「コンピュータ将棋」の版間の差分

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'''コンピュータ将棋'''(コンピュータしょうぎ)は、[[コンピュータ]]による[[将棋]]の対戦、また将棋を指すコンピュータおよびその[[プログラム (コンピュータ)|プログラム]]そのものである。
'''コンピュータ将棋'''(コンピュータしょうぎ)は、[[コンピュータ]]による[[将棋]]の対戦、また将棋を指すコンピュータおよびその[[プログラム (コンピュータ)|プログラム]]そのものである。


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=== 2011年 ===
=== 2011年 ===
あから2010の結果に対し米長は、[[中央公論]]2011年1月号における[[梅田望夫]]との対談で、次は自身が「引退棋士の代表」としてコンピュータ将棋と対局するという表明を行った<ref>[http://www.chuokoron.jp/2010/12/post_49.html 次は私がコンピュータと対局します!清水女流vs.「あから2010」戦のその後を考える] 中央公論ウェブサイト</ref>。2011年10月6日、日本将棋連盟、[[ドワンゴ]]、中央公論の三者が主催する、「米長邦雄永世棋聖 vs ボンクラーズ プロ棋士対コンピュータ 将棋電王戦」の概要が発表された。2011年世界コンピュータ将棋選手権の優勝ソフト「ボンクラーズ」と米長が2012年1月14日に対局し、この対局を「第1回電王戦」として以後継続的にプロとソフトの対局が行われる。対局形式は持ち時間3時間で1分未満の考慮時間は計測せず、途中に1時間の昼食休憩を挟む、ボンクラーズ側のセッティングは消費電力2800ワット内で自由と発表され、会見時に行われた振り駒によって先手がボンクラーズと決まった。

2011年5月16日、ponanzaが将棋倶楽部24で92勝8敗でレーティング3110を記録。最後に「謎の棋士」と呼ばれる人と2局対局を行い1勝1敗であった<ref>[http://www.computer-shogi.org/blog/club24_bears_the_brunt_of_ponanza/ ponanzaが将棋倶楽部24に登場、東京道場に「記録」破り]</ref>。
2011年5月16日、ponanzaが将棋倶楽部24で92勝8敗でレーティング3110を記録。最後に「謎の棋士」と呼ばれる人と2局対局を行い1勝1敗であった<ref>[http://www.computer-shogi.org/blog/club24_bears_the_brunt_of_ponanza/ ponanzaが将棋倶楽部24に登場、東京道場に「記録」破り]</ref>。


2011年10月、ボンクラーズが将棋倶楽部24で3300越えの過去最記録のレーティングを記録。
2011年10月、ボンクラーズが将棋倶楽部24で3300越えの過去最記録のレーティングを記録。


==== 将棋電王戦 ====
2011年12月21日に、第1回将棋電王戦に先立ち、米長邦雄とボンクラーズの前哨戦「将棋電王戦プレマッチ」が持ち時間15分でインターネット対局対局サイト[[将棋倶楽部24]]で行われた。電王戦と同じく後手番を持った米長邦雄は2手目に6二玉という奇手を指してボンクラーズの撹乱を狙ったが、85手で先手のボンクラーズが勝利した<ref>{{Cite web | url = http://www.shogi.or.jp/topics/2011/12/-vs.html | title = 「米長邦雄永世棋聖 vs ボンクラーズ プロ棋士対コンピュータ 将棋電王戦」のプレマッチ ボンクラーズの勝利! | publisher = 日本将棋連盟 | date = 2011-12-11 | accessdate = 2012-1-10}}</ref><ref>{{Cite news | url = http://response.jp/article/2011/12/22/167534.html | title = [将棋ソフト]米長邦雄、コンピュータ将棋ソフト「ボンクラーズ」に敗れる | newspaper = RBB TODAY | date = 2011-12-11 | accessdate = 2012-1-10}}</ref>。
[[清水市代]]とコンピュータソフトのあから2010が対局し、あから2010が勝利したことを受け、[[米長邦雄]][[日本将棋連盟]]会長(当時)が「引退棋士の代表」としてコンピュータ将棋と対局。また、同時に定期的にプロ棋士とコンピュータソフトが対局する「電王戦」が開催されることが発表された。

{{See|将棋電王戦}}
=== 2012年 ===
2012年[[1月5日]]、2013年に第2回電王戦を実施することが将棋連盟より発表された。[[1月14日]]には米長邦雄とボンクラーズの本対局が将棋会館で行なわれ、113手で先手のボンクラーズが勝利した。米長邦雄は二手目に6二玉と、前哨戦と同様の手を指した
<ref>{{Cite news | url = http://www.47news.jp/CN/201201/CN2012011401001634.html | title = 米長氏、将棋ソフトに敗北 永世棋聖も歯が立たず | newspaper = 47news | date = 2012-01-14 | accessdate = 2012-01-14}}</ref><ref>{{Cite web | title = 電王戦対決中!! 序盤は米長永世棋聖が有利か? 戦いの行方はニコ生を見よ!! | url = http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/072/72597/ | publisher = 週刊アスキー | date = 2012-01-14 | accessdate = 2012-01-14}}</ref>。ボンクラーズの駒を動かすアシスタントは[[中村太地]]が務めた。

=== 2013年 ===
第2回将棋電王戦の記念企画として、GPS将棋とのトライアルマッチが2月24日から3月10日にかけて計5日間開催された。参加資格は現役のプロ棋士・女流棋士・奨励会員以外。持ち時間各15分、時間切れ後は1手30秒。人間が先手。GPS将棋はノートパソコン([[VAIO]] Zシリーズ [[Intel Core i5]]-3210M 2.5GHz 2コア)1台のみ駆動という条件で、勝者には賞金100万円が与えられる。1日目にソフトのフリーズが多発したため2日目には動作が安定しているバージョンを落としたものを使用したが、午後から元のバージョンに戻された。また、4日目と5日目により高性能なデスクトップPC([[Intel Core i7]] Extreme 3970X 3.5GHz 6コア)が投入された。アマ名人経験者や元奨励会員、強豪将棋部部員などプロ棋士相手に勝ち星を上げた者も含むトップクラスのアマチュア棋士が多数参加し、GPS将棋は105勝3敗の結果となった。GPS将棋が負けたのは下平雅之、中川慧梧、[[細川大市郎]]で、いずれも[[将棋のアマチュア棋戦|アマチュア棋戦]]で優勝経験がある、名の通った強豪である。なお、運営側は勝てるのは1人いるかいないかと予想していたという。

また、4月27日にはスピンオフ企画として、[[習甦]]と女流棋士三人が対局した。[[安食総子]]女流初段・[[熊倉紫野]]女流初段・[[本田小百合]]女流三段の三人が合議制で指すというもので、持ち時間は人間側が1時間30分で時間切れ後は1分、習甦は30分で時間切れ後は30秒。さらに人間側は対局中に会場・ニコ生視聴者・解説の[[阿部光瑠]]のいずれかから3回ずつヘルプを得られる(ヘルプ中は時間ストップ)という変則ルールだった。人間側が先手で、結果は習甦の勝利。

====第2回将棋電王戦====
3月23日から4月20日にかけて、[http://ex.nicovideo.jp/denousen2013/?shogi 第2回将棋電王戦]が東京の[[将棋会館]]で開催された。対局の模様は[[ニコニコ生放送]]で全対局が生中継(総観戦数230万)され、「日本将棋連盟モバイル」(モバイル用棋譜中継ソフト)でも配信された。

第1・3・5局で対戦する棋士には、事前にバージョンを落としたサンプルソフトが提供された。なお、4局目については開発者から直接ソフトは提供されなかったが、改称する前のボンクラーズ(第1回電王戦で米長に貸し出されたもの)が提供されている。持ち時間各4時間(1分未満切り捨て)、時間切れ後は1手1分。先後はドワンゴ会長の[[川上量生]]の振り駒により決められた。2・3局では、完全にソフト任せでは無く、開発者が序盤に指す1手だけを事前にプログラムしている(定跡の少ない手に誘導するため)。全5局とも、コンピュータ側の駒を動かすアシスタントは三浦孝介初段が務めた。

===== 第1局 =====
2013年3月23日 - 先手:[[阿部光瑠]]四段 vs 後手:[[習甦]] - 人間の勝利(113手)<ref>[http://news.mynavi.jp/news/2013/03/23/100/ 「第2回将棋電王戦」第1局は阿部四段先勝「将棋は将棋と思うことができた」]マイナビニュース 2013/03/23</ref>。

コンピューターは[[Xeon]]E5-2687W(3.1GHz 8コア)2台を使用。1秒間に1100万手読む。控室で検討の中心となっていた[[遠山雄亮]]は「阿部さんの序盤の作戦は素晴らしいの一言です。相当の研究を重ねなければあれだけ見事な作戦は立てられないでしょう。作戦通りに進んでからの指し回しも完璧でした。相手の攻めを呼び込む展開なのでリスクも高く、決して簡単な将棋ではなかったのですが、全てを読み切ったようなすごい指し回しでした。正直阿部さんがこれだけ本気で対局に取り組むとは予想していませんでした。阿部さんの本局に取り組む姿勢と指し回しには、感動すら覚えます」とコメントした<ref>{{Cite web|title=若き天才棋士が見せた"戦いの理想形"とコンピュータの悪手|publisher=マイナビニュース|date=2013-03-27|accessdate=2015-04-24|url=http://news.mynavi.jp/articles/2013/03/27/denousen/004.html}}</ref>。

===== 第2局 =====
2013年3月30日 - 後手:[[佐藤慎一 (棋士)|佐藤慎一]]四段 vs 先手:[[ponanza]] - コンピュータの勝利(141手)。

コンピュータは自前のものと貸与された計10台の[[サーバー]]を[[クラスタリング]]して使用。1秒間に4000万手読む。「正式ルールで行われた、現役のプロ棋士戦」に初めてコンピュータが勝利した<ref>引退した対永世棋聖戦、対女流王座、10秒将棋などでは既にコンピュータが勝利したことがある。</ref><ref>[http://news.mynavi.jp/news/2013/03/30/087/ 「将棋電王戦」第二局で佐藤四段敗れる、現役プロ棋士がコンピュータに初の敗北]マイナビニュース 2013/03/30</ref>。佐藤が出場した経緯は「第1回将棋電王戦」で米長が対コンピュータ戦用の特殊な作戦を使ったのを見た佐藤が「プロなら対コンピュータ専用の作戦など使わずに勝つべきだ」と言い、それを聞いた米長が佐藤を呼び出し、「君なら別の作戦で勝てるのかね」「……勝てます!」「じゃあ君が出場しなさい」と言ったため<ref>{{Cite web|title=進化の壁を越えたコンピュータが歴史に新たな1ページを刻む|publisher=マイナビニュース|date=2013-04-03|accessdate=2015-04-24|url=http://news.mynavi.jp/articles/2013/04/03/denousen/}}</ref>。開発者の山本は「情報科学の世界において大きな勝利です」とコメントした<ref>{{Cite web|title=進化の壁を越えたコンピュータが歴史に新たな1ページを刻む|publisher=マイナビニュース|date=2013-04-03|accessdate=2015-04-24|url=http://news.mynavi.jp/articles/2013/04/03/denousen/003.html}}</ref>。

===== 第3局 =====
2013年4月6日 - 先手:[[船江恒平]]五段<ref>2010年の詰将棋解答選手権で唯一の全問正解者として優勝。C級2組『順位戦』で10戦全勝し、1年で昇級を果たした。[http://www.excite.co.jp/News/reviewmov/20130419/E1366298496397.html?_p=2 「プロ棋士とコンピュータの死闘を徹底解説。第二回電王戦明日決着」]エキサイトレビュー2013年4月19日 11時00分 (2013年4月20日 22時46分 更新)</ref> vs 後手:[[ツツカナ]]- コンピュータの勝利(184手)<ref>[http://news.mynavi.jp/news/2013/04/06/105/ 将棋電王戦第三局でコンピュータ2勝目、船江五段「人間の弱さが出てしまった」 ]マイナビニュース 2013/04/06</ref>。

輸送中にコンピュータが故障したため、前日のイベントで使用された別のコンピュータ([[Intel Core i7]] Extreme 3970X 3.5GHz 6コア)を使用した。本来使用予定のコンピュータより2割程スピードが増す事になった。1秒間に480万手読む。

船江・ツツカナ双方にミスがあり形勢はどちらに転んでもおかしくなかったが、終わってみれば疲れを知らず1分将棋でも乱れないコンピュータの前に人間が屈した形となった<ref>{{Cite web|title=逆転に次ぐ逆転と「△6六銀」の謎 -『将棋電王戦』第三局で見えたコンピュータと人間、それぞれの弱点|publisher=マイナビニュース|date=2013-04-10|accessdate=2015-05-15|url=http://news.mynavi.jp/articles/2013/04/10/denousen/003.html}}</ref>。

===== 第4局 =====
2013年4月13日 - 後手:[[塚田泰明]]九段 vs 先手:[[Puella α]]- 引き分け(持将棋)(230手)。

コンピュータは[[Intel Core i7]] 3960X(3.3GHz 6コア)、3930K(3.2GHz 6コア)、2600K(3.4GHz 4コア)をクラスタリングして使用。塚田は「▲7七玉から入玉を目指されたときは心が折れました。でも……自分から投了はできなかった」「完全に心が折れていたんですが、コンピュータがおかしな手を指し始めたので、もしかしたら……と」とコメントした。塚田の敗勢であったが、Puella αは相入玉時の点数計算を正しく認識できなかったため、塚田の点数が24点に達し、持将棋(引き分け)が成立した<ref>{{Cite web|title=泥にまみれた塚田九段が譲れなかったもの -『将棋電王戦』第四局|publisher=マイナビニュース|date=2013-04-17|accessdate=2015-04-24|url=http://news.mynavi.jp/articles/2013/04/17/denousen/003.html}}</ref>。

===== 第5局 =====
2013年4月20日 - 先手:[[三浦弘行]]八段<ref>A級順位戦21連勝の羽生をストップし、また羽生から棋聖を奪ったこともある。現役A級棋士。</ref> vs 後手:[[GPS将棋]] -コンピュータの勝利(102手)。

東京大学田中哲朗研究室にあるコンピュータを[[マスター]]とし、[[東京大学駒場地区キャンパス]]の情報教育棟にある学生用の667台の[[IMac_(インテルベース)#iMac_.28Mid_2011.29_.5B10.5D|iMac]]([[Intel Core i5]] 2.5GHz 4コア)を[[スレイヴ]]として使用する[[コンピュータ・クラスター|クラスター]]構成で、1秒間に2.7億手を読むことができるという<ref>事前に収録されたプロモーションビデオでは788台と説明されたが、これは前年の第22回世界コンピュータ将棋選手権に参加した際の台数である。[[ゴールデンウィーク]]に開催されるコンピュータ将棋選手権では情報教育棟のすべてのiMacが使用可能なのに対し、土曜日に指される電王戦では学生が自習するためのパソコンが除かれた。</ref>。

三浦は「自分のどこが悪かったのか分からない」と振り返った<ref>[http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20130420-OHT1T00154.htm 「A級の三浦八段、将棋ソフトに敗れる」]2013年4月20日20時14分 スポーツ報知</ref>。解説の[[屋敷伸之]]は「△7四歩から△6四歩というGPSの構想には驚かされました。あんなに細い攻めをつなげてしまうのかと。実は序盤の△7五歩▲同歩△8四銀の仕掛け自体は、かなり昔に見たことがあったんです。私がまだ奨励会員のころの研究会だったと思いますが、実際に指されたことがありました。しかし、結果は攻めが続かなくて“この手は無理だ”と言っていた記憶があります。だからコンピュータがあの仕掛けから手をつなげてしまったのは驚きました」とコメントした<ref>{{Cite web|title=コンピュータは"生きた定跡"を創り出したか?|publisher=マイナビニュース|date=2013-04-24|accessdate=2015-04-24|url=http://news.mynavi.jp/articles/2013/04/24/denousen/003.html}}</ref>。

===== 報道 =====
対戦成績はプロ棋士の1勝3敗1引き分けとなった。極めて場面数の多い将棋で電脳ソフトがプロ棋士に勝利したことは、全国紙で報じられた<ref>「人間vsソフト 次の段階へ 新たな価値観もたらすか」読売新聞 2013年4月22日 11面</ref><ref>{{cite news|url=http://sp.mainichi.jp/opinion/news/20130423k0000m070141000c.html|title=余録:将棋の指し手のすべての変化を知っている…|date=2013-04-23|newspaper=毎日新聞|accessdate=2015-05-27}}</ref><ref>{{cite news|url=http://www.asahi.com/shougi/articles/TKY201304230207.html|title=電王戦、将棋界を刺激 定跡整備される中、新手次々|newspaper=朝日新聞|date=2013-04-23|accessdate=2015-05-27}}</ref><ref>{{cite news|url=http://www.nikkei.com/article/DGXNZO54416570W3A420C1BC8000/|title=将棋界、電脳時代の妙手は|newspaper=日本経済新聞|date=2015-04-27|accessdate=2015-05-27}}</ref><ref>{{cite news|url=http://sankei.jp.msn.com/life/news/130427/shg13042708540000-n1.htm|title=一筆多論:中本哲也 電脳はプロ棋士を超えたのか|newspaper=産経新聞|date02013-04-27|accessdate=2015-05-27}}</ref>。

特に第5局において、10人しかいない現役A級棋士である三浦弘行が、約700台の[[コンピュータ・クラスター|クラスター]]という巨大マシンとはいえ、コンピュータに敗れたことが注目された。

[[公立はこだて未来大学]]複雑系知能学科教授の[[松原仁 (情報工学者)|松原仁]]は、「プロ棋士の敗北は歴史的な必然であり、人間が悔しがるようなことではない」「今回の勝利も予想通りであり、今トップのプロ棋士と対戦しても、4回に1回は勝てる」と述べた<ref>{{Cite web|title=コンピュータ将棋に見る人間のプライド、想定外をなくす社会シミュレーションなど|publisher=PC Watch|date=2013-06-03|accessdate=2015-05-15|url=http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/kyokai/20130603_601774.html}}</ref>。

====電王戦タッグマッチトーナメント====
2013年8月31日第3回電王戦のプレイベントとして、電王戦タッグマッチトーナメントが開催された。出場者は第2回将棋電王戦で対戦した棋士とコンピュータのタッグチームである。結果は佐藤慎一・ponanzaのタッグチームが3連勝しての優勝。決勝戦の三浦弘行・GPS将棋タッグvs佐藤慎一・ponanzaタッグの対局は、解説した[[森内俊之]]が「今年の[[将棋大賞#名局賞|名局賞]]をとりそうな将棋ですね」とコメントした程、白熱した内容であった。

====第1回将棋電王トーナメント====
2013年11月2日から11月4日にかけて、初代将棋電王を決めるトーナメントが開催された。使用コンピュータは、第3回電王戦のハードウェアサプライヤーである株式会社[[サードウェーブ|サードウェーブデジノス]]が製造するゲーミングパソコン「GALLERIA」より、 [[Intel Core i7]] 4960X EE(3.6GHz 6コア)をCPUとして搭載する「GALLERIA電王戦」が提供され用いられた。持ち時間は予選リーグは15分、消費後10秒、決勝トーナメントは2時間の切れ負け。全18チームが参加、1位(電王)ponanza 、2位ツツカナ、3位YSS、4位やねうら王、5位習甦との結果になった。

====電王戦リベンジマッチ====
2013年12月31日([[大晦日]]) 先手:船江恒平五段vs 後手:ツツカナ。第2回将棋電王戦、第3局と同条件で東京・[[渋谷区]]の[[ニコニコ生放送#ニコニコ本社|ニコニコ本社]]にて対局が行われ、船江が85手で勝利を収めた。対局後の会見で、船江は貸し出されたソフトとの練習対局、本番2回(第2回電王戦、リベンジマッチ)の実感として、ツツカナの実力は自分と五分五分と評価した。

=== 2014年 ===
第3回将棋電王戦の記念企画として、ponanzaとのトライアルマッチが3月1日、2日、8日、9日と計4日間開催された。参加資格は現役のプロ棋士・女流棋士・奨励会員以外。12時30分までに会場に集まった対局希望者の中から抽選して、当選した42名が対局。持ち時間は各20分切れ負け。人間が先手。ponanzaは[[サードウェーブ|サードウェーブデジノス]]が製造するノートパソコン([[Intel Core i7]] 4700MQ 2.4 GHz 4コア)を使用する条件で、勝者には賞金100万円が与えられる。結果はponanzaの166戦(3日目に2人当選権利放棄)全勝だった。

2月には電王戦の囲碁版となる「[[囲碁電王戦]]」もドワンゴの主催で開催された。

4月6日、ドスパラ [[大阪]]・[[難波|なんば]]店でponanzaとのトライアルマッチが開催された。参加資格は現役のプロ棋士・女流棋士・奨励会員以外。11時30分までに会場に集まった対局希望者の中から抽選して、当選した36名が対局。持ち時間は各20分切れ負け。人間が先手。ponanzaはサードウェーブデジノスが製造するノートパソコン(Intel Core i7 4700MQ 2.4 GHz 4コア)を使用する条件で、勝者には6万円相当のノートパソコンが与えられる。トライアルマッチ開始時点で対局希望者が5人だった為、先着順に対局する事となった。結果はponanzaの16戦全勝だった。

4月27日、[[ニコニコ超会議]]の企画として、豊島将之・YSSタッグvs習甦・ponanza・ツツカナ3種類の合議が行われた。持ち時間は豊島・YSSタッグがチェスクロック方式の30分で時間切れ後は30秒、ソフト3種合議は1手10秒、相手の考慮時間中には考えない設定。豊島・YSSタッグが先手で、結果は豊島・YSSタッグの勝利。

6月29日、ドスパラ[[札幌]]店でponanzaとのトライアルマッチが開催された。参加資格は現役のプロ棋士・女流棋士・奨励会員以外。11時30分までに会場に集まった対局希望者の中から抽選して、当選した30名が対局。持ち時間は各20分切れ負け。人間が先手。ponanzaはサードウェーブデジノスが製造するノートパソコン(Intel Core i7 4700MQ 2.4 GHz 4コア)を使用する条件で、勝者には6万円相当のノートパソコンが与えられる。トライアルマッチ開始時点で対局希望者は14人だった。結果はponanzaの24戦全勝だった。

8月23日、ドスパラ[[名古屋]][[大須]]店でponanzaとのトライアルマッチが開催された。参加資格は現役のプロ棋士・女流棋士・奨励会員以外。11時30分までに会場に集まった対局希望者の中から抽選して、当選した30名が対局。持ち時間は各20分切れ負け。人間が先手。ponanzaはサードウェーブデジノスが製造するノートパソコン(Intel Core i7 4700MQ 2.4 GHz 4コア)を使用する条件で、勝者には6万円相当のノートパソコンが2台与えられる。結果はponanzaの30戦全勝だった。

====第3回将棋電王戦====
[[持ち時間]]は[[チェスクロック]]方式の各5時間、切れたら1分将棋。午前10時開始、昼食休憩12〜13時、夕食休憩17時〜17時30分。関西在住の棋士には2013年11月30日、関東在住の棋士には12月1日に、第3回電王戦本番用ソフトとハード([[Intel Core i7]] Extreme4960X EE 3.6GHz 6コア)が貸し出された<ref>貸し出されたため、コンピュータ側は評価の一番高い手(棋士に知られている)ではなく、2番手も指せるように変更したと言われる。しかし何回も指せば2番手も登場する上、ある局面では2番手が悪手になる場合もあり得るとされ、今回そう言う場面もあったとされる。</ref>。[[コンピュータ・クラスター]]が使用できた前回と異なり、全部同一ハードを使用し、スペックに関して大幅な制限が加えられ以前に比べ実質的なハンデ戦の様相を呈し、プロ有利な条件へと変更された。

先後は2013年12月10日に、[[内閣総理大臣]]であり[[将棋文化振興議員連盟]]に所属する[[安倍晋三]]の振り駒により決められた。後述のとおり、さまざまな場所で開催されるが、その事について森内俊之は「昔、[[キン肉マン]]という漫画で読んだのですが、あちこちの名所で戦うような、そういうのを思い返しました」とコメントしている。主催者の[[川上量生]]は「電王戦は[[週刊少年ジャンプ]]の影響を受けていて、ジャンプがなければ電王戦はなかったんじゃないか?僕はそういう風に思っているんですけど」と発言した<ref>2014年1月29日の森内俊之竜王・名人と川上量生の対談</ref>。

前回ではコンピュータ側の駒は開発者ではなく奨励会員が指していたが、今大会では協賛する[[デンソー]]の子会社[[デンソーウェーブ]]が、自社の[[ロボットアーム]]「VS-060」をベースに改造した、「電王手(でんおうて)くん」が対局に利用されることになった<ref>[http://ex.nicovideo.jp/denou/3rd/match.html#denso 電王手(でんおうて)くん]</ref>。ソフトの開発者は後方に設けられた場所で操作する。なお電王手くんは投了時にアームを下げてお辞儀する「投了動作」を行う<ref>[http://news.nicovideo.jp/watch/nw1013985 電王戦で電王手くんが投了動作を初披露] - ニコニコニュース</ref>。

*第1局: 2014年3月15日- 先手:[[菅井竜也]]五段 vs 後手:[[習甦]]、[[有明コロシアム]]で開催。98手で習甦の勝利。「今回もっとも衝撃を受けた対局である。習甦の中盤以降の指し回し(飛角金銀が集結して押しつぶす)は、プロが見ても強い勝ち方だった」([[谷川浩司]][[日本将棋連盟]]会長)
*第2局: 2014年3月22日- 後手:[[佐藤紳哉]]六段 vs 先手:[[やねうら王]]、[[両国国技館]]で開催。95手やねうら王の勝利。解説では有利な展開もあり得たものの、終始やねうら王が押す展開となった。
*第3局: 2014年3月29日- 先手:[[豊島将之]]七段 vs 後手:[[YSS]]、[[あべのハルカス]]で開催。83手で豊島の勝利。自ら語ったように練習対局を抜きんでて多くこなしており、ソフトに実力を出させない形で勝利した。
*第4局: 2014年4月5日 - 後手:[[森下卓]]九段 vs 先手:[[ツツカナ]]、[[小田原城]]で開催。135手でツツカナの勝利。87手目▲44金の対応を森下が誤ったことが決め手となり、形勢がツツカナになびいていった。
*第5局: 2014年4月12日- 先手:[[屋敷伸之]]九段 vs 後手:[[ponanza]]、[[将棋会館]]で開催。130手でponanzaの勝利。屋敷が指した103手目▲81成香の致命的なミスが仇となり、形勢をponanzaに崩された。第5局の合計アクセス数約50万。

通算4勝1敗でソフト側の勝ち越し。2014年5月30日に第5局のバージョンのponanzaが、将棋新世紀PonaXと名前を改め市販のソフトとして発売されたので、一般人でもプロ棋士を上回る実力のソフトとハードが購入可能となった。但し、将棋新世紀PonaXの付属[[GUI]]では[[バグ]]が多く、本来の実力は出せない。第5局のバージョンのponanzaと同等の実力を引き出すには、[[フリーウェア]]の将棋GUIソフト、将棋所を使う必要がある。なお、将棋新世紀PonaXはその後、バグの多さのためアップデートの打ち切りと、回収・返金することが発表された<ref>{{Cite news|title=​『将棋新世紀 PonaX』に関するお詫びとお知らせ | マイナビブックス|author=|newspaper=|date=2014-08-25|url=https://book.mynavi.jp/info_news/ponax/|accessdate=2014-08-25}}</ref>。

なお第2局の「やねうら王」が対局前の3月1日に、「棋力および指し手が変わるような修正はせず、あくまで動作の安定性を確保するための修正のみ」という事を条件に、[[バグ]]修正が許可されたが、その後、「棋力が大幅に向上した」と佐藤から強い抗議と指摘を受けた。開発者は、「複数のバグを修正したが、その中に棋力に影響をもたらすバグがあり、それを修正したために、棋力が向上してしまった可能性が高い」と説明した<ref>[http://blog.nicovideo.jp/niconews/ni045018.html 電王戦第2局「やねうら王」の修正対応について]</ref>。後に開発者の磯崎は、「そんなに簡単に強くならないだろうと甘く見ていた部分があり、対応が後手に回ってしまった。深くお詫びしたい。プロ棋士と将棋ソフト(開発者)の共存共栄を望みたい。佐藤六段には申し訳なかった。」と謝罪した。また、ドワンゴ川上会長は、「ソフトの修正を認めたことや、新しいソフトでの対局を依頼したことは、間違いであった。」と謝罪した<ref>[http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1403/19/news119.html 電王戦第2局「やねうら王」は旧バージョンで ドワンゴ川上会長「誤った判断だった」と特例撤回]</ref>。3月19日に開かれた第3回将棋電王戦 第2局の対局方法に関する説明会見で、第2局はバグ修正前のソフトと戦う事が発表され、予定通り修正前との対局が行われた。

第3回将棋電王戦第5局後の記者会見で棋士が貸出ありのレギュレーションで4敗した事について質問された菅井は「自分の場合ははっきり力負けだったので研究があまり生かせなかったですね。コンピューターに対してだけの必勝法というのはもうちょっと一生懸命がんばれば探せてたのかもしれませんが、あまりそれに意味を感じなかったのでそれも敗因のひとつかなと思ってます」と答えた。佐藤は「4敗の内の1敗は私なので責任を感じています。私も菅井さんと同じような意見でして、必勝法を探すというよりも堂々とぶつかって勝ちたいなという気持ちがすごく強くて……。ただ負けてしまったのでそのやり方は間違っていたのかなと思っています」と答えた<ref>http://live.nicovideo.jp/watch/lv161977239</ref>。

[[羽生善治]]は2014年9月のインタビューで「今年、電王戦でプロ棋士が負け越したことについてよく聞かれますが、勝敗そのものにはあまり意味はないと思っています」「そもそも人間同士の対局が、コンピュータ将棋のような指し回しにならないのは、多分に心理的な要素が働いているからです。コンピュータ将棋のように、その瞬間瞬間に対応しているのではなく、互いにこう指したいという大局的な意図が先にあるから、そこに駆け引きの妙味も生まれてくるわけです」と述べた<ref>{{Cite web|title=羽生善治「若手に負けぬための秘密の習慣」|author=高橋盛男|publisher=PRESIDENT Online|date=2014-12-07|accessdate=2015-05-26|url=http://president.jp/articles/-/14033}}</ref>。

====電王戦リベンジマッチ 激闘23時間====
2014年[[7月19日]] - [[7月20日]]、先手:[[菅井竜也]]五段 vs 後手:[[習甦]]、東京・将棋会館にて開催。[[持ち時間]]は[[チェスクロック]]方式の各8時間(1日制)。対局は19日午後1時に開始、[[夕食]]休憩午後5時 - 6時、[[夜食]]休憩午後10時 - 11時、早朝休憩翌午前3時 - 4時、[[朝食]]休憩午前7時 - 8時、切れたら1分将棋。習甦は第3回将棋電王戦第1局と同じソフトとハードを使用し、代指しにも「電王手くん」が用いられる。持ち時間各8時間の1日制は異例の条件だが、[[日本将棋連盟]]の電子メディア部・事業本部理事の[[片上大輔]]はブログで、「今回の対局条件、当初は本人に確認するまでもなくお断りして、[[封じ手]]時刻をどのようにするかなどと考えていたところ、菅井君から『[[徹夜|夜通し]]のほうが有難いです』と言われたもので、あのときは本当にびっくりしました。『人間は極限状態の方が力が出るのではないか』とまで言われては、分かりましたと答えるほかありません」<ref>[http://blog.goo.ne.jp/shogi-daichan/e/4bcc5dc3e0783f0f85618ca0eb9a2c4f リベンジマッチ - daichanの小部屋] - 2014年6月26日、2014年7月17日閲覧。</ref>と経緯を説明した。結果は習甦が144手で勝利。対局開始から終局までの時間は19時間29分だった。

対局後の後のインタビューで菅井は「リベンジマッチが決まってからどのような対策をしましたか?」との質問に「前回は習甦の手を調べて、それを研究という形だったのですが、それではあまり身にならなかったし、まぁ結果が出てないのでこう言ってもしかたないのですが、習甦の手で習甦に勝ってもしかたがないので。今日は内容的には良かったのですが、結果が全てですので。これではいけないなと今は思っています。」と答えた<ref>{{cite web|url=http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/239/239605/|title=菅井竜也五段リベンジならず!将棋電王戦リベンジマッチで習甦との19時間半におよぶ激戦で力尽きる|author=いーじま|publisher=週アスPLUS|date=2014-07-20|accessdate=2015-05-11}}</ref>。

====電王戦タッグマッチトーナメント====
2014年9月20日、9月23日、10月12日と3日間に分けて電王戦タッグマッチトーナメントが開催された。出場棋士は[[佐藤慎一 (棋士)|佐藤慎一]]四段、[[久保利明]]九段、[[屋敷伸之]]九段、[[森下卓]]九段、[[加藤一二三]]九段、[[高橋道雄]]九段、[[中村太地]]六段、[[佐藤紳哉]]六段、[[菅井竜也]]五段、[[西尾明]]六段、[[船江恒平]]五段、[[阿部光瑠]]四段。前回優勝の佐藤慎一とA級棋士の久保はシードされて10月12日からの登場。結果はponanzaとタッグを組んだ西尾明が優勝した<ref>{{Cite news|title=電王戦タッグマッチは西尾明六段&ponanzaタッグが優勝!電王戦ファイナルの出場棋士も決定!|author=|newspaper=週アスPLUS|date=2014-10-13|url=http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/265/265530/|accessdate=2014-10-14}}</ref>。

====第2回将棋電王トーナメント====
2014年11月1日から11月3日にかけて、第2回将棋電王を決めるトーナメントが開催された。使用コンピュータは、電王戦FINALのハードウェアサプライヤーである株式会社[[サードウェーブ|サードウェーブデジノス]]が製造するゲーミングパソコン「GALLERIA」より、 [[Intel Core i7]] 5960X EE(3.00GHz 8コア)をCPUとして搭載する「GALLERIA電王戦」が提供され用いられた。持ち時間は予選リーグは15分、消費後10秒、決勝トーナメントは2時間の切れ負け。全25チームが参加、1位(電王)[[AWAKE (コンピュータ将棋ソフト)|AWAKE]] 、2位ponanza、3位やねうら王、4位Selene、5位Aperyとの結果になった。

トーナメントを観戦した[[遠山雄亮]]は「本当にみんな強くなりすぎですよ。電王戦に出られる棋士にはがんばってほしいとしか言いようがないんですが……」とコメントした<ref>{{Cite web|title=プロ棋士も「強くなりすぎ」と絶句 将棋電王戦FINAL出場ソフトが決定【後編】|publisher=日刊SPA!|date=2014-11-06|accessdate=2015-05-14|url=http://nikkan-spa.jp/743433}}</ref>。

====電王戦リベンジマッチ====
2014年12月31日に東京将棋会館で開催された。 - 後手:[[森下卓]]九段 vs 先手:[[ツツカナ]]、持ち時間3時間(チェスクロック方式)、秒読み10分。継盤使用可。対局開始は午前10時15分、休憩は午後1時〜午後2時、午後5時〜午後6時、午後9時〜午後9時30分。結局、約20時間戦ってもなお決着がつかず、2015年1月1日午前5時26分、152手目をもって森下有利のまま、後日指し掛け(対局中断)となった。2015年2月16日に会見が行われ対局再開は行わず(後日指し掛けの状態からコンピューターにてシミュレーションした結果100戦して後手が全勝であったこと、また対局再開したとしても[[シミュレーション]]で最長で400手かかり、残り248手、40時間程続く可能性がある事が分かったので)森下の判定勝ちと裁定された。この裁定は[[佐藤康光]]、[[中村太地]]らプロ棋士側、AWAKE開発者巨瀬亮一、ponanza開発者山本一成らソフト開発者側双方から見ても違和感の無い裁定であったという。

判定での決着は森下より「継盤を使用した上での指し手はプロ棋士として『待った』をいっているようなものなので、対局継続は辞退させていただきたい」という希望を連盟としても了承したうえでの判断であったという。記者会見でponanza開発者の山本は「なぜ、こんなごめんなさいみたいな会見になっているのか、森下九段は真剣にツツカナと戦って、リベンジを果たしたから。胸を張ればいい。」「人間とコンピュータの間で、ルールはまだ未知数。継盤を使っての勝利はそんなに謙虚に思わなくてもいいのではないか。」「人類代表森下として考えると、何も恥じることはない。」と述べた<ref>{{Cite web|title=人間対コンピューターの将棋「電王戦」に見る、未知なるルール問題|author=上水流晋|publisher=やわらかスポーツテック CYCLE|date=2015-02-28|accessdate=2015-04-22|url=http://cyclestyle.net/article/2015/02/28/19978.html}}</ref>。

=====継盤使用への批判=====
週刊ポスト2014年5月2日号で作家の[[大崎善生]]が継盤使用について「今までやり続けてきた頭の中で考え続ける将棋はいったいなんだったのだろう。そうすれば負けないという言葉は残念ながら、そうでなければ勝てないというふうに聞こえてならなかった」と批判した<ref>{{Cite news|title=将棋の電王戦 現役タイトル保持者が出ぬ一因に新聞社の存在|author=|newspaper=NEWSポストセブン|date=2014-04-25|url=http://www.news-postseven.com/archives/20140425_252656.html|accessdate=2015-03-03}}</ref>。

===2015年===
====電王戦FINALへの道・小手試し====
*先手:永瀬拓矢六段 vs 後手:第3回電王戦ver.ponanza 持ち時間は各20分切れ負け。ponanzaの勝利。
*先手:阿久津主税八段 vs 後手:第3回電王戦ver.ツツカナ 持ち時間は各20分切れ負け。ツツカナの勝利。
*後手:村山慈明七段 vs 先手:第3回電王戦ver.ponanza 持ち時間は各20分切れ負け。ponanzaの勝利。
*先手:斎藤慎太郎五段 vs 後手:第3回電王戦ver.ツツカナ 持ち時間は各20分切れ負け。ツツカナの勝利。
*先手:稲葉陽七段 vs 後手:第3回電王戦ver.やねうら王 持ち時間は各20分切れ負け。稲葉の勝利。
*先手:斎藤慎太郎五段 vs 後手:Apery (電王戦FINAL Ver.) 1分将棋。斎藤の勝利。
*後手:永瀬拓矢六段 vs 先手:Selene (電王戦FINAL Ver.) 1分将棋。永瀬の勝利。
*先手:稲葉陽七段 vs 後手:やねうら王 (電王戦FINAL Ver.) 1分将棋。稲葉の勝利。
*後手:村山慈明七段 vs 先手:ponanza(電王戦FINAL Ver.) 1分将棋。ponanzaの勝利。
*先手:阿久津主税八段 vs 後手:AWAKE(電王戦FINAL Ver.) 1分将棋。AWAKEの勝利。
*先手:斎藤慎太郎五段 vs 後手:Apery (電王戦FINAL Ver.) 持ち時間は各30分切れ負け。Aperyの勝利。
*先手:稲葉陽七段 vs 後手:やねうら王 (電王戦FINAL Ver.)持ち時間は各30分切れ負け。やねうら王の勝利。
*後手:村山慈明七段 vs 先手:ponanza(電王戦FINAL Ver.)持ち時間は各30分切れ負け。ponanzaの勝利。
*後手:永瀬拓矢六段 vs 先手:Selene (電王戦FINAL Ver.)持ち時間は各30分切れ負け。Seleneの勝利。

====電王AWAKE(ノートPC)に勝てたら100万円! ====
将棋電王戦FINAL直前企画として、「電王[[AWAKE (コンピュータ将棋ソフト)|AWAKE]]に勝てたら賞金100万円」が2月28日、3月1日に開催された。参加資格は現役のプロ棋士・女流棋士・奨励会員以外。持ち時間は各10分、時間切れ後は1手10秒。人間が先手。AWAKEは[[サードウェーブ|サードウェーブデジノス]]が製造するノートパソコンを使用する。当日12時30分までに会場に集まった対局希望者の中から抽選して、当選した20名と事前ネット抽選で当選した20名、計40名が対局。結果はAWAKEの75勝1敗であった。AWAKEが負けたのは[[将棋倶楽部24]]でレーティング3000点くらい(対局前の自己紹介)[[全国アマチュア王将位大会]]で優勝経験のある山口直哉<ref>関西大学卒、NEC将棋部、</ref>。賞金100万円を獲得した。山口は対局前のインタビューで「普通にやっても勝てないので[[奇襲戦法]]で行きたいと思います」対局後のインタビューで「これまでやってきたことの正しさが証明された。同じ戦法をみなさんも使ってください」「違うソフトでも△2八角と打ってくるため、AWAKEも打ってくるかなと思っていた」と語った。また、この△2八角と打たせる手順は、スマホアプリ「[[将棋ウォーズ]]」で対局できるponanzaやツツカナ相手に200回ほど試して見つけた5種類くらいある有力な作戦の内の一つであると述べた<ref>{{Cite web|title=将棋ソフトの死角をついた“ハメ手”で100万円獲得【将棋電王戦レポート】|publisher=日刊SPA!|date=2015-03-04|accessdate=2015-04-13|url=http://nikkan-spa.jp/809998}}</ref>。

====電王戦FINAL====
{{Shogi diagram|tright|=
|第2戦 永瀬拓矢六段vsSelene<br />第88手 △2七角不成まで<br />(Seleneは認識できず王手放置の反則負け)<br />永瀬拓矢六段 △持ち駒:角桂桂歩歩|=
|lg|rg| | | | | | | |=
| | | |gg| | |kg| | |=
| | |ng| |pg| | |sg|ts|=
|pg| | |pg| |pg|pg|pg| |=
| | |ps| | | | | |lg|=
|ps|ps| |ps|ps|ps|ps| | |=
| | |ns|ss| |ss| |bgl| |=
| | |gs| | |gs|ks| |tg|=
|ls|rs| | | | | | |ls|=
|▲Selene 持ち駒:金銀歩
}}
{{Shogi diagram|tright|=
|最終戦 阿久津主税八段vsAWAKE<br />第20手 △2八角打まで<br />(これが決め手でAWAKEが投了)<br/>△AWAKE 持ち駒:なし|=
|lg|ng| |gg| |gg|sg|ng|lg|=
| |rg| | | | | |kg| |=
|pg| |pg|pg|sg|pg| |pg|pg|=
| |pg| | |pg| |pg| | |=
| | | | | | | | |ps|=
|ps| |ps| | | | |ps||=
| |ps| |ps|ps|ps|ps|ss| |=
| |ss| |rs| |ks| |bgl| |=
|ls|ns| |gs| |gs| |ns|ls|=
|▲阿久津主税八段 持ち駒:角
}}
2015年3月から4月にかけて開催。持ち時間は各5時間・秒読み1分。昼食・夕食休憩(合計1時間30分)がある。また、出場棋士は、本番と同じソフトおよびハード([[Intel Core i7]] Extreme5960X EE 3.0GHz 8コア)で練習対局が行える。また、「5対5の団体戦はこれで最後」と発表された<ref>{{Cite news|title=将棋「電王戦FINAL」は2015年春開催、プロ棋士とソフトのタッグ戦も続々|author=|newspaper=INTERNET Watch|date=2014-08-29|url=http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20140829_664363.html|accessdate=2014-09-17}}</ref>。電王戦FINALで使用されるハードは、コンピューター将棋の通常探索のときの性能で考えるなら、第3回将棋電王戦で使用されたハード(Intel Core i7 Extreme4960X EE 3.6GHz 6コア)とあまり変わらない<ref>今回のマシンは本当に速いのか? http://d.hatena.ne.jp/yaneurao/20141105</ref>。なおコンピューター側の指し手は「電王手(でんおうて)さん」が利用される。前回利用された「電王手くん」は[[産業用ロボット]]を、今回の「電王手さん」は医薬・[[医療用ロボット]]を改造している。「電王手さん」がメタリックな理由は滅菌のための[[過酸化水素]]ガス洗浄などへの耐性を考慮して表面[[塗装]]を廃し、入念な磨き上げ処理と3層のメッキ加工を施したからである<ref>{{Cite web|title=〈グッドデザイン賞〉近未来を示唆するデザインを達成した「医薬・医療用ロボット VS-050S2」|work=朝日新聞デジタル|date=2014-11-14|accessdate=2015-04-14|url=http://www.asahi.com/and_M/living/SDI2014111401201.html}}</ref>。

2014年10月12日に行われた電王戦Final出場棋士発表会で[[スポーツ報知|報知新聞]]の北野記者が出場棋士全員に対して「勝つ為に戦うのか?それとも自分が強くなる為に戦うのか?」「両方はナシでお願いします」と質問している。全員が「勝つ為に戦う」と回答した<ref>{{Cite web|title=【将棋】電王戦Final出場棋士発表会 05 質疑応答|publisher=YouTube|date=2014-10-12|accessdate=2015-04-15|url=https://www.youtube.com/watch?v=p7IeQPfhIws}}</ref>。

2014年11月26日に対戦カードが発表され、先後を決める[[振り駒]]も行われ、[[ガルリ・カスパロフ]]が務めた<ref>{{Cite news|title=将棋電王戦ファイナル、来年3月14日から|author=|newspaper=朝日新聞デジタル|date=2014-11-26|url=http://www.asahi.com/articles/ASGCV5WJ8GCVUCVL024.html|accessdate=2014-12-03}}</ref>。

ガルリ・カスパロフは「文明は発達が止まる事はない。コンピュータが人間を超える事は必然なんだ。そしてそれさえも人間の知性の勝利と言える。チェスも将棋もその真理はひとつ。2つの知性の闘いだという事だ。コンピュータに敗れようとも、人間に知性がある限りチェスも将棋も続いていく。知性の闘いは揺るがない」「人間が1試合でも勝てる限り、人間vsコンピュータは終わらない。なぜならこの実験は、人間が100パーセント中の100パーセントを発揮した時、最強の人間はそれでもコンピュータを倒せることを証明するためのもの。たった1試合でも勝てれば、それは大きな勝利だ」と述べた<ref>{{Cite web|title=元チェス世界王者・カスパロフさん「1試合でも勝てる限り、人間vsコンピュータは終わらない」|publisher=ねとらぼ|date=2014-11-26|accessdate=2015-05-18|url=http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1411/26/news175.html}}</ref>。

将棋連盟は、当時竜王だった[[糸谷哲郎]](八段、26歳、2014年12月に竜王就任)の出場を考え内諾を得ていたが、稲葉の出場となった<ref> 『棋士VSソフト電王戦(3) 団結する「個人商店」』日本経済新聞2015年5月6日</ref>。

[[週刊新潮]]2014年12月4日号の[[コラム]]で[[渡辺明 (棋士)|渡辺明]]は、今回の出場棋士に対して「コンピューター将棋に詳しい世代かつ、活躍中の精鋭棋士という顔ぶれになった。これよりも明らかに上位というメンバー構成は容易ではなく、もし結果がでなければ、[[将棋のタイトル在位者一覧 (2)|タイトル保持者]]が出るしかないという雰囲気になるだろう。5番勝負であるから2勝3敗は誤差の範囲内つまりははっきり負けとは言えないが、第3回のように1勝4敗以上の差がつけば敗北を認めざるを得ない」と述べた。

出場棋士に関して、タイトル保持者が出るのかといった点が注目されたが、「将棋ファンだけでなく、将棋界全体やタイトル戦を主催するスポンサーへの責任や配慮がついてまわる」といった問題があり、渡辺は「(電王戦に)出たいか出たくないかで言えば出たくない(笑)」、[[羽生善治]]は「私に聞かないでくださいって、いつも言っているんですけど(笑)」「そういう声が大きければ、実現する方向に向かっていくことにもなりますし」、[[森内俊之]]は「出るということになれば万全の準備をして、確実に勝つという方向になると思うんですけど」と述べている<ref>{{Cite web|title=将棋の未来はどうなる!? 渡辺二冠「誰かがやられて、決着がつかないと」|publisher=日刊SPA!|date=2014-08-30|accessdate=2015-05-14|url=http://nikkan-spa.jp/707230}}</ref>。

*第1局(3月14日) 先手:[[斎藤慎太郎]]五段 vs 後手:[[Apery]]、[[京都]]・[[二条城]]で開催。斎藤の勝利。115手にて斎藤がAperyを詰ませての完勝であった<ref>{{Cite web|title=将棋電王戦FINAL第1局は人間側が勝利 21歳のイケメン棋士・斎藤慎太郎五段がAperyを真っ向勝負で撃破|url=http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1503/14/news027.html |publisher=ねとらぼ|accessdate=2015-03-16}}</ref>。開発者の平岡は「負けたのは残念ですけど、ある意味よかったところがあって、僕はずっとルールに不満があって、棋士が勝ってもケチが付くんじゃないかとかそういう心配をしていました。でも今日は完全に力負けで、斎藤五段が凄かったということを分かっていただきたいです」と話した<ref>{{Cite web|title=「将棋電王戦FINAL」第1局は斎藤五段の勝利!|publisher=日本将棋連盟|date=2015-03-17|accessdate=2015-04-22|url=http://www.shogi.or.jp/topics/event/2015/03/final1.html}}</ref>。
*第2局(3月21日) 後手:[[永瀬拓矢]]六段 vs 先手:[[Selene (コンピュータ将棋プログラム)|Selene]]、[[高知]]・[[高知城]]で開催。89手で永瀬の勝利。永瀬が王手の場面で指した「△2七角不成」(右上図参照)がソフト側の欠陥で認識できず<ref>セレネが飛車、角、歩の3つの不成に対応できないことが、永瀬には事前に分かっていた。「迫真 棋士vsソフト 電王戦 1」 日本経済新聞2015年5月4日朝刊2面</ref>、ソフトが王手を解かない手を指したため王手放置で反則負け<ref>[http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150321-00000023-it_nlab-sci 将棋電王戦FINAL第2局で衝撃の結末 Seleneが永瀬六段の異例の指し手「角成らず」を認識できず反則負けに] [[ねとらぼ]]、2015年3月21日配信、同日閲覧。</ref>。永瀬は「Seleneとの練習将棋は5時間の設定ならいい勝負、それ以下ならまったく勝てませんでした。通算勝率は1割程度だと思います。Seleneは強いソフトです。今回の結果で誤解されるとしたら西海枝さんに申し訳ない。ただ、実戦でその1割を引くことは可能だと思いました」「本局は時間を気にして指していたこともあり、時間を削る意味でも△2七同角不成を決断しました」、開発者の西海枝は「あのまま続けていてもSeleneが負けていたということで、悔いはありません。Seleneは最初から最後まで先手よしの評価値を出していて、まったく読めていない状態でした」と話した<ref>{{Cite web|title=「将棋電王戦FINAL」第2局は永瀬拓矢六段の勝利|publisher=日本将棋連盟|date=2015-03-23|accessdate=2015-04-22|url=http://www.shogi.or.jp/topics/event/2015/03/final2_1.html}}</ref>。[[やねうら王]]の開発者・磯崎元洋はこのバグについて「自己対戦だとお互い不成を読んでいない&指さないのでなかなか気づきにくいバグ」と述べた<ref>{{Cite web|title=Seleneが反則負けしたようですが|author=磯崎元洋|publisher=やねうら王 公式サイト|date=2015-03-22|accessdate=2015-05-25|url=http://yaneuraou.yaneu.com/2015/03/22/seleneが反則負けしたようですが/}}</ref>。
*第3局(3月28日) 先手:[[稲葉陽]]七段 vs 後手:[[やねうら王]]、[[函館]]・[[五稜郭]]で開催。116手でやねうら王の勝利。中盤で優勢を築いたやねうら王がそのまま押し切る形となった<ref>{{Cite web|title=ソフトが棋士破り初白星 将棋電王戦、1勝2敗に|publisher=朝日新聞デジタル|date=2015-03-28|accessdate=2015-03-30|url=http://www.asahi.com/articles/ASH3W7K82H3WUCVL02S.html}}</ref>。稲葉は「強いソフトということは分かっていたのですが、練習を重ねていく中でソフトを貸し出すことに対する対策はしていないと感じました。今回出場している5ソフトの中では作戦がたてやすいソフトだなと思っていました。その中で1番やってくる確率の高い戦型で優勢になるパターンを何通りか用意してきました。それで楽に勝ちたいという心のスキができてしまったのかなと思います。心の弱さと相手のほうの読みが上回っていたので完全に力負けです」、開発者の磯崎は「まだ勝ったという実感はまったくないのですが、100パーセント負けだと思っていたので、負けたときのセリフしか用意していなかったので何をいっていいか」と話した<ref>{{Cite web|title=「将棋電王戦FINAL」第3局はやねうら王の勝利|publisher=日本将棋連盟|date=2015-03-30|accessdate=2015-04-21|url=http://www.shogi.or.jp/topics/event/2015/03/final3.html}}</ref>。
*第4局(4月4日) 後手:[[村山慈明]]七段 vs 先手:[[ponanza]]、[[奈良]]・[[薬師寺]]で開催。97手でponanzaの勝利。村山が相横歩取りを仕掛けたが、ponanzaが研究がされていない違う形に持ち込んで優勢を広げていった<ref>[http://news.mynavi.jp/news/2015/04/04/188/ 「将棋電王戦FINAL」第4局村山七段が敗れ2勝2敗に並ぶ、決着は最終局へ]マイナビニュース2015年04月04日</ref>。村山は事前の練習将棋での勝率は1、2割だったといい、奇襲ともいえる作戦をとったが、練習とは違う持久戦形をponanzaが選んだため敗北した<ref>{{Cite web|title=将棋電王戦、ソフトが勝つ 2勝2敗で最終局へ 村山七段の奇襲実らず|publisher=日本経済新聞|date=2015-04-04|accessdate=2015-04-17|url=http://www.nikkei.com/article/DGXMZO85305460U5A400C1I00000/?dg=1}}</ref>。村山は「相横歩取りという奇襲のような戦法を選んだのですが、練習で指した限り後手番で堂々と受けるのも厳しいので。▲3六飛で力戦調の将棋になり、かなり厳しい将棋になるだろうと思いました。本局のponanzaはバランス型でしっかり受け止められてしまい、違った強さを見せてもらいました。一局を通じていけると思ったところはなく、完敗です」、開発者の山本は「勝ててとてもうれしいです。1勝2敗でコンピューター側が追い込まれていたので、負けてしまうとイベントとしてもどうかなと思っていました。ponanzaが力が出る将棋になったというのもうれしいですね」と話した<ref>{{Cite web|title=「将棋電王戦FINAL」第4局はponanzaの勝利!|publisher=日本将棋連盟|date=2015-04-07|accessdate=2015-04-22|url=http://www.shogi.or.jp/topics/event/2015/04/final4ponanza.html}}</ref>。
*第5局(4月11日) 先手:[[阿久津主税]]八段 vs 後手:[[AWAKE (コンピュータ将棋ソフト)|AWAKE]]、[[東京]]・[[将棋会館]]で開催。阿久津の勝利。午前10時の開始からわずか49分、先手1六香を見て、21手で開発者の巨瀬が投了した。巨瀬は「この形<ref>2015年3月にアマチュアの山口直哉に敗れた「電王AWAKEに勝てたら100万円!」の企画での△2八角の局面。</ref>に誘導されると不利になるのは分かっていて、投了しようと思っていた。勝ち自体にはそんなにこだわっていなかった」とコメントした<ref>{{Cite web|title=将棋電王戦、ソフト側が突然投了 棋士側、初の団体勝利|publisher=朝日新聞デジタル|date=2015-04-11|accessdate=2015-04-11|url=http://www.asahi.com/articles/ASH4C3R4LH4CUCVL003.html}}</ref>。

通算3勝2敗でプロ棋士が勝ち越し。電王戦で初めてプロ側が勝ち越す結果となった<ref>{{Cite web|title=将棋電王戦、ソフト側21手で投了…弱点突かれ|publisher=読売新聞|date=2015-04-11|accessdate=2015-04-11|url=http://www.yomiuri.co.jp/culture/20150411-OYT1T50074.html}}</ref>。第5局で阿久津がアマチュアの山口直哉が指したハメ手のような形をなぞったことについて、開発者の巨瀬は「すでにアマチュアが指して知られているハメ手をプロが指してしまうのは、プロの存在意義を脅かすことになるのでは」「一番悪い手を引き出して勝つというのは、何の意味もないソフトの使い方」と批判した<ref name="nlab_電王戦最">{{Cite web|title=電王戦最終局、異例の「21手投了」に至ったAWAKEの真意は 「一番悪い手を引き出して勝っても意味ない」|publisher=ねとらぼ|date=2015-04-11|accessdate=2015-04-13|url=http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1504/11/news025.html}}</ref>。これについて[[日本経済新聞]]は「観戦者を魅了するのがプロだという美意識と、勝ちにこだわる勝負師としての態度を両立するのは難しい」と報じた<ref>{{Cite web|title=谷川会長「ほっとしている」 電王戦、棋士初の勝ち越し ソフトの弱点突く|publisher=日本経済新聞|date=2015-04-11|accessdate=2015-04-13|url=http://www.nikkei.com/article/DGXLASFG11H2O_R10C15A4000000/}}</ref>。阿久津は「普段指していない戦法だが、団体戦ということもあり一番勝率の高い形を選ぶべきだと思った」「素直にうれしい感じではないが、(団体戦勝利は)とりあえずよかったと思う」と語っている<ref>{{Cite web|title=将棋:電王戦棋士側勝利呼んだ「わざと隙見せる作戦」|publisher=毎日新聞|date=2015-04-11|accessdate=2015-04-13|url=http://mainichi.jp/feature/news/20150412k0000m040087000c.html}}</ref>。

棋士の[[勝又清和]]は今回の勝因を「コンピューターとの対戦も3度目になり経験を積むことでソフトの癖や弱点が分かってきた」と分析した。日本将棋連盟のモバイル編集長・[[遠山雄亮]]も「ソフトが強いということを認識し、心構えができていたからこそ」と述べた<ref>{{Cite web|title=【将棋電王戦】若手の精鋭起用が奏功 事前研究で癖把握、弱点突く|publisher=産経ニュース|date=2015-04-12|accessdate=2015-05-12|url=http://www.sankei.com/life/news/150412/lif1504120015-n1.html}}</ref>。

[[日本経済新聞]]によれば、現役プロで最も将棋ソフトに詳しいといわれる[[千田翔太]]でさえ、特別な対策をせずに電王戦に出場するような強豪ソフトと真っ向から戦った場合で「勝率は7パーセント」である。千田の2014年度の公式戦の勝率は.738で、タイトル戦にあと一歩まで迫ったこともある将来を嘱望される若手であり、単純比較はできないが、[[羽生善治]]らトップ棋士でも千田を相手に90パーセント以上勝つことは難しいため、「ソフトは既に人間を超えている」との推論が出てもおかしくない。そんな恐るべきソフトを相手に棋士たちは勝ち越したと同紙は報じた<ref>{{Cite web|title=「1割」の勝利呼び込む 棋士VS.ソフト(ルポ迫真)|publisher=日本経済新聞|date=2015-05-04|accessdate=2015-05-12|url=http://www.nikkei.com/article/DGXLASFG27HAG_T00C15A5SHA000/}}</ref>。

早稲田大学教授の瀧澤武信は、「シリーズを振り返ってみると、プロ棋士がコンピューターの指し筋を研究し尽くして、弱点をついた、人間対コンピューターらしい戦いだったと思う。単純な読みの深さでは人間はコンピューターにかなわないが、戦い方によっては勝つことができることを示したともいえる。ただ、コンピューターもこうして弱点が見つかれば対策を練ることができるので、今後も人と戦うことの意味は大きい」と話した<ref>{{Cite web|title=電王戦 49分でコンピューターが投了|publisher=NHKニュース|date=2015-04-11|accessdate=2015-04-13|url=http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150411/k10010045161000.html}}</ref>。

====初代 電王ponanzaに勝てたらノートパソコンをプレゼント====
電王戦FINAL第5局の翌日、4月12日に電王戦FINAL記念企画として[[秋葉原]]GALLERIA Loungeでponanzaとのトライアルマッチが開催された。参加資格は現役のプロ棋士・女流棋士・奨励会員以外。11時30分までに会場に集まった対局希望者の中から抽選して、当選した30名が対局。持ち時間は各20分切れ負け。人間が先手。ponanzaはサードウェーブデジノスが製造するノートパソコンを使用する条件で、勝者にはノートパソコンが与えられる。開始時点で対局希望者は12人(当日にJR[[山手線]]で架線の支柱の倒壊事故)、結果はponanzaの22戦全勝だった。

====ponanzaに勝てたらデジノスタブレットをプレゼント====
4月25日(土)・26日(日)[[ニコニコ超会議]]2015の企画として[[幕張メッセ]]でponanzaとのトライアルマッチが開催された。持ち時間は人間側が20分切れ負け、ponanza側は持ち時間なし・秒読み1秒<ref>{{Cite web|title=Ponanzaをタブレットで動かすと、ガレシア電王モデルの1/30くらいの速度しか出ませんよ|author=山本一成|publisher=Twitter|date=2015-04-22|accessdate=2015-05-25|url=https://twitter.com/issei_y/status/590871218217058304}}</ref><ref>{{Cite web|title=意外なことにponanza負けないので持ち時間を2秒から1秒にしてみました。|author=山本一成|publisher=Twitter|date=2015-04-24|accessdate=2015-05-25|url=https://twitter.com/issei_y/status/591789084076421120}}</ref>。人間が先手。ponanzaはサードウェーブデジノスが製造するデジノス[[タブレット (コンピュータ)|タブレット]](計算速度は、電王戦本番PCの30分の1程度)を使用する条件で、勝者には対局で使用したものと同じモデルのデジノスタブレットが与えられる。2日間で合計400人以上が挑戦してponanzaの9敗だった<ref>{{Cite web|title=二日間で合計400人以上の方がponanzaと戦ってくれたようです|author=山本一成|publisher=Twitter|date=2015-04-26|accessdate=2015-05-25|url=https://twitter.com/issei_y/status/592275976651870208}}</ref><ref>{{Cite web|title=サードウェーブデジノス、「ニコニコ超会議2015」超囲碁・将棋ブースに協賛―初代電王「Ponanza」との対局コーナーなどを設置|author=|publisher=Gamer|date=2015-04-27|accessdate=2015-05-25|url=http://www.gamer.ne.jp/news/201504270051/}}</ref>。

====第3回将棋電王トーナメント====
2015年11月21日から23日にかけて開催予定。

===2016年===
====第1期電王戦====
2016年春開催予定。第3回将棋電王トーナメントの優勝ソフトと2015年に新設される新棋戦([[ドワンゴ]]主催・名称は2015年6月18日に発表される)の優勝者が2日間制の2番勝負を行う。持ち時間は各8時間・秒読み1分<ref>{{Cite web|title=プロ棋士と将棋ソフトの新たな対局「第1期電王戦」開催決定 ドワンゴ主催の「新棋戦」優勝者が人間側代表に|publisher=ねとらぼ|date= 2015-06-03|accessdate=2015-06-06|url=http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1506/03/news130.html}}</ref>。


== 代表的なソフトウェア ==
== 代表的なソフトウェア ==

2015年6月7日 (日) 06:58時点における版

コンピュータ将棋(コンピュータしょうぎ)は、コンピュータによる将棋の対戦、また将棋を指すコンピュータおよびそのプログラムそのものである。

ゲームの複雑さ

将棋は取った駒を再使用できる際立った特徴を持つ。したがって、将棋はその他のチェス類よりも高い分枝度を持つ。個々の持ち駒を多くの升目に置くことができるため、コンピュータはより多くの盤面を調べなければならない。このため、将棋は人気のあるチェス類の中で可能な局面の数および可能な着手数が最も多くなる。これは、コンピュータが高いレベルに到達することがより困難であること意味する。可能な局面の数および可能な着手数が将棋のゲームの複雑さの2つの指標である。

ゲーム 盤の大きさ 駒の数 駒の種類 可能な局面 可能な着手 平均的な手数
チェス 64 32 6 1047 10123 80
シャンチー 90 32 7 1048 10150 95
将棋 81 40 8 1071 10226 110
囲碁 361 最大360 1 10171 10360[1] 150

歴史

黎明期

将棋は二人零和有限確定完全情報ゲームに分類されるため、将棋を指すプログラムを作る、いわゆるコンピュータ将棋は、人工知能の一分野として開発が進められた。チェスオセロ(リバーシ)などのボードゲームでも同様の開発が進んでおり、日本国内だけの普及にとどまっている将棋はむしろ後発であった。「人間が考えるように考える」という人工知能としての方法論はすぐに行き詰まる。人間の持つ大局観をコンピュータが理解できる情報に落とし込むことが非常に困難であったためである。

コンピュータが得意とする詰将棋については先行例があるが、コンピュータで将棋を指す開発が始まったのは1970年代中ごろと言われている。「人工知能、知識工学の完全情報ゲームへの応用」というテーマでコンピュータによる指将棋システムの開発をしていた、早稲田大学大学院理工学研究科の大学院生であった瀧澤武信(後に早稲田大学政治経済学術院教授、コンピュータ将棋協会会長)をメインプログラマーとするプロジェクトチームによって、1974年11月から開発が進められ、翌1975年5月に完成したものが、おそらくは世界で最初のコンピュータ将棋であり[2]、2010年に情報処理学会が日本将棋連盟に渡した挑戦状にも、この年を起点とした「35年」という開発の歴史の年数が記されている。瀧澤は初期のコンピュータ将棋として自分たちのものの他、大阪大学の奥田育秀、牧野寛、木沢誠らのもの、東京農工大学の小谷善行のもの、を挙げている。瀧澤らの開発の目的は、作家斎藤栄の「江戸時代の天野宗歩が現代の花形棋士(当時の中原誠米長邦雄)と戦ったらどうなるのかコンピュータでシミュレーションしてくれませんか」という依頼に応じることであった。その後、日本情報処理開発協会の催しでも数回実演し、序盤を過ぎると目を覆いたくなるような解説のしようがない手を連発して、解説に来た中原らを困らせた[3]

コンピュータ同士の対戦がおこなわれるようになったのは1980年前後のことである。1979年に早稲田対阪大で対戦がおこなわれ、阪大が勝った。1981年の早稲田対農工大では早稲田が勝利。当時のコンピュータの速度では、対戦が終わるまでに日が暮れるどころか年が暮れるため、竹内郁雄が「コンピュータ、人、人」という順序で2/3は人が指す「ハイブリッド対戦法」が提案された。瀧澤武信と小谷善行(と、おのおののコンピュータ)の間で、1982年から1983年にかけて年をまたいだ対戦が行われた[4]

1980年代に入ると初期のパーソナルコンピュータ(当時はマイコン)が普及し、アスキーマイクロオセロリーグが1980年から行われている。興味の対象は徐々に、より複雑なゲームである将棋に移行し、1980年代中盤には、コンピュータ将棋のゲームソフトが市場に出回り始めた。当時はハードウェアの性能も低く、評価関数も簡単なものであったため、人間に比べて非常に弱いプログラムであった。アマチュアの級位者レベル以下であったことは間違いなく、そのような級位はないが20級程度といわれていた。ファミリーコンピュータでも1985年に内藤九段将棋秘伝が出た。

1980年代後半には、多数のコンピュータ将棋プログラムが誕生しており、ファミコンのゲームソフトとしてもコンピュータ将棋が製品化されるようになった。これが「どのプログラムが最も強いのか」という興味を惹くこととなった。

世界コンピュータ将棋選手権

将棋ソフトのプログラミングに興味を持つ有志らが集まり、1986年に『コンピュータ将棋プログラム』の会が発足した。翌年、『コンピュータ将棋協会』に改名された。彼らが主体となり、世界コンピュータ将棋選手権が年1回開催されるようになった[5]。記念すべき第1回大会は1990年12月2日将棋会館で行われた。参加ソフト数は6つ、優勝したのは『永世名人』であった。

毎年5月上旬のゴールデンウィーク期間中に開催されており、毎回約40種のプログラムが参加している。

世界コンピュータ将棋選手権の大会ルール[6]によると、対戦は、対戦サーバを介して行うこととされ、対戦サーバが利用できない場合、CSAの規定するシリアル(RS-232)通信プロトコルに則った通信や手入力で対戦が行われる。持ち時間は25分で、これを使い切ると負けとなる。

1995年にアマ初段レベルに達した将棋ソフトは、2年で一段のペースで棋力が上がっていった。そして2005年、『激指』の優勝により、県代表クラスに到達した。

第16回以降の大会では、開催期間中インターネット上で棋譜のライブ中継が行われている。

人間との対局

公開対局において、2009年までは人間対コンピュータの対局ではコンピュータが負けることが多かったものの、2010年から2012年にかけての公開対局ではコンピュータ側の勝率が9割を超えている[7]。基本的に、コンピュータ将棋は持ち時間が短い対局の方が人間に対して有利である。2011年には、1手30秒などといった早指しなら、米長邦雄によると、プロ棋士に対しても7〜8割以上の勝率をあげるまでになっている。2013年3月30日の第2回将棋電王戦において、ponanza佐藤慎一に勝利した。これは長い持ち時間(各四時間)・公開対局・相手が現役の女流を除いたプロ棋士という条件で初めてコンピュータが人間に勝利した事例となった。

コンピュータ将棋が平手でトッププロ棋士を破る日はさほど遠くないと考えられており、松原仁は2005年の時点で、2010年代から2020年までにプロ棋士がコンピュータ将棋に負けると予測し[8]、2012年現在は「人間に勝つコンピュータ将棋の作り方」[9]によると数年以内にトッププロ棋士に勝つ(複数回対戦し勝ち越す)と予想された。Puella α(ボンクラーズ)開発者の伊藤英紀は第2回将棋電王戦PVでは2012年現在、既にプロ棋士を超えているとコメントした[10]。トップ棋士の一人である渡辺明は、第2回将棋電王戦第3局に登場したツツカナについて触れ、「現役棋士約160人の半分 (80) 、いや3分の1以上 (50) に相当する力がある、という見方をせざるを得ない」との見解を示した[11]

やねうら王の開発者・磯崎元洋は2014年10月31日のブログで「上位のソフトは事前貸出なしの条件であればとっくに羽生さんを超えていることは誰の目にも明らかである。超えているとは言ってもソフト側から見て勝率が50パーセントは超えるだろうという程度の意味で、勝率が90パーセントとか100パーセントとかではないので試合としては成立すると思うが…」「しかし、事前貸出1年間だとか、そういう条件がつくならとんでもない茶番であり、羽生さんがゲーム攻略よろしく将棋ソフトの序盤のあら探しに終始することになる。羽生さんのような優れた頭脳を1年もそんな遊びに投入させるべきではない。それこそ社会的損失である」と述べた[12]

特徴

詰みの周辺における強さ

ある局面において『詰み』の有無を判定する作業は、単純な情報処理能力が力を発揮する分野であり、コンピュータは人間をはるかに超える計算力により、容易に詰みを発見することが可能になっている。

コンピュータが得意とする分野であるとも言え、実際に詰将棋プログラムは、対戦プログラムより古く、1968年頃にプログラムで解こうとさせていた、という談話がある[13]

詰みに特化した詰将棋の分野では、大半の局面においてコンピュータはすでにトップ棋士の解図力を上回っている。可能な王手と玉方の応手をすべて検索するコンピュータならではの方法論により、人間を凌駕する実力を備えている。詰将棋の創作にあたって、コンピュータを使用して作品の完全性を検証することは、すでに常識となっている[14]

2013年現在において手数が最長の詰将棋である「ミクロコスモス」すら、解答に成功したプログラム(通常の対戦用のプログラムとは異なり、詰将棋専用の探索ルーチンから成るもの)が報告されている(ミクロコスモス (将棋)#ミクロコスモスと脊尾詰を参照)。

また、対戦用ソフトウェアではない、独自プログラムによる創作の試行も行われている[15]

中盤の強さ

第3回電王戦に出場した豊島将之はコンピュータ対策について「1000局とはいかないが3ケタは練習対局をした」「何度も逆転負けをする中で、序盤の長い将棋や中盤を省略する激しい将棋に勝ち目があると思った」と述べている[16]。第3回電王戦を観戦していた遠山雄亮は「豊島さんはコンピュータの中盤の強さを警戒していました。少しぐらい優位に立っても中盤の難解な局面が続くと簡単に逆転されると。だから、コンピュータに勝つには、序盤の長い将棋にして、中盤に入る時点で大きなリードを奪ってしまうか、逆に中盤のない展開にして一気に終盤で勝負するのがいいと思っているようです。本局は意識して中盤のない展開を狙っているように見えますね。」とコメントした[17]。また、産経新聞も電王戦FINALを総括した記事において「1秒間に数百万〜1000万手以上を読むコンピューター相手では、互角に終盤の寄せ合いに突入したらまず勝ち目はない。中盤も、棋士側が手筋や定跡通りに指していてもコンピューターは正確無比でミスはしない。過去2回の経験からプロ側は『序盤で過激に鬼手を連発し、中盤を飛ばして一気に終盤に持ち込む』作戦が有効と結論づけた」と報じた[18]

ミスの少なさ

人間同士の対局では、ミスにより、局面に差がつくケースが多々あり、特に乱戦になると、人間はミスする確率が上がるが、コンピュータは人間よりもミスをしないため、乱戦になった場合はコンピュータの方が有利になると遠山雄亮が2011年に将棋倶楽部24でのボンクラーズとの対局を分析し、コメントしている。また、感情面で動揺したり、集中力が切れたりしないのも強さであるとしている[19]。人間の注意力には限界があり、どんなに注意深い慎重な人であっても、疲労錯覚などでヒューマンエラーを起こす場合がある[20]。一方、コンピュータは人間と違い肉体的な疲労がない。そのため、持ち時間の長い将棋で終盤になると、疲労しないコンピュータが相対的に有利になる。また、コンピュータは人間と違い、プログラムにバグがない限りは二歩や二手指し等の反則行為は皆無である。バグの例としては、2015年の電王戦FINAL第2局において、「Selene」が角成らずの手を正しく認識できず、王手放置の反則負けをしたという事例がある[21]

入玉模様の弱さ

2012年現在、プロ棋士の対戦データを元に教師あり学習をしているが、プロ棋士の対局ではほとんど見られない入玉模様になると、駒の配置に関する評価値が0に近い値になる。さらに相入玉になった場合は、駒の点数を計算して勝ちを狙うという、相手玉を詰ます以外の目標が生まれるのだが、これを判断できず適切に指せない状態になることが多い。自己対戦など、強化学習の研究も進められているが、まだ教師あり学習を超えるレベルにはなっていない。

序盤の弱さ

プロ棋士が積み上げてきた定跡は完璧ではなく、研究会や対局、感想戦を経て日々進歩しているものであり、棋譜以外の情報は将棋世界などの専門誌を通じ極一部紹介される程度で多くは公開されることはない。ソフトはその限られた情報を元に序盤戦術を構築している。また、データベースにない新手を指されると(それが正しく受ければ不利になるものであっても)対応しきれないことが多い。序盤は定跡データベースを利用しているが、「なぜそのような駒組みにするのか」を理解して指すわけではない。そのため、2011年現在、定跡データベースから外れた場合に、おかしな手をさす確率が終盤よりも高く、また、まだ攻め始めてはいけないタイミングで攻め始めてしまうことがあると遠山雄亮が分析している[19]。古作登も2012年現在、均衡状態でコンピュータの手待ちをすると、コンピュータがスキを作っておかしな攻め方を始めたり、穴熊に組み替えようとしてその途中でスキを作ったりすることがあると指摘した[22]。近年ではponanzaのように、序盤を既存の定跡データに頼らないソフトも出現している[23]

駒落ち戦の弱さ

序盤の定跡データベースは平手戦に特化しており、プロ棋士の公式戦で指されなくなった駒落ち戦をコンピュータは苦手としている。駒落ち特有の大局観を持ち合わせていないコンピュータは二枚落ちの上手を持っても穴熊に囲って自滅してしまうことがある[24]。また、プロはアマチュア相手に駒落ちでの指導対局を行うが、コンピュータはうまく手抜きをして負けてあげるなどの指導対局ができない。

全幅探索の強さ

コンピュータで全幅探索をしている場合、途中局面の善し悪しではなく最終的にどうなるかで全てのパターンを読むので、一見ひどい手のため人間は検討対象に加えないが、実は良い手を見落とさないという長所がある。人間の場合、全てのパターンを読むのではなく直観大局観を使って筋の良い手・悪い手を判別、検討対象を絞っているため、見落としをすることがある。

アンチコンピュータ戦略

「稲庭将棋」というソフトウェアは対コンピュータ将棋に特化した作戦を行う。これは、基本的には自陣の歩を動かさず、守備に駒を配置したあとはひたすら手待ちして相手の時間切れを目指す戦法である[25]。人間にとっては簡単に打開できる駒組みでも、コンピュータにとっては読む手順が難しい穴となっていることによる。世界コンピュータ将棋選手権は時間切れ負けで秒読みが無いため、有力な戦法となった。2010年の第20回世界コンピュータ将棋選手権での「独創賞」は、新しい技術や工夫、面白い趣向を凝らして選手権を盛り上げたプログラムとして、丸山スペシャルをさらに進化させて実装し、コンピュータ将棋の弱点をあらわにした「稲庭将棋」が選出された[26]

第2回将棋電王戦開催記念イベント「ニコニコ本社(原宿)で誰でもGPS将棋に挑戦! 勝てたら賞金100万円!!」で、ponanza開発者の山本一成が前述の稲庭将棋の戦術を使ってGPS将棋の無理攻めを誘う作戦(山本曰く「400手以上攻めないで待ってると、無理に攻めてくるバグを見つけた」[27])を取ろうとした。あまりにも時間がかかり、順番待ちの人が対局できなくなるために、明文化はされていなかったが、勝又清和の裁定によって引き分けとなった。

その他、通常あり得ない手を指すことにより、考察する分岐を省いて計算するコンピュータにバグのような挙動をさせることができる。基本的に同じ挙動をするコンピュータでは、相手に応じて指し手を変化させることのできる人間には不利になってしまう戦法である。

電王戦FINALの第二局において永瀬拓矢がSeleneに対し「2七角不成」という通常あり得ない手を指した[28]。ソフトウェアは角、飛、歩が成らない局面を省くことで探索効率を上げており、こういった手を指し、ソフトウェアに一から計算させることで持ち時間を使わせることができる。この対局の場合はSeleneに角不成を認識できないバグがあり、王手放置によって反則負けとなった[注釈 1]。この時、開発者は事前にバグを察知できていなかった。

電王戦FINALの第5局において阿久津主税があえて自陣に隙を作ることでコンピュータの「2八角」を誘い[29]AWAKEに勝利した(開発者による投了)[30]。この戦法は、ponanza対策として以前から知られていた戦法の一つであり、コンピュータ将棋が短期的には有利と評価されても、長手数後に不利になることを読めない(計算コストの問題からその前に探索を打ち切る)ことに基づくコンピュータ将棋共通の弱点(水平線効果)を突いたものである[31]。対局前に弱点は明らかになっていたが、プログラムの修正は認められていなかった。

人間との対局の歴史

〜2004年

コンピュータ将棋の黎明期には、当時のコンピュータの性能もあり、コンピュータがプロ棋士のレベルに達するのは、当分先のことだと思われていた。チェスソフトのノウハウを応用して最初に将棋ソフトが作られた時代は、アマチュアの初級者にすら負けるようなひどい有様であった。しかし、1990年代に入ると、技術の急速な進歩により、ソフトの棋力が大きく上昇した。また、ハード(CPU、メモリ)の進歩などもあり、「金沢将棋」などのトップレベルのプログラムは、1994年から1996年の間に、アマチュア初段に達したとされる。1997年になると、コンピュータチェス「Deep Blue」が人間のチャンピオンであるガルリ・カスパロフを破った。しかし、その頃のコンピュータ将棋は、アマチュア二段程度であった[32]

1996年、「コンピュータがプロを負かす日は?」というアンケートがあった。羽生善治は2015年、森内俊之は2010年、谷川浩司(1962年生)は「自分が引退してから」と答えた[33]。また、羽生善治は「将棋がコンピュータによって完全解明されてしまったらどうするか」という質問に「そのときは桂馬が横に飛ぶとかルールを少しだけ変えればいいんです」と答えた[34]。ただし、ルールを変えてもコンピュータは進歩し続けるので、いずれは対応されてしまうという問題がある。コンピュータが人間を超えたチェスにおいて、新ルールの「アリマア」というゲームが考案されたが、2015年にコンピュータプログラム「Sharp」が7勝2敗で人間を破っている[35]

2005年

2005年には、コンピュータ将棋選手権でのエキシビション対局において、同大会の優勝ソフト『激指』が、プロ棋士の勝又清和角落ちで勝利した[36]。また、2005年6月の第18回アマチュア竜王戦において招待選手として出場した『激指』は、都道府県代表を相手に3連勝し決勝トーナメント進出・ベスト16入りを果たした[37]

2005年9月18日、イベントでTACOS橋本崇載平手の対局を行った。結果は橋本の勝利となったが、TACOS に敗北寸前まで追い詰められた[38]。「プロ対ソフト」をビジネスチャンスと捕らえていた日本将棋連盟の理事会は、全棋士に無断でコンピュータと公開対局を行うことを禁止する通達を出した[39]

2005年10月23日、第3回国際将棋フォーラムにて、YSS森内俊之が角落ちの1手30秒で対戦し、森内が勝った。

2006年〜2009年

2006年以降、コンピュータとの公開対局は、平手で行われるようになった[36]

2006年3月〜5月に、週刊将棋の連載で、第1回週刊将棋アマCOM平手戦が行われた。そこでは、アマ強豪5名と2回ずつ合計10回対戦し、コンピュータ側の7勝3敗であった。コンピュータ側は、激指KCC将棋IS将棋YSSBonanza。持ち時間は1回目が60分(秒読み60秒)、2回目が20分(秒読み30秒)。

2007年3月21日には、Bonanzaとタイトルホルダーである渡辺明竜王)との公開対局(平手)が行われた(Bonanza#竜王との対局参照)。Bonanzaの使用したコンピュータはIntel Xeon X5355 2.66GHz×8cores、メモリ8GB、1秒間に400万手読んだ。Bonanzaはタイトル保持者相手に健闘し、終盤の読み違いがきっかけとなって敗れはしたものの、対局者の渡辺をはじめとする複数のプロから、プロ予備軍である奨励会の初段から三段の実力に相当するとの高い評価を受けた。これ以降、6年間、男子現役プロ棋士との公開対局が行われなくなり、この次は2013年3月の第2回電王戦であった。

2008年5月5日に行われた第18回世界コンピュータ将棋選手権のエキシビションマッチにおいて、優勝ソフトの激指がアマ名人の清水上徹を、準優勝ソフトの棚瀬将棋が朝日アマ名人の加藤幸男をそれぞれ破るという快挙を成し遂げた。この対局に対し、敗れた清水上と加藤はそれぞれ、「コンピュータの読みが上回った」「完敗だった」とコメントした[40]。2008年11月8日に行われた清水上、加藤と激指、棚瀬将棋との持ち時間60分、その後1手60秒の再戦では、加藤が勝利して雪辱を果たしたものの、清水上はまたも敗北を喫した[41]。公式対局でプロ相手に何度も勝利を上げているトップアマの二人の敗戦はプロにとっても衝撃であり、渡辺明[42]、遠山雄亮[43]片上大輔[44]らのプロ棋士がブログにその驚きを綴った。

2010年

2010年2月6日、週刊将棋の編集者で元奨励会三段の古作登が激指と持ち時間20分の公開対局を行い、コンピュータが勝利した。

2010年4月2日、情報処理学会は、会長の白鳥則郎東北大学客員教授)名義にて「35年の開発の末名人に伍する力ありと情報処理学会が認める迄に強いコンピューター将棋を完成致しました」と宣言し、日本将棋連盟に挑戦状を渡した。将棋連盟はこれに対し、会長の米長邦雄名義で「その度胸と不遜な態度に感服した」として挑戦状を受理した。最初の対戦相手として女流の清水市代(対局決定時女流王位・女流王将の二冠)を指名した[45][46]

2010年5月〜7月に、第2回週刊将棋アマCOM平手戦が週刊将棋の連載として開催された。対戦相手は東京大学将棋部5名。それぞれ2回、合計10回対戦が行われ、棚瀬将棋が1敗して、コンピュータ側の9勝1敗であった。参加したコンピュータは、激指Bonanza Feliz・YSS棚瀬将棋GPS将棋。持ち時間は1回目が30分(秒読み60秒)、2回目が10分(秒読み30秒)。

2010年8月23日に、清水市代との対局の詳細が発表され、持ち時間はチェスクロック使用による3時間(1分未満の考慮時間も計測される)、使い切ったあとは1手1分というマイナビ女子オープン五番勝負と同様の条件となった。また、コンピュータ側のハードウェアはクラスタなし(Intel Xeon W3680 3.33GHz 6コア)を中心に、GPS将棋が提供した東京大学のクラスタマシン(Intel Xeon 2.80GHz 4コア:109台・Intel Xeon 2.40GHz 4コア:60台・合計169台 676コア)を併用する形で、ソフトウェアは「激指」「GPS将棋」「Bonanza」「YSS」の4種類のソフトが電気通信大学伊藤研究室の開発するマネージャの管制の下で多数決を行う合議制がそれぞれ採用された。このシステムは、10の224乗という、将棋の全局面数10の226乗に近い数を示す語をとって、「あから2010」と名付けられた。

合議制の重み付けは以下の通り。クラスタなしが合計7.7、クラスタありが合計1.3とクラスタなしを優先している。

  • クラスタなし - Intel Xeon W3680 3.33GHz 6コア
    • 激指 - 2.9
    • Bonanza - 1.9
    • GPS将棋 - 1.0
    • YSS - 1.9
  • クラスタあり - Intel Xeon 4コア、合計169台、676コア
    • 激指 - 0.1
    • Bonanza - 0.1
    • GPS将棋 - 1.0
    • YSS - 0.1

清水市代とあから2010の対局は2010年10月11日に東京大学工学部で指され、86手で後手のあから2010が勝利した。あから2010の駒を動かすアシスタントは上村亘(当時三段)が務めた。

2011年

2011年5月16日、ponanzaが将棋倶楽部24で92勝8敗でレーティング3110を記録。最後に「謎の棋士」と呼ばれる人と2局対局を行い1勝1敗であった[47]

2011年10月、ボンクラーズが将棋倶楽部24で3300越えの過去最記録のレーティングを記録。

将棋電王戦

清水市代とコンピュータソフトのあから2010が対局し、あから2010が勝利したことを受け、米長邦雄日本将棋連盟会長(当時)が「引退棋士の代表」としてコンピュータ将棋と対局。また、同時に定期的にプロ棋士とコンピュータソフトが対局する「電王戦」が開催されることが発表された。

代表的なソフトウェア

コンピュータ将棋のプログラミング技術

評価関数

将棋はお互いが1手ずつ指すゲームのため、局面の評価が必要で、局面の有利不利に序列をつけるための評価関数が必要である。序列をつけるだけでなく、通常は評価関数は局面を実数化(高速化のために整数化)する関数を使う。探索では、評価関数を利用し、数手先の変化を読み、相手が最善を尽くしてきたときに、もっとも自分が有利になる手を探す。ここでいう「有利」は、相手の玉を詰ませられる、駒得になるなど、数値化できる基準で評価する。評価関数の作り方と何手先までを探索の対象とするかでコンピュータ将棋の強さが決まってくる。駒の損得を中心に、玉形や駒の働きなどを評価対象としているものが多い。

機械学習

かつては、手作業で評価関数が作られていたが、Bonanzaの開発者保木邦仁は将棋の初心者であり自分で設定できなかったため、機械学習によって評価関数を作成した。これによりこれまでの他のソフトが見落としていた(あるいは開発者が軽視していた)指し手に高い評価を与えることが可能となった。この「評価関数のパラメータの自動生成」は「ボナンザ・メソッド」と呼ばれ、コンピュータ将棋史上最大のブレイクスルーの一つと見なされている。

2009年に開催された第19回世界コンピュータ将棋選手権では、決勝に進出した8ソフトの内、シードの激指YSSを除く6ソフトが「ボナンザ・メソッド」を採用した。この結果、激指は2勝5敗、YSSは1勝6敗と惨敗し、翌年の選手権では「ボナンザ・メソッド」を採用。以降、「ボナンザ・メソッド」不採用の決勝進出ソフトは存在しない。

機械学習には、過去のプロ棋士の対戦棋譜からの教師あり学習と自己対戦による強化学習がありえるが、今のところ、教師あり学習の方が強いという状況にある。教師あり学習の場合、プロ棋士の手を再現するというのが機械学習のテーマとなる。ミスの少なさ、読み手数の長さでプロ棋士を超えようとしている。教師あり学習の欠点として、入玉模様など過去のプロ棋士の対戦棋譜にあまり出てこないパターンが弱くなるという問題がある。

三駒の組み合わせ

王を1つ以上含む三駒の組み合わせおよび位置関係から評価関数を作る方法。Bonanzaは2009年のVer. 4から採用している。YSSは王からの相対座標で三駒の組み合わせを計算している。また、4駒での組み合わせで計算しているソフトもある。

探索

枝刈り

将棋の場合、平均着手可能手数は80通りもあるので、手先までの局面数はという膨大な数になる。これを全て計算すると限られた時間内では深く先読みすることはできなくなる。そこで、実際に計算する局面数を少なくし、深く読めるようにすることを枝刈りと呼ぶ。

枝刈りには全局面を評価した場合の結果と正確に同じ値を返す枝刈りと、少し誤差を含む結果を返すことを許容することでより多くの枝刈りを行うものの2種類がある。前者を後ろ向き枝刈り、後者を前向き枝刈りと呼ぶこともある。

全幅探索

ある局面下で指すことが可能な手をしらみつぶしに読む手法(力まかせ探索)。探索法としてはもっとも原始的でプログラミングも他と比べると単純だが、CPUに負荷がかかるため効率は悪いと考えられていた。しかしBonanzaの開発者である保木邦仁によれば、選択的な探索は選択を行う処理が複雑になるため、全幅探索よりも負荷がかかるとして全幅探索をBonanzaに採用している[48]

ミニマックス法

ミニマックス法はチェス、将棋、オセロ、チェッカー等の完全情報ゲームで次の手を決めるための基本アルゴリズム。数手先まで読み、その時点で評価関数により局面に点数(手番の方がプラス)をつけ、手番の方は評価値が最大の手を、手番ではない方は評価値が最小の手を選ぶとして、次の着手を選択する。局面の分岐数をN、先読みする深さをLとすると、評価が必要な局面数はN^Lとなる。

αβ探索

基本的にミニマックス法と同じだが、再帰的に局面の評価を行う関数を呼ぶときに、その時に判明している評価値の下限値(これをα値と呼ぶ)と上限値(これをβ値と呼ぶ)を引数として渡し、その範囲外を計算することは無駄なので、ミニマックス評価に於いて途中で得られた値がα値β値の範囲外の場合は評価を打ち切るアルゴリズム。ミニマックス評価で評価する局面数は N^L だが、αβ探索ではおよそ N^(L/2) となる。

実現確率探索

激指などが採用している手法。探索時に、過去の対局データから、次の一手の実現確率を求め、実現確率の高い方をより深く探索する。激指は実現確率の計算に2004年ロジスティック回帰を採用した。

クラスタリング

かつてはマシンを疎結合クラスタリングしても強くならず、あから2010の時は疎結合クラスタリング無しの重み付けを大きくしたが、2011年ボンクラーズが6台クラスタリングで優勝し、2012年は797台のGPS将棋が優勝した。ボンクラーズを開発した伊藤英紀は、もしボンクラーズが700台つかえるのであれば、レーティングが200-300程度上がるという見解を示している[49]。レーティング差が200-300だと、期待勝率は(レーティングが高い方から見て)75-85パーセント程度となる。第2回 将棋電王戦第5局を振り返り、三浦弘行は、670台のGPS将棋に対して「私の勝算は5パーセントしかなかったんです」と語った[50]。勝算が5%だとレーティング差500程度になる。

合議制

2010年以降からは、複数の思考エンジン間の合議(多数決)によって指し手を決める手法が研究されている。2009年に行なわれた第19回世界コンピュータ将棋選手権では、複数のBonanza[51]を搭載した「文殊」が3位という好成績を収めた[52]

水平線効果

水平線効果とは、読みの深さの限界により、手の選択肢の中で、のちに極端に不利となる手を選んでしまうこと。もしくは、小さな損を繰り返すことで、大きな損をする状態を先延ばしにし、本来よりももっと不利になってしまうこと。この問題は現在でも解決されたとは言えないが、ある程度深い読みが可能になったことにより、致命的な水平線効果は現れることはほとんど無くなった。

プログラマーツール

将棋所

将棋所は、将棋を指すためにプログラムを呼び出し、盤上に着手を表示するグラフィカルユーザインタフェース(GUI)である[53]。将棋所は2007年に作成された。将棋所はユニバーサル将棋インタフェース(USI)を使用する。USIは、将棋プログラムがユーザインタフェースと通信するのに用いるオープンコミュニケーションプロトコルである。USIはノルウェーのコンピュータチェスプログラマーTord Romstadによって2007年に設計された。Tord RomstadはUSIをユニバーサルチェスインタフェース(UCI)に基づき設計した。UCIはコンピュータチェスプログラマーStefan Meyer-Kahlenによって2000年に設計された。将棋所は、2つのプログラム間の対局を自動的に実行できる。これによって、プログラマーはインタフェース部分を書く必要がなく、より速く開発することができる。また、プログラムの変更をテストするのにも有用である。将棋所は将棋エンジンを加えることで将棋を指すために使うことができる。将棋所で動かすことのできるエンジンとしては、Blunder、GPS将棋、Laramie、Lightning、ponanza、Spear、Ssp、TJ将棋がある。Bonanzaもアダプター(u2b)を用いることで動かすことができる。

WinBoard/XBoard・BCM Shogi

WinBoard/XBoardおよびBCM Shogiも将棋をサポートするGUIである。WinBoardでは2007年にH.G. Mullerによって将棋がサポートされた。WinBoardはエンジンと通信するために独自のプロトコル(チェスエンジンコミュニケーションプロトコル)を使用するが、UCI2WBアダプターを介してUSIエンジンと接続できる。WinBoardプロトコルをネイティブサポートするエンジンは、Shokidoki、TJ将棋、GNU Shogi、Bonanzaである[54]。将棋所とは異なり、WinBoardはオープンソースであり、LinuxではXBoardとして利用可能である。BCM Shogi[55]は、USIプロトコルとWinBoard将棋プロトコルのためのグラフィカルユーザインタフェースである。

中将棋大将棋といった多くの将棋類は、Winboardのフォークされたバージョンを用いることでAiと対戦することができる。Shogidokiでは持ち駒ルールのある5五将棋(ミニ将棋)を指すことができる。Hachuでは5五将棋、禽将棋小将棋、中将棋、大将棋を指すことができる[56]

Floodgate

Floodgateはコンピュータのための自動対戦サーバである[57]。将棋所で動作するプログラムはFloodgateに接続することができる。GPSチームがFloodgateを作成した。Floodgateは2008年から継続的に運営されている。2008年から2010年の間、167のプレーヤーが2万8千局をFloodgate上で対戦した。人間もFloodgateで対局することができる。持ち時間は15分切れ負けである。

その他

コンピュータチェスとの比較

初期のコンピュータ将棋はコンピュータチェスの理論をもとに開発されたものが多い[58]。チェスと比較した場合、持ち駒という特性から指し手の選択肢があるため、より計算量が増えることになる。一方でコンピュータチェスの開発は歴史が長く、計算理論に関する論文やプログラミング時のテクニックが蓄積されていることやオープンなソースコードも多いため、将棋と共通する部分が開発時の参考にされている。

1997年にはチェスの世界チャンピオン(当時)ガルリ・カスパロフIBMの開発したディープ・ブルーに1勝2敗3引き分けで敗北し、将棋界にも大きな衝撃を与えたが、持ち駒による全局面数の多さ[59]があることなどから、2000年代前半までは現役トップレベルには達していないと見なされる事が多かった。

2003年には汎用コンピュータと一般人が購入できるソフトが、ディープ・ブルーの様な専用機に匹敵する性能を持った。2009年8月には、スマートフォンに搭載された「Pocket Fritz 4」がグランドマスター級の評価が与えられた。

コンピュータチェスにおいてもアンチコンピュータ戦略が考案されており、2008年にはヒカル・ナカムラ(世界ランク46位、レイティング2670)とRybka(Ver3、レイティングは3000前後)の対局では、ナカムラが攻めずに手待ちを続けることでRybkaに自身が優勢と誤判定させ、無理な攻めを始めた際に隙を突いて勝利している。この対局は271ムーブ(将棋式では542手)の長期戦となった。

将棋では2000年代後半に入りトップアマが敗れ、2010年代にはトップ女流棋士の清水市代、元トップ棋士だった米長邦雄、さらには現役プロ棋士にそれぞれ勝利し、2014年の第3回将棋電王戦では、ハードウェアを市販のパソコン1台に限定されたソフトが現役プロ棋士5人に4勝1敗で勝ち越すなど、平手でも敗北・負け越しする例が出ている。

ソフト指し問題

将棋ソフトのレベルが上がった結果、ヒント機能や検討モード、対局機能などを使ってネット将棋を指すユーザーが少なからず出てきている。ネット将棋大手の将棋倶楽部24では(公認を除き)他の善良な会員の皆様に種々の迷惑がかかるとして、2008年に「24ソフト指し取締委員会」を設置。将棋ソフトの指し手との一致率を基準として「ソフト指し」を認定し、不良利用者アカウントの削除などを行っている[60]

逆に81dojoではソフト指し専用アカウントを作成し名前を指定されたもの(「COM_(任意の文字列)」)にすれば、公認が無くてもソフトの思考結果を用いて指せる。ただし、名前が「COM_」がついてない場合は81dojoでも不正行為者とみなされる[61]

同様のことはチェスでも問題になっており、グルジアグランドマスター(チェスの最高位)であるガイオズ・ニガリジェアラブ首長国連邦での対局中にトイレに立ってトイレットペーパーの中に隠してあったスマートフォンで分析する不正をしたことが報じられている[62]

プロ棋士の場合、現時点でソフトによるカンニングの事例はない。また、防止策としてタイトル戦などで自主的にスマートフォンなどを提出することはあるが、強制力はなく、発覚した場合の処分は不明である。

脚注

  1. ^ Allis 1994 * Victor Allis (1994) (PDF). Searching for Solutions in Games and Artificial Intelligence. Ph.D. Thesis, University of Limburg, Maastricht, The Netherlands. ISBN 90-900748-8-0. http://fragrieu.free.fr/SearchingForSolutions.pdf 
  2. ^ 将棋世界2007年7月号より。また、開発に至った経緯およびその詳細は同号を参照のこと。
  3. ^ 共立出版 bit別冊『ゲームプログラミング』pp. 45〜46
  4. ^ 共立出版 bit別冊『ゲームプログラミング』p. 46
  5. ^ 将棋世界2007年7月号より。
  6. ^ コンピュータ将棋協会参照。各回ごとにルールが定められ、公開されている。
  7. ^ コンピュータ将棋対人間 対戦記録
  8. ^ コンピュータ将棋の専門家である公立はこだて未来大学松原仁はそれ(将棋のチャンピオンにコンピュータ将棋が勝つこと)を2015年と予想している(情報処理2005年7月号より)。また、コンピュータ将棋協会会長の瀧澤武信もそれを10〜20年後と予想している(将棋世界2007年7月号より)。
  9. ^ 瀧澤, 2012.
  10. ^ 第2回将棋電王戦PV ‐ ニコニコ動画
  11. ^ 将棋ソフトにプロ棋士が連敗、渡辺竜王「現役棋士の3分の1以上に相当する力がある」
  12. ^ 磯崎元洋 (2014年10月31日). “やねうら王開発実況用スレッド その3”. ノーゲーム・ノーライフ. 2015年5月25日閲覧。
  13. ^ 棚瀬 寧「コンピュータ将棋は止まらない : 5.棚瀬将棋の技術背景」『情報処理』第49巻第8号、2008年、987-992頁。  囲みコラム「おふぃすらん」
  14. ^ コンピュータソフトを使用するのは、作品に余詰や不詰がないかを確認するためである。また作成途中の補助に使う場合もある。
  15. ^ 詰将棋創作プログラミング
  16. ^ 将棋電王戦第3局で人間側が1勝を返す 豊島七段が「序盤、中盤、終盤、隙が無い」指し回しでYSSに圧勝”. ねとらぼ (2014年3月31日). 2015年6月3日閲覧。
  17. ^ 人間が勝つ鍵はどこにあるか「第3回将棋電王戦」第3局”. マイナビニュース (2014年4月4日). 2015年5月15日閲覧。
  18. ^ 【話題の肝】VSコンピューター制した「人類の執念」将棋電王戦、勝因はゲリラ戦術だった”. 産経ニュース (2015年4月19日). 2015年4月22日閲覧。
  19. ^ a b 【将棋】「ボンクラーズ」を遠山雄亮五段が徹底解剖part1【電王戦】 - ニコニコ動画
  20. ^ 渡辺明順位戦(1日制で持ち時間6時間)だと「だんだん眠くなってくる」と述べてい。
  21. ^ 「将棋電王戦FINAL」第2局はコンピュータが王手放置の反則負け、プロ棋士2勝目”. マイナビニュース (2015年3月21日). 2015年3月30日閲覧。
  22. ^ 瀧澤, 2012.
  23. ^ 定跡とは何か「将棋電王戦FINAL」第4局 - 村山七段の研究不発、ponanzaが示した可能性”. マイナビニュース (2015年4月11日). 2015年5月15日閲覧。
  24. ^ やねうらお(磯崎元洋) (2014年4月18日). “将棋における適切なハンディのつけかた”. 俺のボカロがこんなに音痴なわけがない。. http://d.hatena.ne.jp/yaneurao/20140418#p1 2014年9月23日閲覧。 
  25. ^ “アピール文章 稲庭将棋”. (2010年3月16日). http://www.computer-shogi.org/wcsc20/appeal/Inaniwa_Shogi/inaniwa.pdf 2014年9月1日閲覧。  (pdfファイル)
  26. ^ “コンピュータ将棋協会誌 第22巻(2010 年号)”. http://www.computer-shogi.org/journal/CSA_vol22.pdf 2014年9月1日閲覧。 (pdfファイル)
  27. ^ GPS将棋は本当に強いの? 佐々木勇気四段に聞いた”. 日刊SPA! (2013年3月13日). 2015年5月26日閲覧。
  28. ^ 打ち歩詰めなどを避ける場合、稀に不成を選ぶ場合がある
  29. ^ この角は馬に成ることができるが、その後捕獲されてしまう
  30. ^ 棋士、ソフトの弱点突き速攻決着 電王戦勝ち越し - 日本経済新聞
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  38. ^ 飯田教授らが開発したコンピュータ将棋はプロ棋士に惜敗(北陸先端科学技術大学院大学:ニュースとお知らせ)参照。
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  41. ^ 元アマ竜王2人、1勝1敗…コンピューターとの将棋対局 [リンク切れ]
  42. ^ コンピュータ選手権の結果。 渡辺明ブログ 2008年5月5日より「アマトップの方々は奨励会で言えばプロ手前の二段〜三段の力はあるので、そこに2連勝というのは衝撃的」
  43. ^ 大きな話題と小さな話題 遠山雄亮のファニースペース 2008年5月5日より「この二人はアマチュアの方の中でもトップ、しかもトップの中のトップですから衝撃的です。将棋も強い内容でした」
  44. ^ 衝撃 daichanの小部屋 2008年5月5日より「二人そろって完敗したと聞いて衝撃を受けました。彼らの強さは僕もよく知ってますので」
  45. ^ 情報処理学会が日本将棋連盟に「コンピュータ将棋」で挑戦状社団法人日本情報処理学会 2010年4月2日 2010年4月2日閲覧
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  47. ^ ponanzaが将棋倶楽部24に登場、東京道場に「記録」破り
  48. ^ 保木邦仁・渡辺明共著 『ボナンザ VS 勝負脳――最強将棋ソフトは人間を超えるか』 角川書店、2007年。ISBN 978-4-04-710107-4
  49. ^ http://aleag.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/20134-fd94.html
  50. ^ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35787?page=13
  51. ^ 合議制のために各々は若干設定を変えてある。
  52. ^ 「将棋世界」2010年10月号 p.148、「コンピュータ将棋協会」のwebサイト、「合議アルゴリズムと文殊のページ」
  53. ^ 将棋GUIソフト将棋所”. 2015年5月11日閲覧。
  54. ^ Muller, Harm Geert. “WinBoard for Shogi”. 2015年5月11日閲覧。
  55. ^ Maerz, Bernhard. “BCMShogi Shogi Graphical User Interface”. 2015年5月11日閲覧。
  56. ^ H. G. Muller. “WinBoard Shogi-Variants package”. 2015年5月11日閲覧。
  57. ^ Floodgate is a computer shogi server for computers”. 2015年5月11日閲覧。
  58. ^ 2006年度の世界コンピュータ将棋選手権で優勝したBonanzaは、開発者自身がコンピュータチェスの文献を主に参考にしたことを表明している。
  59. ^ 読売新聞 2003年8月18日より
  60. ^ 24ソフト指し取締委員会”. 将棋倶楽部24 (2008年1月7日). 2012年1月10日閲覧。
  61. ^ 81道場利用規約
  62. ^ グルジアのチェス名人、スマホでカンニング”. CNN.co.jp (2015年4月14日). 2015年4月24日閲覧。

注釈

  1. ^ ただし、「不成」を指す前の局面は永瀬優勢で、仮に成ったとしても優勢は変わらないとする意見が大勢であった。それでも指した理由を、永瀬は「優勢になったと思ったが、万が一を考えて指した」「修正されているかもしれないと思っていた」としている。また、同年3月27日放送の『Session-22』にゲスト出演した際に、「敗勢になっていたら指したか?」という質問には「そのような場合は選ばなかっただろう」と答えている

出典

参考文献

  • 瀧澤 武信 編『人間に勝つコンピュータ将棋の作り方』技術評論社、2012年。ISBN 978-4774153261 

関連項目

外部リンク