アサ

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アサ
Cannabis sativa - Köhler–s Medizinal-Pflanzen-026.jpg
アサ Cannabis
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: イラクサ目 Urticales
: アサ科 Cannabaceae
: アサ属 Cannabis
学名
Cannabis L.
和名
アサ
英名
Cannabis
Hemp
  • アサ C. sativa L.
  • C. indica Ram.
  • C. ruderalis Janisch.
緑色は世界における麻の生育に適した気候を持つ地域

アサCannabis)は中央アジア原産[1]とされるアサ科アサ属で一年生の草本で、大麻(たいま)または大麻草(たいまそう)とも呼ばれる。伊勢神宮神札大麻と呼ぶ由来となった植物であり、神道とも深い歴史的な関わりを持っている。

第二次世界大戦の終戦前までは、日本ではと並んで作付け量を指定されて盛んに栽培されていた主要農作物。古来から日本で栽培されてきたものは麻薬成分をほとんど含まない。4か月で4メートルの背丈になるほど成長が早く、茎などから繊維が得られ、実は食用となるほか、油も取れるなど利用価値が高い。大豆に匹敵する高い栄養価を持つ実を食用として料理に使うことは違法ではないが、国内では許可なく育てることはできないため、食用の種子は輸入に頼っている。法律で規制される麻薬と、その他の活用方法の混同を避ける意図からヘンプと呼ばれることもある。

この植物のなかでも、麻薬成分を多く含む品種の及び花冠を乾燥または樹脂化、液体化させたものを特に大麻(マリファナ)と呼ぶことがある。

広義にはアサは麻繊維を採る植物の総称であり、アマ科の亜麻やイラクサ科の苧麻(カラムシ)、シナノキ科黄麻(ジュート)、バショウ科マニラ麻リュウゼツラン科サイザル麻もアサと呼ばれることがあるが、本項目とは全く別の種類の植物である。

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大麻の種類による違い
Cannabis
Cannabis sativa L.
C. sativa subsp. sativa
C. sativa subsp. sativa var. sativa
C. sativa subsp. sativa var. spontanea
C. sativa subsp. indica
C. sativa subsp. indica var. indica
C. sativa subsp. indica var. kafiristanica

概要[編集]

雌雄異株[1]。高さ2-3m、品種や生育状況によりさらに高く成長する。かつてはクワ科とされていたが、托葉が相互に合着しない、種子胚乳がある等の理由でアサ科にまとめられ、クワ科と区別される。ヒマラヤ山脈の北西部山岳地帯が原産地といわれている。生育速度と環境順応性の高さから、熱帯から寒冷地まで世界中ほとんどの地域に定着している。日本にも古来自生しており、神道との関係も深い。生育速度が速い事から、忍者が種を蒔いて飛び越える訓練をした逸話などが残っている。

古代から人類の暮らしに密接してきた植物で、世界各地で繊維利用と食用の目的で栽培、採集されてきた。種子果実)は食用として利用され、種子から採取される油は食用、燃料など様々な用途で利用されてきた。しかし、20世紀半ばより、米国や日本を始めとしたほとんどの国で栽培、所持、利用について法律による厳しい規制を受けるようになる。日本に大麻取締法ができたのは、第二次世界大戦後の1948年(昭和23年)である。近年この植物のから取れる丈夫な植物繊維エコロジーの観点から再認識されつつある。繊維利用の研究が進んだ米国、欧州では、繊維利用を目的とし品種改良した麻をヘンプ(hemp)と呼称し、規制薬物および薬事利用を指し使用される事の多い植物名、カナビス(cannabis)と区別している。

にはテトラヒドロカンナビノール(THC)が含まれ、これをヒトが摂取すると陶酔する。以外の、薬効成分を多く含んだ花穂や葉を乾燥した物(通称マリファナ)や、同部分から抽出した樹脂(通称ハシシ)はTHCを含有しており、ロシア、アフリカ、オーストラリア、ヨーロッパの一部を除く世界中で規制薬物の対象とされる。 医療目的としても価値があり、古くから果実麻子仁(マシニン)という生薬として用いるほか、葉や花から抽出した成分を難病患者に投与する方法も研究されている。

栽培の歴史[編集]

大麻繊維を採取する農民を画いたテオドール・フォン・ヘルマンの絵
皇大神宮所管の神麻続機殿神社において宮中祭祀である神御衣祭で用いる麻の繊維の衣服を織る様子(無形民俗文化財

古くから栽培されていた植物の一つであり、元々は中東で栽培されていた物と考えられている。

日本[編集]

日本では紀元前から栽培され、『後漢書』の『東夷伝』や『三国志』の『魏志倭人伝』にも記述が見られる。日本ではの題材になっているほか、『風土記』にも記されている。戦国時代木綿の栽培が全国に広まるまでは、高級品のを除けば、麻が主要な繊維原料であり、糸、縄、網、布、衣服などに一般に広く使われていたし、木綿の普及後も、麻繊維の強度が重宝されて、特定の製品には第二次世界大戦後まで盛んに使用されていた[2]。また、麻の茎は工芸品に使われ、種子は食料になっていた[3]神道では神聖な植物として扱われ、日本の皇室にも麻の糸、麻の布として納められている。また、『古語拾遺』によれば、現在の千葉県にあたる古名「総国」は麻の稔る土地であることから命名されたと伝えられている(ただし、近年の考古資料などの研究から、本来の表記は「捄国」で麻の稔った房を意味していたとする見方が出されている)[4]

戦前、日本の小学校の教科書では栽培方法や用途が教えられ[5]、中学生や教員には、昔から広く栽培され特に衣服に重宝されたと教えられている[6][7]。 このように日本においては、第二次世界大戦以前は国家により大麻の栽培・生産が奨励されていたが、戦後の1947年(昭和22年)4月23日に連合軍総司令部(GHQ)がポツダム宣言に基づき公布した「大麻取締規則」によって、産業用大麻にまで規制を行うようになった[8]。GHQが日本に公布した「大麻取締規則」をさかのぼると、アメリカ合衆国での万国阿片条約に基づいたアメリカ国内での厳しい大麻取締規定であるが、国際あへん会議での大麻についての議論であったため、大麻の独特の薬理作用とほかの麻薬との作用の違いが不明確なままに麻薬とされるに至ることになった[8]。日本における大麻の栽培者数は1950年代には2~4万人であったが、1960年代には1万人を下回り大幅な減少を続け[9]1994年には157名にまで減少している[10]。1963年には、大麻所持の罰則が「懲役3年以下または3万円以下の罰金」から「懲役5年以下」へと改正されて重罰化されたが、この際に何らかの根拠を伴って重罰化されたわけではないとする主張もみられる[8]。 1961年に制定された国際条約である麻薬に関する単一条約にの第28条においては「この条約は、もっぱら産業上の目的(繊維及び種子に関する場合に限る)又は園芸上の目的のための大麻植物の栽培には、適応しない。」[11]とされ、産業用途の大麻は規制の対象とされていない[8]

中国[編集]

中国では前6000年に食用として使用され、前4000年に布地、前2727年に薬用として使用される。前1500年から食用・繊維のために栽培されていたようである。紀元前5世紀歴史家ヘロドトスは、スキタイ人が大麻を娯楽に使っている様を叙述している。

「麻」という漢字は、草(林)が乾燥小屋(广)に収められている様子を示している。伝説では前2700年の古代中国の蒼頡(そうけつ)という神が創ったといわれている。

植物としての特徴[編集]

麻の葉

栽培植物としては非常に急速に成長する。葉・果実には薬効がある。特に、葉や花に含まれるテトラヒドロカンナビノール(THC)は人体に作用し、摂取すると陶酔感や多幸感を覚えたり、食欲、睡眠欲が増進するなどの向精神作用がある。

アサは生育が速い一年草であり、生育の際に多量の二酸化炭素を消費し、繊維質から様々な物が作れるため、地球規模での環境保護になるという意見もあり、実際にバイオマス原料植物として各国で研究・実用化が始まっている。

産業用のアサと嗜好用のアサは品種が異なる。前者については、陶酔成分が生成されないよう改良された品種が用いられる。また、品種が同じでも用途に応じて栽培方式が違う。前者は縦に伸ばすために密集して露地に植えられる方式が主であるが、後者は枝を横に伸ばすために室内栽培が多い。そのため嗜好目的のためのアサを産業的栽培だと偽って栽培するのは困難である。

嗜好目的のアサは、露地栽培または水耕栽培で育てられる。

日本に自生するアサには陶酔成分であるTHCが0.1%未満含まれている(北海道立衛生研究所食品薬品部は、北海道に自生する大麻草のTHC量は0.1から1.6%であったと報告している。)。他の品種は1.8から20%含有とされているため、確かに少ない。日本においてはアサの陶酔作用は「麻酔い」として農家から嫌われたようであり、それを解消するために生み出されたのが改良品種トチギシロで、1982年から栽培が開始されている。

アサはその繁殖プロセスから、花粉が周囲2km程度に飛散する。このときに陶酔成分を多く含むアサの花粉を受粉した場合、これに関する遺伝子は優性遺伝するため、トチギシロも陶酔成分を含むことになる(つまり代返りする)。 このため、現在栽培されているトチギシロは、不法に持ち込まれたアサとの交配によって陶酔成分を含んでしまっているという説もある[要出典][12]。このように交配されたアサはインドアサの水準までTHC含有量が上がるとは考えにくいが、実際北海道では自生するアサを採取してマリファナを生成する個人愛好家もいる[13]

また、栽培に当たっては、特に室内では照明空調などで大量の電気を必要とする。2012年には、大麻草を栽培していたマンションの一室で、電気系統の発熱によって火災報知器が作動したことで、栽培が発覚する事件が発生している[14]

用途[編集]

麻は食用、薬用、繊維、製紙などの素材として用いられる植物である。

繊維[編集]

麻の茎の繊維

衣類・履き物・カバン・装身具・類・縄・容器・調度品など、様々な身の回り品が大麻から得た植物繊維で製造されている。 麻織物で作られた衣類は通気性に優れているので、日本を含め、暑い気候の地域で多く使用されている。綿レーヨンなどの布と比較して、大麻の布には独特のざらざらした触感や起伏があるため、その風合いを活かした夏服が販売されている。大麻の繊維で作った縄は、木綿の縄と比べて伸びにくいため、荷重をかけた状態でしっかり固定する時に優先的に用いられる。伸びにくい特性を生かして弓の弦に用いられる。また日本では神聖な繊維とされており、神社の鈴縄、注連縄大幣として神事に使われる。横綱の締める注連縄も麻繊維で出来ている。

麻袋(南京袋)

現在も産業用(麻布等)栽培はあるが、減少傾向である[15]

麻繊維はエコロジー素材として注目を浴びている。実用的には、大麻の生地は強く、放熱性が高く、汗を蒸発させる効果があり[16]、夏の衣服に向いている。また大麻繊維には抗菌作用や消臭力が認められている[17]。生地は光沢とシャリ感がある。

ただし、日本国内では家庭用品品質表示法で「麻」と表示することが認められているのは、亜麻と苧麻のみであるため、「麻製品」と名乗っていたり、「麻マーク」が表示されていても大麻繊維製品ではない。(大麻繊維は「指定外繊維(大麻)」や「指定外繊維(ヘンプ)」などと表記される。)

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繊維を取った後の余った茎(苧殻、おがら)は、かつては懐炉用の灰の原料として日本国内で広く用いられ、お盆の際に迎え火送り火を焚くのに用いられる。

果実[編集]

アサの種(果実)は麻の実の名で七味唐辛子にも含まれる
アサの実(100g中)の主な脂肪酸の種類[18]
項目 分量(g)
脂肪 25.71
飽和脂肪酸 2.91
16:0(パルミチン酸 1.9
18:0(ステアリン酸 0.73
一価不飽和脂肪酸 3.45
18:1(オレイン酸 3.3
多価不飽和脂肪酸 19.35
18:2(リノール酸 15
18:3(α-リノレン酸 4.6

果実は生薬麻子仁(ましにん)として調剤される。麻子仁には陶酔成分は無く穏やかな作用の便秘薬として使われる。栄養学的にはたんぱく質が豊富であり、脂肪酸などの含有バランスも良いため食用可能であり、香辛料七味唐辛子に含まれる麻の実)やのエサになる。果実を搾ることによりを得ることができる。この油を含んだ線香アロマテラピー用として市販されている。

葉および花[編集]

花が咲く雌株の麻。緑色の塊が麻の花。開花しても緑色のまま色づかない
雄株の花。雌株のような塊で咲かない

嗜好品として[編集]

葉及び花冠には陶酔作用があり、嗜好品として用いられる。陶酔を引き起こす主成分はTHCであるが、これ以外に含まれる成分のバランスによって効果に違いが生じる。

特に、ラマルクにより命名された亜種のインド麻(C.indica Lam)は2000年以上前から中央アジアで品種改良され、一般的な大麻より多くの陶酔成分を含むので一般に嗜好品としての大麻と言えばこのインド麻を指す。また、インドジャマイカなどではガンジャと称される。

医薬品として[編集]

THCをはじめとしたカンナビノイドには医薬品としての効能がある。

日本では1948年に大麻取締法が執行される前で「本剤はぜんそくを発したる時軽症は1本、重症は2本を常の巻煙草の如く吸う時は即時に全治し毫も身体に害なく抑も喘息を医するの療法に就いて此煙剤の特効且つ適切は既に欧亜医学士諸大家の確論なり。」を謳い文句に「ぜんそくたばこ印度大麻煙草」[19] として販売されていた。また、「印度大麻草」および「印度大麻草エキス」は、1886年に公布された日本薬局方に「鎮痛鎮静もしくは催眠剤」として収載され、さらに、1906年の第3改正で「印度大麻草チンキ」が追加収載された。これらは、1951年の第5改正日本薬局方まで収載されていたが、第6改正日本薬局方において削除された。

根拠に基づいた医療での検証は不足しているが、多発性硬化症などの神経性難病や緑内障に対し、米国の一部の州やイギリスカナダ[20]オランダといった国で処方箋薬として認可され、治療薬として試みられている。

注と文献[編集]

  1. ^ a b 植村修二・勝山輝男・清水矩宏・水田光雄・森田弘彦・廣田伸七・池原直樹 『日本帰化植物写真図鑑 第2巻』 全国農村教育協会2010年12月24日ISBN 978-4-88137-155-8
  2. ^ 糸、縄、下駄の鼻緒、漁網、畳糸、蚊帳など。近年、麻の畳糸や蚊帳は価値が見直され復刻されている。
  3. ^ 「麻の実」(おのみ)と呼ばれる。がんもどき、麻の実味噌など。また、麻の葉をおひたしにして食べる土地もあったという。
  4. ^ 『千葉県の歴史 通史編 古代2』(千葉県、2001年)第1編第2章「房総三国の成立」
  5. ^ 理科研究会『小学理科詳解 高等第1学年』1909年(明治42年)、58-60頁。
  6. ^ 松村任三,斎田功太郎 著 『中等植物教科書』1897年(明治30年)、91-93頁。
  7. ^ 浜幸次郎,稲葉彦六 著 『新理科書教員用2巻』1901年(明治34年)、82頁。
  8. ^ a b c d 山本郁男 1992.
  9. ^ 山本郁男 1990.
  10. ^ 山本郁男 1996.
  11. ^ 千九百六十一年の麻薬に関する単一条約pages=602』(pdf)、1961年
  12. ^ トチギシロは1982年に種苗登録されている。一般に登録された種苗は、品種の純性を保つために専門機関によって隔離栽培され、種子が栽培者に提供される。トチギシロについても農家が自家採取した種を栽培していない限り、野生種等と交雑しているとは考えにくい。栃木県農業試験場の「とちぎしろ」作出時の研究報告書には、「在来種との交雑を避けるための隔離採種は今後とも必要」と述べられている。『栃木県農業試験場研究報告第28号』(PDF) しかしトチギシロの育成者権は1997年に消滅しており、栽培の実情がどうなっているかは情報不足である。ともあれ、農作物一般に普及している種苗登録制度と、種子提供の仕組みを遵守することで、産業用に栽培される大麻が精神活性成分を含まないように規制することは十分に可能であり、事実フランスなどでは問題は起こっていない。
  13. ^ 北海道警察本部編 『平成17年版 北斗の安全』(PDF) 北海道警察、30頁、2006年7月
  14. ^ 報知機作動、駆けつけたら室内は大麻栽培工場 読売新聞 2012年12月23日
  15. ^ 国際連合食糧農業機関の統計サイト FAOSTAT Classic によれば、世界における麻の生産量は1960年代は毎年30万トン前後あったものの、1990年代からは6万トン前後となり、20年間で5分の1程度には減少している。ただし、この数値にはインド麻の他にサンヘンプなども含まれている。
  16. ^ ボーケンのサイト リネン(亜麻)・ラミー(苧麻)・ヘンプ(大麻)の麻繊維について によると、強度は綿に比較して引張り強度で8倍、耐久性で4倍。中空の繊維構造を持ち、吸湿、吸汗性があり、通気性に優れる。
  17. ^ ヘンプの機能性テストデータ
  18. ^ http://fooddb.jp/result/result_top.pl?USER_ID=18880
  19. ^ 明治28年 毎日新聞
  20. ^ SATIVEX Fact Sheet, カナダ保健省, 2006年8月16日閲覧.

関連項目[編集]

参考文献[編集]