法句経

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法句経』(ほっくきょう)、または『ダンマパダ』(: Dhammapada)は、仏典の一つで、仏教の教えを短い詩節の形で伝えた、韻文のみからなる経典である。語義は「真理: dhamma)の言葉(: pada)」である[1]。様々なテクストから仏陀の真理の言葉だけを取り出し、偈(詩)の形にしたもので、編纂者は法救(ほっぐ。Dharmatrāta)と考えられる[1]パーリ語仏典の中では最もポピュラーな経典の一つである。スッタニパータとならび現存経典のうち最古の経典といわれている[2]。かなり古いテクストであるが、釈迦の時代からはかなり隔たった時代に編纂されたものと考えられている[3]

テキスト[編集]

パーリ語版『ダンマパダ』はパーリ語経典の「小部」に第2経として収録されている。26章に分かれており、423の詩節を収録する。漢訳としては

  • 維祇難等訳『法句経』(大正蔵210)
  • 法炬・法立訳『法句譬喩経』(大正蔵211)

があるが、パーリ語版とは配列や内容にかなりの違いがある[4]

ガンダーラ語版の断簡の一部分は19世紀末にホータン近辺でデュトルイユ・ド・ランが入手し、別の一部分をロシアのペトロフスキーが入手した[5]。全体の23にあたる350詩節ほどが残っている[6]。パーリ語本と順序は異なるが、本来はパーリ語本と同様に26章からなっていたらしい[7]。1990年代以降に新たな断簡が発見された[8]

ほかに、サンスクリットの強い影響を受けたプラークリットで書かれた『Patna Dharmapada』と呼ばれる版がある[9]。また、『マハーヴァストゥ』には『法句経』の「千」と「比丘」の章を引用する[10]

構成[編集]

パーリ語版『ダンマパダ』は、以下の全26章から構成される。

  1. 第1章 - 双(Yamaka-vaggo)
  2. 第2章 - 不放逸(Appamāda-vaggo)
  3. 第3章 - 心(Citta-vaggo)
  4. 第4章 - 花(Puppha-vaggo)
  5. 第5章 - 愚者(Bāla-vaggo)
  6. 第6章 - 賢者(Paṇḍita-vaggo)
  7. 第7章 - 尊者(Arahanta-vaggo)
  8. 第8章 - 千(Sahassa-vaggo)
  9. 第9章 - 悪(Pāpa-vaggo)
  10. 第10章 - 罰(Daṇḍa-vaggo)
  11. 第11章 - 老い(Jarā-vaggo)
  12. 第12章 - 自己(Atta-vaggo)
  13. 第13章 - 世界(Loka-vaggo)
  14. 第14章 - ブッダ(Buddha-vaggo)
  15. 第15章 - 楽(Sukha-vaggo)
  16. 第16章 - 愛(Piya-vaggo)
  17. 第17章 - 怒り(Kodha-vaggo)
  18. 第18章 - 汚れ(Mala-vaggo))
  19. 第19章 - 法行者(Dhammaṭṭha-vaggo)
  20. 第20章 - 道(Magga-vaggo)
  21. 第21章 - 雑多(Pakiṇṇaka-vaggo)
  22. 第22章 - 地獄(Niraya-vaggo)
  23. 第23章 - (Nāga-vaggo)
  24. 第24章 - 渇愛(Taṇhā-vaggo)
  25. 第25章 - 比丘(Bhikkhu-vaggo)
  26. 第26章 - バラモン(Brāhmaṇa-vaggo)

抜粋[編集]

Sri Lanka Tripitaka Projectによる。

第20章 - 道(Magga-vaggo)

Sabbe baṅkhārā aniccā'ti yadā paññāya passati
Atha nibbindati dukkhe esa maggo visuddhiyā.
Sabbe baṅkhārā dukkhā'ti yadā paññāya passati
Atha nibbindati dukkhe esa maggo visuddhiyā.
Sabbe dhammā anattā'ti yadā paññāya passati
Atha nibbindati dukkhe esa maggo visuddhiyā.

(参考現代語訳)
「一切の形成されたもの(行,サンスカーラ)は無常である」(諸行無常)と
明らかな智慧(パンニャー)をもって観るときに、ひとは苦(ドゥッカ)から厭い離れる。これが清浄への道である。
「一切の形成されたもの(行)は苦(ドゥッカ)である」(一切皆空)と
明らかな智慧をもって観るときに、ひとは苦から厭い離れる。これが清浄への道である。
「一切の事物(ダーマ)は無我(アナッタ)である」(諸法非我)と
明らかな智慧をもって観るときに、ひとは苦から厭い離れる。これが清浄への道である。

日本への伝来[編集]

『ダンマパダ』は漢訳仏典『法句経』として伝来していたが、「小乗のお経」と認識され、ほとんど顧みられることのなかった歴史がある。漢訳の大蔵経では本縁部に収録されている。『ダンマパダ』に日が当たるようになったのは明治期以降であり、ヨーロッパでの仏教研究で『ダンマパダ』が重要文献として扱われていた影響が大きい。

パーリ語からの日本語訳として、友松円諦訳『法句経』が有名である。友松は1933年にラジオで『法句経』講義を行い、たいへんに歓迎された[11]中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』は、「真理のことば」がパーリ語『ダンマパダ』の翻訳、「感興のことば」がサンスクリット『ウダーナヴァルガ』の翻訳である。

ウダーナヴァルガ[編集]

サンスクリット経典である『ウダーナヴァルガ』(Udānavarga)は、説一切有部および根本説一切有部で編纂されたもので、『法句経』に因縁譬喩譚が加わったもの[12]。『法句経』よりも偈数が大幅に増広されている。これに対応する漢訳は、

  • 竺仏念訳『出曜経』(大正蔵212)
  • 天息災訳『法集要頌経』(大正蔵213)

がある。ほかにチベット語訳および、チベット語訳の注釈書が現存する。

(本偈)

  • Ched-du brjod-pa'i tshoms
    • リンチェン・チョク(Rin-chen mchog)、ヴィディヤーカラプラバ(Vidyākaraprabha)共訳、ペルツェク(Dpal brtsegs)校訂[13]

(注釈書)

  • Ched-du-brjod-pa'i tshoms-kyi rnam-par 'grel-pa
    • プラジュニャーヴァルマン(Shes-rab go-cha)造、ジャナルダナ(Janardhana)、シャーキャ・ロドゥ(Śākya blo-gros)共訳[14]

またクチャ語(トカラ語B)訳の断簡がある[15]

書誌情報[編集]

日本語訳[編集]

英訳[編集]

英訳はミュラーによるもの(1869年、のち『東方聖典叢書』に収録)や、ロックヒルによるチベット語版『ウダーナヴァルガ』の翻訳(1883年)など、長い歴史がある。インド人による翻訳も少なくない。

  • The Dhammapada:The Path of Perfection. Anonymous;Juan Mascaro (Paperback ed.). Penguin Classics. (May 30, 1973). ISBN 0-14-044284-7. 
  • Dhammapada:The Sayings of the Buddha. Shambhala Pocket Classics. Thomas Byrom (Paperback ed.). Shambhala. (November 9, 1993). ISBN 0-87773-966-8. 
  • The Dhammapada:The Sayings of the Buddha. John Ross Carter;Mahinda Palihawadana (Paperback ed.). Oxford University Press. (December 15, 2008). ISBN 978-0-19-955513-0. 
  • The Dhammapada. Classics of Indian Spirituality. Eknath Easwaran (Paperback ed.). Nilgiri Press. (April 13, 2007). ISBN 978-1-58638-020-5. 
  • The Dhammapada:A New Translation of the Buddhist Classic with Annotations. Gil Fronsdal (Paperback ed.). Shambhala. (December 5, 2006). ISBN 1-59030-380-6. 
  • The Dhammapada. Balangoda Ananda Maitreya;Thich Nhat Hanh (Paperback ed.). Parallax Press. (August 1, 1995). ISBN 0-938077-87-2. 
  • Word of the Doctrine. K.R. Norman. Pali Text Society. (1997). ISBN 0-86013-335-4. http://www.palitext.com/palitext/tran.htm#ttword. 
  • The Dhammapada:Verses on the Way. Modern Library Classics. Glenn Wallis (Paperback ed.). Modern Library. (January 9, 2007). ISBN 978-0-8129-7727-1. 

パーリ語本文[編集]

関連文献[編集]

脚注[編集]

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  1. ^ a b 今枝 2015, p. 3.
  2. ^ 岩波仏教辞典第2版 1989, p. 3.
  3. ^ 中村(1978) p.377
  4. ^ 中村(1978) pp.384-385
  5. ^ Brough (1962) p.2
  6. ^ Brough (1962) xiv
  7. ^ Brough (1962) p.13
  8. ^ Timothy Lenz, ed (2003). A New Version of the Gāndhārī Dharmapada and a Collection of Previous-birth Stories: British Library Kharoṣṭhī Fragments 16 + 25. Univeristy of Washington Press. ISBN 0295983086. 
  9. ^ Norman (1997) xx
  10. ^ Norman (1997) xxi
  11. ^ 中村元 『原始仏典I 釈尊の生涯』 東京書籍1987年、34-35頁。
  12. ^ 中村(1978) p.376
  13. ^ No.326 - Digital Database of Buddhist Tripitaka Catalogues
  14. ^ No.4100 - Digital Database of Buddhist Tripitaka Catalogues
  15. ^ 中村(1978) p.388

参考文献[編集]

  • Brough, John (1962). The Ghāndhārī Dharmapada. London Oriental Series. 7. Oxford University Press. 
  • Norman, K.R. (1997). The Word of the Doctrine (Dhammapada). The Pāli Text Society. 
  • 中村元 『ブッダの真理のことば・感興のことば』 岩波文庫1978年
  • 今枝由郎訳 『日常語訳 ダンマパダ ブッダの<真理の言葉>』 トランスビュー、2015年、改訂第1刷。ISBN 978-4-7987-0142-4
  • 中村元他 『岩波仏教辞典』 岩波書店、1989年、第2版。ISBN 4-00-080072-8

関連項目[編集]

外部リンク[編集]