心所

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

心所(しんじょ、: cetasika, チェータシカ: caitasika, チャイタシカ)とは、仏教における精神の構成要素・機能のこと。五位分類においては、「心所法」として表現される。

部派仏教[編集]

分別説部(上座部仏教)[編集]

南伝の上座部仏教分別説部)では、『アビダンマッタ・サンガハ』に則り、心所を以下の全52種とする[1][2]

  • 心所(しんじょ、cetasika, チェータシカ)(52)
    • 同他心所(どうたしんじょ、aññasamāna cetasika, アンニャサマーナ・チェータシカ)(13) --- 協働中立的機能
      • 共一切心心所(くいっさいしんしんじょ、sabba-citta-sādhārana cetasika, サッバチッタサーダーラナ・チェータシカ)(7) --- 一般共通機能
        • (そく、phassa, パッサ) - 六根六境の接触
        • (じゅ、vedanā, ヴェーダナー) - 六根情報受容
        • (そう、saññā, サンニャー) - 六根情報区別
        • (し、cetanā, チェータナー) - 意思
        • 一境性(いっきょうしょう、ekaggatā, エーカッガター) - 集中
        • 命根(みょうこん、jīvitindriya, ジーヴィティンドリヤ) - 心存在
        • 作意(さい、manasikāra, マナシカーラ) - 意志、志向
      • 雑心所(ぞうしんじょ、pakinnaka cetasika, パキンナカ・チェータシカ)(6) --- 特殊機能
        • (じん、vitakka, ヴィタッカ) - 認識対象把握
        • (し、vicāra, ヴィチャーラ) - 認識対象維持
        • 勝解(しょうげ、adhimokkha, アディモッカ) - 認識対象の心結合
        • 精進(しょうじん、viriya, ヴィリヤ) - 精進
        • (き、pīti, ピーティ) - 喜
        • 意欲(いよく、chanda, チャンダ) - 意欲
    • 不善心所(ふぜんしんじょ、akusala cetasika, アクサラ・チェータシカ)(14) --- 悪機能
      • 【痴系】
        • (ち、moha, モーハ) - 無知
        • 無慚(むざん、ahirika, アヒリカ) - 無恥
        • 無愧(むき、anottappa, アノッタッパ) - 無畏怖
        • 掉挙(じょうこ、uddhacca, ウッダッチャ) - 興奮
      • 【欲系】
        • (とん、lobha, ローバ) - むさぼり、放縦
        • (けん、diṭṭhi, ディッティ) - 邪見
        • (まん、māna, マーナ) - 比較、優越心
      • 【怒系】
        • (しん、dosa, ドーサ) - 怒り、遮断
        • (しつ、issā, イッサー) - ねたみ、嫉妬
        • (けん、macchariya, マッチャリヤ) - 物惜しみ
        • 悪作(おさ/あくさ、kukkucca, クックッチャ) - 後悔
      • 【その他】
        • 昏沈(こんぢん、thīna, ティーナ) - 落ち込み、倦怠
        • 睡眠(すいめん、middha, ミッダ) - 眠気
        • (ぎ、vicikicchā, ヴィチキッチャー) - 疑い
    • 浄心所(じょうしんじょ、sobhana cetasika, ソーバナ・チェータシカ)(25) --- 善機能
      • 【共浄心所】
        • (しん、saddhā, サッダー) - 判断、信念
        • (ねん、sati, サティ) - 気づき、自覚
        • (ざん、hiri, ヒリ) - 羞恥、反省
        • (き、ottappa, オッタッパ) - 畏怖
        • 無貪(むとん、alobha, アローバ) - 無欲
        • 無瞋(むしん、adosa, アドーサ) - 無努、寛容、慈しみ
        • 中捨(ちゅうしゃ、tatramajjhattatā, タトラマッジャッタター) - 不偏、客観
        • 身軽安(しんきょうあん、kāyappassaddhi, カーヤッパッサッディ) - 体の安息
        • 心軽安(しんきょうあん、cittappassaddhi, チッタッパッサッディ) - 心の安息
        • 身軽快性(しんきょうかいしょう、kāyalahutā, カーヤラフター) - 体の身軽さ
        • 心軽快性(しんきょうかいしょう、cittalahutā, チッタラフター) - 心の身軽さ
        • 身柔軟性(しんにゅうなんしょう、 kāyamudutā, カーヤムドゥター) - 体の柔軟さ
        • 心柔軟性(しんにゅうなんしょう、 cittamudutā, チッタムドゥター) - 心の柔軟さ
        • 身適合性(しんちゃくごうしょう、kāyakammaññatā, カーヤカンマンニャター) - 体の従事性
        • 心適合性(しんちゃくごうしょう、cittakammaññatā, チッタカンマンニャター) - 心の従事性
        • 身練達性(しんれんだつしょう、kāyapāguññatā, カーヤパーグンニャター) - 体の熟達性
        • 心練達性(しんれんだつしょう、cittapāguññatā, チッタパーグンニャター) - 心の熟達性
        • 身端直性(しんたんじきしょう、kāyujukatā, カーユジュカター) - 体の貫徹性
        • 心端直性(しんたんじきしょう、cittujukatā, チットゥジュカター) - 心の貫徹性
      • 【離心所】
        • 正語(しょうご、sammā-vācā, サンマーヴァーチャー) - 離虚偽、離悪語
        • 正業(しょうごう、sammā-kammanta, サンマーカンマンタ) - 離悪行
        • 正命(しょうみょう、sammā-ājīva, サンマーアージーヴァ) - 勤労
      • 【無量心所】
        • (ひ、karunā, カルナー) - 他苦救済心
        • (き、muditā, ムディター) - 他幸歓喜心
      • 【智慧の心所】
        • 慧根(えこん、paññindriya, パンニンドゥリヤ) - 智慧、真理察

説一切有部[編集]

説一切有部の『倶舎論』では、心所(心所法)を以下の全46種とする。

  • 心所法(しんじょほう、caitasika dharma, チャイタシカ・ダルマ)(46)
    • 大地法(だいじほう、mahā-bhūmika dharma, マハーブーミカ・ダルマ)(10)
      • (じゅ、vedanā, ヴェーダナー)
      • (そう、saṃjñā, サンジュニャー)
      • (し、cetanā, チェータナー)
      • (よく、chanda, チャンダ)
      • (しょく、sparśa, スパルシャ)
      • (え、mati, マティ)
      • (ねん、smṛti, スムリティ)
      • 作意(さい、manaskāra, マナスカーラ)
      • 勝解(しょうげ、adhimukti, アディムクティ)
      • 三摩地(さんまじ、samādhi, サマーディ)
    • 大善地法(だいぜんじほう、kuśala-mahābhūmika dharma, クシャラ・マハーブーミカ・ダルマ)(10)
      • (しん、śraddhā, シュラッダー)
      • (ごん、vīrya, ヴィーリヤ)
      • (しゃ、upekṣā, ウペークシャー)
      • (ざん、hrī, フリー)
      • (ぎ、apatrāpya, アパトラーピヤ)
      • 無貪(むとん、alobha, アローバ)
      • 無瞋(むしん、adveśa, アドヴェーシャ)
      • 不害(ふがい、ahiṃsā, アヒンサー)
      • 軽安(きょうあん、praśrabdhi, プラシュラブディ)
      • 不放逸(ふほういつ、apramāda, アプラマーダ)
    • 大不善地法(だいふぜんじほう、akuśala-mahābhūmika dharma, アクシャラ・マハーブーミカ・ダルマ)(2)
      • 無慚(むざん、āhrīkya, アーフリーキヤ)
      • 無愧(むぎ、anapatrāpya, アナパトラーピヤ)
    • 大煩悩地法(だいぼんのうじほう、kleśa-mahābhūmika dharma, クレーシャ・マハーブーミカ・ダルマ)(6)
      • (むみょう、moha, モ-ハ)
      • 放逸(ほういつ、pramāda, プラマーダ)
      • 懈怠(げだい、kauśīdya, カウシーディヤ)
      • 不信(ふしん、āśraddhya, アーシュラッディヤ)
      • 惛沈(こんじん、styāna, スティヤーナ)
      • 掉挙(じょうこ、auddhatya, アウッダティヤ)
    • 小煩悩地法(しょうぼんのうじほう、parītta-kleśabhūmika dharma, パリーッタクレーシャブーミカ・ダルマ)(10)
      • 忿(ふん、krodha, クローダ)
      • (ふく、mrakṣa, ムラクシャ)
      • (けん、mātsarya, マートサリヤ)
      • (しつ、īrṣyā, イールシヤー)
      • (のう、pradāsa, プラダーサ)
      • (がい、vihiṃsā, ヴィヒンサー)
      • (てん、śāṭhya, シャーティヤ)
      • (おう、māyā, マーヤー)
      • (きょう、mada, マダ)
      • (こん、upanāha, ウパナーハ)
    • 不定地法(ふじょうじほう、aniyatabhūmika dharma, アニヤタブーミカ・ダルマ)(8)
      • 悪作(おさ/あくさ、kaukṛtya, カウクリティヤ)
      • (めん、middha, ミッダ)
      • (じん、vitarka, ヴィタルカ)
      • (し、vicāra, ヴィチャーラ)
      • (とん、rāga, ラーガ)
      • (しん、pratigha, プラティガ)
      • (まん、māna, マーナ)
      • (ぎ、vicikitsā, ヴィチキトサー)

大乗仏教[編集]

唯識派・法相宗[編集]

唯識派及びその東アジア後継である法相宗では、『唯識三十頌』に則り、心所(心所法)を以下の全51種とする[3]

  • 心所法(しんじょほう、caitasika dharma, チャイタシカ・ダルマ)(51)
    • 遍行心所(へんぎょうしんじょ、sarvatraga, サルヴァトラガ)(5)
      • 作意(さい、manaskāra, マナスカーラ)
      • (そく、sparśa, スパルシャ)
      • (じゅ、vedanā, ヴェーダナー)
      • (そう、saṃjñā, サンジュニャー)
      • (し、cetanā, チェータナー)
    • 別境心所(べっきょうしんじょ、viniyata, ヴィニヤタ)(5)
      • (よく、chanda, チャンダ)
      • 勝解(しょうげ、adhimokṣa, アディモークシャ / adhimukti、アディムクティ)
      • (ねん、smṛti, スムリティ)
      • (じょう、samādhi, サマーディ)
      • (え、prajñā, プラジュニャー / mati, マティ)
    • 善心所(ぜんしんじょ、kuśala, クシャラ)(11)
      • (しん、śraddhā, シュラッダー)
      • 精進(しょうじん、vīrya, ヴィーリヤ)
      • (ざん、hrī, フリー)
      • (ぎ、apatrāpya, アパトラーピヤ)
      • 無貪(むとん、alobha, アローバ)
      • 無瞋(むしん、adveṣa, アドヴェーシャ)
      • 無癡(むち、amoha, アモーハ)
      • 軽安(きょうあん、praśrabdhi, プラシュラブディ)
      • 不放逸(ふほういつ、apramāda, アプラマーダ)
      • 行捨(ぎょうしゃ、upekṣa, ウペークシャー)
      • 不害(ふがい、ahiṃsā, アヒンサー)
    • 煩悩心所(ぼんのうしんじょ、kleśa, クレーシャ)(6)
      • (とん、rāga, ラーガ)
      • (しん、pratigha, プラティガ)
      • (ち、mūḍhi, ムーディ / moha, モーハ)
      • (まん、māna, マーナ)
      • (ぎ、vicikitsā, ヴィチキトサー)
      • 悪見(あっけん、dṛṣṭi, ドリシュティ)
    • 随煩悩心所(ずんぼんのうしんじょ、upakleśa, ウパクレーシャ)(20)
      • 小随煩悩(10)
        • 忿(ふん、krodha, クローダ)
        • (こん、upanāha, ウパナーハ)
        • (ふく、mrakṣa, ムラクシャ)
        • (のう、pradāsa, プラダーサ)
        • (しつ、īrasyā, イールシヤー)
        • (けん、mātsarya, マートサリヤ)
        • (おう、māyā, マーヤー)
        • (てん、śāṭhya, シャーティヤ)
        • (がい、vihiṃsā, ヴィヒンサー)
        • (きょう、mada, マダ)
      • 中随煩悩(2)
        • 無慚(むざん、āhrīkya, アーフリーキヤ)
        • 無愧(むぎ、anapatrāpya, アナパトラーピヤ)
      • 大随煩悩(8)
        • 掉挙(じょうこ、auddhatya, アウッダティヤ)
        • 惛沈(こんじん、styāna, スティヤーナ)
        • 不信(ふしん、āśraddhya, アーシュラッディヤ)
        • 懈怠(けだい、kausīdya, カウシーディヤ)
        • 放逸(ほういつ、pramāda, プラマーダ)
        • 失念(しつねん、muṣitasmṛtitā, ムシタスムリティター)
        • 散乱(さんらん、vikṣepa, ヴィクシェーパ)
        • 不正知(ふしょうち、asaṃprajanya, アサンプラジャニヤ)
    • 不定心所(ふじょうしんじょ、aniyata, アニヤタ)(4)
      • (悪作)(げ (おさ/あくさ)、kaukṛtya, カウクリティヤ)
      • (睡)((すい)めん、middha, ミッダ)
      • (じん、vitarka, ヴィタルカ)
      • (し、vicāra, ヴィチャーラ)

脚注・出典[編集]

  1. ^ 心を育てるキーワード集 - 日本テーラワーダ仏教協会
  2. ^ ウ・ウェープッラ, 戸田忠 『アビダンマッタサンガハ 南方仏教哲学教義概説〔新装版〕』 中山書房仏書林、2013年、47-52頁。ISBN 978-4-89097-076-6
  3. ^ 仏教の言葉の「心王(しんのう)・心所(しんじょ)」について - レファレンス共同データベース/国会図書館

関連項目[編集]