ドーピング

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ドーピング: doping)は、スポーツなどの競技で好成績を挙げるために薬物を投与したり、その他の物理的方法を採ったりすること。オリンピック競馬など全ての競技で使用が禁止され、違反行為となるものを指す。

ドーピングを試みる者は、短期的な「効果」が得られるその主作用にばかり着眼するが、短期から長期に及ぶ副作用が心身に悪影響を与えることが知られており[1]、単に競技の公平性を担保する目的のみならず、競技者等の安全も目的としてドーピングは禁止されている。

目次

[編集] 語源

「ドーピング (doping)」は、英語dope英語発音: /ˈdoup/ ウプ)に由来する動名詞であるが「dope」の語源は諸説ある。最も一般的に知られている説は、南アフリカの原住民が儀式舞踊を演じる際に飲用していたとされる「dop」というアルコール飲料に由来するというものである[2]。なお、dop を「カフィール族という部族特有のもの」とする説[3]が広まっているが、これは俗説である。カフィール(Kaffir)とは、英国統治下の南アフリカにおいて英語に輸入された言葉で、現地の先住民(すなわち黒人)を指す蔑称・差別用語。かつて日本でも「アフリカ黒人」という意味で差別的に「カフィール族(または赤色人種)」と呼ぶことがあった[4]が、実際のところカフィール族という部族が存在しているわけではない。またアフガニスタン国境沿いの地域(カフィリスタン)に住む非ムスリムの少数民族(カフィール族 Kafir ※正式名称はヌリスタン族)とも全く無関係である。しかし、同じ名称が付けられているのは偶然ではなく、どちらもアラビア語で「異教徒」を意味する kāfir(كافر)に由来している[5]

もう一つの説は、オランダ語で「濃いディッピングソース」を意味する doop に由来するというもの[6]。この単語が米語に輸入され、様々な変遷を辿った上で「競技上のパフォーマンスを向上する目的で作られた薬剤の調合」という現在の意味になったという。ちなみに、当初は「麻薬(曼陀羅華の種子と混ぜた煙草の煙)を用いて相手を朦朧とさせた上で盗みを働くこと」を意味するスラングであった。

[編集] 対象

[編集] 人間

ドーピング禁止薬物の中には、アルコールカフェインのように、法律上服用が許容され、さらに、市販の医薬品のみならず通常の飲食物にさえ含有されているものも多い。また、ドーピング検査による禁止薬物の検出を隠蔽するため、別の薬品を使用することもドーピングとみなされている。(なおカフェインについては、2004・2005年禁止リストで禁止物質から除外され、監視プログラムに移行した。[3]

持久力を高めるエリスロポエチンなどのように、もともと体内に存在する物質であるため検査が難しいものも多い。

競技成績向上のために薬物を使用するのは最近の風潮というわけではなく、競技者は数世紀にわたって様々な薬物を使ってきている。

また、近年、ドーピング指定薬が多くなるなど一層の厳格化が進んでいるが、その中で一部の効果の高い風邪薬や解熱剤、市販の医薬品でさえ禁止薬物に指定されうるなど、選手の体調管理が非常に難しくなっているという問題もある。実際に、シドニー五輪では女子体操のアンドレーア・ラドゥカンから市販風邪薬にも含有される薬物が検出され、金メダルを剥奪される事態となった。この様な状態を指して、極論ではあるが、「スポーツ選手は人ごみに近づくことすらままならない」と揶揄する者もいる[誰?]

また、ドーピング騒動が繰り返されることで競技全体の公正への信頼性に疑念を抱かれ、純粋にプレーする選手にすら冤罪や疑惑の可能性がつきまとうなどの弊害も出てきている。実例としては陸上競技の男子ハンマー投があり、オリンピックではアテネ北京の2大会連続でメダル獲得選手にドーピング問題が発生したが、これを受けてのハンマー投競技関係者のコメントは、繰り上がりでメダルの対象になる選手がいる国の関係者ですら、喜びではなく、競技への信頼性が損なわれることを懸念する声が並ぶ状態となった。

[編集] 動物

古代ローマ戦車競走にアルコール発酵させた蜂蜜を与えたり、敵の馬に薬物を与えたりしたという。世界初のドーピング検査は1911年、オーストラリア競馬協会がロシアに依頼したもので競走馬の唾液アルカロイドが検出されたという。当時は競走馬、競走犬で問題であった。1930年代からドーピング検査体制が整う。

現在は薬品によってはドーピングの対象となるかどうかについて国によって異なる判断がなされる場合もあるため、競走馬が海外遠征をした際に、遠征元の国では禁止されていない化学物質が遠征先の国で禁止薬物として検出され、処分が下されるケースもある。競走馬に対するドーピングの詳細については競走馬を参照されたい。

[編集] 禁止薬物

[編集] 人間

運動選手の間で用いられるドーピング薬剤で最も一般的なものは、アナボリックステロイドや以下の成分が主を占めており、これらの成分の他にも、市販の医薬品や処方箋でさえドーピング検査で引っかかる危険がある。[7]

IOCFIFAWADAに沿って以下が禁止事項とされている。

[編集] 競馬

[編集] 検査

現在のドーピング検査としては、競技後、上位に入賞した選手(あるいは出場の全選手)から尿血液を採取して検査される(ビールをコップ1杯飲み、尿意を催したら採取するという方法が一般的。ビールには利尿作用がある)が、近年の遺伝子治療技術の発展により、新たな種類のドーピング「遺伝子ドーピング」につながるのではないかとの懸念が広がりつつある。この新種のドーピングは理論上、検出が非常に困難であり、長年にわたって不正利用が続けられる可能性がある。世界アンチ・ドーピング機構(WADA; World Anti-Doping Agency)は、遺伝子治療がドーピングの新たな手段となる前に、そのドーピング行為を発見するための研究を続けている。「遺伝子ドーピング」の場合、特殊な酵素やタンパク質、ホルモンを産出する遺伝物質を生体に導入する方法と、特殊な能力を秘めた遺伝子を生殖細胞系列に組み込むオプションがあるが、昨今問題視されているのは前者の「特殊な酵素やタンパク質、ホルモンを産出する遺伝物質を生体に導入する方法」である。

ドーピングは、あらゆる競技に対する、卑劣な不正行為とみなされている。筋力などの向上で不正に記録が塗り替えられるだけでなく、選手の健康に対する脅威にもなる。ドーピングの副作用である健康への害を起こす症状は、現役を引退するまで出ないことも多い。そしてドーピング行った選手や、それを黙認した関係者には何らかの権限を持つ機関によって、無期限の出場停止(永久追放)や罰金などの処分が科せられる。これは、不正使用であっても、処方薬さらには麻酔薬である場合、すなわち医学上の必要があってやむなく使用された場合であっても同様となる。

米ナショナルフットボールリーグ(NFL)と選手会は、来季からドーピング検査に関する基準を引き上げることに合意したと2007年1月24日に発表した。主な基準引き上げ点は、持久力のあるエリスロポエチン(EPO)を新たに検査対象に加える、シーズン中に毎週行われる検査の対象の人数が各チーム7人から10人に増やす、陽性反応を示した選手に対する罰則も強化し、出場停止期間中の年俸に加えて契約金の一部も剥奪する、などがある。

その一方、ドーピング検査は選手生命そのものを左右する重大な決定を行う資料として用いられるために、検査する側においてもこの正確さと公平性が厳しく問われる。検査する側、もしくはライバル選手と関係者が不正や工作を働く余地のないよう様々な手段が講じられている。例えば、尿検査の際は尿を採取するコップを複数の選択肢の中から選ぶ権利を被験者に与えるなどの手順が定められていると考えられる[4]。他にはもし禁止物質が検出されても、検体を分析機関に運搬する際に、運搬員が間違って検体を包んでいた袋を開封したといった些細な手続きの不備が判明した場合、被験者の利益を最優先し、検査結果を無効とし再検査を実施するなどの処置が講じられる[5]

[編集] 日本におけるドーピング問題

日本におけるドーピング問題は、近年まであまり問題視されることはなかったが、同時に禁止薬物についての認識が薄いという問題もあった。1984年ロサンゼルスオリンピックでは、男子バレーボール選手が風邪薬として服用した漢方薬に禁止薬物の成分(興奮剤)が含まれていたことが検査で発覚した。このときはトレーナーが薬を手配し本人にその認識が全くなかったことからトレーナーには処分が下されたが、選手本人は免除されている。

日本においては1985年の神戸ユニバーシアードが契機となり、国内に初のドーピング検査機関が設けられた(現在は三菱化学メディエンスが唯一検査業務を担っている)。ドーピング問題はこれまでの所、さほど深刻なものとなってはいないが、それでもドーピングで出場停止を課される選手が散発的に出ている。

[編集] 国内競技における規制の進展

これまでドーピング検査が行われてこなかった大相撲では2009年よりドーピング検査が導入される予定で、その前段階として2008年9月に力士会においてドーピング検査を行っている(その際、一部力士から薬物反応が検出されている)。

かつて、プロ野球では試合前に飲酒して出場したようなケース(今井雄太郎など)があったが、現在は試合前の飲酒は規制対象となっている。またSUPER GTにおいては夏場の車内温度が60度以上にも達するためにドライバーの多くがレース前に脱水症防止策として点滴を行っていたが、これも2008年以降はドーピングの対象となり禁止されている。

最近はジュニア期からドーピング意識を持ってもらう目的も含め、全国高等学校総合体育大会でもドーピング検査が行なわれている。

[編集] IOCにおけるドーピングへの対応

IOCは以下のようなブラックリストを作成している。

第1種ブラックリスト

次のような行為を犯したものに対しては記録およびメダル等を剥奪し、IOCの第1種ブラックリストに登録され、登録された選手および関係者は永久追放処分とし、理由を問わず生涯除外されない。

  • ドーピング検査を組織的に不正操作もしくは替え玉行為またはそれらの疑惑が発覚し、再検査を拒否し続けた場合(開催国からの国外逃亡も含む)。
  • 意図的に組織ぐるみで行われていたと確証があった場合。
  • 過去にドーピングの前科があり、常習犯と認定された場合。
  • その他IOCの審査により第1種ブラックリストに登録した方が適切だと認定された場合。

第2種ブラックリスト

IOCの第2種ブラックリストの登録はドーピング検査で陽性反応または検査拒否を犯したものに対しては記録およびメダル等を剥奪し、IOCの第1種ブラックリストの対象外であることを条件に、登録された選手および関係者は無期限の出場停止期限付きの出場停止懲役刑または罰金刑追加処分保留などがあり、処分完了後は除外される。但し懲役刑または罰金刑に関してはIOCの審査により第2種ブラックリストに登録される可能性がある。

[編集] ドーピングの法的問題

覚せい剤などの違法薬物の使用や、医師等の処方が必要な管理薬物の不正入手などによる場合はむろん例外であるが、一般に医師等により処方された薬物を自分自身に投与することは、たとえそれが本来の目的外の使用であり、結果として健康に良くない行為であったとしても個人の自由の範疇にあるかぎり違法性を問うことは難しい(愚行権)。しかし現実にはプロスポーツやオリンピックなどの公的大会では、選手が自己の意思により正当な手続きを経たものであったとしても、ドーピングはその行為をもって大会参加や入賞資格の剥奪理由とされ、あるいは解雇の対象とされる。この場合、他者危害の原則(他人に危害を加えない限り自己のことは自己で決定する権利を持つ)を逸脱した(かのように見える)ドーピング規制が現実の財産権の侵害(解雇など)や名誉の毀損(タイトル剥奪など)をもたらすことになり、このばあいドーピング規制の倫理的・法的根拠が問題となる。

加藤尚武は3つの面からドーピング規制を説明する。第一は競技ルールの点で、ドーピング自身は自己危害の範疇でありその使用が法律上禁止されていなくても、スポーツのルールとして禁止することを妨げるものではない。第二は選手の健康を現実に損なうことである。第三はドーピングが個人の自由と権利を損なうことである。勝利と名誉のために副作用を受けても良いという選手がいたとしても、それは近代社会が保障しようとする自由や権利を逸脱している。ドーピングしないで真面目に練習に励み、競技に挑んでいる他の選手の正当な自由と権利を踏みにじり、規則を破ってまで求めようとする身勝手な「自由」と「権利」は受け入れられるものではなく、否定し排除されるべきものである。特に第三点については「みなドーピングを使えば良い」「ドーピング使用者と不使用者を区別すればよい」なるドーピング容認論がありえるとし、そのうえで第一第二の危険性を考慮したうえでも「使ったもの勝ち」の不公平が重大であり「正直者が損をする」ことがないように倫理命法として「ドーピングの禁止を徹底することによって正直者が損をする不公正を防ぐべきだ」は正当性をもつとする[8]

米国では2004年にアナボリックステロイド禁止法が制定され、ドーピング使用が違法化された[9]

[編集] ドーピング事件

スポーツと薬物とのかかわりは紀元前からのものである。古代オリンピックにもあぶった牛の骨髄のエキスを飲む、コカの葉を噛むなど、天然由来の薬物を摂取した選手たちの記録が残っている。

  • 2009年10月22日、プロ野球・中日ドラゴンズ吉見一起投手に対し、日本プロ野球組織医事委員会が反ドーピング規定に抵触する可能性があるとして、東京都内で本人に事実確認をし、23日に球団にカルテなどの資料の提出を求め、詳細に検討する意向を示した。これは中日新聞が同年10月22日付で、吉見がインタビューで、「今年7月途中から、登板前後にナゴヤドーム内の医務室で30分程度の時間をかけ、点滴を受けていた。」と答えた『吉見 決戦に備えニンニク注射』という記事を掲載したことによるものであり、即日NPB側が事実確認に乗り出したものである。[11]。この一件はクライマックスシリーズ直前の、しかもWBCにおける原監督と落合監督の因縁の対決ともあり、マスコミは大々的に報道した。その後同席した球団代表が「問題ないと思っている。正当な医療行為だと証明する。」と発表。24日、NPB側が調査の結果、「医学的に正当な治療行為の範ちゅうにある。複数回行われていたが、日常的に行われていたわけではない」と違反はなかったとの判断を示した。[12]

[編集] 脚注

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  1. ^ 愛甲猛は、1995年から引退までの約5年間、ホルモン剤の「アンドロステンディオン」を使ったという経験を次のとおり述べている(週刊新潮2009年7月23日号)。
    「薬を使ったトレーニングの効果」として、「とにかくすべての力、体力、持久力、精力が異常に強くなり…」と、副作用に関して「引退(2000年)の2年前から激しい動悸が起きるようになって、量を減らして…」、「引退から3カ月ばかり経ったころ、…(病院で)『静脈血栓』と診断され、即入院を言い渡された…」
  2. ^ Verroken Baillière’s (2000) Clin Endocrinol Metab; 14: 1–23. cited by A. J. Higgins (2006) From ancient Greece to modern Athens: 3000 years of doping in competition horses Journal of Veterinary Pharmacology and Therapeutics V 29 I s1 Pg 4-8.
  3. ^ 『新・ドーピングってなに?』(日本水泳連盟、1996)など他多数
  4. ^ 大杉栄『奴隷根性論』他
  5. ^ かつてアラブの交易商人たちが非ムスリムであるアフリカ黒人を「異教徒」と呼んだことに由来する(Wikipedia英語版 Kafir の項目より)。
  6. ^ Barnhart (2003) In Chambers Dictionary of Etymology. ChambersHarrap, Edinburgh. ited by A. J. Higgins (2006) From ancient Greece to modern Athens: 3000 years of doping in competition horses Journal of Veterinary Pharmacology and Therapeutics V 29 I s1 Pg 4-8.
  7. ^ 蛋白質同化性ステロイド(筋肉増強剤)(Anabolic Steroids)
  8. ^ 「合意形成とルールの倫理学」加藤尚武(2002年)P.88~。直接はここから引用[1]
  9. ^ Anabolic Steroid Control Act of 2004[2]
  10. ^ ドーピングが厳しく検査されるようになる前と後では、メダル獲得数に明らかに差が見られる。ただし、ドーピングに対する規制強化が謳われた時期は偶然にもソ連崩壊や東欧の民主化が進展しており、これに伴い国内が混乱していたこと、急激な資本主義化により国家レベルによる選手の育成が図られなくなったことに留意する必要がある。
  11. ^ 疑惑の最多勝投手中日吉見のドーピングを親会社中日新聞が堂々と記事に Pop Up 2009年10月23日付
  12. ^ NPB、中日・吉見に違反なしの判断下す サンケイスポーツ 2009年10月24日付

[編集] 参考文献

  • カール‐ハインリッヒ ベッテ、ウヴェ シマンク 木村真知子 訳 『ドーピングの社会学―近代競技スポーツの臨界点』 不昧堂出版 ISBN 4829304057
  • 高橋正人、河野俊彦、立木幸敏 『ドーピング』スポーツの底辺に広がる恐怖の薬物 ブルーバックス 講談社 ISBN 4062572990
  • 北浦伸一 「バルクアップⅠードーピングマニュアル」ナユタ ISBN 9784990363802 ブログhttp://pump.mo-blog.jp/asuran/

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

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