タラゴン

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タラゴン
タラゴン
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
亜綱 : キク亜綱 Asteridae
: キク目 Asterales
: キク科 Asteraceae
亜科 : キク亜科 Asteroideae
: ヨモギ属 Artemisia
: タラゴン A. dracunculus
学名
Artemisia dracunculus
L.1753[1]
和名
タラゴン
英名
Tarragon

タラゴン英語: Tarragon学名: Artemisia dracunculus)は、キク科ヨモギ属多年生植物ロシア南部や中央アジアにかけて分布する。半耐寒性で、日本のような高温・多湿の気象にはやや弱い。エストラゴン[2] (フランス語: estragon) の名でも知られ、フランス料理によく使われるハーブでもある[3]。別名、ホソバアオヨモギ[1]

リンネの『植物の種』(1753年) で記載された植物の一つである[4]

特徴[編集]

草丈は60センチメートルくらい、茎は直立してよく分枝し、葉は対生で、細長く、先がとがっていて、濃い黄緑色で光沢がある。花は滅多に咲かず、また、不稔性なので、挿し木や株分けで増やす。料理の香味づけによく用いられるが、香りが飛んでしまうので、乾燥させたものではなく生で用いるのが望ましい。アニス様の香気を持ち、主成分はエストラゴールである。

葉が乾燥するあいだに少しだが発酵もするので、葉に含まれていた別の化学成分がクマリンに変化し、乾燥したタラゴンからは、刈ったばかりの干し草のようなこうばしい、ただしこれまでとは違った香りが生じるのである[5]

種子が売られているのは、アメリカ原産のロシアン・タラゴン A. dracunculoides である。ロシア産が「フレンチ」で、米国産が「ロシアン」と名づけられているが、マリーゴールドもすべてメキシコ原産にもかかわらずフレンチ・マリーゴールド(クジャクソウ)、アフリカン・マリーゴールド(センジュギク)と命名されているという例がある。ロシアンは、草丈1.5 m位になる多年草で、性質は強いが風味は落ちるため、料理に利用されることは少ない。

タラゴンは野性的な性質の植物であり、寒さや湿気には弱いが気候が合えば容易に育つ。適度に日の当たる場所で水はけの良い軽い土質を好む。収穫は年に2 - 3回でき、開花直前が最も香りが高い。同じ株で何度も収穫していると段々と香りが弱くなるので、3 - 4年ごとに植え替える[6]

歴史[編集]

原産地は中央アジアからシベリア北アメリカとされる[3]。BC500年頃からギリシャ薬草として栽培されていた。ヒポクラテスは、蛇や狂犬に噛まれた時の毒消しに用いていたと言う[7]。13世紀の植物学者、薬剤師であるイブン・バイタールは、タラゴンの効能を口臭予防や睡眠導入に効果があるとしている。

用途[編集]

ピリッとした辛味があり、ドレッシングなどサラダの味付けに使用する[3]フランス料理で広く利用され、タルタルソースなど多くのソースに加えられる[3]。また、鶏肉、魚介、卵料理まで、淡白な味を引き立て[7]、料理の味を劇的に変化させることから「魔法の竜」とよばれている。 香りが強いため、オイルビネガーに入れておくだけで風味付けに使うことができる[3]。フランス料理の調味料であるタラゴンビネガーは、タラゴンを白ワインビネガーに漬けて作る[8]。乳製品にも良く合い、チーズサワークリームに混ぜたディップなどにも使える[3]

食欲増進、健胃・整腸作用、鎮痛作用があり、痛風リウマチにもよいといわれている[3]

抗癌作用を主張する研究について[編集]

かつて、タラゴンはデザイナーフーズ計画のピラミッドで3群に属しており、3群の中でも、バジル、タラゴン、カラスムギアサツキは共に3群の上位に属する、癌予防効果のある食材であると位置づけられていた[9]

脚注[編集]

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Artemisia dracunculus L. タラゴン(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年1月16日閲覧。
  2. ^ 杉本順一『日本草本植物総検索誌』 I(双子葉篇)、六月社、1965年、619頁。全国書誌番号:65008399https://www.google.co.jp/books/edition/日本草本植物総検索誌_双子葉/a053k0RFynwC?hl=ja&gbpv=1&bsq=dracunculus&dq=dracunculus&printsec=frontcover 
  3. ^ a b c d e f g 成美堂出版 2012, p. 179.
  4. ^ Linnaeus, Carolus (1753) (ラテン語). Species Plantarum. Holmia[Stockholm]: Laurentius Salvius. p. 849. https://www.biodiversitylibrary.org/page/358870 
  5. ^ ゲイリー・アレン『ハーブの歴史』竹田円 訳、原書房、2015年1月21日、17頁。ISBN 978-4-562-05122-9 
  6. ^ 武政三男『スパイス&ハーブ辞典』文園社、1997年1月、41頁。ISBN 4-89336-101-5 
  7. ^ a b 北野 2005, pp. 91–93.
  8. ^ 主婦の友社 編『キッチンハーブ26種の育て方&レシピ』主婦の友社〈セレクトBOOKS〉、2011年10月、35頁。ISBN 978-4-07-279232-2https://books.google.co.jp/books?id=gu1-UlICuu0C&pg=PA35&lpg=PA35&dq=%E3%82%BF%E3%83%A9%E3%82%B4%E3%83%B3%E3%83%93%E3%83%8D%E3%82%AC%E3%83%BC&source=bl&ots=hj3Q97ps6F&sig=nQFJDs1oBagIztGirQ0i39BAVgM&hl=ja&sa=X&ei=BNM4VarTLcLCmQWoqoCwBA&ved=0CJ4BEOgBMBE 
  9. ^ 大澤俊彦「がん予防と食品」『日本食生活学会誌』第20巻第1号、2009年、11-16頁、doi:10.2740/jisdh.20.11 

参考文献[編集]

  • 猪股慶子 監修『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日。ISBN 978-4-415-30997-2 
  • 大槻真一郎、尾崎由紀子『ハーブ学名語源事典』東京堂出版、2009年4月。ISBN 978-4-490-10745-6 
  • 北野佐久子『基本ハーブの事典』東京堂出版、2005年12月。ISBN 4-490-10684-X 

外部リンク[編集]