ストーカー

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ストーカー: stalker)は、特定の人につきまとう人のこと。つきまとい行為を「ストーカー行為」「ストーキング(: stalking)」とも言う。

概要[編集]

英語で、獲物に対して「忍び寄る」「こっそり追跡する」という意味の動詞 stalk(ストーク)に由来し、そのような行為をする人は接尾辞 "-er" を付けて stalker(ストーカー)、そのような行為そのものは接尾辞 "-ing" を付けて stalking(ストーキング)と言う。日本語では「ストーキング」と「ストーカー行為」は同じ意味。

アメリカ合衆国では1980年代に発生したリチャード・ファーレーの事件を機に、1990年カリフォルニア州でストーキング防止法(: anti-stalking law)が初めて成立した。

かつて日本では、つきまとい行為を既存の法律が対象としていなかったため、警察民事不介入により取り締まり出来なかった。ただし、つきまとい行為から一歩踏み出してエスカレートした場合は軽犯罪法違反、さらに名誉毀損罪脅迫罪で取り締まることは可能だった。警察が対応できる段階的な凶悪化を呈さず、つきまとい行為が殺人に直結してしまった桶川ストーカー殺人事件を機に、議員立法ストーカー規制法2000年平成12年)に制定された。また地方公共団体でもストーカー行為を刑事罰に規定した迷惑防止条例が制定される例もでてきた。なお、ストーカー規制法以外につきまとい行為を規制する法律としては、刑法配偶者暴力防止法児童虐待防止法暴力団対策法軽犯罪法がある。

ストーカーの心理[編集]

精神科医福島章は、『新版 ストーカーの心理学』(2002年)にて、ストーキングを行う者の心理を以下の5つに分類して考察している[1][注 1]

  • 精神病系
精神病によって抱く恋愛妄想、関係妄想によってストーキングを行う[2]。現実には自分と無関係の、スターに付き纏うようなタイプが多い[3]。警察庁の統計によれば、ストーカーに占める精神障害者の割合は、0.5%である[4]
妄想によりストーキングを行うが、妄想の部分以外は正常で、話すことは論理的で[5]、行動は緻密であることが多い[6]。現実の恋愛関係の挫折による付き纏い行為もあるが、現実には自身と無関係の相手に付き纏うタイプが多い[3]
性格は外交的・社交的[7]で、「『孤独を避けるための気違いじみた努力』が特徴」[7]で、病気ではなく[8]、人格の成熟が未熟で、自己中心的で、他人・相手の立場になってみてものを考えることが出来ないタイプで[8]、このタイプの人は精神医学の専門家でない人が想像するよりも世の中に多い[8]という。人間関係は濃く[7]、相手を支配しようとするところに特徴がある[9]という。
自信・自負心が強く、拒絶した相手にストーキングするものが多く、行動的な分類からは『挫折愛タイプ』に属するものが多い[10]。現実の人間関係は深い[7]
  • サイコパス系(反社会的人格障害)
被愛妄想を持つ(相手が自分を好きであると信じる)のではなく[11]、自分の感情・欲望を相手の感情と無関係に一方的に押し付けるタイプで、性欲を満たすための道具として相手を支配する[12]ものが多い。「凶悪・冷血な犯罪者」[13]「典型的な犯罪者」[13]というイメージが特徴で、人間関係は強引で、「相手に『取り憑く』能力を持っている」[13]ことが特徴であるという。

福島章の『新版 ストーカーの心理学』(2002年)によれば、すべてのタイプのなかで、男女を問わずストーキングを受けた者が最も困難に陥れられるタイプは、ボーダーライン型であるという[注 3]DSMで、境界人格障害(ボーダーライン系)・演技性人格障害・自己愛性人格障害(ナルシスト系)・反社会性人格障害サイコパス系)は『不安定なグループ』に分類される[14]。福島は、ストーカー一般の特徴として、『被愛妄想(エロトマニア)』という言葉を挙げている。福島は、自分が相手を好きという感情は、どんなに強くても恋愛感情であって恋愛妄想ではない、妄想とは、証拠・根拠がないのに相手が自分を好きであると信じる、逆に相手が自分を嫌っている証拠・根拠があっても相手が自分を好きであると信じる、信じて疑わないことである、と述べている[15][注 4]。また、ストーカー一般の特徴は、拒絶に対する過度に敏感な反応であり[7]、すべてのタイプに共通するところは、相手の感情に想像力を働かせない、甘え、思い込み欲求不満攻撃に替えて解消する、というところだという[16][注 5]

ほかにも、何人かの人がストーキングを行う者の心理の分類の試み/考察をしている。

ロバート・K・レスラーによる分類[17]

  1. 正常なストーカー
  2. 異常なストーカー
    1. リジェクション・センシティブ・タイプ … 拒絶に過敏な人。
    2. ボーダーライン人格障害タイプ … ボーダーライン人格障害。
    3. エロトマニア・タイプ … 関係妄想。
    4. スキゾフィニア・タイプ … 分裂病質。スキゾフレニアか?[18]

町沢静夫による分類[19]

  1. ボーダーライン型 … 嫌われることに敏感。現代増えている。
  2. 妄想障害型 … 好かれているはずだと思い込む。昔から存在した。

影山任佐による分類[20][注 6]

  1. 誇大自信過剰型 … 好かれているはずだと思い込む。
  2. 未練執着型 … 別れた恋人や配偶者にストーキングする。
  3. ファン型 … 有名人にストーキングする。[注 7]
  4. 妄想型 … 一方的な恋愛感情や被害者意識。
  5. 中核型 … 相手を支配しようとしたり、相手の心の中に『巣くおう』とする。最も現代的な型。

アメリカ人精神科医ドリーン・オライオンによる分類[21]

  1. エロトマニア … 自分は特定の相手に愛されていると思い込む妄想性障害。きわめて執拗で何年も続く。どんなに明確に拒絶されても、愛を告白されたと誤解する。

司法精神科医のDr.リード・メロイによる分類[22]

  1. ボーダーライン・エロトマニア型妄想性障害 … 対象と接触してから異常な執着を持つ。エロトマニアより現実にもとづく。長期間必死になれば相手が愛してくれると過剰に理想化した考えを持つ。


日本の主なストーカー事件[編集]

日付は発生時期

日本のストーカー事案の判例[編集]

日本のストーカー事案の統計[編集]

ストーカー事案の認知件数は2001年平成13年)以降、1万2000件~1万5000件の間を推移しており、ストーカーも多様化している。サイバーストーカー、スターストーカー(著名人、アナウンサーなど特定の者に対し、ストーカー行為や当該被害者のブログSNS等での誹謗中傷の書き込み、犯罪予告などサイバーストーカーと同様の犯行手口。一般被害者と異なるのが公の場所に出る職業であること、インターネットで現在地が特定されてしまうことが特徴)が存在する。

ストーカー規制法の定義[23]によれば、ストーカーとは同一の者に対し、つきまといなどを反復してすることを指し(第2条)、『つきまといなど』とは、『恋愛感情その他の好意』や『それが満たされなかったことに対する怨恨』により、相手やその関係者に以下のいずれかの行為をすることをさす(以下第2条の要約。カッコ内は警察庁による2009年(平成21年)の認知件数[4]、複数計上)。

  • (1号)つきまとい・待ち伏せ等(7,607人 51.3%)
  • (2号)監視していると告げる行為(1,092人 7.4%)
  • (3号)面会・交際の要求(7,738人 52.2%)
  • (4号)乱暴な言動(3,069人 20.7%)
  • (5号)無言電話・連続電話(4,453人 30.0%)
  • (6号)汚物等の送付(139人 0.9%)
  • (7号)名誉を害する行為(793人 5.3%)
  • (8号)性的羞恥心を害する行為(987人 6.7%)

またストーカー規制法で規制されていない嫌がらせ行為などが294人、2.0%あった[4]

動機については、ストーカー規制法に抵触するものでは、好意の感情(9,322人 62.9%)、好意が満たされず怨恨の感情(3,791人 25.6%)がある。それ以外のものは非常に少ないが、精神障害(被害妄想含む。71人 0.5%)、職場・商取引上トラブル(8人 0.1%)、その他怨恨の感情(75人 0.5%)、その他(154人 1.0%)がある[4]

年齢については、被害者は20歳代(35.0%)と30歳代(29.2%)、40歳代(16.5%)を合わせて8割(80.7%)を占め、10歳代、50歳代、60歳代、70歳代以上はそれぞれ10%未満である[4]加害者は30歳代(25.7%)が最も多く、20歳代(18.4%)、40歳代(18.1%)、50歳代(10.7%)と合わせて7割(72.9%)を占め、10歳代、60歳代、70歳代以上はそれぞれ10%未満である[4]。加害者はほかに、年齢不明が16.7%ある[4]

被害者と加害者の関係については、交際相手(元含む)の51.5%、配偶者〈内縁・元含む〉の8.2%を合わせてほぼ6割(59.7%)を占め、知人友人(10.5%)、勤務先同僚・職場関係者(8.7%)、密接関係者(3.0%)まで含めて、顔見知り、人間関係のあるものが8割(81.9%)である[4]。その他(近隣居住者、タレントのファンなど)(4.2%)、面識のない相手によるもの(5.6%)、行為者不明(8.3%)は、合わせて2割に満たない程度(18.1%)である[4]

ストーカーに関する作品[編集]

映画
地獄門[注 8](1953年)
おとうと[注 8](1960年)
異常性愛記録 ハレンチ(1969年)
恐怖のメロディ[注 8](1971年)
アデルの恋の物語[注 8](1975年)
危険な情事[注 8](1987年)
不法侵入(1992年)
ザ・ファン(1996年)
ストーカー(2002年) - 恋愛執着ではなく家族愛執着をストーカー動機として描いた作品。ロビン・ウィリアムス主演。
Jの悲劇(2004年)- イアン・マキューアンの小説『愛の続き』の映画化。
テレビドラマ
転校少女Y[注 8](主演:高部知子渡辺謙 TBS系列、1984年)
ずっとあなたが好きだった[注 8](主演:賀来千香子佐野史郎 TBS系列、1992年)
十年愛[注 8](主演:田中美佐子浜田雅功 TBS系列、1992年)
ジェラシー[注 8](主演:石田純一黒木瞳日本テレビ読売テレビ系列、1993年)
誰にも言えない[注 8](主演:賀来千香子佐野史郎 TBS系列、1993年)
素晴らしきかな人生[注 8](主演:浅野温子織田裕二 フジテレビ系列、1993年)
憎しみに微笑んで]][注 8](主演:柳葉敏郎保阪尚希 TBS系列、1993年)
ストーカー 逃げきれぬ愛(主演:高岡早紀 日本テレビ読売テレビ系列、1997年)
ストーカー・誘う女(主演:雛形あきこ陣内孝則 TBS系列、1997年)
略奪愛・アブない女(主演:赤井英和稲森いずみ鈴木紗理奈 TBS系列、1998年)
音楽
見つめていたいポリス(1983年)
最後の雨中西保志(1992年)
「ストーカーと呼ばないで」オオタスセリ(2006年)
「誰よりもあなたを」ミドリカワ書房(2008年)
漫画
うわさももち麗子
藤子不二雄Ⓐブラックユーモア短編 内気な色事師(藤子不二雄Ⓐ、1972年)
座敷女望月峯太郎、1993年)
おそるべしっっ!!!音無可憐さん鈴木由美子、1998年)

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 渋谷昌三 『面白いほどよくわかる!心理学の本』 pp.228-229. 「心の病14 相手の気持ちが理解できないストーカー」 ストーカーのタイプとして、福島章の5分類を挙げている。
  2. ^ パラノイア」「偏執病」も参照。「パラノイド」は「パラノイアの」という意味。
  3. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 p.111, pp.111 - 113. 本書は、「最強のストーカー」(p.111)と表現している。
  4. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 pp.75 - 76.によれば、『被愛妄想(エロトマニア)』とは症状の名前で、タイプを問わず、すべてのストーカーが共通して持っている要素である。同 p.120.によれば、サイコパスだけ違うという。
  5. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 p.139. 「ストーカーたちは、相手がなかなか自分の思いどおりにならないと、あたかも母親に乳を与えてもらえない乳児のようにいらだち、怒り恨みの感情を抱く。そして、大切な母親の乳房を噛んで攻撃する赤ん坊のように、愛の対象を攻撃したくなるのだ」。
  6. ^ 影山任佐 『図解心理学 心の病と精神医学』 pp.160-161. 影山任佐は、2007年の『図解心理学 心の病と精神医学』では妄想型・パーソナリティ障害型・その他の型の3タイプを挙げている。
  7. ^ 追っかけも参照。
  8. ^ a b c d e f g h i j k l 「ストーカー」という定義が、社会的に認知される前の製作・上映・放送である。

出典[編集]

  1. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 pp.74-131, 全部.
  2. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 p.80.
  3. ^ a b 福島章 『ストーカーの心理学』 p.128.
  4. ^ a b c d e f g h i 平成21年度ストーカー事案及び配偶者からの暴力事案の対応状況について2010年8月27日閲覧
  5. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 p.90.
  6. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 p.93.
  7. ^ a b c d e 福島章 『ストーカーの心理学』 p.129.
  8. ^ a b c 福島章 『ストーカーの心理学』 p.111.
  9. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 p.112.
  10. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 p.113.
  11. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 p.120.
  12. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 p.124.
  13. ^ a b c 福島章 『ストーカーの心理学』 p.130.
  14. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 pp.101 - 102.
  15. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 p.84.
  16. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 pp.134 - 146.
  17. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 pp.74 - 76.
  18. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 p.76.
  19. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 pp.76 - 77.
  20. ^ 福島章 『ストーカーの心理学』 pp.77 - 78.
  21. ^ ドリーン・オライオン「エロトマニア妄想症」p37,p40,p65
  22. ^ ドリーン・オライオン「エロトマニア妄想症」p67
  23. ^ ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号)

参考文献[編集]

関連文献[編集]

原著:Paul E. Mullen, Michele Pathe, Rosemary Purcell, Stalkers and Their Victims, Cambridge University Press, ISBN 0521669502

関連項目[編集]

外部リンク[編集]