軍用機の命名規則 (アメリカ合衆国)

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この項目では、アメリカ軍軍用機の命名規則について記す。

この命名規則は名称に含まれる要素の頭文字をとってMDS(Mission-Design-Series)とも呼ばれ、航空機に限らずミサイル等にも適用される。本項では、航空機のみに絞って解説する。ミサイルの命名規則については、ミサイル・ロケットの命名規則 (アメリカ合衆国)を参照。

現行の命名規則[編集]

現在は、陸海空軍の三軍で共通の命名規則を用いている。

アメリカ合衆国の軍用機の正式名称は、各々の機体に固有識別を与えるために組み合わされた一連の文字および数字で示される。最初の一連の文字(最高4文字)は、航空機の種類及び意図された任務種別を決定する。番号は同様の種類と主任務も持つ航空機の中で機体を特定する。最後に、一連のシリーズとブロックは機体の正確な構成を特定する。

構成要素[編集]

R A H - 66 A
(2) (3) (4) (5) (6)
N K C - 135 A
(1) (2) (3) (5) (6)
Y F - 22 A
(1) (3) (5) (6)

航空機を含む飛翔体システムの正式名称に含まれる構成要素は全部で10あり、航空機ではこのうち8つが該当する(残り2つはミサイル/ロケット専用)。また、正式名称は、MDSのM(Mission)が示す現状/任務/機体種別、D(Design)が示す設計番号及びS(Series)が示すシリーズの3つの基本的な部分から成る。

  • 現状/任務/機体種別(M)
    機体の現状、任務及び機体種別を示す1~4文字のアルファベット。正式名称の左から順に次のものを含む。
    • 現状接頭記号 - (1)
      正式名称の先頭に記述する。機体に伴う現状(例えば、非飛行、実験機)を意味する接頭記号。オプション。
    • 任務変更記号 - (2)
      基本任務記号の直前に記述する。基本任務の変更を表示又は明確にする追加任務識別記号。オプション。
    • 基本任務記号 - (3)
      正式名称の最初の部分で最も基本的な構成要素であり、機体の基本的な任務を特定する。必須。
    • 機体種別記号 - (4)
      基本任務記号の直後に記述する。標準機体(後述)でない機体種別を特定する。オプション。
  • 設計番号(D) - (5)
    同じ任務を持つ航空機の各々の設計に割り当てられるシリアル番号。任務記号と設計番号をダッシュ(-)によって分けて記述する。必須。
  • シリーズ(S) - (6)
    同じ設計番号の中でどのシリーズに属しているかを示すアルファベット1文字の接尾記号。必要な場合のみ使用。
  • ブロック
    航空機専用。シリーズ又は設計の範囲内で定義された構成(「ブロック30」のように記述する)。必要な場合のみ使用。
  • シリアルナンバー
    同型機の1機を特定するために、シリアルナンバーを持つ。

現状接頭記号[編集]

現状接頭記号はオプションであり、通常は正規の軍務に用いる機体には使われない。

公式に認可されている現状接頭記号は次のとおり。

  • G:地上設置 (Grounded)
    永続的に飛行することなく地上に置かれる航空機に適用され、この航空機は主に乗員と整備員の地上訓練のために使われる。この記号は、恒久的な指定として適用されるのみであり、解除されることはない。この記号が使用されることは稀である。
  • J:特別試験(臨時) (Temporary Special Test)
    一時的に設置された器材の特別試験に用いられる航空機に適用される。“J”記号は、テスト後に元の構成に無理なく戻すことができる航空機に使われる。例えば、新しい電子機器のためのテストベッドとして使われる航空機などに適用されるが、テスト終了後も当該航空機がその器材を保持し続けることもある。
  • N:特別試験(永久) (Permanent Special Test)
    機体構成への復元不可能な改修を加えられ、原則として永続的に特別試験に用いられる航空機に適用される。航空研究のためにNASAへ移される多くの軍用機は、この呼称を与えられる。
  • X:実験 (Experimental)
    まだ軍が受領していない航空機又は標準構成が確定していない試作機に適用される。過去の大部分の試作機はこの接頭記号を与えられた。ただし、基本任務記号の“X”(研究)を与えられた航空機と混同してはならない。現状接頭記号の“X”は、設計プロセスの実験段階でのみ用いられ、その航空機は本来他の任務のために設計されている。
  • Y:試作 (Prototype)
    当初は構成が決定されたデモンストレーション機に適用されたが、最近は、生産を意図する全ての航空機のプロトタイプに適用される。“Y”記号が伝統的な“X”記号より危険が少ないことを意味したため、1970年代から大部分のプログラムにおいて政治的理由のために“Y”記号が好まれている。
  • Z:計画 (Planning)
    計画又は開発前段階に適用される。この記号が実際の航空機に適用されているのを見ることはない。

任務変更記号[編集]

数々の航空機はそれらの基本任務記号が示す特定の任務のために設計されるが、それらの一連の同型機シリーズは最初の設計とは異なる任務のために設計される。このとき、元の任務の能力を維持することもあるが、維持しないこともある。任務変更記号は、基本設計MDSとの共通性を失うことなく正確に航空機の使命を示す。任務変更記号が使用される場合は、基本任務記号のすぐ前に置かれる。

公式に認可されている任務変更記号は次のとおり。

  • A:攻撃機 (Attack)
  • C:輸送機 (Transport)
  • D:無人航空機管制機 (Director)
  • E:電子戦機 (Special Electronic Installation)
  • F:戦闘機 (Fighter)
  • H:捜索救難機 (Search and Rescue/Medevac)
  • K:空中給油機 (tanKer)
  • L:寒冷地仕様 (Cold Weather)
  • M:多目的機 (Multi-Mission)
  • O:観測機 (Observation)
  • P:哨戒機 (Patrol) 海上を哨戒する機体。
  • Q:無人航空機(ドローン)(Drone)
  • R:偵察機 (Reconnaissance)
  • S:対潜機 (Antisubmarine)
  • T:練習機 (Trainer)
  • U:汎用機 (Utility)
  • V:要人輸送機 (Staff)
  • W:気象観測機 (Weather)

これらは一字ではなく、複数が並べられることもある。例えば、AC-130 ガンシップの場合、ベースの機体が輸送機なので"C"の機種記号が付くが、攻撃機に改造されているため"C"の前に"A"が付加されている。またベースが同じでも、V-22のように配備先の任務に合わせた仕様によって、MV、HV、CVと変わることもある。

FA-18はF/A-18と表記されることもあるが、「/」の使用は正式には許可されていないため、本来は「FA-18」が正式な表記である(後述)。

基本任務記号[編集]

基本任務記号は、正式名称の任務を示す部分の核となる記号である。正式名称は基本任務記号なしでは成立しない。また、F-14C-130のように、正式名称の任務部分が基本任務記号だけから成ることがある。

公式に認可されている基本任務記号は次のとおり。

  • A:攻撃機 (Attack)
  • B:爆撃機 (Bomber)
  • C:輸送機 (Cargo)
  • E:電子戦機 (Electronic warfare)
  • F:戦闘機 (Fighter)
  • L:レーザー
  • M:多目的機 (Multi-Mission)
  • O:観測機 (Observation)
  • P:哨戒機 (Patrol) 海上を哨戒(パトロール)する機体を示す。
  • R:偵察機 (Reconnaissance)
  • S:対潜機 (anti-Submarine warfare)
  • T:練習機 (Training)
  • U:汎用機 (Utility)
  • W:気象観測機 (Weather)
  • X:研究機 (Research)

機体種別記号[編集]

標準機体でない機体(離陸から着陸まで完全に空気力学的な揚力によって支えられ、有人、固定翼、自己推進できる航空機以外の機体)の機体種別を特定するために、機体種別記号を基本任務記号の後に加える。

公式に認可されている機体種別記号は次のとおり。

例えば、AV-8B/B+ ハリアーでは、攻撃機なので"A"の基本任務記号が付くが、VTOLという特殊な航空機であるため、"V"の記号が任務記号の後に続く。

設計番号[編集]

命名システムによると、航空機の機体種別又は標準機体の基本任務ごとに連続して番号を振られることになっており、設計番号を他の文字列との混乱を避けて割り当てたり、メーカー側のモデル番号にかなうように割り当てたりできるようにはなっていない。最近この規則は無視されており、航空機があるシリーズから別のシリーズに移行されるとき、航空機はメーカーのモデル番号と同じ設計番号を受けたか(例えば、KC-767A)、移行前のシリーズの設計番号を引き継いだ(例えば、X-35F-35になったが、“X”は1文字の場合は基本任務記号であり、本来なら“X”シリーズの35が引き継がれるのではなく、“F”シリーズの別の番号が新たに割り当てられるべきだった)。

シリーズ記号[編集]

同型の航空機の異なるバージョンは、“A”から始まり順に増えていく1文字の接尾記号を使って詳細に示されることになっている(ただし、数字の“1”及び“0”との混同を避けるために“I”及び“O”は使用されない)。しかし、どれくらいの変更があれば新しいシリーズ記号を与えるに値する要件となるのかは明らかではない(例えば、時間とともに広範囲にわたって生産行程に変更を加えられたF-16C)。偵察任務のために改修されたF-111CRF-111Cと称されるように、新しい任務を遂行するための改修が新しいシリーズ記号を必ずしも必要とするというわけではない。また、SAR任務のために改修されたUH-60AHH-60Gと称されるように、しばしば新しいシリーズ記号が割り当てられることがある。

例外[編集]

規則は破られるために作られると言われるが、機体正式名称命名システムも例外ではない。長年にわたって、システムに適合しないいくつかの呼称が生み出された。いくつか例を次に示す。ただし、このリストは決してすべてを記したものではない。(訳注:この例示の中に単なる推測としかとれず根拠として疑問なものがあるが、全文を翻訳した)

U.S.NAVY F/A-18 Hornet
F/A-18ホーネット
F/A-18ホーネットは、その多用途任務能力が最も初期の段階から組み込まれたという事実を強調するために非公式の名称を用いている(AF-18(攻撃任務のために改修された戦闘機)という名称にするのではなく)。しかし、他にこれに該当する航空機、例えばF-16F-15Eは任務変更記号“A”を与えられることさえなく、それらの“F”記号がそのままになっている。命名システムが特にスラッシュ及びその他の文字の使用を禁じていること、ホーネットが公式文書の中で、戦闘任務のために改修された攻撃機を意味する“FA-18”と呼ばれている点に注意しなければならない。
  • なお、F-22ラプターは、2003年から2005年の2年間、“FA-22”(一般にはF/A-22)と呼ばれていたが、現役軍務状態へ移行する直前に再度F-22と命名し直された。最近、F-22の戦闘攻撃機バージョンは、FB-22という名称で議題にのっている。
F-117 Nighthawk
F-117ナイトホーク
F-117ナイトホークには、実際的な空戦能力がなく、爆撃機又は攻撃機と考えるのが妥当だろう。いくつかの情報筋は元戦闘機パイロットが支配的であった空軍においては、最も先進的な航空機といえば戦闘機以外に考えられなかったとしている。よりもっともらしい理由は、F-117を秘密にする必要があったというものである。本当の理由は、軍の編成に対する新たな爆撃機の追加制限条項をアメリカが自身で設けたいくつかの条約である。F-112からF-116はテストのために“獲得された”ソ連の航空機だったのではないかと噂されているが、F-117という名称に出くわした誰もがF-117もまた捕獲された航空機なのだと決めてかかることを期待されていたのではないかと考えられている。
SR-71B Blackbird
SR-71ブラックバード
SR-71ブラックバードの当初の正式名称、RS-71は本来の命名システムによって明確に偵察(Reconnaissance) 及び監視(Surveillance)(又は偵察及び打撃(Strike)と言われる)を表していると考えられていた。リンドン・ジョンソン元大統領が発表スピーチにおいて“RS”と“SR”を言い誤ったとされる都市伝説があるが、彼が読んでいた当初のスピーチの文面を見るとこれがそうでないことがわかる。当時の米空軍参謀長カーチス・ルメイによって単にSR-71の音韻がRS-71より好みであるという理由で、スピーチの文章が意図的に変えられていたことが判明している。この邪道とも言える紆余曲折の後、SRは戦略偵察機(Strategic Reconnaissance)という意味であるとして後に釈明されている。
AL-1
AL-1
ボーイング747には、米軍において3つの異なる呼称がある。E-4(V)C-25エアフォースワン)及びAL-1であるが、命名システムの基本的な目的に反するものがある。“A”は本来ならば対地攻撃を意味しているが、AL-1は、Airborne Lasar から来ていると思われ、標準規則に合っていない点にも注意しなければならない。
輸出仕様など
米軍と同じ機種を同盟国が使用する場合は、使用を意図された国を示すためにしばしばシリーズ記号が流用される。F-15を例にすると、F-15I(イスラエル)、F-15J(日本)、F-15K(韓国)、F-15S(サウジアラビア)及びF-15SG(シンガポール)などがある。これらは、米空軍が本来の意味での記号の順番を繰り上げることを意図していない、標準規則に合わないものである。また、F-4EJ(日本)のようにシリーズ記号のさらに後ろに使用国を示す記号が付加されることもある。EF-18(スペイン)やCC-130(カナダ)、KF-16(韓国)のように接頭記号として付加された例もある。これらは米軍向けの機体ではないため、本項の命名規則から逸脱するのは当然と言える。

過去の命名規則[編集]

アメリカ陸軍・空軍[編集]

陸軍航空隊陸軍航空軍および後に陸軍から分離した空軍軍用機の制式名称は次のように変遷した。

1920年9月時点では、

によるものであった。たとえば空冷の戦闘機(追撃機、Pursuit aircraft)は PW-9C などという表示をする。

1924年5月、液空冷の区別を廃止し、P-1から開始するものへと変わった。XPW-8B が カーチス P-1 ホーク となった。

1947年に空軍が陸軍から独立した。その後1948年に、戦闘機の記号が追撃機 (Pursuit aircraft) を意味する P から戦闘機 (Fighter) の F に改められた。

アメリカ陸軍(空軍独立後)[編集]

空軍独立後のアメリカ陸軍では1956年から規則統一の1962年まで、以下のような独自の制式名を使用した。陸上自衛隊がUH-1をしばらくHU-1と称していたのはこの命名法の時代に装備を開始したことに由来する。また、同機のニックネームのヒューイもこのHU-1から来たものである。

  • A:固定翼機
  • H:ヘリコプター
    • HC:輸送ヘリコプター(例「HC-1B」バートル・チヌーク。名称統一後CH-47
    • HO:観測ヘリコプター(例「HO-6」ヒューズ・カイユース。名称統一後OH-6
    • HU:汎用ヘリコプター(例「HU-1」ベル・イロコイ。愛称ヒューイ。名称統一後UH-1
  • V:VTOL

アメリカ海軍[編集]

三軍表記統一前のアメリカ海軍の制式名称は、

  • 機種記号
  • メーカーごとの通し番号
  • メーカー記号
  • モデル記号

であった。例えば F6F はグラマン社の戦闘機で海軍に採用された6番目の機体であることを示す。ただし、1番目の機体にはドーントレスがSB1DでなくSBDであるように数字を付けない。

主な機種記号

  • A 攻撃機 (Attacker):第二次世界大戦後。例 A4D スカイホーク
  • BT 爆撃雷撃機 (Bomber Torpedo):大戦後期の、雷撃・急降下爆撃の両方が可能な機体。例 XBT2D スカイレイダー
  • F 戦闘機 (Fighter):例 F4U コルセア
  • J 雑用機 (Utility):例 J2F ダック
  • N 練習機 (Trainer):例 N2S ケイデット
  • O 観測機 (Observation):第二次世界大戦前。例 O2C
  • OS 観測偵察機 (Observation Scout):SOと明確な区分はない。例 OS2U キングフィッシャー
  • P 哨戒機 (Patrol):例 P2V ネプチューン
  • PB 哨戒爆撃機 (Patrol Bomber):例 PBY カタリナ
  • R 輸送機 (Transport):例 R5D スカイマスター
  • S 偵察機 (Scout):例 SC シーホーク
  • SB 偵察爆撃機 (Scout Bomber):例 SBD ドーントレス
  • SN 偵察練習機/高等練習機 (Scout/Senior Trainer):例 SNJ テキサン
  • SO 偵察観測機 (Scout Observation):例 SOC シーガル
  • T 雷撃機 (Torpedo):第二次世界大戦前。例 T3M
  • TB 雷撃爆撃機 (Torpedo Bomber):大戦中までの雷撃機。例 TBF アヴェンジャー

主なメーカー記号

命名法改正[編集]

1962年9月、陸海空三軍の制式名が統一された。統一規則は基本的に空軍の規則を踏襲していたため、原則的に既存の空軍機はそのままの番号とされ、陸軍および海軍の航空機は新しい制式名を与えられることになったが、その際 重複がない限りなるべくそれまでの番号を割り振ることとした。これ以後の新型機については、空き番号を原則少ない数字から与えられることになった。

主な命名変更[編集]

  • 海軍のF4HファントムIIは空軍でも採用されてF-110(愛称はスペクター)の制式名が与えられていたが、もともとが海軍機であることから海軍の呼称 F4H から取った F-4 が新しい制式名となり、空軍でもそれを使用することとなった。

参考資料[編集]