上有意な差は無い[5][6][7][8][9][10][11][12][13][14][15]

主要工業国(先進国・準先進国)で死刑を実施している国としては、日本、アメリカ合衆国、シンガポール、台湾などがあるが、アメリカ合衆国の殺人率は先進国の中では高く他国の殺人率は低い[16][17][18][19][20] ので、個々の国の殺人率は死刑制度の有無や刑罰制度の重軽により決定されるわけではなく、殺人に対する死刑の一般抑止効果としては、国や州や地域別の比較には意味がないとの指摘もある。

時代的比較では、死刑が廃止された国での廃止前・廃止後を比較する試みがされる。しかし様々な制度や文化、教育、経済など様々な社会環境の変化も伴うため、分析者によってさまざまな結論が導き出されており、それだけを取り出して検討するのは困難である。ただし現段階においては、廃止後に劇的に犯罪が増加・凶悪化した典型的ケースはこれまでにはなく、また劇的に犯罪が減少したケースもない。

精神科医作家加賀乙彦は著書『死刑囚と無期囚の心理』の中で、確定死刑囚44人を調査した結果、犯行前や犯行中に自分が犯している殺人行為によって死刑になるかどうかを考えた者はいなかったと報告している。この結果を見て、犯行後に死刑を回避するため目撃者さえ殺害したものまでいたため、無我夢中に殺人をしたものに対する犯罪抑止力は殆ど期待できないと結論付けた。ただし、死刑の可能性を考慮して殺人行為を思い止まった者は、当然、死刑囚にはならないので、死刑の抑止力が働かなかった者だけを例にあげて死刑の抑止力がないと主張するのは無理がある。

自分自身の生命すら省みない自暴自棄な者や、殺人による快楽のみを追い求める自己中心的な、いわゆる「シリアルキラー」には抑止力が働かない例がある。アメリカでは、死刑制度のある州でわざわざ無差別に殺人を犯す者、死刑廃止州で終身刑で服役している囚人が死刑存置州で引き起こした殺人事件を告白し自ら望んで死刑になる者が存在する。例えば、死刑制度のないミシガン州から死刑存置州のイリノイ州に転居して8人を殺害したリチャード・スペックや、死刑廃止州のミネソタ州と死刑存置州のアイオワ州の双方で殺人を犯したチャールズ・ケリーチャールズ・ブラウンはいずれもアイオワ州で裁判を希望して死刑を受け入れたという。また、死刑執行直前になってもアルバート・フィッシュは「最高のスリル」と待望していたとの説があるが、彼のようなシリアルキラーは他人の生命ばかりか自身の生命の保持すら関心がないので、死刑になることを恐れないなど、自己保身のために犯行を躊躇することはない。シリアルキラーのみについていえば死刑の威嚇効果は期待できない。[21]

[編集] 死刑とはいかなる類の刑であるか

ドイツの哲学者イマヌエル・カントは、刑罰は悪に対する悪反動であるため、犯した犯罪に相当する刑罰によって犯罪を相殺しなければならないとして絶対的応報刑論を唱えた。これに対して、刑罰が応報であることを認めつつも、刑罰は同時に犯罪防止にとって必要かつ有効でなくてはならないとする考え方は相対的応報刑論という。

日本で、死刑を合憲とした最高裁判例は、現代の刑法では忌諱される応報論ではなく、犯罪者に対する威嚇効果と無力化効果(隔離効果)による予防説に基づいて合憲している。なお、予防説では死刑は一種の必要悪であるとして、犯罪に対する反省も無く改善不能で矯正も不可能な犯罪者は、社会防衛のために死刑にするのもいたしかたないとの死刑存置派からの論拠があるという[22]

死刑を宣告された死刑囚がどのような心理的変容をみせるかには違いがある。例えば東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件宮﨑勤元死刑囚は恐怖を手紙で訴えている。 光市母子殺害事件被告人2008年4月3日に報道機関の取材に応じ、「僕は死刑存置主義者ですから。終身刑も検討して欲しいと思っていますけどね。ただ判例として僕が死刑になるのは避けたい。ほかの少年少女の事件にも大きく影響するんですから」と発言した。[23]

[編集] 死刑制度をめぐる地域別の現状

詳細は「世界の死刑制度の現状」を参照

[編集] 日本

詳細は「日本における死刑」を参照

日本において死刑判決を宣告する際には、永山則夫連続射殺事件で最高裁(昭和58年7月8日判決)で示した死刑適用基準の判例を参考にしている場合が多い。そのため永山基準と呼ばれ、第1次上告審判決では基準として以下の9項目が提示されている。

  1. 犯罪の性質
  2. 犯行の動機
  3. 犯行態様、特に殺害方法の執拗性、残虐性
  4. 結果の重大性、特に殺害された被害者の数
  5. 遺族の被害感情
  6. 社会的影響
  7. 犯人の年齢
  8. 前科
  9. 犯行後の情状

以上の条件のうち、たとえば4項では「被害者2人までは有期、3人は無期、4人以上は死刑」といった基準があるようにいわれるが、実際の判例では保険金目的殺人や営利誘拐殺人などでは被害者1人でも死刑(例:吉展ちゃん誘拐殺人事件)になるため、金銭がらみの殺人犯は極刑になる場合が多い。その一方で、被害者4人以上でも新宿西口バス放火事件(死者6人)や深川通り魔殺人事件(死者4人)では、「心神喪失者の行為は罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」という刑法39条に拠って、加害者の犯行時は心神耗弱であったことが認められ、法律上の刑の減軽として刑法68条1号の規定により、無期懲役の判決が確定する場合もある。また一家心中を企てて生き残った親については軽微な刑で済まされる場合[24]すらある。

戦前に発生した最悪級の殺人事件であるが東京市電運転手連続殺傷事件(死者7人負傷者10人)でも加害者に対する朝鮮人差別が一因にあるとしたためか、無期懲役が判決されている。また、地下鉄サリン事件の実行犯である林郁夫は担当車両で2人を殺害したが、自首が情状酌量の要素として認められたためか、死刑ではなく無期懲役を求刑され、求刑通りの判決となっている(サリンを製造しただけで実行には一切関わっていない土谷正実や地下鉄サリン事件の実行犯として担当車両で1人の死者も出さなかった横山真人が死刑判決を受ける中で、林郁夫は地下鉄サリン事件の実行犯としては唯一死刑を免れている)。そのため犠牲者数だけで機械的に死刑が適用されるわけではなく、判例に依拠しつつ犯罪の性質も含めて臨機応変に判断していると言える。

1990年代以前は犠牲者の人数が1人の場合には死刑にならないケースが殆どであったが、2000年代以降は犠牲者が1人でも死刑になるケースが見られるようになった。例えば、2004年の奈良小1女児殺害事件では被害者遺族の処罰感情を重視し、被害者が1人であるにも関わらず死刑判決が下されている。2007年の長崎市長射殺事件の一審判決においても被害者が1人の殺人事件で死刑判決が下された(2009年9月29日二審判決福岡高裁は無期懲役)。更に、2009年3月18日には、闇サイト殺人事件‎‎(被害者が1人)で、被告人3人のうち2人に対して死刑判決が下されている。また、「犯行態様が極めて残虐であり、共に同等の責任を負うべきである」として共犯2人が死刑になる場合(例:福岡病院長殺人事件)もある。なお、2004年に死刑判決が確定した警察庁広域重要指定118号事件では犠牲者2人に対し犯行グループ6人のうち3人(死刑求刑は5人)の死刑が確定しており、犠牲者数よりも多い人数の被告人に対して死刑が宣告されるケースも見られつつある。

ただし、何が「残虐」で、何が「残虐」でないかは極めて主観的な問題であり、客観性に乏しく、個別の事件で基準の違いが大きすぎるため、公正さが欠けている部分がある。また、同じような罪状であっても厳罰化と寛容化といった時代的要因(その時代における社会の空気・雰囲気)も重要な判断材料として存在するため、時期や裁判官の思想信条によって判断のバラつきがある。「被害者遺族が極刑を求めるのは当然」というステレオタイプで語られる場合が多いが、被害者遺族の感情は当然であるとしても、過去の判例と比べ著しく量刑にばらつきがあってはならないとされており、難しい判断も要求されている。

また、加害者に重大な前科(軽微な交通違反などは除外)がある場合には死刑になる可能性が高くなる。被害者1人の人違いバラバラ殺人事件三島女子短大生焼殺事件、長崎市長射殺事件などではいずれも前科があり、大阪地下鉄短大生強盗殺人事件では加害者に殺人の前科があり無期懲役の仮釈放中の凶行であった。なお殺人の前科のある再犯殺人犯について最高裁判例(平成11年12月10日判決)では広島県福山市で発生した事件で「別の強盗殺人罪で仮釈放中に再び強盗殺人を犯したケースは死刑が相当」として再犯殺人者は極刑になる可能性が極めて高い。

一方で前科がなく、計画的犯行でなかった場合、死刑判決が回避される傾向にある。たとえば江東マンション神隠し殺人事件では、検察も被害者遺族の処罰感情や過去に被害者が1人でも死刑判決が出た事例を挙げて極刑を求めたが、一審・二審ともそれを退け無期懲役が言い渡され確定した。二審の東京高裁は、検察の被害者が1人の死刑判決の事例に対し、「残虐性の程度や被告の犯罪傾向の深さなどに違いがあり、同様に死刑を選択すべきとの根拠にならない」と述べた[25]。殺害を最初から意図していなかったこと、証拠隠滅で遺体をバラバラにしたのは殺害後であったこと、そして被告人の性格は異様であったとしても逮捕歴がなかったことから、刑事法学者からは裁判官が死刑判決が出しにくい事件だったと指摘されている[26]

[編集] アジア(日本を除く。)

アジア(日本を除く。)では中華人民共和国やサウジアラビア、イランなどの死刑執行数が多い。またシンガポールは厳罰主義であり、ありとあらゆる犯罪に対しても刑罰を加えていることで有名である。また北朝鮮では裁判によらない即決による公開処刑が行われているとの報道もある。なお、アジア諸国で死刑存置国はイスラム教国や東アジアに多い。

中華人民共和国では殺人だけでなく麻薬犯罪や汚職事件で有罪になった場合も死刑になるほか、公開処刑が行われていた。これらは犯罪抑止力の為に必要と中国政府は主張しているが、中国の人権問題として国際社会の批判を受けている。なお死刑執行数は世界最大であり、2008年のアムネスティ報告書の調査によれば2008年に世界25カ国で少なくとも2390人の死刑が執行されたが、最多の中国は少なくとも1718人と、世界の死刑執行数の約72%を占ている[27]。世界人口の5分の1が中国に集中していることを考慮しても、世界の主要国の中では、死刑執行率も格段に高い。

[編集] 中国

詳細は「中華人民共和国における死刑」を参照

執行方法は公開銃殺刑が基本であるが薬殺刑も一部で導入されつつある[28]。中国の場合は、賄賂授受・麻薬密売・売春及び性犯罪など被害者が死亡しない犯罪などでも死刑判決が下されたこともある。また死刑を犯罪撲滅に対する最大の効果があると司法当局が確信しているため、死刑の適用が多用されている。例えば2001年に中国国内で犯罪に対する『厳打』キャンペーンが行われ、暴力による刑事事件だけでなく「株式相場の混乱」といった経済事件まで死刑判決が下され、合せて2960人に死刑判決が下され4月から7月までに1781人に対し死刑が執行された。このように中央からのキャンペーンで地方が暴走することもあり、例えば四川省の検察当局は「迅速な逮捕、迅速な裁判、迅速な結果」の結果、6日間に19000人以上が逮捕され、裁判所も証拠調べを充分に行わずに裁判を行った。そのため結果的に誤判が大量に発生したと見られ冤罪による死刑も多く行われたと言われている。また、このようなノルマを課した犯罪撲滅キャンペーンの結果、現場レベルでは自白を引き出すために暴力的な尋問と拷問が行われ、結果として重大な人権侵害が行われているとの指摘もなされている。

中華人民共和国の刑罰体系では一部の犯罪に関して下された死刑に執行猶予が付せられる規定(中華人民共和国刑法43条[29])がある(とはいえ、この執行猶予はいわゆる再教育を目指すものである。実際に反革命行為に対する死刑宣告を受けたものを死刑の重圧をかけて『労働改造』する目的があると言われている。著名な執行猶予付き死刑を宣告されたものに江青がいる)。2007年には賄賂を受け取った高官が死刑に処されている。また覚醒剤を中国から持ち出そうとした日本人も大量の場合には死刑判決が出されており、2008年7月1日現在、日本人4人の死刑囚が中国国内にいる[30]。なお、過去にイギリスやポルトガルの植民地であった香港(1993年廃止)とマカオには現在でも死刑制度が無い。なお、中国政府は北京オリンピックを控え国際世論、特に死刑制度を廃止している欧州諸国からの批判をかわす為、2007年以降は公開処刑は行わないことを発表した。またフランスのサルコジ大統領が2007年11月に中国訪問した際に胡錦濤国家主席に対し「完全な廃止は求めないが、執行停止に向けた動きを強めてほしい」とに注文した事に対し、「死刑適用のケースを減らしたい」と回答したが具体的な数字についてはふれていない[31]

また司法制度改革として、従来死刑執行命令を出す権限を持っていた地方の高級法院(日本では高等裁判所に相当)を取り上げ、中央の最高法院(最高裁判所)で死刑判決が妥当に出されたかかどうか「審査」したうえで、死刑執行を決めるとしている。なお、中国の刑事裁判は二審制であり、死刑判決を下すのも執行命令を出すのも司法官僚である。

問題点として、中国において三権分立が成り立っておらず、法治主義ではなく役人等の意向が強く反映されている人治主義である点が指摘されている。そのため、死刑を宣告するにしても司法機関において近代的刑事訴訟手続が要求する法手続きが充分整備されていないとの指摘がある。

また死刑囚からの組織的な臓器移植が行われている。これは死刑の執行をされた囚人から臓器提供がされていると他国で批判された問題に対して中国政府高官が認めている。この死刑囚からの臓器移植は中国においては「罪を犯した事に対するせめてもの罪滅ぼし」との儒教的思想による発想からきていると言われているが、行刑関係者が医療関係者から死刑囚の臓器提供の見返りに金銭を受け取っている事も明らかになっている。例えば台北時報2001年8月3日付けの記事によれば、江西省南昌で5月に処刑された男性の遺体が、腎臓移植のために死刑判決を出し死刑執行命令を出した地元裁判所によって地元の病院に販売され、遺族は裁判所から彼の遺骨を返す通知すら受けていないという。このように裁判所によって「移植ありき」の死刑執行の疑いがあり、移植患者にとって都合が良い(休みが取れる旧正月など)時期に大量に処刑されていると批判されている。そのため、2006年には臓器売買禁止法を施行した。だが、未だに臓器売買が行われていることがBBCの取材により明らかになっている。

新疆ウイグル自治区では政治的理由で死刑判決が中国国内で唯一行われている。2001年10月に新疆ウイグル自治区ホタンでの公判大会で少数民族の人物が「武器窃盗」および「国家破壊活動」で有罪となり死刑宣告された直後に「自動的」に処刑された。そのためウイグル人東トルキスタン分離主義者ないしテロリストを区別せずに処刑していると言われ、特に「アメリカ同時多発テロ」以降、イスラム教徒による政治活動も「テロリズム」として処罰していると言われている。また正式な死刑ではないが、主にチベットや東トルキスタン、また民主化活動家や法輪功信者に対して行われる拷問による獄死や、農民運動活動家に対する虐待死が起こっている。これらは、地方政府の役人が中央政府の方針を無視し、自己保身のために地元警察を使って自分達にとって不都合な者を殺害しているからだと言われている。当然これらの行為は裁判を経ていないため違法であるが、実態は不明である。その為、公表されている数字よりも死刑執行者ははるかに多いとする指摘もある。また、死刑執行数が多すぎるため、かえって社会に動揺が広がっているとの指摘がある。[32]

香港の富豪が誘拐され身代金を奪取された事件では、死刑制度のない香港ではなく広東省の刑事当局に告訴したため、富豪の生命が奪われたわけではないが犯行グループが死刑になった。また日本で起きた福岡一家4人殺害事件被疑者3名のうち2名が中国へ逃亡し裁判にかけられた際には、主犯は死刑になったが、従犯に対しては、主犯の潜伏先を自白した「捜査協力」と「自首」を認定し無期懲役に減刑された。従犯とはいえ、4人もの殺害実行に直接関与したにもかかわらず司法取引的な減刑を行なったことは、中国の刑事裁判の量刑の相場から著しく外れるものであるとして、日本側の一部や、中国国内の司法関係者から指摘された。この事件のように心神耗弱や情状酌量すべき事情が無いにも拘らず直接関与した者が死刑にならなかったのは中国国内では前例が少ない。そのため明確な判断基準が無く政治的・恣意的判決が日常的に行われている可能性が強いとの指摘もある。

[編集] 中東諸国

中東のイスラム教国では、死刑執行数が多い。インドネシアのように銃殺刑が法定刑であるが、イランサウジアラビアではコーランの教えにある斬首刑や石打刑が行われている。アフガニスタンは麻薬の原料となるアヘンの供給国でもあるが、麻薬組織犯罪が処罰されるわけではなく、むしろイスラム原理主義武装勢力であるタリバーンが手がけている。イスラム教徒同士では禁じられている誘拐も異教徒に対しては横行している。そのため、このような死刑の目的は、犯罪抑止の為ではなくイスラム原理主義に基づく厳罰であるといえる。このイスラム原理主義的色彩の色濃いイランでは死刑の執行が多い。

サウジアラビアでは厳重な報道管制を敷いており死刑制度の実態については明らかではないが、人口当たりの死刑執行数は世界最多である。また死刑囚の大半はサウジアラビアに来た出稼ぎの外国人労働者であるとも言われている。また名誉の殺人は罰せられないため私刑が横行している上、神に対する冒涜を行った異教徒を殺すことは名誉の殺人であるとの判例があり、テロリスト輸出国になった原因だと指摘する意見もある。実際にアメリカ同時多発テロを引き起こしたテロ組織「アルカイーダ」の上層構成員の出身地はサウジアラビアである。彼らはアメリカに組みするものに対するテロを「ジハード」と自己正当化しているほか、イスラム教では自殺を禁忌されているにもかかわらず自爆テロすら正当化している。ゆえに死刑の存在が犯罪の抑止にならず、歪んだ解釈でむしろ助長してさえいる。なお殺人であってもコーランに被害者遺族が許した場合には死刑の執行が免除されるとある。そのためサウジアラビア人同士の場合、金銭による示談で死刑を免れているといわれている。

その反面、出稼ぎ労働者については死刑になる場合が多く、窃盗罪で死刑になったほか、サウジアラビア特有の倫理観により、強姦被害を訴え出た者が証拠不足で死刑になるケースも存在する。[要出典]詳細はサウジアラビアにおける死刑を参照のこと。

[編集] ヨーロッパ

過去、イギリスでは、1969年の廃止以降、IRAのテロが多発した為、保守党などから数度死刑復活案が唱えられた事がある。またノルウェーは、1945年にヴィドクン・クヴィスリングを死刑にするために特別に銃殺刑が復活している。1945年5月9日に死刑判決を受け、1945年10月24日に銃殺刑を執行した。

現在、欧州連合 (EU) 各国は、不必要かつ非人道的であることを理由として死刑廃止を決定し、死刑廃止をEUへの加盟条件の1つとしている。また欧州人権条約第3条で死刑を禁止するとともに、欧州評議会においても同様の基準を置いている。このため、現EU加盟国に於いて死刑制度を存続している国は、軍法上で死刑制度を存続させているラトビアを除き、1ヵ国も存在しない[33]

EU加盟を目指しているトルコ共和国イスラム教国であるが、死刑制度を廃止した。

ベラルーシはヨーロッパで唯一の死刑存置国である。そのため、EU非加盟国であり欧州評議会から排除されている。

ロシアは、ソ連時代末期の1988年に当時の民主化と人道主義の観点から、死刑の適用対象から60歳以上の高齢者と経済犯罪を除外した。その後は非常に悪質な故意殺人に対してのみ死刑制度が存置されていた[34]1996年の欧州議会加盟時に死刑執行を停止。1999年に憲法裁判所が死刑判決を正式に禁止した。しかし一部の下級裁判所は死刑判決を継続している。停止は2007年初めに期限切れとなる。ロシアが2006年5月に欧州評議会議長国に就任したことをきっかけに、ヨーロッパ諸国から死刑廃止議定書批准を求める声があがっている[35]

2001年6月、EUは、死刑を存続している日米両国に対し2003年1月までに死刑廃止に向けた実効的措置の遂行を求め、それが成されない場合、両国の欧州評議会全体におけるオブザーバー資格の剥奪をも検討する決議を採択した。

[編集] アフリカ

アフリカ53カ国のうち13カ国が死刑廃止している。また20カ国が死刑執行していない。合計すると53カ国のうち死刑を行っていない国は33カ国である。政情が安定している南部諸国における廃止が目立つ。ただし、政情が安定している地域でも、アラブ圏ではイスラム法の影響もあり死刑存続している国が多い。フランスの文化的影響の強い西部アフリカ諸国は、死刑執行を一時停止しているか、国事犯を除く通常犯罪への適用を行っていない国が多い。

[編集] 南北アメリカ

死刑制度があるのは、アメリカ合衆国(連邦法と軍法と35州法)と中米のグアテマラ、キューバなど少数である。そのうちアメリカは先進国で最大の死刑執行数を記録しているが、多くの死刑執行はテキサス州で行われており、そのためアメリカのメディアが「死刑の格差」と報道しており、同州でこのような姿勢をニューヨーク・タイムズは「執行に対する住民の積極的な支持」、ロイター通信は「犯罪者に厳罰を科すことをいとわない『カウボーイ気質』のほか、一部で根強く残る人種差別意識がある」と報道した[36]

ラテンアメリカ(南米)諸国の傾向として、78%の国が一般犯罪に対する死刑を廃止し、59%の国が完全な死刑を廃止している。死刑制度存続国も、10年以上死刑を執行していない。

[編集] アメリカ

アメリカ合衆国の死刑制度

██ 死刑を廃止した州

██ 死刑が憲法違反であるとされた州

██ 1976年以降死刑を執行していない州

██ 死刑が執行される州

アメリカ合衆国における死刑についても参照のこと

アメリカ合衆国では連邦法と軍法と35州の州法に死刑制度が有り、15州の州法とワシントンDC、プエルトリコ、グアム、バージン諸島、サモア諸島、北マリアナ諸島の法律には死刑制度は無い。軍法では1961年以後死刑の執行は無く、ニューハンプシャーとカンサスは、連邦最高裁が死刑は違憲と判決した1972年(連邦最高裁は1976年に合憲と判決を変更し1977年から執行が再開された)以後の執行は無い。凶悪犯罪の少ない、裕福なニューイングランド諸州や裕福ではないが治安が安定している北部内陸州において死刑が行われず、貧しい南部諸州では死刑執行数が多い傾向にある。全米では被告人に対する死刑の宣告ならびに死刑執行は減少傾向にあるが、州によっては死刑執行の盛んな州もある。また、未成年に対する殺害を伴わない性犯罪の再犯者への死刑が適用される州法がサウス・カロライナ州フロリダ州ルイジアナ州モンタナ州オクラホマ州の5州で成立したが、殺人を犯していない性犯罪者に対する死刑適用は過酷であり、憲法違反であると法学者から強く批判されていた。なお連邦最高裁は2008年6月25日に「非道な犯罪であっても、被害者が死んでいない事件で死刑を適用する法律は、残酷な刑罰であり合衆国憲法に違反し無効」という憲法違反判断を下している。そのため、事実上この法律は見直される公算が大きい。

近年の犯罪捜査でDNA検査が導入され、過去に有罪で死刑判決を受けた死刑囚の冤罪が明らかになり、再審で無罪になるケースが多いという。1973年から2001年までにアメリカ国内では96名の死刑囚が釈放されているが、特にフロリダ州では21名も釈放されている。同州では、5名の死刑執行が行われる間に2名が無罪放免になったという。

2007年12月13日に、ニュー・ジャージー州議会が死刑廃止法案を可決し、アメリカ連邦裁判所が1976年に死刑は合憲との判断を下して以降で初めて死刑を廃止した州[37]になった。同州には死刑囚8名がいたが、全員が「仮釈放のない終身刑」に減刑された。その死刑囚の中には、性犯罪の公表を定めた「ミーガン法」制定のきっかけとなった女児殺害犯も含まれているという[38]。2009年3月にはニューメキシコ州が15番目の廃止州になった。

死刑の適用に際して経済的人種的差別が存在しているとの指摘もある。これは、優秀で報酬の高い弁護士を雇用できるほどの経済力を持つ者が司法取引等で減刑される一方で、比較的貧困層の多いアフリカ系アメリカ人に対する死刑の適用が人口比と比べて多いとの指摘がある。

なお、2008年に死刑執行されたのは37人で、過去14年間で最も少なかった。アメリカでは、1976年に死刑制度が復活して以降、執行数は1999年の98人をピークに減少傾向にあり、死刑の代わりに終身刑を選択するケースが増えている。なお、「薬物による死刑執行が激痛を与える可能性があり、残酷で異常な刑罰を禁じた憲法違反の疑いがある」として訴えた件について、連邦最高裁が2007年9月に審理することを決めてから、2008年4月に合憲判決を出すまで全米で執行が停止していた[39]

[編集] オセアニア

オーストラリアニュージーランド共にいかなる場合も死刑を廃止している。ニュージーランドには死刑廃止後、復活させた事があったが、今日は死刑を非人道的として完全に廃止している。島嶼諸国も死刑廃止している。パプアニューギニアは10年以上死刑停止状態である。そのため、事実上死刑制度が存在しない。

なお、各国別の死刑制度の現状については下記ボックスより参照のこと

[編集] 死刑制度に関する議論

詳細は「死刑存廃問題」を参照

死刑および死刑制度については、人権冤罪の可能性、倫理的問題、またその有効性、妥当性、国家としての人類の尊厳など多くの観点から、全世界的な議論がなされている(詳細は死刑存廃問題を参照のこと)。議論には死刑廃止論死刑賛成論の両論が存在する。死刑制度を維持している国では在置論と呼ぶ、廃止している国では復活論と呼ぶ。もちろん死刑の廃止と復活は、世界中で史上何度も行われてきている。

近年では死刑は、前述のように凶悪事件に対して威嚇力行使による犯罪抑止、または犯罪被害者遺族の権利として存置は必要であると主張される場合がある。ただし前者は統計学および犯罪心理学的に死刑の有用性が証明されたものではなく、存在意義はむしろ社会規範維持のために必要とする法哲学的色彩が強い。後者は親愛なる家族が殺人被害にあったとしても、実際に死刑になる実行犯は情状酌量すべき事情のない動機かつ残虐な殺害方法で人を殺めた極少数[40]であることから、菊田幸一など死刑廃止論者から極限られた被害者遺族の権利を認めることに疑問があるとしている。また、いくら凶悪なる殺人行為であっても、その報復が生命を奪うことが果たして倫理的に許されるかという疑問も指摘されている。

また、死刑執行を停止しているロシア当局によるチェチェン独立派指導者の「殺害」などがあり、死刑制度の有無や執行の有無が、その国家の人権意識の高さと直接の関係はないとの主張も存在するが、死刑制度は民主国家では廃止され非民主国家で維持される傾向にある。地理的には、ヨーロッパ、そして南米の6カ国を除いた国々が、廃止している。ヨーロッパ諸国においてはベラルーシ以外死刑を行っている国は無い(ロシアにおいては制度は存在するが執行は十年以上停止状態であるといわれる。チェチェンを参考のこと)。これは死刑制度がヨーロッパ連合が定めた欧州人権条約第3条に違反するとしているためである。またリヒテンシュタインでは1987年に死刑が廃止されたが、最後の処刑が行われたのが1785年の事であり事実上2世紀も前に廃止されていた。またベルギー1996年に死刑が廃止されたが最後に執行されたのは1950年であった。このように、死刑執行が事実上行われなくなって、長年経過した後に死刑制度も正式に廃止される場合が多い。

欧州議会の欧州審議会議員会議は2001年6月25日日本およびアメリカ合衆国に対して死刑囚の待遇改善および適用改善を要求する1253決議を可決した。この決議によれば日本は死刑の密行主義と過酷な拘禁状態が指摘され、アメリカは死刑適用に対する人種的経済的差別と、少年犯罪者および精神障害者に対する死刑執行が行われているとして、両国の行刑制度を非難するものであった。

通常犯罪における死刑が廃止されても、国家反逆罪ないし戦争犯罪によって死刑が行われる場合がある。例えばノルウェーヴィドクン・クヴィスリング1945年5月9日、連合国軍に逮捕され国民連合の指導者と共に大逆罪で裁判にかけられ、銃殺刑に処せられた。ノルウェーでは、この裁判のためだけに特別に銃殺刑を復活(通常犯罪の死刑は1905年に廃止されてはいたが)した。また同様にイスラエルナチスによるホロコーストに関与したアドルフ・アイヒマンを処刑するため、死刑制度がないにもかかわらず(戦争犯罪として適用除外されたともいえるが)死刑を宣告し執行した。

中東とアフリカとアジアにおいては総じて死刑制度が維持されている。冷戦時代は総じて民主国家が廃止、独裁国家が維持していたが、現在では冷戦崩壊後の民主化と大量虐殺の反省により東欧と南米が廃止、アジアおよび中東とアフリカの一部が民主化後も維持している状態である。またイスラム教徒が多数を占める国では、イスラーム法を名目とした死刑制度が維持されているが、トルコのようにヨーロッパ連合への加盟を目指すために廃止した国や、ブルネイのように1957年以降死刑執行が行われていないため事実上廃止の状態の国もある。

[編集] 残虐性の有無

スペインの画家ゴヤが描いた絞首刑のスケッチ(1810~15年頃)

死刑廃止派は、究極の身体刑である死刑が残虐な刑罰の禁止と矛盾すると主張する。死刑存置派は「火あぶり」、「磔」など苦痛を伴う残虐な方法による死刑のみが究極の身体刑であると主張する。また、苦痛を与えることを目的としない死刑は拷問に当たらないとされる。実際に中国で行われている頭部への銃殺刑は、被執行者は「確実に」即死するため、苦痛がないといわれているが、当然のことであるが実証されたものではない。

日本で行われている絞首刑では、実際に見学した人物の証言[41]では、死刑囚の遺体からが飛び出しており、から血液吐瀉物が流れ出しており、下半身から排泄物が垂れ流しになっていたというが、実際のところ日本では死刑囚の遺体が公開されたことも無いので、本当のことはわからない。一方で1994年12月に死刑執行された元死刑囚の遺体を引き取った遺族が法医学教室の協力で検証した実例[41]では、気道をロープで一気に塞がれたことにより、意識が消失して縊死した可能性が高いとされており、死刑囚は速やかに死出の旅路についたといえる。

なお死刑存置国であるアメリカ合衆国では、日本で行われている絞首刑を非人道的であるとして廃止している州がほとんどで、2007年末の時点で絞首刑が認可されているのは、3州を残すのみとなっている。しかも、この3州においても、薬殺刑が主流で、受刑者が望んだとき、あるいは、薬殺刑が執行できないときのみ絞首刑が選択される[42]。実際のアメリカの絞首刑執行数も、1977年以降2009年9月までの死刑執行数1175件のうちの3件のみである[43]。これは死刑囚の首が執行の際に引きちぎれる事があり、たとえば1901年に死刑が執行されたトーマス・エドワード・ケッチャムはロープが長すぎたため、首がちぎれてしまい絞首刑の写真として販売された。この例以外でも、米国、英国、カナダ、オーストラリアなどで、絞首刑における首の切断が起こっている[44]。最近では、2007年1月15日にイラク・バクダッドで処刑されたサダム・フセインの異父弟バルザン・イブラヒム・アル=ティクリティ(バルザーン・イブラーヒーム・ハサン)の例がある[45]

カナダでは、絞首刑においてほぼ首が切断されてしまったアーサー・ルーカスを最後として、結果的に、絞首刑は廃止された[46]が、このような首の切断の危険性によって絞首刑が廃止されたケースもある。アリゾナ州はエヴァ・デュガン氏の首の切断で1933年に絞首刑をガス室に変更した[47]。また、アメリカの法律雑誌では死刑存置国ながら日本が行う絞首刑を「非人道的」と非難する論文が掲載されてる。そのため絞首刑に代わる「人道的執行方法」としてガス室や電気椅子が導入されたが、現在では薬物投与による安楽死、すなわち薬殺刑を新たな処刑方法として採用されており、他の死刑存置国においても一部採用されている。

また、中国では、「犯罪抑止の為の威嚇」の手段として公開処刑が行われ、この時の映像が配信されていた。この時の映像のひとつにデイリーチャイナ紙のインターネットサイト[48]では、銃殺による10人の女性の同時公開処刑の画像を掲載している。これによれば、多くの市民が見物する中、後頭部を軍人が後ろから火器で射撃するもので、死刑囚の頭部は射撃の衝撃で吹き飛ばされ顔面は崩れ、その裂け目から流れ出た血で衣服は赤く染まっていた。このような残虐な様相のため、世界の多くの人権擁護団体から中国政府に対し公開処刑とともに死刑の執行方法に強い非難を集めている。

そのため日本でも絞首刑には短期間ながらもそれなりの苦痛が伴うとして、アメリカ合衆国で採用されている薬物などによる薬物注射による薬殺刑が適当な死刑執行方法であるとする主張[49]も存在する。ただし、その薬殺刑についても異常な刑罰との訴訟があったが、アメリカ連邦最高裁は2008年4月に憲法に反しないとの判断を下している。

[編集] 参考文献

  • 重松一義『死刑制度必要論』(信山社)
  • 植松正著・日髙義博補訂『新刑法教室I総論』(成文堂)
  • 板倉宏『「人権」を問う』(音羽出版)
  • 植松正「死刑廃止論の感傷を嫌う」法律のひろば43巻8号〔1990年〕
  • 井上薫『死刑の理由』(新潮文庫) 永山事件以、死刑確定した43件の犯罪事実と量刑理由について記されたもの。
  • 竹内靖雄『法と正義の経済学』(新潮社)
  • 日垣隆『そして殺人者は野に放たれる』(新潮社)
  • 亀井静香『死刑廃止論』(花伝社)
  • 藤本哲也 『刑事政策概論』 (青林書院
  • マルタンモネスティエ 『図説死刑全書』 (原書房

[編集] 注釈及び引用

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  1. ^ 川端博『刑法総論講義』成文堂 660頁。
  2. ^ 斎藤静敬『刑事政策』創成社 79頁。
  3. ^ ただし、現在でもイスラム法を重要視している国では不倫や婚前前性交渉を理由に死刑になる場合が存在する。
  4. ^ 北朝鮮に関する報道による。
  5. ^ Death Penalty Information Center>Murder Rates>By Rank, Highest to Lowest 2009年9月18日閲覧
  6. ^ Death Penalty Information Center>State by State Database 2009年9月18日閲覧
  7. ^ FBI>UCR Crime Statistics>2008>Violent Crime>Table 4 2009年9月18日閲覧
  8. ^ FBI>UCR Crime Statistics>2006>Violent Crime>Table 4 2009年9月18日閲覧
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  10. ^ FBI>UCR Crime Statistics>2002>Section II Crime Index>Table 4(PDFの62~70ページ、文書の68~76ページ) 2009年9月18日閲覧
  11. ^ FBI>UCR Crime Statistics>2001>Table 4 Index of Crime by Region, Geographic Division, and State, 2000 -2001(PDFの66~74ページ、文書の66~74ページ) 2009年9月18日閲覧
  12. ^ FBI>UCR Crime Statistics>1999>Section II Crime Index Offenses Reported>Table 4(PDFの66~72ページ、文書の66~72ページ) 2009年9月18日閲覧
  13. ^ FBI>UCR Crime Statistics>1997>Section II Crime Index Offenses Reported>Table 4 Index of Crime: Region, Geographic Division, and State, 1996 - 1997(PDFの61~67ページ、文書の68~74ページ) 2009年9月18日閲覧
  14. ^ FBI>UCR Crime Statistics>1995>Section II Crime Index Offenses Reported>Table 4. Index of Crime: Region, Geographic Division, and State, 1994 - 1995(PDFの56~62ページ、文書の60~66ページ) 2009年9月18日閲覧
  15. ^ United States: Uniform Crime Report -- State Statistics from 1960 - 2008 2009年8月31日閲覧
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  19. ^ UNODC>Data and Analysis>Crime surveys>The periodic United Nations Surveys of Crime Trends and Operations of Criminal Justice Systems>Eighth Survey (2001 - 2002)>Sorted by variable 2009年8月31日閲覧
  20. ^ UNODC>Data and Analysis>Crime surveys>The periodic United Nations Surveys of Crime Trends and Operations of Criminal Justice Systems>Ninth Survey (2003 - 2004)>Values and Rates per 100,000 Total Population Listed by Country 2009年8月31日閲覧
  21. ^ 宮本倫好『死刑の大国アメリカ』亜紀書房刊
  22. ^ <藤本哲也 『刑事政策概論』 青林書院 126頁。
  23. ^ 母子殺害元少年の「理解不能」発言 「死刑制度認める、でも死刑になりたくない」J-CASTニュース 2008年4月22日閲覧。
  24. ^ たとえば、1949年5月20日付の毎日新聞によれば、生活苦から子供3人を殺害し、死にきれずに自首した母親に対し、裁判所が懲役3年執行猶予5年という事実上無罪に近い判決を出した事に対し、子供を親の私有物視する封建思想として参議院法務委員で追求され、裁判について国政調査権による調査の是非について司法と立法府が争った事実が記録されている。
  25. ^ MSN産経ニュース (2009年9月10日). "「矯正の可能性ある」 江東バラバラ事件の被告、二審も無期懲役判決". 2009年9月10日 閲覧。
  26. ^ 朝日新聞2009年2月19日朝刊。
  27. ^ 「中国、1718人死刑執行 08年、アムネスティ報告書」 【共同通信】)、2009年3月24日
  28. ^ <死刑>人道的な配慮、「銃殺」から「薬物注射」に全面切り替えへ 2008年3月2日付配信 Record China
  29. ^ 藤本哲也 『刑事政策概論』 青林書院 131頁。
  30. ^ 朝日新聞2008年7月1日朝刊。
  31. ^ 朝日新聞 2007年11月27日。
  32. ^ 朝日新聞2007年2月25日
  33. ^ ラトビアもEU加盟に当たって、死刑の全廃を公約している。
  34. ^ 朝日新聞 1988年2月24日。
  35. ^ 「ロシアの死刑廃止を求め欧州から圧力」 モスクワIPS(Inter press service)、2006年7月21日
  36. ^死刑執行6割がテキサス州 米で広がる死刑格差2008年3月5日閲覧。
  37. ^ 実質的には1976年以降停止されていた。
  38. ^ 朝日新聞2007年12月15日。
  39. ^ 『読売新聞』2008年12月13日の記事
  40. ^ 日本では毎年1000人近い殺人犯が検挙されるが、死刑判決が確定するのは、そのうち数十人である。
  41. ^ a b 別冊宝島「死刑囚最後の1時間」11頁。
  42. ^ U.S.Department of Justice2009年10月13日閲覧
  43. ^ Death Penalty Information Center2009年10月13日閲覧
  44. ^ 日本における死刑
  45. ^ The New York Times, 2007.1.162009年10月13日閲覧
  46. ^ Hoshowsky, Robert J. (2007). THE LAST TO DIE RONALD TURPIN, ARTHUR LUCAS, AND THE END OF CAPITAL PUNISHMENT IN CANADA. Routledge. 
  47. ^ Time,1930.3.32009年10月13日閲覧
  48. ^ 引用したホームページであるが、残虐性のひどい衝撃的かつグロテスクなものであるため、直接リンクすることは自粛します。
  49. ^ 東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件で死刑判決が確定した宮崎勤が『』に対して薬殺刑の導入を訴える投書をしている。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク