大毘盧遮那成仏神変加持経
『大毘盧遮那成仏神変加持経』(だいびるしゃなじょうぶつじんべんかじきょう)、略して『大毘盧遮那経』(だいびるしゃなきょう)、あるいは『大日経』(だいにちきょう)は、大乗仏教における密教経典である。成立時期には諸説あるが、7世紀の中頃が穏当な説である[1]。
概要[編集]
インドから唐にやってきた善無畏(Śubhakarasiṃha、637-735)と唐の学僧たちによって724年に漢訳された。また、812年にはシーレーンドラボーディ(Śīlendrabodhi)とペルツェク(dPal brTsegs)によってチベット語に翻訳された。しかし、サンスクリット原本は未だ発見されていない。チベット訳に記されているサンスクリット名は、Mahāvairocana-abhisaṃbodhi-vikurvita-adhiṣṭhāna-vaipulyasūtra-indrarāja nāma dharmaparyāya(『大毘盧遮那成仏神変加持という方等経の大王と名付くる法門』)である。
内容[編集]
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内容は、真言宗のいわゆる事相と教相に相当する2つの部分から成り立つが、前者である胎蔵曼荼羅(の原形)の作法や真言、密教の儀式を説く事相の部分が非常に多い。また、この部分の記述は具体的であるが、師匠からの直接の伝法がなければ、真実は理解できないとされている。
教相に相当するのは「入真言門住心品」だけといってよい。構成は、毘盧遮那如来と金剛手(秘密派の主たるもの)の対話によって真言門を説き明かしていくという、初期大乗経典のスタイルを踏襲している。
要諦は、下記の、毘盧遮那仏が如来の一切智智[注釈 1][信頼性要検証]について説明する部分において、菩提心とは何かを説くところにある。
- 仏の言(のたま)わく、菩提心を因と為し、大悲を根本と為し[注釈 2]、方便を究竟と為す。
- 秘密主、云何(いかん)が菩提とならば、謂(いわ)く実の如く自心を知るなり。
- 秘密主、是の阿耨多羅三藐三菩提は、乃至(ないし)、彼の法として少分も得可(うべ)きこと有ること無し。
- 何を以ての故に、虚空の相は是れ菩提なり、知解の者も無く、亦た開暁(のもの)[注釈 3]も無し。
- 何を以ての故に、菩提は無相なるが故に。
- 秘密主、諸法は無相なり、謂く虚空の相なり。[注釈 4]
- 佛言菩提心爲因。悲爲根本。方便爲究竟。
- 祕密主云何菩提。謂如實知自心。
- 祕密主是阿耨多羅三藐三菩提。乃至彼法。少分無有可得。
- 何以故。虚空相是菩提無知解者。亦無開曉。
- 何以故。菩提無相故。
- 祕密主諸法無相。謂虚空相。[5]入真言門住心品第一
日本語訳・注釈書[編集]
- 權田雷斧譯 『國譯大毗盧遮那成佛神變加持經』(國譯大藏經 經部10巻 解題・原文は國民文庫刊行会、1917年。原文は弘教藏より収録、復刻版 第一書房、1974年) ISBN 9784804202518 。国会図書館デジタルコレクションに1935年第4版の影印が収録されている。(解題:83-95コマ、訓読:96-228コマ、原文:357-404コマ)
- 神林隆淨譯 『大毘盧遮那成佛神變加持經』(國譯一切經 印度撰述部 密教部1 大東出版社、1931年。改訂版(宮坂宥勝校訂)、1988年) ISBN 4500000127
- 河口慧海譯 『蔵文和譯 大日経』(西蔵経典出版所、1934年)
- 改訂版 『蔵文和訳 大日経 河口慧海著作選集 第8巻』(日高彪編・校訂)、慧文社 2012年)ISBN 978-4-86330-055-2
- 宮坂宥勝訳注 『密教経典』(「仏教経典選8」筑摩書房、1986年/講談社学術文庫、2011年)。抄訳版
- 他に理趣経・大日経疏・理趣釈を収録
- 頼富本宏訳 『大乗仏典 中国・日本篇8 中国密教』(中央公論社、1988年) ISBN 978-4124026283 。抄版・現代語訳のみ
- 福田亮成校註 『大日経 新国訳大蔵経 インド撰述部 密教部1』(大蔵出版、1998年) ISBN 4-8043-8015-9 。現代語での完訳版。
脚注[編集]
注釈[編集]
- ^ 『一切智智』(Sarvajnanajnana)は、声聞、縁覚、仏に共通の『一切智』(Sarvajnana)と区別して、仏の最高の智慧を表す場合に用いられる。(出典:中屋宗寿 著『民衆救済と仏教の歴史』〈中〉 2012年 郁朋社 ISBN 978-4873025216。p.97 「一切智」の説明。)
- ^ 嘉興蔵(径山蔵・万暦蔵[2])および清蔵(中国語版)[3]・大正蔵では「悲」となっている箇所を、『大日本校訂縮刷大蔵経』(縮蔵)[4]等の流布本では「大悲」に作る。なお、縮蔵のこの経に関しては頭注に校勘録が全く記載されず、また当該箇所から少し後の部分の「如是祕密主.心虚空界菩提三種無二.此等悲爲根本.」では「大悲」でないので、四本対校せず流布本のテキストをそのまま採用した可能性はあるが根拠は不明。
- ^ さとる者
- ^ 訓読は権田雷斧 訳より引用。
出典[編集]
参考文献[編集]
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
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