宗教

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宗教しゅうきょう: religion)とは、一般に、人間の力や自然の力を超えた存在への信仰を主体とする思想体系、観念体系であり[1]、また、その体系にもとづく教義行事儀礼施設組織などをそなえた社会集団のことである[2][3]

多くの宗教に含まれる要素は、神性[4]聖なるもの[5]信仰[6]、超自然的な存在[7]、「残りの人生に規範と力を与えてくれる、ある種の究極・超越なもの」[8] などのうち、様々な範囲がある。

分類[編集]

19世紀から20世紀にかけて、比較宗教学の発展に伴い世界宗教という分類が定義された。たとえば、下記は宗教学の学者による分類の一例である。

  1. 世界宗教 - 文化英語版の境界を越え、多くの国において信仰される宗教
  2. 民族宗教,土着宗教 - 世界宗教と比べてより小さく、特定の文化あるいは特定の国で信仰される宗教
  3. 新宗教 - 世界宗教、土着宗教と比べてより新しく形成した宗教[9]

世界の宗教の信者数は、キリスト教約20億人(33.0%)、イスラム教イスラーム)約11億9,000万人(19.6%)、ヒンドゥー教約8億1,000万人(13.4%)、仏教約3億6,000万人(5.9%)、シク教約3,000万人、ユダヤ教約1,400万人(0.2%)、その他の宗教約9億1,000万人(15.0%)、無宗教約7億7,000万人(12.7%)である[注 1]

一般に、キリスト教、イスラム教、仏教は世界宗教とよばれ、人種や民族、文化圏の枠を超え広範な人々に広まっている[11]。また、特定の地域や民族にのみ信仰される宗教は民族宗教と呼ばれ、ユダヤ教や神道、ヒンドゥー教[注 2]などがこれに分類される。

形態による分類[編集]

宗教を普遍宗教(universal religion、世界中に信仰されることを望み、積極的に帰依を求める宗教)と民族宗教ethnic religion、特定の民族にのみ信仰され、積極的に帰依を求めない宗教)と分類する学者もいるが[12]、教義にかかわらず、全ての宗教の表現形式が特定の文化に由来することからこの分類が正しくないと主張する学者もいる[13][14][15]

語源[編集]

日本語の「宗教」という語は、仏教学者の中村元によると、仏教に由来する。仏教において、「宗の教え」、つまり、究極の原理や真理を意味する「宗」に関する「教え」を意味しており、仏教の下位概念として宗教が存在していた[16]幕末期に英語Religionの訳語が必要となって、今でいう「宗教」一般をさす語として採用され、明治初期に広まったとされている。宗教は、キリスト教をイメージする用語として受容され、日本人の宗教のイメージに大きな影響を及ぼした[16]

原語のほうの英語 Religion はラテン語religioから派生したものである。religioは「ふたたび」という意味の接頭辞reと「結びつける」という意味のligareの組み合わせであり、「再び結びつける」という意味で、そこから、神と人を再び結びつけること、と理解されていた[注 3]

磯前順一によれば[18][要ページ番号]、Religionの語が最初に翻訳されたのは日米修好通商条約(1858年)においてであり、訳語には「宗旨」や「宗法」の語があてられた。他にもそれに続く幕末から明治初頭にかけての間にもちいられた訳語として、「宗教」、「宗門」、「宗旨法教」、「法教」、「教門」、「神道」、「聖道」などが確認できるとする。このうち、「宗旨」、「宗門」など宗教的な実践を含んだ語は「教法」、「聖道」など思想や教義の意味合いが強い語よりも一般に広くもちいられており、それは多くの日本人にとって宗教が実践と深く結びついたものであったことに対応する。「宗教」の語は実践よりも教義の意味合いが強い語だが、磯前の説ではそのような訳語が最終的に定着することになった背景には、日本の西洋化の過程で行われた外交折衝や、エリート層や知識人の価値観の西欧化などがあるとされる。

「宗教」の語は1869年ドイツ北部連邦との間に交わされた修好通商条約第4条に記されていたReligionsübungの訳語に選ばれたことから定着したとされる[注 4][17]。また、多くの日本人によって「宗教」という語が 現在のように"宗教一般" の意味でもちいられるようになったのは、1884年(明治17年)に出版された辞書『改定増補哲学字彙』(井上哲次郎)に掲載されてからだともされている。

定義[編集]

世界主要宗教のシンボル。上左からキリスト教、ユダヤ教、ヒンドゥー教。中段左からイスラム教、仏教、神道。下段左からシク教バハイ教ジャイナ教

「宗教とは何か」という問いに対して、宗教者、哲学者、宗教学者などによって非常に多数の宗教の定義が試みられてきた[19]とされ、「宗教の定義は宗教学者の数ほどもある」といわれる[20][1]とされる。代表的なものだけを取り上げただけでもかなりの数になる[21]とされ、例えば、ジェームズ・リューバ英語版の著書[22]の付録には48の定義およびそれに関するコメントが書かれており、日本の文部省宗務課がかつて作成した「宗教定義集」[23]でも104の定義が挙げられている[24]といい、その気になればさらに集めることも難しくはない[25]という。

ジェームズ・リューバによる定義の分類[編集]

アメリカの心理学者であるジェームズ・リューバは宗教についての多数の定義を三つのグループに分類している。すなわち、主知的(intellectualistic)な観点からの定義、主情的(affectivistic)な観点からの定義、主意的あるいは実践的(voluntaristic or practical)な観点からの定義の3つである[26]

主知的な観点からの定義
代表例で古典的な定義の例としてはマックス・ミューラーによる「無限なるものを認知する心の能力」が挙げられる。比較的近年のそれでは、クリフォード・ギアツによる「存在の一般的秩序に関する概念の体系化」がある。
主情的な観点からの定義
シュライエルマッハー(F.E.D.)による「ひたすらなる依存感情」。マレット(Marett, R.R.)なども他の学者などにみられる合理主義な観点を批判しつつ、宗教の原型を情緒主義(emotionalism)から論じた[27]という。
主意的あるいは実践的な観点からの定義
C.P.ティーレによる「人間の原初的、無意識的、生得的な無限感覚」というものがある。

『世界宗教事典』では上記のリューバの分類・分析を踏まえ、また、宗教を成立させている基本要素が超絶的ないし超越的存在(神、原理など)をみとめる特定の観念であることを踏まえつつ、宗教とは人間の力や自然の力を超えた存在を中心とする観念であり、その観念体系に基づく教義、儀礼、施設、組織などをそなえた社会集団である[28]とまとめている。

『世界宗教事典』での上記の定義のまとめに沿って、もう少し具体的な例も含めて示せば[注 5]、宗教とは、超越的存在(神、仏、法、原理、道、霊など)についての信念、超越的なものと個人の関係、超越的なものに対する個人の態度(信仰など)、信仰に基づいた活動(礼拝巡礼など)、組織・制度(教会寺社制度など)、信者の形成する社会、施設(教会堂モスク寺院など)等々である。[要出典]

そのほかの定義[編集]

  • 広辞苑では、「神または何らかの超越的絶対者あるいは神聖なものに関する信仰・行事」、との定義を掲載した[29]
  • 宗教法人格を取得している物を宗教とする定義(国家など共同体から宗教として承認されている組織)もあり、一般社団法人である「実践倫理宏正会」や「倫理研究所」、公益財団法人である「モラロジー研究所」、公益社団法人である「調和道協会」などは「宗教ではない」という立ち位置である。逆に、法律上は宗教法人でありながら「宗教ではない」という立場をとる団体には「崇教真光」、「世界真光文明教団」、「道ひらき」などがある。

宗教の歴史[編集]

宗教の表現形式[編集]

宗教はさまざまな表現形式を通して時間や空間を超えて伝えられている。神話や伝説、教典の内容や教義は口伝や詠唱、詩、書物を通して伝えられる。また、通過儀礼や年中行事などの儀礼を通して伝えられる場合や、生活習慣や文化の中に織り込まれる場合もある。食事の際に生産者や自然に感謝をする場合などがこれにふくまれる。

また、絵画や彫刻などの芸術、音楽、舞踏、建築などを通して伝えられる場合もある。

それ以外の分類[編集]

一覧[編集]

影響[編集]

政治[編集]

古代には宗教と政治は分化しておらず、祭政一致の体制を取る国家が多く存在した。日本語において祭祀と政治がともに「まつりごと」と呼ばれるのも、その名残りのひとつである[30]。やがて宗教と政治は分離していき、近代に入るとヨーロッパにおいて信教の自由とともに政教分離原則が確立され、国家と宗教とは明確に分離された。ただし、政教分離の扱いは各国によって異なっており、国教を指定するものの各宗教の信仰を保証し平等に扱うイギリスのような緩やかな分離から、政府と宗教を厳格に分離するフランスライシテまで幅がある[31]。また、政教分離は宗教団体の政治関与を否定するものとは必ずしもいえないため、特定の宗教団体が政治家政党を支援したり、政治運動を行うことは各国において広く見られる。宗教を基盤とした政治思想も存在し、例えばヨーロッパのカトリック圏においては19世紀以降国家と教会の間の分離が進み、これに対抗する形でキリスト教民主主義の成立が促され、多くの政党が生まれた[32]

社会・文化[編集]

宗教の教義や戒律が社会や文化に与える影響は大きく、さまざまな社会規範を規定している。食文化においては、イスラム教徒がブタを食べることが禁忌とされていることや[33]、ヒンドゥー教徒が牛肉を食べないことなどは広く知られている[34]。また、衣服においてもイスラム圏の女性の服装などのように戒律によって制限が加えられる場合がある[35]

宗教問題[編集]

世界での主な宗教問題[編集]

日本の主な宗教問題[編集]

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ 計60億5,505万人(2000年)[10]
  2. ^ ヒンドゥー教はヒンドゥー(文化圏としてのインド)の人々にのみ信仰されているが、さまざまな語族にまたがる数多くの人々に信仰されている(南アジアおよび東南アジアバリ島が含まれる。なお、これらの地域にはイスラム教や仏教も伝わっている)。
  3. ^ 「神と人を再び結びつけること」という理解は神学者ラクタティウスの述べた説明による。ただし、このラクタティウスの説明は言語学的には正しいとは認められていないともする説もある[17]
  4. ^ その修好通商条約の第4条の訳文は右のとおり 「日本在住の独乙臣民は自国の宗教を自由に行うの理あるべし」
  5. ^ 包括的用語からより具体的な用語へとwikipedia内のリンクをたどりつつ読み進めたい読者を配慮して、具体例の中でも代表的なものを示したものである。

出典[編集]

  1. ^ a b 古野 1978, p. 231.
  2. ^ 村上重良『世界宗教事典』p.4[要文献特定詳細情報]
  3. ^ 古野 1978, pp. 234–235.
  4. ^ James 1902, p. 31.
  5. ^ Durkheim 1915.
  6. ^ Tillich, P. (1957) Dynamics of faith. Harper Perennial; (p. 1).
  7. ^ Vergote, A. (1996) Religion, Belief and Unbelief. A Psychological Study, Leuven University Press. (p. 16)
  8. ^ James, Paul & Mandaville, Peter (2010). Globalization and Culture, Vol. 2: Globalizing Religions. London: Sage Publications. https://www.academia.edu/4416072 
  9. ^ Harvey, Graham (2000). Indigenous Religions: A Companion (英語). London and New York: Cassell. p. 6.
  10. ^ 『朝日新聞データ年鑑 ジャパン・アルマナック2006』朝日新聞社、2005年、p247。ただし同書の当該部分はオックスフォード大学出版局発行 World Christian Encyclopedia を再引用したもの。
  11. ^ 古野 1978, p. 233.
  12. ^ Hinnells, John R. (2005). The Routledge companion to the study of religion (英語). Routledge. pp. 439–440. ISBN 978-0-415-33311-5
  13. ^ Timothy Fitzgerald. The Ideology of Religious Studies. New York: Oxford University Press US, 2000.
  14. ^ Craig R. Prentiss. Religion and the Creation of Race and Ethnicity. New York: NYU Press, 2003. ISBN 0-8147-6701-X
  15. ^ Tomoko Masuzawa. The Invention of World Religions, or, How European Universalism Was Preserved in the Language of Pluralism. Chicago: University of Chicago Press, 2005. ISBN 0-226-50988-5
  16. ^ a b 岩井洋 「日本宗教の理解に関する覚書」関西国際大学研究紀要第5号、2004年
  17. ^ a b 石井研士『手に取るように宗教がわかる本』かんき出版、2002年、24頁。ISBN 4761259884
  18. ^ 磯前 2003, p. 不明.
  19. ^ 村上重良 『世界宗教事典』 pp.3-4。[要文献特定詳細情報]
  20. ^ 小口偉一・堀一郎 『宗教学辞典』 東京大学出版会、pp.255-263「宗教」。[要文献特定詳細情報]
  21. ^ 『宗教学辞典』[要文献特定詳細情報]
  22. ^ Leuba, J. H. (1912). The psychological study of religion:Its origin, function, and future. New York:Macmillan. (かつて日本語訳が刊行されたことあり。リューバ 『宗教の心理学的研究』 同文館、昭和2年)。
  23. ^ 『宗教定義集』文部省宗務課、1961年、154-173頁。
  24. ^ 『宗教学辞典』[要文献特定詳細情報]
  25. ^ 『宗教学辞典』[要文献特定詳細情報]
  26. ^ 『宗教学辞典』[要文献特定詳細情報]
  27. ^ 『宗教学辞典』[要文献特定詳細情報]
  28. ^ 村上重良 『世界宗教事典』 p.4。
  29. ^ 『広辞苑』新村出、岩波書店、第五版、1254-1255頁。
  30. ^ https://kotobank.jp/word/%E7%A5%AD%E6%94%BF%E4%B8%80%E8%87%B4-67987 「祭政一致」コトバンク 2021年9月10日閲覧
  31. ^ 「よくわかる宗教社会学」p192-193 櫻井義秀・三木英編著 ミネルヴァ書房 2007年11月25日初版第1刷発行
  32. ^ 「比較政治学」p186-187 粕谷祐子 ミネルヴァ書房 2014年9月30日初版第1刷
  33. ^ https://www.asean.or.jp/muslim/meal/meal2.html 「HALAL」国際機関日本アセアンセンター 2021年9月10日閲覧
  34. ^ 「文化人類学キーワード」p80 山下晋司・船曳建夫編 有斐閣 1997年9月30日初版第1刷
  35. ^ 「衣生活学」(生活科学テキストシリーズ)p48 佐々井啓・大塚美智子編著 朝倉書店 2016年1月20日初版第1刷

参考文献[編集]

  • 磯前順一『近代日本の宗教言説とその系譜:宗教・国家・神道』岩波書店、2003年。ISBN 4000225251
  • 古野清人世界大百科事典』14、平凡社、平凡社、1978年(原著1972年4月25日)。
  • King, Winston L. (1987). Religion. in Mircea Eliade (ed.) The Encyclopedia of Religion Macmillan Publishing Company, New York.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]