戦闘爆撃機

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戦闘爆撃機(せんとうばくげきき)は、空対空任務を行う戦闘機に爆撃管制能力を付与し、ある程度爆撃機攻撃機と同様の任務に使用が可能な兵装の運用能力を持つ軍用機である。

概要[編集]

制空戦闘を主任務とする機体に、攻撃機と同等の火器管制と対地攻撃能力を持たせた軍用機である。戦闘機としての制空能力と攻撃機としての対地攻撃能力を(それぞれの専用機に対して若干は劣るものの)同レベルで発揮する事が期待される。1機あたりのコストは上昇するが、両方の能力を単一機種でこなす事が可能となるため、総合的な費用対効果に優れるとされる。なお、攻撃機に自衛用の空対空兵装を装備しただけのものは含まれない。

また、新型機の就役により旧式化した戦闘機、あるいはハイ・ローミックス[1]でローを担う戦闘機を、攻撃・爆撃任務に転用する事例もしばしば見られる。地上攻撃任務は制空任務に比べて損耗率が高い事から、高価な機体をその任務に充てるのは費用効率が悪いとみなされるからである。そのような経緯で戦闘爆撃機として運用された機体は、単純に爆撃能力を比較した場合は新型戦闘機や、ハイ・ローミックスのハイを担う機体よりも低性能な例もある。

また、ジェット機時代のソ連空軍における戦闘爆撃機は、基本的に戦闘機としての能力は要求されておらず、戦術爆撃機としての運用に特化していた。逆に、西側の戦闘爆撃機のように戦闘機としての役割もある程度期待された機体はソ連空軍では「前線戦闘機」と呼ばれた。これらは戦闘機としての能力を優先して設計されており、西側での戦術戦闘機に相当すると考えられているが、ベトナム戦争におけるアメリカのF-4などと同様、アフガニスタン侵攻のような実戦では戦闘爆撃機としての任務を与えられて大規模に使用された。

21世紀に入ると先進国間の全面戦争はほとんど想定されず、純粋な制空戦闘機の存在意義が低下し、2001年に発生した「アメリカ同時多発テロ事件」により生起した、21世紀の代表的な先進国の大規模軍事行動である「対テロ戦争(テロとの戦い)」においても、戦闘機の任務は専ら戦略目標への精密攻撃と地上部隊への戦術航空支援であり、対テロ戦争以外においても、大規模軍事行動における戦闘機による空対空戦闘は実例としては少ない。そのために、制空戦闘機としてF-15の後継となるべく設計されたF-22なども、限定的ではあるが対地攻撃能力を付与されて開発されており、「戦闘爆撃機(マルチロール機)ではない戦闘機(地上攻撃能力を持たない戦闘機)」という存在は少数派となりつつある。

名称と定義について[編集]

戦闘爆撃機と戦闘攻撃機(せんとうこうげきき)との区別は、世界共通の厳密な規定が存在しないため曖昧であるが、対地攻撃能力を持つか、あるいは運用されている戦闘機を戦闘攻撃機と呼び、その中でも特に兵器搭載量の大きいものを指して戦闘爆撃機と呼ぶ場合がある。また対地(艦)攻撃任務をこなすだけでなく、戦闘機としても制空・要撃など様々な目的での運用能力を設計思想の段階で盛り込み、改造等の後付ではなく初期状態で攻撃能力を獲得しているものをマルチロール機と呼ぶ場合がある。

いずれにせよ、これらの名称は純粋な空対空戦闘に特化している要撃機制空戦闘機、同様に攻撃任務に特化した攻撃機や爆撃機といった、ある種の専用機種と区別する分類名として使用されるものである。但し、各国の政治的な理由または分類思想によるものか、必ずしも定義として当てはまらない機種を戦闘爆撃機と呼んでいることもあるため、注意が必要である。

なお、日本航空自衛隊では専守防衛などの政治的な事情から「支援戦闘機(しえんせんとうき)」と呼称されていたが、21世紀に入り、戦闘機の多任務化が進んだため、これらは“支援”の文字を外し、単純に「戦闘機」に区分されるようになった。

歴史[編集]

初期の戦闘爆撃機[編集]

戦闘爆撃機の起源を特定するのは容易ではない。なぜなら戦闘機自体が爆撃機、もしくは偵察機から進化したものであり、黎明期の戦闘機にとって、爆弾を搭載して地上攻撃を行う事は特別な事ではなかったからである。その後、戦闘機という専門機種が確立した後、他の戦闘機とは明らかに一線を画する爆撃能力を持った戦闘機の登場は、1920年代のカーチス社の戦闘機を待たねばならない。

アメリカ海軍艦上戦闘機カーチスF6Cは機銃2門のほかに116ポンド爆弾2発を搭載し急降下爆撃が可能であった。この機体を装備した部隊は『爆撃航空隊』と呼ばれた。F8C-2では、さらに本格的な急降下爆撃機に進化し、初めて“ヘルダイバー[2]の名を冠した。F8C-2は後にカーチスO2C/S3Cと改名され、戦闘機とは別の機体と分類されるようになり、急降下爆撃兼偵察用に複座の専門機も開発されたため、アメリカ海軍の艦上戦闘機は純粋な制空任務に戻されることとなった。

第二次世界大戦[編集]

ロケット弾を発射するP-47 サンダーボルト

制空権の有無が戦争の勝敗を左右し、また爆撃機が戦闘機に対抗どころか避退さえできないことが明確になった第二次世界大戦では、制空権を確保できない状況下でも作戦可能な(少なくとも避退は可能な)戦闘爆撃機は重用された。どこの国が起源という訳でもなく、戦争が進めば戦闘機に爆撃能力を付与する事は自然の流れであった。

イギリスでは、アメリカより供与されたP-40が制空戦に不向きと判断されるや、直ちに戦闘爆撃機に改造された。

ドイツではBf 109Bf 110に爆弾を搭載し、それを用いた戦術を研究する実験飛行隊が編成されていたが、その実戦投入はバトル・オブ・ブリテン時、ドーバー海峡沿岸のイギリス軍レーダー施設を攻撃したのが最初である。参戦の遅れたアメリカでは、自国産の戦闘機が大型であることを生かし、大戦初期の双発爆撃機並の爆弾搭載量を持った戦闘爆撃機を大量に投入した。

代表的な戦闘爆撃機

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

イギリスの旗 イギリス

ナチス・ドイツの旗 ドイツ国

大日本帝国の旗 大日本帝国

大戦後半になると、ドイツ空軍の戦闘機部隊は戦略爆撃への対処で手一杯になったこともあり、欧州の制空権はほぼ連合国のものとなった。アメリカおよびイギリスは制空戦闘任務の必要性が低下した戦闘機に小型爆弾ロケット弾を搭載して、制空権を持たないドイツ軍の地上部隊を攻撃した。いかに重厚な前面装甲を持つ戦車であろうと、上空や後部からの攻撃には無力であり、地上戦闘を前に多くの地上戦力がこれらの戦闘爆撃機によって破壊され、これをドイツ軍はヤーボ (Jabo)と呼び恐れた[3]

ジェット機時代(1970年代まで)[編集]

第二次世界大戦後には軍用機の大半がジェット化され、速度と搭載力が大幅に向上した。この頃の戦闘爆撃機には大きく分けて3種類の系統がある。

爆弾を投下するF-4
戦闘機としての用途が主、攻撃機・爆撃機としての用途が従
戦闘機として設計されたが、搭載余力を生かして爆撃能力を付加した機体である。
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
ソビエト連邦の旗 ソビエト連邦
搭載武装を前に並べたSu-24
戦闘機としての用途が従、攻撃機・爆撃機としての用途が主
戦闘機でありながら、本格的な爆撃機としての装備を付加した機体。そのため純粋な戦闘機としての能力は妥協している。
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
ソビエト連邦の旗 ソビエト連邦
日本の旗 日本
ただし、F-111の場合は、開発当初は長距離レーダーと長射程の対空ミサイルを搭載する機体として開発されたものの、結果として戦闘機としての使用が不可能な大型機となったもので、実際は純粋な爆撃機であり、戦闘機として運用されることは配備当初から考えられていない[4]。Su-24は当初から攻撃機として開発されており、自衛目的以外で空対空兵装を搭載することは運用上は考えられていないが、上述(#概要参照)の理由から戦闘爆撃機と呼称されていることが多く、西側の資料でも戦闘爆撃機として呼称・区分されるのが通例である。
また、日本のF-1に関しては、専守防衛の国是のために、攻撃機と呼ぶ事が忌まれたため、「支援戦闘機」と呼ばれた。
中小国で複数任務に使用した機体
アジアアフリカなどの中小国へ輸出され、戦闘機兼爆撃機として使用された機体。積極的に戦闘爆撃機として使われたというよりも、他に替える機体が無く両方の任務に使われた機体である。これらは兵器搭載量などから戦闘攻撃機と称される事も多い。
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
フランスの旗 フランス
イギリスの旗 イギリス
ソビエト連邦の旗 ソビエト連邦
イタリアの旗 イタリア
インドの旗 インド
イスラエルの旗 イスラエル

マルチロール機の登場(2000年まで)[編集]

機体構造や電子機器の面で高度化が進み、新しい軍用機の設計に膨大な経費が掛かるようになった。そのため殆ど全ての国で戦闘機・高等練習機・小型高速爆撃機などを同一の基本設計から製作するようになった。また、技術の向上により、戦闘機としても攻撃機・爆撃機としても高い性能を両立させる事が可能になり、従来のように機種を分けなくとも、双方の任務を無理なくこなす事が可能となった。

F-16
F-15E

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

イギリスの旗 イギリス/イタリアの旗 イタリア/ドイツの旗 ドイツ

スウェーデンの旗 スウェーデン

F/A-18は開発当初は戦闘機型と攻撃機型が別個に制式化される予定であったが、1機種で双方の任務をこなすことが可能だとして、名称は統合されて「F/A-18」となった。F-15Eは純粋な制空戦闘機として開発されたF-15の設計を基に戦闘爆撃機として再設計されたもので、基本的には対地攻撃任務専門の機体だが、原型のF-15と同等の空対空戦闘能力を保持している。


2000年代以降[編集]

1991年にソビエト連邦が崩壊し、それまで長く続いていた冷戦が終結し、21世紀を迎えて先進各国間での全面戦争が生起する可能性はほとんど無くなった。代わって、紛争地域へのNATO軍の介入が多くなったものの、かつてのベトナム戦争等のような空戦が発生することはなくなっていた。

事実、湾岸戦争においてはイラク軍機を多数撃破する戦果は挙げているものの、コソボ紛争イラク戦争における空戦による戦果は数機に留まっている事がその現れとも言える。この結果、制空権を巡っての大規模な空中戦は想定されなくなり、現在空軍に要求されるのは、大規模な空中戦での勝利ではなく、『敵空軍機が飛び立つ前に破壊する』『味方の地上部隊が到達する前に敵地上部隊を無力化する』ことが重視されている。

この結果『敵戦闘機を空中での戦闘で排除し、制空権を確保するための軍用機』(制空戦闘機)は必要性が低下し、1980年代後半からは、ほぼ全ての戦闘機が対空戦闘力は無論の事、地上への攻撃力を視野に入れた戦闘爆撃機(マルチロール機)が主流となっている。

F/A-18E
タイフーン

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

イギリスの旗 イギリス/イタリアの旗 イタリア/スペインの旗 スペイン/ドイツの旗 ドイツ

スウェーデンの旗 スウェーデン

日本の旗 日本

フランスの旗 フランス

ロシアの旗 ロシア

中華人民共和国の旗 中国


脚注[編集]

  1. ^ High-Low Mix.「高性能だが高価な大型戦闘機」(High)と「傑出した性能はないが比較的安価な中・小型戦闘機」(Low)の両方を調達・装備する(Mix)ことで、予算の圧迫を軽減しつつ数量的に十分な数を揃えた航空戦力を整備する戦力整備思想。
    なお、元来は航空戦力に対する用語として考えられたものだが、機甲部隊を始めとする陸上戦力や海軍戦力に対しても用いられることがある。
  2. ^ 海鳥カイツブリの異称だが、米海軍における急降下爆撃機を示す形容詞として用いられた。
    後に同じくカーチス社により開発された艦上急降下爆撃機、SB2Cにも“ヘルダイバー”の名がつけられている。
  3. ^ “ヤーボ”とは、ドイツ語の「ヤークトボンバー(Jagdbomber、戦闘爆撃機)」を縮めたもので、「Jagdflugzeug(戦闘機)」と「Bomber(爆撃機)」を合わせた略語である。
  4. ^ 後には戦略爆撃機戦力を保管するため、核兵器の運用に特化したFB-111も既存機の改修型として製作された。

関連項目[編集]