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ノーチラス号

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
巡航中のノーチラス号[1]

ノーチラス号(ノーチラスごう、仏: Nautilus)はフランスSF作家ジュール・ヴェルヌの小説『海底二万里』と『神秘の島』に登場する架空の潜水艦。名称はロバート・フルトン1800年に設計した潜水艦にちなむ(後述)。ノーチラスとはギリシア語で(希: ναυτίλος)船員・船舶を、ラテン語オウムガイを意味する。

概要

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ノーチラス号はネモ船長により設計され、1865年頃に進水した。艦はネモの指揮で陸地とは一切の交流を絶った海洋探検を行なっている。

動力源は電気で、水銀と海水から採取した塩化ナトリウムを用いたナトリウム/水銀電池[2]で発電、電磁石を通して特殊装置(現代のモーターに相当)に伝え、スクリュー駆動や照明等に使用する。最高速度は50ノットで、排水量は通常航行1,356.48トン、潜水時1,507トンである。

艦体は紡錘形で、防水隔室によって区切られた二重船殻構造を持ち、窓はすべて耐圧性に優れたクリスタル・ガラス製。艦首には操舵室と強力な電気反射装置を備えたボックス、手すりなどが突き出ており、これらは内部に収納できる。バラストタンクはメインタンク(容量150.72トン)と潜水用補助タンク(容量100トン)の2基を装備し、甲板には半ば艦体に収まる形で水密化された鋼鉄製のボートが格納されている。

また、艦首には衝角があり、これで他の船舶を突いて沈没事故を起こす[3]。2つの吸気口[4]は150万リットルの空気(625人の人間が1日呼吸できるだけの量)を取り込む。食糧や衣類なども自給自足で海産物から作られる。

艦内には艦長室、食堂、調理室、乗組員室、浴室、機関室のほか、12,000冊の書物を収めた図書室、数多くの美術品や海中で採集したコレクションを陳列したサロンがある。サロンの正面にはパイプオルガンが置かれ、左右の壁には普段は鋼鉄製のパネルで塞がれた巨大な展望窓があり、海中を眺望できる。

ネモ自身の言葉によれば、寸法などは以下の通りである。

「ムッシュ・アロナックス、あなたがいる船の各寸法をここに示しましょう。この船は両端が尖った細長い円筒形をしています。その形状は葉巻の形に非常に似ており、既にロンドンで同じ種類の各構造物に利用されています。船首から船尾まではちょうど70メートルの長さがあり、最大直径は8メートルあります。この船はあなたが長い船旅を送ってこられた汽船のように、10対1の比率には従ってはおりませんが、船体は充分に細長く、かつ湾曲させてありますので、水は容易に掻き分けられて巡航の障害にはなりません。ノーチラス号の表面積と体積は、これらの2つの寸法から単純な計算によって求められます。ノーチラス号の表面積は1,011.45平方メートルで、体積は1,500.2立方メートルです。つまりは、ノーチラス号が完全に潜水した状態で1,500.2立方メートルの水が排水されます。1,500.2メートルトンと言い換えてもよろしいでしょう。」
ノーチラス号のエンブレム

艦材はル・クルーゾロンドンリバプールグラスゴーパリプロシアクルップ社)、ムータラスウェーデン)、ニューヨーク等の工場に発注され、無人島でネモの部下達により建造された。建造費は168万7千フランで、整備費と収蔵された美術品を含めると、総額は400~500万フランとなる。

ノーチラス号は多国籍のクルーによって運営管理され、艦内では独自の言語を使用している。艦を象徴する意匠としてネモの頭文字であるアルファベットのNを用い、MOBILIS IN MOBILIラテン語で「動中の動」の意)の名句で囲ったエンブレムや、黒地に金色のNをあしらった旗などを使用する。

進水から30年が経ち、多くのクルーを失ったネモは海洋探検から身を引き、孤島の洞窟にノーチラス号を格納して隠居するが、あるとき孤島に漂着した数名のアメリカ人に自分の来歴を打ち明け、遺言を残して世を去る。アメリカ人達は遺言どおりノーチラス号をネモの棺として洞窟の底へ沈める。

他の作品のノーチラス号

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ノーチラス号は『海底二万里』で有名となり、小説『神秘の島』や映画をはじめとする二次作品、直接あるいは間接のオマージュ作にも(しばしば超近代的な装備を備えた万能潜水艦として)登場する。

実在のノーチラス号

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フルトン設計のノーチラスの復元模型(2008年撮影)

脚注

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  1. ^ a b c d 『海底二万里』より、アルフォンス・ド・ヌヴィルによる挿絵
  2. ^ ネモによれば、ブンゼン電池の亜鉛をナトリウムに変えたもの。
  3. ^ ノーチラス号が起こした一連の海難事故は海の怪物によるものとされ、『海底二万里』のアロナックスも、当初は巨大なイッカク類の仕業と推測していた。
  4. ^ 吸気中にここから吹きあがる水柱が、ノーチラス号を海の怪物と誤認させた。
  5. ^ a b c d 『海底二万里』より、エドゥアール・リウーによる挿絵
  6. ^ ナディア おまけ劇場 その3「万能潜水艦ノーチラス号 26の秘密 ―の巻」より
  7. ^ 日本ではテレビ番組「驚異の世界・ノンフィクションアワー」(日本テレビ系列)で放送された。