崖の上のポニョ
崖の上のポニョ | |
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Ponyo | |
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監督 | 宮崎駿 |
脚本 | 宮崎駿 |
原作 | 宮崎駿 |
製作 | 鈴木敏夫 |
出演者 |
奈良柚莉愛 土井洋輝 山口智子 長嶋一茂 所ジョージ 天海祐希 矢野顕子 柊瑠美 羽鳥慎一 平岡映美 大橋のぞみ 左時枝 奈良岡朋子 吉行和子 |
音楽 | 久石譲 |
主題歌 |
『海のおかあさん』林正子 『崖の上のポニョ』藤岡藤巻と大橋のぞみ |
編集 | 瀬山武司 |
制作会社 | スタジオジブリ |
製作会社 |
日本テレビ 電通 博報堂DYMP ディズニー ディーライツ 東宝 |
配給 | 東宝 |
公開 |
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上映時間 | 101分[1] |
製作国 |
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言語 | 日本語 |
製作費 | 34億円 |
興行収入 | 155億円 |
『崖の上のポニョ』(がけのうえのポニョ)は、スタジオジブリ制作の長編アニメーション映画。監督は宮崎駿。宮崎の長編監督作品としては2004年の『ハウルの動く城』以来4年ぶり、原作・脚本・監督のすべてを担当するのは2001年公開の『千と千尋の神隠し』以来7年ぶりの作品。
海沿いの街を舞台に、「人間になりたい」と願うさかなの子・ポニョと5歳の少年・宗介の物語。
キャッチコピー[編集]
- 生まれてきてよかった。
- 子どもの頃の約束は、永遠に忘れない。(テレビで短期間のみ用いられたコピー)
- 半径3m以内に 大切なものは ぜんぶある。 -宮崎駿-(アサヒ飲料 三ツ矢サイダーのCMコピー)
あらすじ[編集]
魚の女の子ポニョは、海の女神である母と魔法使いの父に育てられている。ある日、家出をして海岸へやってきたポニョは、空き瓶に頭が挟まっていたところを、保育園児の宗介に助けられる。宗介は魚のポニョが好きになり、ポニョも宗介が好きになる。ところが、ポニョがいなくなったことに気づいた父に追いかけられて捕まり、ポニョは海底に連れ戻されてしまう。
ポニョの父は、海底にある家の井戸に、"命の水"を蓄えていた。その井戸が一杯になると、忌まわしき人間の時代が終わり、再び海の時代が始まるのだという。ポニョは、宗介に会うために家から逃げ出そうとして、偶然に、その井戸へ海水を注ぎ込んでしまう。すると命の水はポニョの周りに溢れ出し、ポニョは人間の姿へと変わる。強い魔力を得た彼女は激しい嵐を呼び起こし、津波に乗りながら宗介の前に現れて、宗介に飛びついて抱きしめる。宗介は、女の子の正体が魚のポニョであるとすぐに気づいて、彼女が訪れたことを嬉しがる。
一方、ポニョの父は、"ポニョが世界に大穴を開けた"と言って、このままでは世界が破滅すると慌て出す。しかし、ポニョの母は、ポニョを人間にしてしまえば良いのだと夫に提案する。古い魔法を使えば、ポニョを人間にして、魔法を失わせることができるのだ。だが、それには宗介の気持ちが揺らがないことが条件だった。さもなくば、ポニョは泡になってしまうという。
嵐が落ちつくと、宗介の母は、彼女が勤めている老人ホームの様子を見に出かけていく。翌朝、ポニョと宗介が母の後を追うと、途中でポニョは眠り出し、魚の姿に戻ってしまう。そこへやってきたポニョの父が、二人を海底に沈んでいる老人ホームまで連れて行くと、そこには宗介の母とポニョの母が待っていた。
ポニョの母は、宗介が心からポニョを好きなことと、ポニョが魔法を捨てても人間になりたいことを確かめて、ポニョを人間にする魔法をかける。ポニョと宗介が陸に戻り、キスをすると、ポニョの姿は5歳の女の子に変わるのだった。
キャラクター[編集]
- ポニョ
- 声 - 奈良柚莉愛
- 魚の女の子[2]。本名は「ブリュンヒルデ」[3]。フジモトとグランマンマーレの娘。外界に強い興味を持ち、フジモトの目を盗んで家出を試みるが、運悪くジャムの空き瓶に嵌って困っていた所を宗介に助けられ、ぽにょっとした体型から「ポニョ」と名付けられる。当人はいたく気に入った様で、以後はこの名で通している。
- トキからは「人面魚」と呼ばれる。先述のジャムの瓶を割って指先を切った宗介の血液(傷口)を舐めて半魚人になる力を得、一度はフジモトに抑えられるが(グランマンマーレの血を引いているため魔力は強力で、元に戻すために大きな力を費やした)珊瑚の塔からの脱走の際に、深奥部の井戸の「生命の水」を浴びて、人間への変身が可能となった。魔法を使うと、体力を急激に消耗して半魚人に戻ってしまい眠ってしまう。幼いため言葉がややたどたどしい。
- 最初に宗介に食べさせてもらったハムが大好物で、宗介の弁当や差し入れでのサンドイッチでもハムだけを真っ先に食べるほど。人語を解し、バカにされると相手に水鉄砲を放つ(ただし、宗介に対しては愛情表現である)。
- 宗介(そうすけ)
- 声 - 土井洋輝
- 保育園「ひまわり園」に通っている、おかっぱ頭の5歳の少年。明るい性格で正義感が強く、崖の下で出会ったポニョを守ろうと奮闘する。
- 実の両親(リサ、耕一)を呼び捨てで呼ぶ(ポニョと同じ、また両親のほうも呼び捨てられることをなんとも思っていない)。
- 5歳児にしては様々な知識を持ち合わせており、古代魚の名前を言えたり、モールス信号を使って航行中の船舶に信号を送るなどの技能を身につけているようだが、海に金魚が生息していないことを知らないなど、その知識には偏りがある。
- 名前は、夏目漱石の小説『門』の主人公「崖の下の家にひっそりと暮らす野中宗助」から取られていると言う[4][5]。
- リサ
- 声 - 山口智子
- 25歳。耕一の妻で、宗介の母。宗介と耕一から「リサ」と呼ばれている。保育園の隣にあるデイケアサービスセンター「ひまわりの家」で働く。「リサ・カー」と呼ばれる軽自動車(三菱・ミニカトッポ)で、海沿いのワインディングロードを駆け抜ける。スーパーでの買出しの大荷物を軽々と持ち上げる力持ちで、無鉄砲な所もあるが、優しい性格。夫婦仲は良好でそれだけに、夫が帰れなくなると不貞寝したり、信号灯のモールス信号で罵倒したりすることもある。
- 耕一(こういち)
- 声 - 長嶋一茂
- 30歳。リサの夫で、宗介の父。宗介とリサから「耕一」と呼ばれている。内航貨物船「小金井丸」船長。仕事柄、家を留守にしていることが多いが、家族を愛しており、宗介を自慢の息子と思っている。
- フジモト
- 声 - 所ジョージ
- ポニョの父。かつては人間だったが、人類の破壊性に愛想を尽かし、現在は海の眷属(けんぞく)として生きる魔法使い。自身の経験からポニョの人間界への興味に反対を示しており、ポニョおよびポニョの妹達には反抗心を持たれている。海中では自作の潜水艦「ウバザメ号」を駆り、水魚などの魔物を操る力や、水棲生物を除ける結界を張る能力を持つ。生物によって張る結界が異なり、作中ではカニ除けの結界が切れたことにより彼らの進入を許していた。海底にある珊瑚で出来た塔に住み、クラゲなど海棲生物の増殖を行っている。1907年前後から[6]、魔法で海水を浄化・精製した「生命の水」の抽出を開始し、珊瑚の塔の内部にある井戸に貯蔵している。フジモトは「生命の水」の力を使ってカンブリア紀のような「海の時代」の再来を夢見ていたが、ポニョにより「生命の水」をすべて奪われてしまった。さらにはポニョ自身が取り込んだ魔法をどんなものか分からないまま見境なく使用したせいで月と地球が接近し、人工衛星の落下や潮汐力増大に伴う津波が発生したことから、混乱の解決に奔走することになった。
- 鼻は高く、ポニョと同じく髪は赤毛で、スマートな長躯の持ち主である。皺が多く、珍妙な化粧をしている。海中、陸上問わず、ストライプの入ったジャケットを着こなし、時に上着をマントのように羽織っている。珊瑚の塔の室内には複数のジャケットが吊るしてあり、本編内でも複数の柄のジャケットを着用している。実の娘のポニョからは「悪い魔法使い」呼ばわりされることもあるが、「ひまわりの家」の老人たちからは悪い人ではないと評されている。元々は人間だったため陸上でも活動出来るが、肌の乾燥を防ぐため海洋深層水を周囲に散布する。しかし、リサには庭に除草剤を蒔き散らす変人と思われるなど、不審者に間違えられることもある。海中では窒息を防ぐため、頭部をマスクのような泡で覆っている。
- グランマンマーレとの間にはポニョら娘達を多くもうけた。しかし、「海なる母」としての存在であるグランマンマーレをフジモト一人が独占することは許されないため[6]、止むを得ずグランマンマーレと離れ離れに暮らしており、ポニョら子供達を男手一つで育てている。
- 若い頃は『海底二万里』に登場する潜水艦「ノーチラス号」にて唯一の東洋人乗組員として働いていたが、グランマンマーレに出会い恋に落ちて結ばれ、海棲生物を育てる魔法使いになったとされている[6]。なお本編中では、人間を辞める際の苦労を振り返る発言があるが、魔法使いになる迄の前歴を示す描写はない。
- 終盤では人間の優しさによって改心して、宗介とポニョに謝罪した。
- グランマンマーレ
- 声 - 天海祐希
- ポニョの母で、フジモトの妻。フジモトにとって頭が上がらない存在である。公式設定では海なる母とされており、海全体の女神のような存在。海中での光り輝く姿を見た船員らからは「観音様」と呼ばれていた。大きさを人間大から大型船超まで自由自在に変えることが出来ていて、ポニョ曰く「とても怖い」。神であるため、美しい容貌のまま何時までも歳を取らない。フジモトとは対照的にポニョの人間への興味を支持しており、ポニョからもよく慕われている。ポニョは彼女の血を引いているため、強い魔力を持っている。
- ポニョの妹達
- 声 - 矢野顕子
- 百匹近くもの数がいて、姉のポニョを慕っている。ポニョが解放した「生命の水」の力で巨大魚に変化する。
- 水魚
- 声 - 所ジョージ
- フジモトが操る魔物。一見するとただの波のようだが、目が2つあり自分の意思を持つ。フジモトの命により、ポニョを連れ帰った宗介を監視したり、フジモトを自らの背に乗せることも出来る。その姿は子供にしか見えないとされている。
- 声のキャストはフジモトと同じく所ジョージが務めた。
- トキ
- 声 - 吉行和子
- 「ひまわりの家」の利用者で、電動車椅子に座っている。他の住人と異なり、憎まれ口を叩いてばかりいるが、根は優しい。
- 宮崎駿の母がモデルとされている(前出「プロフェッショナル」など)。水が怖いらしく、ポニョに最初に出会った時、「人面魚だ、津波が来る」といい、「人面魚」とバカにされて怒ったポニョに水をかけられてしまった。しかし、終盤では克服して水に当たっても我慢して、宗介とポニョを守った。
- ヨシエ
- 声 - 奈良岡朋子
- 「ひまわりの家」の利用者。トキと同じく車椅子に座っている。宗介を実の孫のように可愛がるなど心優しい老人。
- カヨ
- 声 - 左時枝
- 「ひまわりの家」の利用者で、ヨシエと一緒に行動することが多い。若いころはキャリアウーマンだったらしい。
- 婦人
- 声 - 柊瑠美
- ポニョと宗介が出会った子連れの女性。昭和30年代風の古風な出で立ちで、おっとりとしている。
- アナウンサー
- 声 - 羽鳥慎一(日本テレビアナウンサー〈当時〉)
- テレビのニュース番組で、緊急の気象情報(台風)を伝える。
- クミコ
- 声 - 平岡映美
- 「ひまわり園」の園児で、宗介の女友達。勝気でおしゃまな女の子でおしゃれが大好き。しかし、ポニョとは気が合わない。中盤辺りでバカにされた事に怒ったポニョが顔面に向かって水をかけ、せっかくの新しい服がびしょ濡れになったため、大声で泣き出した。洪水になった時はすでに立ち直っていて、宗介が乗ったポニョの魔法で巨大化したボートに乗りたがっていた。
- カレン
- 声 - 大橋のぞみ
- 「ひまわり園」の園児。いつもぼーっとしている女の子。
- その他の声優
- 竹口安芸子、山本与志恵、片岡富枝、田畑ゆり、佐々木睦、山本道子、金沢映子、斎藤志郎、石住昭彦、田中明生、脇田茂、つかもと景子、山本郁子、沢田冬樹、渋谷はるか、川辺邦弘、手塚祐介、柳橋朋典、塚本あい
スタッフ[編集]
- 原作・脚本・監督:宮崎駿
- プロデューサー:鈴木敏夫
- 制作:星野康二
- 音楽:久石譲
- 作画監督:近藤勝也
- 作画監督補:高坂希太郎、賀川愛、稲村武志、山下明彦
- 作画協力:アニメトロトロ、中村プロダクション、スタジオたくらんけ、スタジオコクピット、動画工房、GONZO、ブレインズ・ベース、竜の子プロダクション、スタジオカラー
- 原画:田中敦子、山田憲一、芳尾英明、山森英司、二木真希子、大塚伸治/小西賢一、本田雄他
- 美術監督:吉田昇
- 美術監督補:田中直哉、春日井直美、大森崇
- 背景:伊奈涼子、平原さやか、福留嘉一、武重洋二/男鹿和雄他
- 色彩設計:保田道世
- 編集:瀬山武司
- 整音:井上秀司
- 録音演出:木村絵理子
- 指揮・ピアノ演奏:久石譲
- 演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団
- ヴォイス:麻衣
- コーラス:栗友会合唱団
- 特別協賛:アサヒ飲料
- 特別協力:ローソン、読売新聞
- 製作担当:奥田誠治、福山亮一、藤巻直哉
- 制作:スタジオジブリ
- 配給:東宝
主題歌が流れるエンドロールでは「このえいがをつくった人」として全出演者とスタッフの名前が50音順に表記されている。役名や肩書きなしに氏名だけが表記され、誰が何を担当したのか判らないという珍しい作りで、最後は「スタジオジブリ」「おわり」となっている。この様式は後のジブリ作品である『借りぐらしのアリエッティ』でも採用されている。なお、オープニングではキャスト・スタッフの内の代表的な人物数人のみであるものの、担当した業種も添えて氏名がテロップで表示されている。
主題歌[編集]
- 「海のおかあさん」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)
- 作詞 - 覚和歌子 / 宮崎駿(覚和歌子「さかな」より翻案) / 作曲・編曲 - 久石譲 / 歌 - 林正子
- 「崖の上のポニョ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)
- 作詞 - 近藤勝也 / 補作詞 - 宮崎駿 / 作曲・編曲 - 久石譲 / 歌 - 藤岡藤巻と大橋のぞみ
- 主題歌は公開よりも半年以上も前となる2007年12月5日に異例の先行発売となった。8歳の子役大橋のぞみと、「2人のおじさん」こと藤岡藤巻とが歌う。曲は久石の作曲・編曲。
- 2007年12月の主題歌発表会見では、海を描くのが大変で、制作がだいぶ遅れていると言い、宮崎も不機嫌であった。しかし、主題歌を聞いて「のぞみちゃんの無垢なるものの力に打ちのめされました(笑)」と顔をほころばせた[7]。宮崎は「この曲がエンディングで流れて、気持ちにギャップが生まれないようなハッピーエンドを描く責任がある」と決意した。
作品解説[編集]
モチーフ[編集]
本作はハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話『人魚姫』(1836年発表)をモチーフとした作品とされている[8]。しかし、『人魚姫』をそのまま原作としては使用しておらず、宮崎は「キリスト教色を払拭」[8]するとしたうえで、舞台を現代の日本に移すなど大きな変更を行っている。ただ、ヴェネツィア国際映画祭での記者会見では、宮崎から「製作中に『人魚姫』の話に似ていると気付いたものの、元来意図的にベースとしたわけではない」という旨の発言も出ている。
なお、同記者会見において宮崎は、ポニョ発想のルーツを質問され「9歳の頃初めて読んだ文字の本がアンデルセンの人魚姫であり、そこにある『人間には魂があるが、人魚は"物"であり魂を持たない』という価値観に納得が行かなかった事が、遡ればポニョの起点なのかもしれない」と答えている[9]。
世界観[編集]
本作は、ストーリーの起承転結が明確になっておらず、ほとんど伏線が存在しない。天変地異が起こっても詳しく理由が説明されることなく、全体的に消化不良のまま物語が収束するなど「スピード感と勢い」を重視しており、ファンタジーと現実社会が入り混じったストーリー構成となっている。この点について、宮崎は「ルールが何にも分からなくても分かる映画を作ろうと思った」「順番通り描いてくと、とても収まらないから思い切ってすっ飛ばした」「出会って事件が起きて、小山があって、最後に大山があってハッピーエンドというパターンをずっとやってくと腐ってくる、こういうものは捨てなきゃいけない」と話している[10]。
完成までの経緯[編集]
作画方法の見直し[編集]
『ハウルの動く城』完成の後、しばらく宮崎が構想を練っていたものを、ジブリスタッフを伴っての制作が2006年10月に始まった。元々は今まで通りの手法で作る予定であったが、制作前にイギリスのテート・ブリテンで鑑賞したジョン・エヴァレット・ミレーの絵画、「オフィーリア」に感銘を受け、改めて作画方法について見直すことになる。
その後、宮崎が「紙に描いて動かすのがアニメーションの根源。そこに戻ろうと思う。もう一遍、自分たちでオールを漕ぎ、風に帆を上げて海を渡る。とにかく鉛筆で描く」という意向を固め、コンピューター(CG)を一切使わず、手書きによって作画されることとなった(ただし作画以降の彩色・撮影はデジタル)。作画にコンテを使うなど、絵のタッチは素朴なものになり、これまでのジブリと違った新しい試みになっていると鈴木敏夫は話している。特に海(波)の描写に力を入れているという。
その一方でジブリの背景美術たちはすごく暇になったため『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』は半分近く描いてもらったと押井守は発言している[11]。
構想段階[編集]
構想段階では、宮崎が中川李枝子の作品が好きであったために「崖の上のいやいやえん」らしいものを作ろうと考えていた。作品を作るにあたり「人魚姫」や「雪女」「安珍・清姫」などの民間伝承、童話などに数多くにある変態過程の描写と背景が「淡白」に描かれていることを踏まえ、そこを重点にしてポニョの変態過程を構成させた。
海を舞台にした作品は、宮崎がいつか描きたいと長年夢見てきたが、「波を描くのが大変」という理由で、それまで踏み切れずにいた。2004年11月にスタジオジブリの社員旅行で訪れた瀬戸内海の港町である広島県福山市の鞆の浦(とものうら)を非常に気に入り、準備として2005年の春、鞆の浦の海に隣した崖の上の一軒家に2ヶ月間滞在し、さらに2006年夏、単身でこもった[12][13][14][15]。本作の構想もこの時に練り[12][13][14][16]、自身を極限に追いつめる鬼気迫った姿がNHKで放送された[15]。2ヶ月間滞在では、瀬戸内と関東の屋根瓦との違いや、太平洋との波の違いに特に興味を引いた[13]。この宮崎の行動に対し、妻の出した条件は「生きてる証拠として、毎日絵手紙を出すこと」だったという。
三鷹の森ジブリ美術館で上映されている宮崎の短編監督作『くじらとり』『水グモもんもん』『やどさがし』などからも影響も受けているという[17]。
設定のみの『崖の上のポニョ』[編集]
宮崎が劇場公開以前に描いた初期ボードのポニョの姿は本作と異なっており、カエルのような姿をした魚という設定になっていた。人間姿のポニョの髪や衣装も全く異なっている。
ポニョが1人で宗介の家までたどり着き、宗介とリサの前に玄関で迎えられるという設定になっているが、本作の場面には描かれていない。その他にもポニョが宗介が描いたポニョの似顔絵を見つけて驚いたり、ポニョが宗介にぶたれて泣いたり(『となりのトトロ』のメイが泣いたシーンとよく似ている)、ポニョが宗介と一緒に海の中を泳いだり、ポニョが人間のままグランマンマーレの「魔法が使えなくなりますよ」という話を聞いて快く頷いている場面が設定されていたが、すべて没となった。
試写会、初日[編集]
一般公開前にスタジオ内にある映写室で、スタッフや知人の子供を集めて試写を行うも、子供達の反応は鈍く、宮崎は不安を抱えたまま公開日を迎える。本作の公開に合わせ、「公開カウントダウン「崖の上のポニョ」に秘められた謎」がPR番組として日本テレビ系列で2008年7月15日から18日まで放送された(後述)。
宮崎と親交の深い押井守監督の『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』と時を同じくして公開されるのは鈴木敏夫が同時に公開しようと提案したため。鈴木は「かたや空、かたや海、時を同じくして似たようなのが出てくる。歩みは違ってもなんだかんだでずっと接点がある押井守との友情です」と語る[18]。
東京の日比谷スカラ座での初日舞台挨拶の際、偶然にも震度3(宮城県で震度4)の地震が発生。津波注意報が出たことから宮崎は「ポニョがいる」とつぶやいた。キャラクターのモデルは、スタジオ内のスタッフやその子供たちで、その子育てを見ながら制作したので、新しく生まれてくる子供たちに向けた作品にしたという。
通常、舞台挨拶などのイベントはメイン劇場とされる劇場での公開初日の初回上映および2便上映のみだが、主題歌が大ヒットしたため、公開初日の初回上映で舞台挨拶を行った日比谷スカラ座で9月15日に「大ヒット御礼主題歌祭り」を行った。
公開カウントダウン「崖の上のポニョ」に秘められた謎[編集]
本作のPR番組として日本テレビ系列で2008年7月15日から18日まで放送されたミニ番組。
プレゼンターとして宮崎宣子(日本テレビアナウンサー)、ジブリアカデミー生徒として東貴博(Take2)、女優の柊瑠美、タレントの山田五郎、スタジオジブリからは鈴木敏夫が出演。第3回ゲストとして、本作の主題曲「崖の上のポニョ」の歌手・藤岡と大橋も出演している。
回次 | 放送日 | 放送時間(JST) | サブタイトル |
---|---|---|---|
第1回 | 2008年 7月15日 |
00:29 - 00:44 | 宮崎駿と夏目漱石の意外な関係 |
第2回 | 7月16日 | 00:44 - 00:59 | 主人公の名前に隠された謎 |
第3回 | 7月17日 | 00:29 - 00:44 | 主題歌決定に隠された謎 |
第4回 | 7月18日 | アフレコに隠された謎 | |
総集編 | 7月18日 | 14:55 - 15:50 (ドラバラPUSH枠) |
「崖の上のポニョ」に秘められた四つの謎 |
興行・賞歴[編集]
2008年末までの興行収入は155億円、観客動員数1200万人以上[19]。スタジオジブリ作品の映画サイトとして史上最高の月間訪問者数100万人を達成[20]。全米では『Ponyo』のタイトルで、ジョン・ラセター,キャスリーン・ケネディ総指揮,ブラッド・ルイス演出によるローカライズが行われたバージョンが2009年8月14日より公開。リーアム・ニーソン、ケイト・ブランシェット、マット・デイモンなどの映画スターが吹き替えを担当したことが話題となった。ジブリ映画としては過去最大となる927館一斉封切りが行われ[21]、オープニング興収351万ドル、週末のBox Officeランキングで全米第9位を記録している[22]。
全米での最終的な興行収入は約1500万ドル(「千と千尋の神隠し」の米国における興行収入の約1.5倍である)。全米で公開された日本アニメ映画の中では第5位の記録となっている[23]。
- ミンモ・ロテッラ財団賞
- 伊「CIAK」誌・観客賞
- 「フューチャー・フィルム・フェスティバル・デジタル・アワード」特別表彰
- 東京国際アニメフェア2009・第8回東京アニメアワード・アニメーションオブザイヤー・国内劇場部門優秀作品賞・原作賞(宮崎駿)・監督賞(宮崎駿)・美術賞(吉田昇)
- 第32回日本アカデミー賞・最優秀アニメーション作品賞・最優秀音楽賞・岡田茂賞(スタジオジブリ)
- 2008年度毎日映画コンクール大藤信郎賞
- 第3回アジア・フィルム・アワード・作曲賞
- 映画館大賞・第10位
- 第18回日本映画批評家大賞・映画音楽賞
公開後の展開[編集]
2009年7月3日、製作ドキュメンタリーDVD・Blu-ray Discの「ポニョはこうして生まれた。〜宮崎駿の思考過程」と、「崖の上のポニョ 特別保存版」が音楽に関する許諾を取っていなかったことが発覚したため、12月に発売延期となった。なお、通常版のDVDは発売延期されていない。少数ながらVHSでも発売されている。
2010年2月5日、日本テレビ『金曜特別ロードショー』にてテレビ初放送。視聴率は29.8%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。2012年8月24日『金曜ロードSHOW!』枠にて2年ぶり2回目の放送がなされた。2015年2月13日には同枠で3年ぶり3回目の放送が行われた。
2011年11月16日 新装パッケージ版のBlu-ray販売。
テレビ放送の視聴率[編集]
回数 | 放送日時 | 視聴率 |
---|---|---|
1 | 2010年 | 2月 5日29.8% |
2 | 2012年 | 8月24日16.4% |
3 | 2015年 | 2月13日15.2% |
4 | 2017年 | 9月22日11.3% |
5 | 2019年[24] | 8月23日12.5% |
関連作品・項目[編集]
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- 人魚姫 - 映画全体のモチーフとなった。
- ニーベルングの指環 - ポニョの本当の名前の由来となったブリュンヒルデが登場する。宮崎は映画の構想中に楽劇『ニーベルングの指環』4部作の2作目「ワルキューレ」を聞いていたとのこと。また、映画ではワルキューレの第3幕の音楽「ワルキューレの騎行」を模した曲が使用されている。なお、同曲はフランシス・コッポラの映画『地獄の黙示録』でも使用されている。
- ポンポン船 - この映画のキーアイテムである。
- ノーチラス号 - フジモトが乗り組んでいた潜水艦。本編には登場しない。
- フジモトの乗っている鰭がついた船はカレル・ゼマンの『悪魔の発明』から。
- 鞆の浦 - この映画の舞台のモデルになったと言われている、広島県福山市の観光地。スーパー「2TOMO(鞆の津)」、「本瓦造船本社工場」、「沼名前神社」の幟、鞆の浦観光鯛網を髣髴とさせる場面などが劇中に登場する。鞆の浦埋立て架橋計画問題では、宮崎は「賛成派、反対派という立場では臨みたくない」と発言を避けてきたが、広島地裁判決での住民勝訴について「開発でケリがつく時代は終わった」とコメントを寄せた[12]。
- チキンラーメン - 袋麺を椀に入れ、熱湯を注いで3分。具材はネギ、ゆで卵、ハム。1958年発売。
- スカイ・クロラ The Sky Crawlers - 鈴木敏夫の提案で同時期に公開した映画。ポニョが海を、スカイ・クロラが空を描き対比させている。
関連商品[編集]
作品本編に関するもの[編集]
- 映像ソフト
-
- 崖の上のポニョ DVD - ウォルト ディズニー スタジオ ホーム エンターテイメント(2009年7月3日)
- 崖の上のポニョ特別保存版(初回限定生産) DVD - ウォルト ディズニー スタジオ ホーム エンターテイメント(2009年12月8日)
- ポニョはこうして生まれた。~宮崎駿の思考過程~ DVD - ウォルト ディズニー スタジオ ホーム エンターテイメント(2009年12月8日)
- DVD(宮崎駿監督作品集) - ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン (2014年7月2日発売)
- 崖の上のポニョ Blu-ray Disc - ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン(2011年11月16日)
- 崖の上のポニョ特別保存版(初回限定生産) Blu-ray Disc - ウォルト ディズニー スタジオ ホーム エンターテイメント(2009年12月8日)
- ポニョはこうして生まれた。~宮崎駿の思考過程~ Blu-ray Disc - ウォルト ディズニー スタジオ ホーム エンターテイメント(2009年12月8日)
- Blu-ray Disc(宮崎駿監督作品集) - ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン (2014年7月2日発売)
- 崖の上のポニョ DVD - ウォルト ディズニー スタジオ ホーム エンターテイメント(2009年7月3日)
- 出版
-
- 宮崎駿アニメはすごい!―『崖の上のポニョ』まですべての作品を読み解く(鹿砦社、2008年8月1日)ISBN 978-4-8463-0660-1
- 崖の上のポニョ(ジス・イズ・アニメーション)(小学館、2008年8月3日)ISBN 978-4-09-103813-5
- ジブリの森とポニョの海 宮崎駿と「崖の上のポニョ」(角川書店、2008年8月8日)ISBN 978-4-04-854225-8
- コンティニューvol.41「第1特集『崖の上のポニョ』とスタジオジブリの2008年」(太田出版、2008年8月19日)ISBN 978-4-7783-1144-5
- 崖の上のポニョ(徳間アニメ絵本)(徳間書店、2008年8月31日)ISBN 978-4-19-862573-3
- 崖の上のポニョ(スタジオジブリ絵コンテ全集16)(スタジオジブリ、2008年8月31日)ISBN 978-4-19-862571-9
- THE ART OF Ponyo on the Cliff by the Sea 崖の上のポニョ(スタジオジブリ、2008年9月1日)ISBN 978-4-19-810012-4
- 別冊カドカワ「総力特集 崖の上のポニョ featuring スタジオジブリ」(角川ザテレビジョン、2008年9月10日)ISBN 978-4-04-895028-2
- 崖の上のポニョ―フィルムコミック(1)(徳間書店、2008年9月15日)ISBN 978-4-19-770143-8
- 崖の上のポニョ―フィルムコミック(2)(2008年10月1日)ISBN 978-4-19-770144-5
- 崖の上のポニョ―フィルムコミック(3)(2008年10月15日)ISBN 978-4-19-770145-2
- 崖の上のポニョ―フィルムコミック(4)(2008年11月1日)ISBN 978-4-19-770146-9
- 崖の上のポニョ(ロマンアルバム)(徳間書店、2008年10月1日)ISBN 978-4-19-720257-7
- 崖の上のポニョ(スタジオジブリ編、文藝春秋〈文春ジブリ文庫 ジブリの教科書15〉、2017年11月)ISBN 978-416-8120138
- 崖の上のポニョ(文藝春秋〈文春ジブリ文庫 シネマ・コミック15〉、2019年5月)ISBN 978-416-8121142
- 音楽
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- 崖の上のポニョ イメージアルバム 徳間ジャパンコミュニケーションズ(2008年3月)TKCA-73309
- 崖の上のポニョ サウンドトラック 徳間ジャパンコミュニケーションズ (2008年7月)TKCA-73340
- スタジオジブリ 宮崎駿&久石譲 サントラCD Boxset [Limited Edition] 徳間ジャパンコミュニケーションズ(2014年7月)
脚注[編集]
- ^ 100分54分19コマ
- ^ 日本テレビ 金曜特別ロードショー『崖の上のポニョ』テレビ初登場 直前スペシャル!!“ポニョはこうして生まれた”ナレーション解説より
- ^ “キーワード - 映画『崖の上のポニョ』公式サイト”. 2019年8月23日閲覧。
- ^ 動画配信サービス「第2日本テレビ」での鈴木敏夫プロデューサーと同サイト編集長・土屋敏男の対談より
- ^ 映画「崖の上のポニョ」公式サイト:“夏目漱石”に意外なルーツ
- ^ a b c 「映画『崖の上のポニョ』に登場する気になるものたち」東宝ステラ編集『崖の上のポニョ』東宝出版・商品事業室、2008年7月19日。
- ^ 2007年12月3日、スタジオジブリ内、『崖の上のポニョ』主題歌発表記者会見より
- ^ a b 宮崎駿「海辺の小さな町」東宝ステラ編集『崖の上のポニョ』東宝出版・商品事業室、2008年7月19日。
- ^ ヴェネツィア国際映画祭"" 記者会見時のインタビュー
- ^ 宮崎駿の発言(東京FM『ジブリ汗まみれ』 2008年7月22日放送分より)
- ^ 押井守著『勝つために戦え 監督稼業めった切り』
- ^ a b c asahi.com(朝日新聞社):鞆の浦への思い 宮崎駿さん会見詳報(2009年10月2日のアーカイブ)
- ^ a b c YOMIURI ONLINE (2008年1月8日). “「崖の上のポニョ」制作中 宮崎駿監督に聞く”. 読売新聞社. オリジナルの2013年9月2日時点におけるアーカイブ。 2017年7月16日閲覧。(読売新聞記事は2008年1月1日)
- ^ a b “インタビュー スタジオジブリ プロデューサー鈴木敏夫氏|Team Onishi チーム大西(大西健丞)WEBサイト”. オリジナルの2013年11月19日時点におけるアーカイブ。 2016年1月22日閲覧。
- ^ a b プロフェッショナル 仕事の流儀 (2007年3月27日). “~映画を創る・宮崎駿の秘密~”. NHK 2016年1月22日閲覧。
- ^ 「架橋でさみしさ埋まらない ポニョ構想『鞆の浦』、宮崎監督語る」『読売新聞』、2009年9月21日、24面、中国新聞、2009年4月21日、19面、2009年4月21日、24面、朝日新聞デジタル (2007年3月27日). “ポニョの舞台どうなる 埋め立て計画に10万人署名の盾”. 朝日新聞社. オリジナルの2013年5月14日時点におけるアーカイブ。 2009年2月12日閲覧。朝日新聞 (2009年10月1日). “『ポニョ舞台』 鞆の浦 埋め立て認めず 広島地裁 景観『国民の財産』”、吉野太一郎 (2016年2月15日). “「崖の上のポニョ」舞台は残った。「鞆の浦」埋め立て計画を正式撤回”. The Huffington Post Japan. 2017年7月16日閲覧。横田一 (2008年9月26日). “広島・福山市発 宮崎駿監督も住んだ景勝地・鞆の浦を55億円かけて"大騒動" 『崖の上のポニョ』の海が埋め立てで"消滅の危機"!!”. フライデー (講談社): pp. 24-25
- ^ ヴェネツィア国際映画祭 記者会見時の鈴木敏夫のインタビュー
- ^ キネマ旬報2008年8月上旬号
- ^ 社団法人日本映画製作者連盟資料
- ^ ネットレイティングスが8月26日に発表した7月のインターネット利用動向調査-ITmedia
- ^ 「崖の上のポニョ」全米で封切り 米紙は絶賛-2009年8月15日読売新聞
- ^ 「崖の上のポニョ」、全米トップ10入り。宮崎アニメで過去最高のスタート-映画ドットコム
- ^ http://www.boxofficemojo.com/genres/chart/?id=anime.htm
- ^ https://www.cinematoday.jp/news/N0110677
外部リンク[編集]
- 「スタジオジブリ|STUDIO GHIBLI」公式サイト
- 公式ウェブサイト
- 崖の上のポニョ - 金曜ロードショー(2010年2月5日放送分)
- 崖の上のポニョ - 金曜ロードSHOW!(2012年8月24日放送分)
- 崖の上のポニョ - 金曜ロードSHOW!(2015年2月13日放送分)
- 崖の上のポニョ - allcinema
- 崖の上のポニョ - KINENOTE
- 崖の上のポニョ - Movie Walker
- 崖の上のポニョ - 映画.com
- Ponyo - オールムービー(英語)
- Ponyo - インターネット・ムービー・データベース(英語)
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