ルーフトップ・コンサート
![]() ルーフトップ・コンサートが行われた旧アップル・コア本社 | |
現地名 | The Beatles' rooftop concert |
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日付 | 1969年1月30日 |
会場 | |
座標 | 北緯51度30分37.48秒 西経0度8分23.13秒 / 北緯51.5104111度 西経0.1397583度 |
時間 | 42分[1] |
演奏者 |
ルーフトップ・コンサート (英語: The Beatles' rooftop concert) は、1969年1月30日にビートルズがイギリス・ロンドンのサヴィル・ロウにあったアップル・コアの屋上で映画撮影のために突如行ったゲリラライヴである。キーボーディストのビリー・プレストンを迎え、警察官が演奏を制止するために屋上に上がるまでの42分にわたって行われた。このコンサートは、事実上ビートルズの最後のライヴ・パフォーマンスとなった。
コンサートでは5曲(テイク数は9)演奏され、道路には屋上を見上げる群衆ができ、近隣のビルの屋上には人だかりができ、中には梯子でアップル社の屋上近くまでやってくる人までいた。コンサートのラストナンバーは「ゲット・バック」で、レノンの「I'd like to say "Thank you" on behalf of the group and ourselves and I hope we passed the audition.(グループを代表し「ありがとう」を申し上げます、オーディションに通ると良いんですが)」という冗談で終わった[2]。
コンサートの演奏は、1970年に公開されたドキュメンタリー映画『レット・イット・ビー』に含まれ、同作のサウンドトラック盤には「アイヴ・ガッタ・フィーリング」(1回目)、「ワン・アフター・909」、「ディグ・ア・ポニー」が収録された。
背景[編集]
ルーフトップ・コンサートは、事前に告知されたものではないが、ビートルズは1月初頭よりゲット・バック・セッション中にコンサートを行うことを予定していた。コンサートが行われる数日前に、あるメンバー[注釈 1]がルーフトップ・コンサートを行うことを提案[3]。
1月22日のセッションより、ジョージ・ハリスンがバンドの緊張を緩和させることを目的で連れてきたキーボーディストのビリー・プレストン[3]は「アップル・コアの屋上でコンサートを行うというアイデアはジョンによるものだった」と振り返っており[4]、リンゴ・スターは「どこかでコンサートを行うことは決まっていた。パラディウムとかサハラ砂漠とかいろいろ候補が出てきたけど、機材のことを考えて屋上でやることに決まった」と語っている[5]。なお、ルーフトップ・コンサートについては、映画の監督であるマイケル・リンゼイ=ホッグによるアイデアとする説も存在している[6]。音声は、レコーディング・エンジニアのアラン・パーソンズにより、アップル・スタジオ[7]に備えられた2台の8トラック・レコーダーで録音された[8]。
午後のビジネス街で突如始まった演奏により、道路には屋上を見上げる群衆ができ、近隣のビルの屋上には人だかりができ、中には梯子でアップル社の屋上近くまでやってくる人までいた。このため、騒音により警察官は演奏を制止するために駆け付けた。警察官が屋上に上がると、ビートルズとプレストンはコンサートを中止されることに気づいたものの、そのまま演奏を続けて42分間のコンサートを終えた[9]。その途中でマル・エヴァンズはジョージ・ハリスンとジョン・レノンのギターアンプの電源を咄嗟に切るが、ギターが鳴らなくなった事に困ったハリスンは接続を確かめ、電源を入れ直してしまう。そしてエヴァンズも仕方なくレノンのアンプの電源を入れた[注釈 2]。ポール・マッカートニーは、コンサートの最後に演奏した「ゲット・バック」の中で、「You've been playing on the roofs again, and you know your Momma doesn't like it, she's gonna have you arrested!(また屋上で遊んでしまったね、ママは好きじゃないことは知ってるだろ、逮捕されるぞ)」と、この状況を反映した歌詞を即興で歌った[10]。演奏後、レノンの「I'd like to say "Thank you" on behalf of the group and ourselves and I hope we passed the audition.(グループを代表し「ありがとう」を申し上げます、オーディションに通ると良いんですが)」という冗談でコンサートが締めくくられた[2]。
コンサートにおいて逮捕などの処置はなかったが、後にスターは「警官に羽交い締めにされて逮捕され、そのシーンを映画のラストに使いたかった…」と語っている[11]。
参加メンバーと使用機材[編集]
- ビートルズ
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- ジョン・レノン - エピフォン・カジノ(1965年製、ナチュラルカラー)
- ポール・マッカートニー - カール・ヘフナー・500-1(1962年製)
- ジョージ・ハリスン - フェンダー・テレキャスター(オールローズ)
- リンゴ・スター - ラディック・ハリウッド
- 外部ミュージシャン
セットリスト[編集]
ルーフトップ・コンサートでは「ゲット・バック」、「ドント・レット・ミー・ダウン」、「アイヴ・ガッタ・フィーリング」、「ワン・アフター・909」、「ディグ・ア・ポニー」の5曲が計9テイク演奏された。セットリストは以下のようになっている[12]。
- ゲット・バック(1回目)
- ゲット・バック(2回目)
- ドント・レット・ミー・ダウン(1回目)
- アイヴ・ガッタ・フィーリング(1回目)
- ワン・アフター・909
- ディグ・ア・ポニー
- アイヴ・ガッタ・フィーリング(2回目)
- ドント・レット・ミー・ダウン(2回目)
- ゲット・バック(3回目)
「アイヴ・ガッタ・フィーリング」(1回目)と「ワン・アフター・909」と「ディグ・ア・ポニー」は、アルバム『レット・イット・ビー』に収録された[13]。1996年に発売された『ザ・ビートルズ・アンソロジー3』には、「ゲット・バック」(3回目)が収録された[14]。2003年に発売された『レット・イット・ビー...ネイキッド』には、1回目の演奏と2回目の演奏を繋ぎ合わせた「ドント・レット・ミー・ダウン」[15]と「アイヴ・ガッタ・フィーリング」[16]が収録された。
この他にも、サウンド・エンジニアがテープを交換している最中に「アイ・ウォント・ユー」と「女王陛下万歳」の短いジャムが演奏された[17]。
文化的影響[編集]
ビートルズのパロディ・バンドであるラトルズの映画『オール・ユー・ニード・イズ・キャッシュ』における「Get Up and Go」のシーンは、このルーフトップ・コンサートのパロディとなっている[18]。
U2は、1987年に発表した楽曲「ホエア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネイム」のミュージック・ビデオを、ルーフトップ・コンサートに倣ってロサンゼルス市街地の屋上でゲリラ撮影した[19]。
テレビアニメ『ザ・シンプソンズ』の第5シリーズ第1話「夢のカルテット」にて、ホーマー率いるグループ「ザ・ビーシャープス」が屋上でライブを行うというパロディシーンがある。なお、同話にはハリスンがゲスト出演している[20]。
2007年に公開されたミュージカル映画『アクロス・ザ・ユニバース』においても、セディ率いるバンドがニューヨークでルーフトップ・コンサートを行っている最中に、ニューヨーク市警によって中止させられるというパロディ・シーンがある[21]。
2009年1月にトリビュート・バンドのブートレッグ・ビートルズがの開催40周年を記念したコンサートを旧アップル・コアの屋上で行おうとしたが、権利上の問題から許可が下りずキャンセルとなった[22]。
2010年に斉藤和義が発表した「ずっと好きだった」のミュージック・ビデオもルーフトップ・コンサートのパロディで、栃木県宇都宮市オリオン通りにあるビルの屋上で撮影されたこのビデオでは、斉藤がマッカートニー役、リリー・フランキーがレノン役、2丁拳銃の小堀裕之がハリスン役、濱田岳がスター役を演じている[23]。
2009年7月15日に放送されたCBS『レイト・ショー・ウィズ・デイヴィッド・レターマン』にマッカートニーが出演し、ルーフトップ・コンサートを模する形でエド・サリヴァン・シアターの入口の屋根の上に上がって演奏を行った[24][25]。
脚注[編集]
注釈[編集]
- ^ どのメンバーなのかは明言されていない。
- ^ これは『ザ・ビートルズ・アンソロジー3』に収録された「ゲット・バック」の演奏や『レット・イット・ビー』でも確認でき、一時的にポール・マッカートニーのベースとリンゴ・スターのドラムス、ビリー・プレストンのエレクトリックピアノの音しか聞こえない箇所がある。
出典[編集]
- ^ “20 Things You Need To Know About The Beatles' Rooftop Concert”. mojo4music.com (2014年1月30日). 2020年11月13日閲覧。
- ^ a b Everett 1999, p. 222.
- ^ a b Lewisohn 1992, p. 307.
- ^ Babiuk 2002, p. 240.
- ^ The Beatles 2000, p. 321.
- ^ Boilen, Bob (2019年1月30日). “Remembering The Beatles' Rooftop Gig, 50 Years Later, With Someone Who Was There”. All Songs Considered. National Public Radio. 2020年11月13日閲覧。
- ^ Ryan, Kevin; Kehew, Brian (2006). Recording the Beatles: The studio equipment and techniques used to create their classic albums. Curvebender. p. 518. ISBN 978-0-9785200-0-7
- ^ Perone 2005, p. 5.
- ^ Perone 2005, p. 5-6.
- ^ Everett, Walter (1999). The Beatles as Musicians: Revolver through the Anthology. Oxford University Press. ISBN 978-0-19-512941-0
- ^ ドキュメンタリー映像作品『ザ・ビートルズ・アンソロジー Vol. 8』より。
- ^ Lewisohn, Mark (2000). The Complete Beatles Chronicle (paperback ed.). London: Hamlyn Books. pp. 312-313. ISBN 0-6006-0033-5
- ^ Everett 1999, p. 219.
- ^ MacDonald 2005, p. 334.
- ^ Womack, Kenneth (2014) (英語). The Beatles Encyclopedia: Everything Fab Four [2 volumes]: Everything Fab Four. ABC-CLIO. p. 235. ISBN 978-0-313-39172-9
- ^ 葉山真・水谷宗一朗 (2003年). ビートルズ『レット・イット・ビー...ネイキッド』のアルバム・ノーツ, p. 22 [ブックレット]. アップル・レコード.
- ^ Lewisohn 2000, p. 312.
- ^ “Ladies and Gentlemen: The Rutles!”. CD Review 12 (1–9): 80. (1995) .
- ^ Parra, Pimm Jal de la (2003) (英語). U2 Live: A Concert Documentary. Omnibus Press. p. 64. ISBN 978-0-7119-9198-9
- ^ Suebsaeng, Asawin (2012-01-30). “8 Videos to Commemorate the Beatles' Final Concert, 43 Years Later”. Mother Jones 2018年10月14日閲覧。.
- ^ Ebert, Roger (2009). Roger Ebert's Movie Yearbook 2010. Andrews McMeel Publishing. p. 1. ISBN 978-0-7407-9218-2
- ^ Banerjee, Subhajit (2009年1月30日). “The Beatles rooftop concert: It was 40 years ago today”. The Telegraph 2020年11月13日閲覧。
- ^ “斉藤和義、CMで話題の新曲PVでTHE BEATLESへのオマージュ。”. Skream! (激ロックエンタテインメント). (2010年4月6日) 2020年11月13日閲覧。
- ^ “Paul McCartney Stuns Manhattan With Set on Letterman's Marquee”. Rolling Stone (2009年7月16日). 2012年5月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月13日閲覧。
- ^ “ポール・マッカートニー、エド・サリヴァン・シアターの屋根で行ったライヴ映像公開”. rockin'on.com (ロッキング・オン). (2014年2月6日) 2020年8月30日閲覧。
参考文献[編集]
- Babiuk, Andy (2002). Beatles Gear: All the Fab Four's Instruments, from Stage to Studio. San Francisco, CA: Backbeat Books. ISBN 978-0-87930-731-8
- The Beatles (2000). The Beatles Anthology. Chronicle Books. ISBN 978-0-8118-3636-4
- Everett, Walter (1999). The Beatles as Musicians: Revolver through the Anthology. Oxford University Press. ISBN 978-0-19-512941-0
- Lewisohn, Mark (1992). The Complete Beatles Chronicle:The Definitive Day-By-Day Guide To the Beatles' Entire Career (2010 ed.). Chicago Review Press. ISBN 978-1-56976-534-0
- MacDonald, Ian (2005). Revolution in the Head: The Beatles' Records and the Sixties (3rd (2007) ed.). Chicago Review Press. ISBN 978-1-55652-733-3
- Perone, James E (2005). Woodstock: An Encyclopedia of the Music and Art Fair – American history through music. Greenwood Publishing Group. ISBN 978-0-313-33057-5