沖縄料理

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沖縄そば(左)、ゴーヤーチャンプルー(右)とオリオンビール(右上)は、いずれも沖縄県の食卓で定番

沖縄料理(おきなわ りょうり)は、沖縄県郷土料理のこと。琉球料理(りゅうきゅう りょうり)とも呼ばれるが、この場合は琉球王朝時代の宮廷料理を指すことが多い。

概要

本土とは異なり、四季が不明瞭な気候であるため、日本の他の地域で一般にみられる食材(品種)を栽培できないことも多い一方、特有の食材も多く見られる。使用される野菜類が本土とはやや異なり、キノコ類の使用も少ない。また、亜熱帯に属するが香辛料はあまり使用されず、海に囲まれた多島の県であるが、料理があまり発達していないという特徴を持つ。また仏教が根付かず、江戸幕府による肉食禁止令などの影響も受けなかったため、家畜を肥育して食用とする文化が明治時代以前から存在していた。

琉球王朝時代には交易範囲の中国東南アジアなどの影響を受けた。特に中国からは医食同源の思想を受け、「クスイムン」(薬物・くすりもの:「薬になる食べ物」の意味)と呼ばれる民間療法的な料理も多く伝えられている。[1]

沖縄の伝統的な食文化には、地理的に近い薩摩料理や福建系の中華料理台湾料理を含む)の影響が強いが、歴史的経緯により、食材の流通ルートや交易範囲が変化したことも大きく影響している。沖縄料理に欠かせない昆布は北海道など沖縄県以外が産地である(後述)など、その歴史は素材に至るまで複雑なものとなっている。また気候・流通的な理由により、保存性に優れた乾麺海藻といった乾物、塩漬けの豚肉などを用いた独自の料理が発達した。さらに、稲作にはあまり適さない土地柄のため、戦前は甘藷を主食とし、戦後しばらくは米軍配給の小麦粉に依存した食生活であったことも本土とは異なる点である。

明治以降は、本土の一般的な食文化にも影響を受け、沖縄そばなど明治以降に誕生した料理も現在では広く沖縄料理として認識されている。台湾が日本統治下に入ると出稼ぎ労働者として沖縄県民が台湾に渡り、台湾人も沖縄に渡航して料理店を開くなど交流が深まり、沖縄の食文化も台湾料理の影響を受けた。また移民が奨励され、多くの県民がブラジルハワイフィリピンなどへと渡航したことで、これら地域の料理が紹介され定着している例もみられる。

第二次世界大戦後は米軍の軍政下に置かれ、アメリカから輸入された保存食のポークランチョンミートや各種の缶詰料理も定番化した(アメリカ併合後のハワイや朝鮮戦争後の韓国と類似する)。アメリカのハンバーガーチェーンの進出は本土より早く、県民はアメリカナイズされた食生活になじんでいった。また、戦前のイモ類を主食にする食習慣に代わって米や小麦の粉食を主食とする食生活に変わっていき、チャンプルータコライスなどの沖縄独特の米料理もよく食べられるようになっていった。本土復帰後は本土の食品産業・外食産業の進出によって、他府県の食文化との差が少なくなる傾向にあるが、現在も県民の食生活には本土の和食とは異なる沖縄料理の伝統が健在で、米軍統治下のアメリカ文化の影響も色濃く残っている。

なお、本土では一般的に「東の豚肉、西の牛肉、九州の鶏肉」と1人あたり消費量をもとに肉食の嗜好が言われるが、沖縄県では豚肉の消費量が多い。また、アメリカの軍政下に置かれていたが、パン牛乳チーズなどの消費量は少ない。

主な料理

豚肉料理

沖縄で最も日常的に消費される畜肉は豚肉である[2]。戦前までは、肉は滅多に口にできない貴重な蛋白源であり、また中華料理台湾料理など)の影響を受け発展したため、中国と同様「ひづめと鳴き声以外は全部食べる」と言われるほど、一頭の豚を文字通り頭から足先まで料理に使用する。調理方法は中華料理に似るが、八角五香粉などの香辛料は用いられない。

有名なのは、ばら肉の角煮であるラフテーやあばら骨の部分を煮込んだソーキであるが[3]の部分を切り取り、毛を剃ってその軟骨部分を食べるミミガーや、同様に頭部の皮を利用したチラガー[3]なども有名である。基本的に、豚肉を料理する際にはよく煮込んで、また料理によってはゆでこぼしてから用いる。このため、余分な脂肪が抜け出て健康的な料理になると言われている。例えば、豚足の部分を、毛を処理してからじっくりと煮込んだ足ティビチ(テビチ)[2]は、脂分が抜け出てコラーゲンが豊富に残留しているため、肌の美容に良いとされている。また、内臓は中身と呼ばれ、イリチーと呼ばれる炒め煮にされるほか[3]、様々な内臓をコンニャクコンブとともに入れた中身汁と呼ばれる吸い物などに利用されている。豚肉のかたまりを塩漬けにしたスーチカー、甘い味噌と脂身を合わせて作るあんだんすー油味噌[3]、脂身を炒って乾燥させたあんだかしー油かす)などの保存性のある加工品にしたり、本来は廃棄物である背骨のスープの骨汁や、血液も固まりの状態をイリチーにしたチーイリチーとして食べるなど、豚肉料理のバリエーションは非常に多彩である。しかしその一方で、他の地方で一般的なロースヒレなどの精肉部位は、(ミヌダルなどの宮廷料理を除いては)沖縄料理の素材として使われることはほとんどない。

近年は、絶滅寸前だった小型の在来であるアグーの飼育が進められ、沖縄の高級ブランド豚肉となっており、外食店を中心に広まっている。

山羊、その他の肉料理

肉料理にあっては、ヒージャー(ヤギ)も特筆すべき動物である。山羊料理の専門店が存在するほか、かつては祝い事の際などに振る舞われることが多く、[4]現在でも農家では「自家用」にヤギを飼っている例も珍しくない。乳は飲まず、主な料理法は生の刺身と汁物であるが、いずれも独特のくさみが非常に強く、好き嫌いが分かれる食材であり[5]ショウガやフーチバー(ヨモギ)でくさみを消して食べる。山羊料理は滋養強壮に良いともされており[4]、ヒージャーグスイ(「グスイ」は「薬」の意)という言葉も存在する。しかし高血圧の人や妊娠中や病気療養中の人が食べると症状が悪化することもあり、また体質により失神や鼻血などを起こすこともあるので注意が必要である[要出典]

牛肉の独特の食べ方としては「牛汁」と呼ばれる料理がある。山羊汁と同じように、肉と臓物をごった煮にしたものである。

アヒル料理を出す店も比較的多い。本土と違って「」と言い換えずに「アヒラー」という方言で呼ばれている。

南米に由来する外来料理ではあるが、にんにくを詰めたの丸焼きは人気が高く、県内各地に多数の専門店が存在する。

北部を中心にヒートゥー(イルカ)も食される。

近年ではほとんどみられなくなったが、離島の一部ではを食用とする風習が残されている例もある。

かつてはセミアリなどの昆虫食も珍しくなかったが、現在では稀である。

野菜料理

使われる野菜は一般的なタマナー(キャベツ)、チデークニ(ニンジン)、マーミナー(モヤシ)などの他にゴーヤー(ニガウリ)、パパヤー(パパイヤ)などが代表的である。調理方法は野菜炒めか、だし汁を使った炒り煮が多い。島豆腐(沖縄独特の固い豆腐[6])と共にさっと炒めたチャンプルー、保存のため時間をかけて炒り煮したイリチー、ニンジン、大根、パパイヤなどのシリシリ(シリシリー)などが有名である。
大根などの野菜と豚肉やティビチ、昆布などを炊き合わせた煮つけも非常にポピュラーな料理であり、食堂のメニューで単に「おかず」と記載されていれば、ほとんどの場合煮つけか野菜炒めが出てくる。ナーベーラー(ヘチマ)を食用にするのも沖縄県から東南アジアにかけての特徴であり、青い時期に収穫し、豆腐などとともに味噌煮にするナーベーラーンブシーなどの料理がある。
タロイモの一種であるターンム(田芋)も伝統的な食材であり、甘く煮たディンガク(田楽)や、豚肉や野菜と一緒にペースト状にしたドゥルワカシーの材料として用いられる。またフーチバー(ヨモギ)は薬味として多用される。
煮物や汁の材料としてシブイ(冬瓜)やモーイー(毛瓜)がよく使われるほか、島らっきょう、シマナ(カラシナ)、ウンチェー(ヨウサイ)、ンジャナ(ニガナ)、ハンダマ(水前寺菜)、サクナ(長命草)、ウリズン(シカクマメ)、ハマホウレンソウ(ツルナ)、ニンブトゥカー(スベリヒユ)、アロエオオタニワタリなど、南国独特の食材も見られる。反面、沖縄では採れない本土の野菜は輸送費がかかるために高価であり、また気候のせいで傷みやすいこともあって、キュウリやトマトなど一部を除いては火を通さない野菜を食べるという習慣はつい近年までなかった。一般的には生食されるレタスなどの野菜が煮つけや汁物に使われるのも沖縄独特である。

豆腐・麩料理

前述のように炒め物のチャンプルーに使うしっかりした島豆腐がある一方で、おぼろ豆腐よりも軟らかい「ゆし(寄せ)豆腐」もよく食べられている[6]。豆腐を紅麹泡盛に漬け込んだ「豆腐よう」も沖縄名産として名高い[7]。また、大豆ではなく、落花生を使った「ジーマーミ豆腐」(地豆豆腐)も風味豊かな郷土食である。

沖縄県では小麦の栽培はされていないが、小麦粉から作るを使った料理もポピュラーである。車麩に卵を吸わせて炒めた、麩チャンプルー、麩いりちーは家庭の惣菜としてよく食べられている。

魚介料理

グルクンの唐揚げ。
マグロの目玉。道の駅いとまんお魚センターにて。

沖縄県周辺で獲れる魚は、マグロカツオなど一部の例外を除いては、本土では見かけない亜熱帯独特のものが大半を占める。グルクン(タカサゴ)、ミーバイ(ハタ)、イラブチャー(アオブダイ)など一般に脂質が少なく淡白な魚が多いため、唐揚げやバター焼き(マーガリン風味の丸揚げ)など油を用いた料理や、野菜などと一緒に煮込んだ味噌汁などの料理法が主流である。ただし、食味の良いものは刺身や素材の風味を生かして塩味で蒸し煮にしたマース煮(「マース」は「塩」の意)などにも用いられる。干したイラブー(エラブウミヘビ)を煮込んで汁にしたものや[4]イカを墨ごと汁物にしたイカの墨汁(すみじる)、アバサー(ハリセンボン)汁、夜光貝やシャコ貝の料理なども、独特のものである。魚の加工食品としては、スク(アイゴの稚魚)を塩漬けにしたスクガラスや、薩摩揚げの原型ともされるチキアギ(付け揚げ これを「カマボコ」と呼ぶこともある)などがある。なお刺身を食べる際に酢味噌や酢醤油を用いることが多いが、これは魚の傷みやすい南国ならではの知恵の名残でもあると言われている。

なお漁港の数は高知県と並び88港で国内13位(2008年4月1日現在)。特定第3種漁港はなく、第3種漁港が1港(糸満漁港)、第2種漁港が4港で、残りの83港が沿岸漁業や離島の漁港である。すなわち、他県と沖縄で水揚げされた魚介類を流通のやり取りはあまり行われず、消費される魚種が近海物に偏る傾向が大きく、また近海物の魚介料理が廃れずに残っている要因にもなっている。

海藻・昆布料理

海草を用いた料理も盛んで、スヌイ(モズク)は酢の物にし、アーサ(ヒトエグサ)は汁に入れるほか、いずれも天ぷらの具にしたりする。ヒジキも栽培されており、モーイ(イバラノリ)も地域によっては利用される。海ぶどうも独特のものとして、土産物などとして珍重されている。また、クーブ(コンブ)を利用した料理が盛んで、だしに使うほか、締め昆布を煮物や炒め物に用いたり、千切りにしてクーブイリチーと呼ばれるイリチーになどにする。沖縄県のコンブの消費量は全国でも富山県と一、二を争う多さである。沖縄県で昆布が生産されないのに消費量が多いのは、江戸時代、日本から中国への輸出品として沖縄に運ばれた北海道産のコンブが用いられるようになったからだとされている。

米料理

戦前までは、那覇首里といった都市部を除く地域ではや雑穀などを主食としていたために、米を用いた料理はあまり発達しなかった。料亭では豚飯(トンファン)、菜飯(セーファン)、鶏飯(チーファン)などと呼ばれる汁掛け飯も提供されたが、現在ではほとんど廃れてしまっている。家庭でのご馳走として代表的なジューシー雑炊)はフーチバー(ヨモギ)などの野菜や野草、チンヌク(サトイモ)、ヒジキ、豚肉などを米と一緒に炊き込んだもので、おじや状のものをボロボロジューシーあるいはヤファラ(やわら)ジューシー、炊き込みご飯状のものはクファ(こわい=固いの意)ジューシーと呼び分けることもある[8]。白米が貴重品であった時代の名残として、玄米に豆や雑穀を炊き込んだご飯もポピュラーであり、食堂などでは白飯とチョイスできることも多い。こうした食事はもともとは貧しさに由来するものであるが、現在では健康食として見直されてきている。 近年誕生した米料理としては、タコスの具材をご飯の上に乗せたタコライスが有名である。また、野菜炒めを卵とじにしてご飯の上にかけたものをチャンポンと呼称するほか、カツ丼にニンジンなど多種類の野菜が入るなど、名称は同じでも本土とは違った形の料理となっていることも珍しくない。また、沖縄県の「」は中国などと同様にもち粉を練って蒸したもののことを指し、日本本土で一般的なもち米をついて作る粘りのある餅は存在しない。このため正月の雑煮や餅つきの風習もない。

大東諸島では八丈島からの移住者によりもたらされた文化があり、独特の大東寿司が名物になっている。

重箱料理

彼岸清明祭旧盆などに使われる沖縄独特のお供え料理。「しみむん」(煮しめの意)、「くわっちー」(ご馳走を意味する言葉)などとも呼ばれる。地域や門中、節目により多少の違いがあるが、伝統的には四段重ねで、二段が白餅、残り二段には御三味(豚三枚肉、かまぼこ、揚げ豆腐、煮昆布、天ぷら、ゴボウ、結びこんにゃく等)が綺麗に並べて詰められる。

沖縄そば

沖縄そば(方言風に「すば」とも)は、中華料理に由来する麺料理が、本土におけるラーメン同様、明治以降に独自の地域的変化を遂げたものと考えられており、沖縄県では「そば屋」と言えば沖縄そば屋を指すほどポピュラーなものになっている。麺は小麦粉をガジュマルの灰汁(またはかんすい)で打ったもので、ソバ粉は用いない。これをブタやカツオのだしで取ったスープで食べる。具はチギアギや小口ネギ、豚の三枚肉などであるが、ソーキを醤油とみりんで味付けしたものを乗せたソーキそばやティビチそば、トッピングとしてのアーサやフーチバーなどのバリエーションもある。また、宮古諸島八重山諸島のそばはそれぞれ違いがあり、「宮古そば」「八重山そば」として親しまれている。なお調味料としては、明治以降に普及した「コーレーグース」(泡盛トウガラシを漬け込んだもの)というものが用いられることが多い。

沖縄そばの麺は焼きそばとしても用いられており、ケチャップ味、ソース味、しょうゆ味、塩味などさまざまなバリエーションが見られる。

飲料

沖縄には独特の飲料も数多く存在する。タイ米を原料とした蒸留酒泡盛は、「島酒」あるいは単に「シマー」と呼ばれ、安価で日常的なお酒として県民に広く親しまれている。また県産ビールとして有名なオリオンビールは県外産やアメリカ産を抑えて県内トップシェアを誇っている。

ソフトドリンク類ではさんぴん茶の消費量が非常に多い。大手メーカーのみならず県内の中小メーカーからも発売されており、実売価格は一缶30円前後と非常に安価である。またウコンを煎じたうっちん茶や、アメリカの影響で根付いたルートビアなども本土ではあまり親しみのない飲み物もある。 また、これもアメリカ占領時の名残りではあるが、アイスティーもよく飲まれる。食堂のやかんに入っているお茶が紅茶(沖縄では「ティー」と英語で呼ぶ)であることも珍しくなく、輸入品の粉末紅茶もスーパーマーケットの棚には必ず並んでいる。

飲料と呼ぶべきか否かは微妙であるが、白米や玄米を原料とした「みき」、「げんまい」と呼ばれる独特の健康食品も昔から親しまれている。

菓子・その他

小麦粉を溶いて薄焼きにしたヒラヤーチー(平焼)は軽食としてポピュラーである。また味噌や砂糖で甘みを加えたものはポーポーちんびんなどと呼ばれ、子供のおやつとして知られる。 食事に供される料理ではないが、サーターアンダーギー(砂糖てんぷら)やちんすこうといった独特の菓子も有名である。ちんすこうは元々宮廷に縁の菓子であるため[9]、贈答品などにも利用される。どちらも中国などから伝来した菓子の変形と考えられるが、固有の食文化として定着している。他にちまきに似た餅菓子のカーサムーチー、十五夜のお供えに使われるふちゃぎぜんざいの一種であるあまがしや、慶事に用いる松風三月菓子タンナファンクルーちいるんこう花ボウルなど独自の焼菓子も存在する。また饅頭類も多く、山城饅頭のー饅頭天妃前饅頭などは那覇市の名物となっている。 特産物であるサトウキビから作られる黒糖も菓子として成立しており、ピーナッツなどを混ぜ込んだものもある。多くは板状のものを砕いた小片の状態で売られており、お茶うけとしてそのまま食べられる。

その他の特徴

調理法

亜熱帯に属する沖縄県では食品が傷みやすく、冷凍・冷蔵技術が未発達の時代にはいかにして食料を長持ちさせるか、また鮮度の落ちた食材をどう安全に食べるかという点に主眼が置かれた。このため塩や油を多量に用いて十分に加熱する調理法が主流となり、炒り煮や煮付けなどに代表される、油っぽく味の濃い「あじくーたー」と呼ばれる料理が沖縄県民共通の味覚となった。この傾向は現在にも受け継がれており、市販されている弁当のおかずはほとんどが揚げ物あるいは炒め物で占められている。

また、気候のせいもあって鍋料理の文化はまったく存在しないが、汁物は非常に多彩で独特のものが多い。ソーセージや卵など多種類の具の入った「みそ汁」が一品料理として成立しているほか、魚のぶつ切りを入れた「魚汁」、ハリセンボンをその肝と共に用いる「アバサー汁」など海鮮系の味噌汁もポピュラーである。それ以外にも、正月などに作られる白味噌仕立ての「イナムドゥチ」、すまし汁仕立ての「シカムドゥチ」、海藻を用いた「アーサ汁」、豚の臓物の「中身汁」、田芋のズイキの「ムジ汁」、豚のレバーを使った「チムシンジ(肝煎じ)」、牛の臓物を煮込んだ「牛汁」、豚の背骨の「骨汁」、干したウミヘビを用いる「イラブー汁」、さらには「イカ墨汁」、「アヒラー(アヒル)汁」、「ヒージャー(山羊)汁」、「ティビチ汁」、「ソーキ汁」など、ありとあらゆる食材が汁物の材料となるといっても過言ではない。

なお、沖縄料理では、鰹出汁が多く使われ、その他に昆布出汁、豚のばら肉の茹で汁を濾したものを豚出汁が多い。

加工食品の多用

沖縄では、缶詰冷凍食品などの利用頻度が非常に高く、これらの加工食品や添加物等に対する抵抗感も少ない。(「ポーク」とは本土では通常の豚肉を指すのに対し、沖縄では缶詰のランチョンミートのことを指す。) これは食品の鮮度を保ちにくい気候、本土に比べ流通面で不利な立地、そして低所得者層の多さなどに起因するもので、離島に行けばさらにこの傾向が加速する。 このため、海に囲まれた島であるにもかかわらず、県民にとってもっとも身近で日常的な魚は内地産の冷凍さんまやツナ缶であり、また国産豚肉よりも冷凍の輸入肉、ポーク缶の消費量が圧倒的に多いという逆転現象が起こっている。こうしたあまり好ましくはない傾向が、男女共に日本一高い肥満率や、後述する平均寿命の急激な低下の一因となっていることは想像に難くない。

調味料など

日本本土から地勢的に離れていることや、歴史的な経緯から、調味料も本土ではあまり一般的でないものが用いられることが多い。鹿児島県産の化学合成酢である「まるこめ酢」や、既にアメリカ本土でも見かけることのない「ホリデーマーガリン」[10]、「エゴーサラダドレッシング」[10]などがその例である。これらはそれぞれ、醸造酢、バター、マヨネーズの安価な代用品としてもたらされたものであるが、現在では沖縄県民にとって「ふるさとの味」として広く受け入れられている。これ以外にも、酸味の強いA1ソースや辛味の少ないフレンチのイエローマスタードなど、他県民にとってなじみの少ない調味料は多い。

独自の香辛料としては、島唐辛子を泡盛に漬け込んだ「コーレーグース」や八重山原産の「島コショウ」(ヒハツ、フィファーチ、ぴーやーしなどと呼ばれる)などがあり、こうした独特の調味料の存在も沖縄料理の特徴を形成する一因となっていると考えられる。また沖縄県内で用いられるは、家庭用・業務用の区別なくほぼ全てが県内で加工された自然塩である。これは1972年の本土復帰後も県民の強い要望によって塩専売法の対象外とされ、本土の塩では出せない味が守られてきたためである。

アメリカ・ラテンアメリカの影響

戦後、アメリカの軍政下におかれた沖縄県では、食文化においてもアメリカの影響を受けるようになった。まず、戦争直後の食糧不足の状況下で米軍の軍用食料から供出された豚肉の缶詰、ポークランチョンミートが一般に普及し、現在ではチューリップやスパムをはじめとする輸入物だけではなく県産品も製造されるなど、大量に消費されるようになった。もともと豚肉は身近な食材であり、市場では塊を塩茹でしたものが売られていたため、受け容れられやすい素地はあった。

また缶詰のビフストゥー(ビーフシチュー)やコンビーフハッシュキャンベルスープなども家庭の常備食として広く親しまれている。ビーフステーキハンバーガーホットドッグピザタコスといったアメリカ風の料理も早くから普及し、1963年にはハンバーガーチェーン店のA&Wが進出した。これは、マクドナルドの日本進出より8年早い。

こういったアメリカ文化の影響は、それまでの食生活に少なからず影響を与え、タコライスポークたまごぬーやるバーガーなどの新しい料理を生み出した。

また祭礼とは無関係にA&Wのフライドチキンを持ち帰りご飯のおかずとして食べる慣習が、後にケンタッキーフライドチキンが沖縄出店した際にも同様に行われた。これを沖縄独特の慣習として取り上げられることがある。

1980年代以降には、ブラジルペルーアルゼンチンなどラテンアメリカ地方の料理が紹介された。これは、明治以降この地方に移住した人々の二世、三世が、本国の経済悪化と日本の好景気により帰郷し、当地の料理を広めたためである。ローストチキン・パステイス・コシンヤなど脂っこく大味な肉料理が中心であるが、県民の嗜好に合致して普及し、現在では沖縄の新しい食文化として定着している。

長寿食としての沖縄料理

沖縄県民は平均寿命が高いことで知られているが、これは現在既に高齢者となっている、沖縄の伝統的な食文化で育った70代以上の年齢層が平均を上げているもので、アメリカ軍の占領によって、アメリカ式食生活が普及しだした後に生まれた50代以下の平均余命は逆に全国各県の平均を大きく下回っており、それ以上の年代との明らかな格差が見られている。また豚肉をよく食べるようになったのも実は戦後のことであり、戦前にはハレの日のごちそうとして年に何度か食膳に上る程度で、一般家庭の日常食は芋や野菜を中心とした質素な粗食であったという。
同様の例が、沖縄県から世界各地、特にハワイや南北アメリカ大陸など肉食文化の地域への移民の間にも見られ、高齢の沖縄系移民における生活習慣病発症率が、その土地の平均より低めである事が多い。
これらの統計からも、旧来の沖縄料理が長寿食として計り知れない影響力を持つ、琉球方言での名の通り「ぬちぐすい」(命の薬)であると同時に、ファーストフードに代表される戦後世代の食生活の危険性を浮き彫りにするものであると言えよう。

ギャラリー

脚注

  1. ^ 沖縄県サイト: 沖縄の食文化 [1]
    沖縄デジタルアーカイブ「Wonder沖縄」: 沖縄の食習慣は医食同源の心なり [2](全二ページ)
  2. ^ a b 沖縄・奄美スローフード協会 2004, p. 28
  3. ^ a b c d 沖縄・奄美スローフード協会 2004, p. 29
  4. ^ a b c 沖縄・奄美スローフード協会 2004, p. 32
  5. ^ 都会生活研究プロジェクト 沖縄チーム、2009、『沖縄ルール リアル沖縄人になるための49のルール』、中経出版 pp. 62
  6. ^ a b 沖縄・奄美スローフード協会 2004, p. 30
  7. ^ 沖縄・奄美スローフード協会 2004, pp. 30–31
  8. ^ [3]
  9. ^ 沖縄スタイル編集部, ed. (2005), 沖縄スタイル 09, エイムック, 1091, 枻出版社 (2005-09発行), p. 132, ISBN 9784777904099 
  10. ^ a b ベスト・オブ・沖縄2004, 別冊ライトニング, 8, 枻出版社, (2004) (2004-05発行), p. 114, ISBN 9784777900756 

参考文献

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  • 石川幸千代『沖縄料理の新しい魅力 健康長寿癒しの創作レシピ』旭屋出版、2006年7月、ISBN 4751105892
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  • まぶい組(編)『波打つ心の沖縄そば 沖縄そばが食べたくなる本』沖縄出版、1987年8月、[17](「まぶい」は「魂」「霊魂」を意味する沖縄方言。沖縄大百科: マブイ [18]
  • 安田ゆう子『沖縄琉球料理 身近な食材で伝統の味を 安田ゆう子料理の本』那覇出版社、1999年4月、ISBN 4890951202
  • 吉村喜彦『食べる、飲む、聞く沖縄美味の島』光文社、2006年7月、ISBN 4334033636
  • 山本彩香『てぃーあんだ 山本彩香の琉球料理』沖縄タイムス社、1998年11月、ISBN 4871271323
  • 渡口初美『琉球料理と御火の神様 ヒヌカンガナシー』国際料理学院、1983年2月、[19](「ヒヌカンガナシー」は「火の神」(ヒヌカン)「様」(ガナシー)を意味する沖縄本島の方言 [20]
  • 渡口初美『琉球料理 その作り方と効用を徹底的に研究』国際料理学院、1978年5月、[21]
  • 渡口初美『実用琉球料理』月刊沖縄社、1975年5月、[22]

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