唐辛子

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粉末にした唐辛子
乾燥させた唐辛子
唐辛子畑

唐辛子(とうがらし、唐芥子、蕃椒)は、中南米を原産とする、ナス科トウガラシ属 (Capsicum) の果実から得られる辛味のある香辛料。栽培種だけでなく、野生種から作られることもある。

トウガラシ属の代表的な種であるトウガラシにはさまざまな品種があり、ピーマンシシトウガラシ(シシトウ)、パプリカなど辛味がないかほとんどない甘味種(甘唐辛子・あまとうがらし)も含まれるが、ここでは辛味のある品種から作られる香辛料について述べる。

概要[編集]

トウガラシ属は中南米が原産地であり、メキシコでの歴史は紀元前6000年に遡るほど非常に古い。しかし、世界各国へ広がるのは15世紀になってからである[1]

分類学的位置づけ[編集]

トウガラシ属には数十種が属するが、そのうち栽培種は次の5種である。

日本で栽培されているのは主にトウガラシだが、沖縄伊豆諸島ではキダチトウガラシの品種の島唐辛子が栽培されている。

トウガラシ属が自生している南米では、ウルピカなどの野生種も香辛料として使われる。

名称[編集]

「唐辛子」の漢字は、「から伝わった辛子」の意味であるが、歴史的に、この「唐」は漠然と「外国」を指す語とされる(実際の伝来経路については伝来史で)。同様に南蛮辛子(なんばんがらし)、それを略した南蛮という呼び方もある。

九州の一部や長野の北部では唐辛子を「胡椒」と呼ぶことがある(「柚子胡椒」の「胡椒」も唐辛子のことである)。一説には大陸(唐土)との交易で潤っていた地域では「唐枯らし」に音が通ずる「トウガラシ」の呼び名を避けたためともいわれる。また他地域で言うところの「胡椒」を、区別のため「洋胡椒」と呼ぶことがある。

英語では「チリ (chili)」または「チリ・ペッパー (chili pepper)」と言う。胡椒とは関係が無いにも関わらず「ペッパー」と呼ばれている理由は、ヨーロッパに唐辛子を伝来させたクリストファー・コロンブスインドと勘違いしてアメリカ大陸に到達した際、唐辛子をインドで栽培されている胡椒の一種と見なしたためである。それ以来、トウガラシ属の実は全て「ペッパー」と呼ばれるようになった。

唐辛子の総称として鷹の爪を使う者もいるが、「鷹の爪」はトウガラシ種の1品種である[2]

用途[編集]

胡椒などの他の香辛料と同様、料理に辛みをつけるために使われる。また、健胃薬、凍瘡・凍傷の治療、育毛など薬としても利用される。

緑から赤へと熟していく唐辛子の果実

果実は緑のままでも食べることが出来る。一般に、緑色のものは青唐辛子、熟した赤いものは赤唐辛子と呼ばれる。

ビタミンAビタミンCが豊富なことから、夏バテの防止に効果が高く、また殺菌作用があり食中毒を防ぐとも言われるので、特に暑い地域で多く使われている。殺菌のほかに除虫の効果もあり、園芸では他の作物と共に植えて虫害を減らす目的で栽培されたり、食物の保存に利用される事もある。果実を鑑賞するためのトウガラシの品種もある。

生のまま食べる場合と、乾燥した後に使う場合とがある。チポトレのように燻煙してから使う場合もある。一般的に日本国内で入手できる青唐辛子は生のものを加熱することで辛味が甘味に変化し、乾燥した唐辛子では加熱すると辛味が増す傾向にある。生の緑色の唐辛子は、辛味が比較的少ない。

醤油泡盛などに漬け込むと、それらに辛味を与えるので通常とは違った風味の調味料とすることができる。漬かった状態の唐辛子は、取り出して刻みサラダなどに利用することもできる。

唐辛子の辛味成分はカプサイシンである。この辛さは刺激が強く人により好みがある。粘膜を傷つけるため、適量を超えて過剰に摂取すれば胃腸等に問題を起こすこともある。ただし日本で料理に唐辛子が多く使われるようになったのは比較的最近のことである。1980年代以降、エスニック料理が浸透し、「激辛ブーム」などが起こる以前は、薬味や香り付けに一味唐辛子や日本特有の七味唐辛子が少量使われる程度であったし、市販のカレーでさえ現在ほど辛口の商品が多くはなかった。今も年配の層には唐辛子の辛味を苦手とする人は多い。

インドタイ韓国などの唐辛子が日常的に使われる国・地方では、小さい子供の頃から徐々に辛い味に慣らしていき、胃腸を刺激に対して強くしている。一方で日常的に使う習慣のない場合は、味覚としての辛味というよりも「痛み」として認識され、敬遠される。実際、カプサイシン受容体TRPV1は痛み関連受容体に分類されており[3]、唐辛子の辛味は口内の「痛覚」である。このことからも、痛みを味覚として好むということ自体、多分に社会文化的条件付けによるものと言える。これらの国が唐辛子を積極的に摂取するのは、メキシコや西アフリカ、中国の四川省湖南省など夏に暑い地域が多く、発汗を促し暑さ負けを防ぐためであると言われる。ただし、ベトナム(中部を除く)、台湾沖縄など暑い季節が長いにもかかわらずさほど唐辛子を好まない地域がある一方、韓国、ブータンなどそれほど暑くない地域(韓国も大陸性の気候の影響が強く夏は暑くなるが、高温になる季節は長くはない)で唐辛子を特に好む食文化もあり、唐辛子の嗜好は単なる気候的要因ではなく文化的要因によるものが強いことがうかがえる。

フィリピン・中国などアジア圏では葉(葉唐辛子)を青菜と同様に炒めて食べたり、汁物の実とすることもある。日本でも葉唐辛子を炒めて食べたり、佃煮にすることもある。

唐辛子のカプサイシン成分は粘膜や皮膚の弱い部分に附着すると痛みを引き起こす。唐辛子の収穫や加工はむろん、料理のため唐辛子を触った手で粘膜に触れてはならない。うっかり目の汗をぬぐったり、不用意にトイレに入ると大変なことになる。

悪影響[編集]

がん
唐辛子の過剰摂取と発癌の関連性が指摘されており、唐辛子を多く摂る国は胃癌食道癌の発癌率が高いといわれている[4][5][6][7][8]
ただし、国際がん研究機関 (IARC) による発がん性の可能性がある物質とは認められていないため、カプサイシン単体が発がん性を有することは迷信と考えられている。(IARC発がん性リスク一覧
また唐辛子は、他の特定の物質を発がん性物質に導く体内の酵素の働きを抑制する、いわば抗がん効果があるとされている。
その一方で唐辛子に含まれるカプサイシンは、単体では問題ないが、他の物質と同時に摂取すると癌発生を促進する機能を備えていることが明らかにされた(カプサイシンの項を参照)。

伝来史[編集]

唐辛子は、コロンブスが西インド諸島で発見し、旧大陸経由で日本へ伝わったとされる。16世紀後半のことで、南蛮船が運んで来たと言う説から南蛮胡椒、略して南蛮または胡椒とも言う。コロンブスは、唐辛子を胡椒と勘違いしたままだったので、これが後々まで、世界中で唐辛子 (red pepper) と胡椒 (pepper) の名称を混乱させる要因となった。

現在世界中の国で多く使われているが、アメリカ大陸以外においては歴史的に新しい物である。クリストファー・コロンブス1493年スペインへ最初の唐辛子を持ち帰ったが忘れられ、ブラジルで再発見をしたポルトガル人によって伝播され、各地の食文化に大きな影響を与えた。

ヨーロッパでは、純輸入品の胡椒に代わる自給可能な香辛料として南欧を中心に広まった。16世紀にはインドにも伝来し、様々な料理に香辛料として用いられるようになった。バルカン半島周辺やハンガリーには、オスマン帝国を経由して16世紀に伝播した。

ポルトガルより日本への伝来[編集]

鑑賞用のトウガラシ

日本への伝来は、1542年にポルトガル人宣教師が大友義鎮に献上したとの記録がある(以下を参照)が諸説ある。南蛮胡椒と呼ばれていたのはこのためであるとされる。日本に伝来した初期は食用として用いられず、観賞用や毒薬、足袋のつま先に入れて霜焼け止めとして用いられた。

文献記録[編集]

唐辛子の日本への伝来を具体的に記した文献は、江戸時代後期の農政学者・佐藤信淵(のぶひろ)の『草木六部耕種法』(1829) である。その著の中で「蕃椒は最初南亜墨利加(南アメリカ)州の東海浜なる伯亜見国(ブラジルの事と思われる)より生じたるものにして、天文十一年波繭杜瓦爾(ポルトガル)人初めて豊後国に来航し南瓜の種子と共に国主大友宗鱗に献ぜり。」と記している。しかし、天文11年(1542年)には種子島にも豊後国にも来航した記録はない。大友義鎮(よししげ、出家後に宗麟〔そうりん〕と称す)が父の義鑑(よしあき)の死後、国主を継いだのは、天文19年(1550年)であり、また、宣教師バルタザール・ガーゴノルウェー語(ブークモール)版神父ら一行がザビエルに代わって中国の上川島中国語版(シャンチュアン、広東のすぐ近くの島)から種子島経由豊後に向かったのは、天文21年(1552年)との記録がある[9]ことから、天文11年は21年の誤記である。

日本から朝鮮への伝来[編集]

1613年の朝鮮文禄『芝峰縲絏』には「倭国から来た南蛮椒には強い毒が有る」と書かれ、1614年の『芝峰類説』では「南蛮椒には大毒があり、倭国からはじめてきたので、俗に倭芥子(倭辛子)というが、近ごろこれを植えているのを見かける」と書かれており、イ・ソンウ(李盛雨)が『高麗以前の韓国食生活史研究』(1978年)にて日本からの伝来説を示して以降、それが日韓共に通説となっている。伝来理由としては朝鮮出兵のときに武器(目潰しや毒薬)または血流増進作用による凍傷予防薬として日本からの兵(加藤清正)が持ち込んだものである。『花譜』や『大和本草』(貝原益軒著)などには「昔は日本に無く、秀吉公の朝鮮伐の時、彼の国より種子を取り来る故に俗に高麗胡椒と云う」などと朝鮮から渡来したことが書かれている。これは一見相反するが、日本に唐辛子が伝わった当初は、西日本を中心にしか広まっておらず、その後、朝鮮から日本へ唐辛子が逆輸入された事により、朝鮮から日本へ来たものと考えた日本人がいた、という解釈がある[10][11]

1460年に発刊された『食療纂要』にチョジャン(椒醤)という単語があるとし、それがコチュジャンを意味するもので、日本伝来の唐辛子とは違う韓国固有の唐辛子はすでにあったと主張する韓国の研究者も存在する[10]。しかしこの説に対し、1670年の料理書『飲食知味方』に出てくる数多くのキムチにも唐辛子を使用したものは一つも見られず、 韓国の食品に唐辛子を使用した記録が19世紀に少し出てくる程度であることから疑問も呈されている[12]

唐辛子を利用した食品[編集]

食品以外の利用[編集]

唐辛子の厄除け
  • 蕃椒: 唐辛子の生薬名を蕃椒(ばんしょう)という。健胃、発汗作用などがある。また外用薬として温湿布などに使われるが、カプサイシンには末梢血管を拡張する効果は全くない。寒冷地では靴の中に入れてしもやけや凍傷の予防に使う場合があるが、これはあくまで痛覚を刺激することで擬似的な熱感を引き起こしているだけである。
  • トウガラシチンキ(医薬品)
  • トウガラシスプレー
  • 米櫃内の虫避けとして乾燥唐辛子が使用される。
  • 乾燥させた唐辛子は、室内外の装飾にも使われる。

世界各地での唐辛子の利用[編集]

南北アメリカ[編集]

メキシコ
トウガラシの原産国で、栽培される種類も多く、生のまま、乾燥させたもの、燻製にしたものなど様々な使い方がされている。有名なのは「ハラペーニョ」や「ハバネロ」と云う品種。メキシコ料理#唐辛子(チレ chiles)も参照。
ボリビア
ボリビアの食卓にはロコトアヒ・アマリージョを使ったヤフア(リャフア)というサルサ(ソース)が置かれているのが普通である。ウルピカも食用とされる。
ペルー
サルサやパパ・アラワンカイナなど料理の味付けおよび色付けにアヒ・アマリージョが多用される。ロコトにファルスを詰めた料理もある。
アメリカ合衆国
旧メキシコ領であったアメリカ合衆国南西部では、テクス・メクス料理などメキシコ系の料理にトウガラシがよく用いられる。西アフリカの料理の影響を受けたルイジアナ州クレオール料理ケイジャン料理も同様で、赤いタバスコペッパー(キダチトウガラシの一種)やハラペーニョから作ったタバスコソースは同州の特産である。また、チリコンカーンの味付けに用いられるチリパウダーの主原料は中辛の唐辛子である。
ハイチ
ハイチ料理には、シネンセ種の一種ピーマン・ブークを他の野菜と一緒に酢漬けにしたものが調味料としてよく使われる。

ヨーロッパ[編集]

イタリア
イタリア料理(主に南イタリア)で使われることが多い。砕いた赤い唐辛子を使用するのが普通。基本的なスパゲッティ(またはパスタ一般)の料理法である「アーリオ・オリオ・ペペロンチーノ」のペペロンチーノは唐辛子の意味。オリーブオイルに唐辛子や各種ハーブなどで香りづけしペペロンチーニと呼ばれる香草オイルがある。
ギリシャ
砕いた赤唐辛子を家庭の野菜料理によく用いる。
ハンガリー
熟したパプリカを乾燥させて粉にしたものをグヤーシュパプリカーシュなどの煮込み料理に用いる。
イベリア半島
パプリカに似た粉唐辛子をソーセージチョリソなど)の調味や煮込み料理に用いる。ポルトガルでは、キダチトウガラシの一種で辛味の強いピリピリも用いられる。
バスク地方
エスプレットという品種が有名。

アジア[編集]

日本
日本の唐辛子は多種[13]である。かつて、日本は50種類以上の唐辛子を生産する辛子の輸出大国であったが、その後は輸入が多くなっている。料理や漬物の薬味など幅広く使われており、そば屋の店頭には、七味唐辛子一味唐辛子などがテーブルに置かれ、各自の好みにより料理に加えることができる。沖縄そばにはコーレーグスが欠かせない。国民一人当たりの消費量はそれほど多くは無い。
朝鮮半島
キムチチゲなど、唐辛子を使った料理が多い。唐辛子が伝わる以前には、山椒の実がよく使われていた。キムチに使われる唐辛子は、韓国特有の辛みが少ない大きめの唐辛子で、ほんのりと甘みがある。コチュジャンも味付けに利用される。また、男児が誕生すると縄に唐辛子をはさんで戸口に掲げる習慣がある。
中国
中国では西南地方で多用される。四川料理は唐辛子と「花椒」と呼ばれる山椒の一種を多用する。湖南料理は唐辛子と酢で、酸味のある辛さを特徴としている。もっとも唐辛子の味を強く出しているのは、貴州料理と雲南料理で、とりわけ雲南のタイ族などの少数民族料理がもっとも辛さを強調した料理を特徴としている。他にもミャオ族ヤオ族なども唐辛子を多用している。広東料理は、さほど唐辛子を使わないが、「野山椒」と呼ばれる青唐辛子の酢漬けを好む人もいる。杭州ではししとうに似た「杭椒」をピーマンのように炒め物に使う。
タイ
タイ料理にはトムヤムクン(スープ)やグリーンカレーなど、唐辛子をたくさん使った辛い料理が多い。唐辛子が伝わる前は胡椒(タイ語でプリッタイと呼ばれる)が用いられていた。「プリッキーヌー」は小粒で非常に辛い品種で、通常は青いまま使われる。
ブータン
非常に辛い味付けをすることで知られている。唐辛子が伝る以前には、山椒の実が使われていた。
インドバングラデシュ
香辛料を使った料理の歴史が長い。地方によって辛みを出すのに唐辛子を多く使う地域とそれ以外の香辛料を多く使う地域がある。また一般に野菜よりも肉を使った料理に唐辛子を多用する傾向がある。唐辛子の漬物アツァール)も作られる。ギネスブックに世界一辛い唐辛子と認定されていた「ブート・ジョロキア」はアッサム地方原産である。
スリランカ
スリランカ料理は、インド料理と同様に唐辛子により辛みをつけることが多い。
トルコアルメニア
パプリカに似た粉唐辛子を煮込み料理に用いる。

アフリカ[編集]

マグリブ(特にチュニジア
唐辛子とコリアンダー(実)、クミン などの香辛料を合わせて砕いたハリッサクスクスなどの料理に調味料として添えたり、オリーブオイルと混ぜて薄切りパンに付け前菜とする。
エチオピアエリトリア
唐辛子を主原料とした配合調味料ベルベレワットなどの味付けに用いる。

脚註[編集]

  1. ^ グリコ
  2. ^ サカタのタネ 品種
  3. ^ [1]
  4. ^ 新宿健康塾ニュース10月号「味覚障害」【Health Index】FINE-club〜健康で元気な暮らし情報
  5. ^ Mathew A, Gangadharan P, Varghese C, Nair MK (2000). “Diet and stomach cancer: a case-control study in South India”. Eur. J. Cancer Prev. 9 (2): 89–97. doi:10.1097/00008469-200004000-00004. PMID 10830575. 
  6. ^ López-Carrillo L, López-Cervantes M, Robles-Díaz G, et al (2003). “Capsaicin consumption, Helicobacter pylori positivity and gastric cancer in Mexico”. Int. J. Cancer 106 (2): 277–82. doi:10.1002/ijc.11195. PMID 12800206. 
  7. ^ Archer VE, Jones DW (2002). “Capsaicin pepper, cancer and ethnicity”. Med. Hypotheses 59 (4): 450–7. doi:10.1016/S0306-9877(02)00152-4. PMID 12208187. 
  8. ^ López-Carrillo L, Hernández Avila M, Dubrow R (1994). “Chili pepper consumption and gastric cancer in Mexico: a case-control study”. Am. J. Epidemiol. 139 (3): 263–71. PMID 8116601. 
  9. ^ 来日宣教師列伝
  10. ^ a b 2009.2.19 中央日報 唐辛子、朝鮮初期にもあった
  11. ^ 朝倉敏夫『世界の食文化 1 韓国』ISBN 4-540-05009-5
  12. ^ 2009.02.21 中央日報【噴水台】キムチ・ミステリー
  13. ^ 日本の唐辛子

関連項目[編集]