C-130 (航空機)
C-130 ハーキュリーズ
C-130 ハーキュリーズ(C-130 Hercules)は、ロッキード社が製造している輸送機。ハーキュリーズ(Hercules)とは、ギリシア神話に登場する英雄、ヘラクレスの英語読みである。
戦術輸送機のベストセラーであり、アメリカ軍はもとより西側諸国を中心に69ヶ国で使用され、登場から半世紀以上経った現在も生産が続いている。現在の最新型はC-130J スーパーハーキュリーズ(Super Hercules)である。
概要
未整地での運用を念頭に置いて設計され、高い短距離離着陸性能を持ち、さらに補助ロケットにより、より短い滑走距離での離陸も可能である。太い胴体に高翼式主翼、主輪を収納するバルジ、スロープも兼ねる後部大型カーゴベイといった、現代の軍用輸送機のスタイルは本機で確立されたと言ってよい。
その輸送力と運行性能の高さから、「世界最高の輸送機」との呼び声も高い。滑走路のない砂漠での離着陸や車輪にソリをつけて南極への物資輸送など極めて幅広く用いられている。また、汎用性も高いため、特殊派生型も数多く存在する。NATO加盟国や日本(航空自衛隊及び海上自衛隊)をはじめとする西側諸国の主力軍用輸送機として活躍を続けている。
その基本設計は当初から完璧で、登場から半世紀以上経った現代に至るまでほとんど手を加えられていない、稀有な航空機である。
開発経緯
第二次世界大戦中に使用された輸送機は、ほとんどが何かしらの欠点を抱えていた。元々旅客機や爆撃機を転用したものであり、貨物の取り扱いを重視した設計になっていなかったためである。例えば、C-46やC-47は尾輪式で、胴体が地面に対して斜めになるため貨物積載が決して容易ではなく、前輪式のC-54は胴体こそ地面に対して水平になったが地上高が高くやはり貨物積載に問題を抱えていた。これを解決するべく、地上高を低くしランプを設けて貨物積載を容易にした輸送機はあったものの、C-76やRB-1などは少数しか製造されず、C-82は航続力と貨物積載量が不足していた。しかし、これらは荒地での離着陸にも適する性能を有していた。
こうしてアメリカ空軍が1951年4月21日に出した新型輸送機の仕様書の要求は、以下の通りだった。
- 中型輸送機であること。
- 荒地に着陸可能であること。
- 極めて頑丈な機体構造を有する事。
- 主用途は貨物輸送だが人員輸送能力も有する事。
- 積載可能重量は約30,000lb(13,608kg)。
- 航続距離は1,500マイル(2,414km)。
この要求に対してボーイング、ダグラス、フェアチャイルド、ロッキードの4社が設計案を提出し、僅か3ヶ月でロッキード社の案が選定された。この設計は目標仕様を遥かに超える優秀なもので、579km/hという巡航速度は当時を代表する旅客機よりも僅かに遅い程度で、18,143kgの最大ペイロードはDC-6Aをも上回っていた。貨物室は、地上高がトラックの荷台の高さに合わせて作られているため、トラックから容易に貨物を積み込むことができる。さらに重要な点は貨物室のランプが気密閉鎖できることで、これにより機内を与圧して高高度巡航することが可能になった。しかし、ロッキード社はこの設計に完全な自信を持てておらず、万が一失敗した時のことを想定し生産施設を本社施設から遠い政府所有のジョージア州マリエッタ工場に移していたほどだった。なお、外形設計上の手本となったのはライスター・カウフマン社が開発したXCG-10 強襲輸送グライダー(外部リンク)で、簡素な設計ながら荒地の仮設滑走路にも容易に着陸できる機体だったが、政治的な理由で不採用となり、後にC-123へと発展するチェース CG-14に採用を奪われている。
ロッキード社のバーバンク工場で組み立てられた試作機2機は1954年8月にロールアウトした。初飛行したのは2号機で、同月23日に行っている。最初の量産型であるC-130Aの初号機は1955年4月7日に初飛行し、1956年12月9日にはアメリカ空軍が最初の機体を受領した。また、間もなく世界中からも注目されることになり、オーストラリアが最初の輸入国となって以来、世界50ヶ国以上で採用されることとなった。
C-130から間を置かずしてロッキード社は、同じアリソン T56ターボプロップエンジンを搭載したL-188旅客輸送機を進空させる。ジェット推進かプロペラ推進かの選択で過渡期にあった当時の旅客輸送機において、C-130の開発経験はロッキード社にL-188へのターボプロップ採用を促す大きな要因の一つであったと考えられる。しかし、旅客輸送機の将来を技術的にも商業的にも見誤ったことや、設計の不備に起因する墜落事故などでL-188の販売は低迷し、結果としてロッキード社の民間旅客輸送機部門はL-188の次に開発したL-1011の商業的な失敗を最後に撤退している。
一方のC-130は各国への売込みが進み、生産数は第二次世界大戦後の戦術輸送機において最多である。また、L-188が世に出てから数年足らずのうちにライバルの登場により陳腐化したのに対し、C-130はその立場を決定的に脅かすような競合機が今日に到るまで現れていない。
運用
C-130は開発の目的通りの短距離離着陸性能と不整地離着陸性能を発揮し、世界各国に導入されて砂漠から南極まで幅広い地域で運用された。貨物の輸送、空挺部隊の展開といった任務の他、“デイジーカッター”の名で知られる大型爆弾、BLU-82の投下母機としても用いられている。
1963年には航空母艦「フォレスタル」で発着艦実験を行った事さえある。驚いたことにカタパルトやアレスティング・ワイヤーなどを用いることなく発艦・着艦ともに成功している(艦上機ではないので発着艦に利用する機材へ全く対応しておらず、使用する事は不可能である)。大型にすぎて実際に運用するのは困難とされ実験以上の段階には進まなかったものの[2]、本機の短距離離着陸性能の高さを示す一例である。
珍しい例としては、1982年のフォークランド紛争において、アルゼンチン空軍のC-130は主翼下の増槽装着部を改造して航空爆弾用パイロンを装着できるように改造され、代用爆撃機として運用された。このC-130改造爆撃機はイギリス海軍に徴用されていた民間船舶を攻撃し、爆弾を命中させる戦果を2回に渡って挙げている[3](ただし、2回とも命中したものの不発で大きな損害を与えることはできなかった)。
民間で運用されている機体には消防機として使用されている機体もあり、本機の大きな搭載能力を活かした例といえる。
基本型
- YC-130
- 試作型。三翅プロペラを使用し、短いノーズを持つ。エンジンはアリソン YT56-A-1。
- C-130A
- 初期型。当初はYC-130と同様ノーズが短かった。エンジンはアリソン T56-A-1A/A-9。翼下のエンジン外側に増槽を装備。
- C-130B
- 1959年開発。補助翼を追加し、プロペラブレードを四翅化。翼下に増槽がなく、その分高速で飛行できる。
- C-130D
- C-130Aを元に、ソリとJATO(短距離離陸用の補助ロケットエンジン)を装備。
- C-130E
- 1962年に配備開始。航続距離を増し、エンジンをアリソン T56-A-7Aに換装。構造や電子機器も改善された。外側・内側エンジンの間に容量1,400ガロンの増槽を装備し、この配置は以後のタイプの標準となった。また、それまでの型にはあった前部胴体側面の貨物ドアをほとんどの機体が塞いでいる。
- C-130F
- アメリカ海兵隊向け。出し入れ可能な燃料タンクを貨物室に設置できる。
- C-130G
- アメリカ海軍向け。C-130Eを元に機体の構造を強化し、積載量を向上。
- C-130H
- 翼の設計を改め、電子機器を一新した。エンジンをアリソン T56-A-15に換装。当初は輸出向けとして1964年頃から採用され始め、1975年からアメリカ空軍への配備が始まった。生産は1996年まで続けられた。
- Tp84
- スウェーデン空軍でのC-130E/Hの呼称。
- ハーキュリーズ C.3
- C-130H-30のイギリス空軍向け。後に全機に空中給油プローブが追加されハーキュリーズ C.3Pとも呼ばれる。
- C-130J
- 1999年に配備開始。現在も生産を行っている最新モデルで、エンジンをロールス・ロイス/アリソン AE2100に換装し、ブレードが三日月形状の六翅プロペラに変更、アビオニクスもコックピットのグラス化などの近代化を行った。
- C-130R
- 海上自衛隊が、東日本大震災対処などのために老朽化の進んだYS-11の後継として導入予定の中古機。アメリカ海兵隊向けのKC-130Rから空中給油機能を取り除いたもの[4]。
- C-130T
- アメリカ海軍向け。内1機は現在アクロバットチーム「ブルーエンジェルス」専用機「ファットアルバート」を務めており、前述したJATOを使用しての短距離離陸をデモンストレーションとして行う(現在はJATOの在庫がなくなったため行われていない)。
派生型
- DC-130A/E
- 無人標的機管制型。
- EC-130E 通称:コマンド・ソロ(Command Solo)
- 電子戦機型。
- GC-130
- 地上試験型。各種試験後は戦術輸送機として欧州NATO加盟国空軍へ配備された。
- C-130E
- :[E]モデルはイラク戦争敗戦後に再建された新イラク治安部隊(空軍相当組織)に有志連合軍による占領軍部隊で使用されていた機材が、撤退時に中古機3機が譲渡された。再建への中心機材となる。イラク治安部隊は長胴型も追加発注している。
- HC-130B/E/H
- 戦闘捜索救難機型。
- MC-130W「コンバット・スピアー」
- 主に空軍部隊で冷戦を戦い抜き経年化したC-130Hベースの再改修延命工事を施した特殊作戦支援機型特別機。
- JC-130
- 暫定的な試験機型。
- KC-130F
- 空中給油/輸送機型。
- KC-130Rは海上自衛隊の保有する海軍機C-130R型機の原型機。
- KC-130Fの燃料搭載量増大型。
- KC-130T
- KC-130Rのアビオニクス近代化型。
- KC-130T-30
- KC-130Tの胴体延長型。2機のみ製造。
- TK.10
- スペイン空軍でのKC-130Hの呼称。
- LC-130
- 南極大陸観測支援機型。
- MC-130
- 特殊部隊支援機型。通称MC-130 コンバット・タロン:20世紀に西側制空権制圧に貢献し、最終的な冷戦終結とソ連崩壊・滅亡に導いた名機。
- 現在では湾岸戦争による戦訓から改良された新型機を調達中であり、最新型は「MC-130J:コンバット・タロンⅡ」として、アメリカ空軍2017年予算概算要求に計上された。21世紀初頭の中東各地における米空軍部隊各種作戦に貢献した傑作機「MC-130Pコンバット・シャドウ」の勇退に伴う代替機でもあり、現在も1年あたり約3機程の新造調達が続く特別改修機。
- NC-130
- 特殊試験機型。
- PC-130
- 洋上哨戒機型。マレーシア空軍とインドネシア空軍に少数機が輸出される。シンガポール軍が採用選考中。
- RC-130
- 偵察機型。パフラヴィー朝イラン空軍が採用した偵察用モデル。
- SC-130
- 捜索救難機型。
- TC-130
- 訓練/汎用輸送機型。
- VC-130
- VIP輸送機型。
- WC-130 ハリケーン・ハンター
- 気象観測機型。
- ハーキュリーズ W.2
- イギリス空軍が1機だけ運用していた、ハーキュリーズ C.1の気象観測機型。
- L-100(L-382)
- C-130Eをベースにした民間型。
運用国
○はC-130Jも運用
- フィリピン
- ポーランド
- ポルトガル
- ルーマニア
- サウジアラビア○
- シンガポール
- 南アフリカ共和国
- 韓国○
- スペイン
- スリランカ
- スーダン
- スウェーデン
- タイ
- チュニジア
- トルコ
- アラブ首長国連邦
- イギリス○
- アメリカ合衆国○
- ウルグアイ
- ベネズエラ
- ベトナム共和国
- イエメン
- ザンビア
日本
航空自衛隊
1984年-1998年までに航空自衛隊は、C-130H型を16機購入し(完成品の輸入でライセンス生産ではない)、2013年3月末時点の保有数はC-130Hが15機、KC-130Hが1機である[5]。戦術輸送機として愛知県の小牧基地第1輸送航空隊第401飛行隊で運用し、陸上自衛隊第1空挺団の降下訓練・作戦なども支援する。
空自における導入の理由としてC-1の航続距離問題が挙げられているが、実際には政治的な要請も絡んでおり、日米貿易摩擦の緩和及び極東有事時に実施される宗谷海峡機雷封鎖への協力が求められたためだったという[6]。
防衛省・自衛隊の海外派遣でも運用されており、2004年3月3日-2008年12月まで実施された航空自衛隊のイラク派遣においては、地上からの視認性を低下させるために水色に塗装されたC-130Hがクウェートの飛行場とイラクの飛行場との間で輸送活動を行った。
2006年10月には航空自衛隊小牧基地に航空機動衛生隊が編制され、C-130H機内での医療行為を可能とする機動衛生ユニットが納入された。また、プローブ・アンド・ドローグ方式空中給油ポッドの増設と空中給油受油能力の付与が行われてKC-130Hとなった機体(シリアルナンバー:85-1080)が、2010年2月25日に第401飛行隊に配備された[7][8]。
海上自衛隊
海上自衛隊では1967年より輸送機としてYS-11M(加えて機上作業練習機としてYS-11T-Aを6機導入)を運用していた。しかし、2011年に発生した東日本大震災によって飛行時間の急激な増加により、運用停止時期がそれまでの予定より前倒しして到来することから、それらの代換としてアメリカ海軍からKC-130Rの中古機6機の購入を決定した[9]。
機体の空中給油装置は取り外され、C-130Rとして運用される。
これらの機体は、米国で電子機器類の更新・主翼や胴体等のオーバーホールを受けた後、フェリー飛行で日本に飛来し2014年より厚木航空基地に配備された。中古機であるがほとんど未使用だったため、20年使用可能とされる。
C-130Rの導入により海上自衛隊は、YS-11Mを輸送機として使用していた時代と比較して、コストを抑えながら輸送能力を大幅に強化する事が出来た。今後は各種訓練に加え、災害派遣や国際貢献活動などにも活用される予定であるとされる。
仕様 (C-130H)
- 乗員:6名
- 全長:29.79m
- 全幅:40.41m
- 全高:11.66m
- 主翼面積:162.1m²
- 空虚重量 : 34,360kg
- 滑走距離:400-1,300m
- 最大離陸重量 : 79,360kg
- 燃料容量:9,620gal(6,820gal(機内)+1,400gal×2(増槽)
- 動力:アリソン・エンジン社製T56-A-15 ターボプロップ×4基
- 出力 : 4,910HP(3,423kW)×4
- 最大積載量 : 19,050kg
- 貨物室:1,219x302x274cm
- 最大速度:335kt=M0.51 (620km/h)
- 巡航速度:550km/h=M0.45
- 航続距離 : 4,000km
- 実用上昇限度:8,000m
- 武装:なし
登場作品
映画・テレビドラマ
アニメ
- 『えびてん』
- 第6話の最終シーンで名前と機影が出ている。
漫画
小説
ゲーム
- 『ARMA 2』
- プレイヤー・AIが操作可能で、人員輸送が可能。
- 『グランド・セフト・オートV』
- 「タイタン」という名称で登場。軍隊とメリーウェザー・セキュリティ(劇中の民間軍事会社)が使用している。
- 『コール オブ デューティシリーズ』
参考文献
- 分冊百科『週刊 ワールド・エアクラフト』 No.30/54/73/97/115/116/118/171 デアゴスティーニ社 1999 - 2003年
脚注・出典
- ^ http://www.af.mil/AboutUs/FactSheets/Display/tabid/224/Article/104517/c-130-hercules.aspx
- ^ この実験結果(C-130は航空母艦からの発艦および着艦が可能)は後にイランアメリカ大使館人質事件に対する救出作戦(イーグルクロー作戦)の立案時に参考とされたが、実際の作戦計画には採り入れられなかった。
- ^ うち1回は戦闘海域指定区域外を航行していたアメリカの船会社が運用するタンカー(リベリア船籍)で、誤爆であった。
なお、この誤爆されたタンカー(99,827トン)の船名は、偶然にも「Hercules」である。 - ^ C-130Rの整備 平成24年防衛白書
- ^ 平成25年度防衛白書 資料13 主要航空機の保有数・性能諸元
- ^ 鈴木昭雄「『空の防人』回想録(15) 防衛課長最初の主要事業『三つの目玉』」『軍事研究』2015年7月号P152
- ^ C-130Hに対する空中給油・受油機能付加について - 航空自衛隊
- ^ ボーイング チーム、日本にC-130H空中給油機をデリバリー - ボーイング
- ^ 海上自衛隊YS-11後継機の機種決定について (防衛省 2011年10月14日)
関連項目
外部リンク
- 航空自衛隊 - C-130H(紹介)
- The Aviation Zone(英語)
- Hurricane Hunters(英語)